サステナビリティとは?経営に取り入れるメリットやSDGsとの違いなど、基礎知識を解説

コラム
SDGs・ESG

日常生活でも「サステナビリティ」という言葉をよく耳にするようになりました。しかし、サステナビリティの意味を詳しく理解できていないという方も少なくありません。

なぜ、世界中の国や企業がサステナビリティに取り組んでいるのか? そもそもサステナビリティとは何なのか? この記事では、曖昧に理解されているサステナビリティについて、その意味や「SDGs」などとの違い、経営に取り入れるメリットなどをわかりやすく解説します。

企業のサステナビリティ戦略に欠かせないデータ活用についても触れるので、ぜひ最後までご覧ください。

サステナビリティとは

サステナビリティ(sustainability)は日本語で「持続可能性」を意味します。公的文書では、「環境と開発に関する世界委員会」が1987年に公表した報告書「Our Common Future」で初めて用いられ、同報告書の中心的な概念として取り上げられました。

同報告書では、「持続可能な開発(sustainable development)」の文脈で、サステナビリティを次のように定義しています。

Sustainable development is development that meets the needs of the present without compromising the ability of future generations to meet their own needs.

持続可能な開発とは、将来の世代の欲求を満たしつつ、現在の世代の欲求も満たせるような開発である

出典:Our Common Future|国連

つまり、環境や社会、経済など、あらゆる場面において持続可能な状態を実現し、目先の利益や成果だけでなく、長期的な影響を考えて行動することをいいます。

注目されるに至った背景

2006年、当時の国際連合事務総長であるコフィー・アナンが、金融業界に対して責任投資原則(PRI:Principles for Responsible Investment)を提唱し、「投資の意思決定プロセスにESG課題を組み込むべき」というガイドラインが示されました。その後、2010年に、国際標準化機構が組織の社会的責任に関するガイドラインである「ISO260000」を発行します。

2011 年には、EUが「新CSR戦略2011〜2014年」 を発表。この中で、「企業の社会への影響に対する責任」というCSRの定義が明確化されました。また、同年に、OECDが「多国籍企業行動指針」を改訂し、「企業には人権を尊重する責任がある」という内容が盛り込まれています。

2012年になると、CSR推進を主導する「CSRヨーロッパ」が、「エンタープライズ2020」プロジェクトを始動し、CSRを実践するためのプラットフォームやノウハウの提供を開始しました。

そして2015年、国連サミットで「持続可能な開発目標(SDGs)」が採択され、持続可能な国際経済社会の実現に向けた 2030 年までの17の目標と169のターゲットが提示されます。

このような流れを背景に、サステナビリティという言葉は急速に浸透してきました。欧米先進諸国を中心に、CSR(企業の社会的責任)に関する規定や取り組みが進み、企業の社会的責任の重要性が高まってきたのです。

また、大規模な自然災害や気象変動の多発により、一人ひとりの環境保護意識が高まったことも、サステナビリティが注目されるに至った背景だと考えられます。

サステナビリティとESG、CSR、SDGsの違い

「ESG」「CSR」「SDGs」はいずれも、サステナビリティとともによく耳にする言葉です。ここでは、サステナビリティとこれらの言葉の違いについて一つずつ解説します。

ESGとの違い

ESGとは、「Environment(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」の頭文字を取ったもので、企業が長期的に成長するために、経営に取り入れるべき3つの視点のことをいいます。

3つのESGの要素には、以下のようなものがあります。

Environment(環境)気候変動への対応温室効果ガス(CO2)排出量の削減産業廃棄物による環境汚染対策再生可能エネルギーの使用自然環境保護への配慮
Social(社会)人権問題への対応ダイバーシティ&インクルージョンの推進労働環境・雇用環境の改善機会均等の遵守地域社会への貢献
Governance(企業統治)企業倫理の遵守贈収賄、汚職防止の対策取締役会の多様性・構成の適正化情報開示による透明性の推進情報漏えい対策

企業が長期的に成長するためには、上記に挙げたような「自然環境への配慮」「社会発展への貢献」「健全な経営のための自己管理体制」という3つの視点が欠かせません。自社利益を追求するだけでなく、ESGの視点から社会的信頼を得ることが求められています。

CSRとの違い

CSRは「Corporate Social Responsibility」の略であり、日本語では「企業の社会的責任」と訳されます。これは、企業が保有しているステークホルダー(従業員、消費者、顧客、投資家・株主)や、自然環境、社会貢献まで、幅広い事項に対する企業の責任を意味します。

前述したESGはCSRにおける重要項目であり、サステナビリティの実現や、後述するSDGsの達成に欠かせないものです。

SDGsとの違い

SDGsは「Sustainable Development  Goals」の略であり、日本語でいうと「持続可能な開発目標」です。2015年9月に開催された国連サミットにて採択された、「自然環境や国際社会をより良くするための17の国際目標」のことです。

SDGsについて説明した画像
出典:国際連合広報センター

日本でも多くの企業や団体がSDGsに取り組んでおり、サステナビリティの言葉や概念を、広く浸透させるきっかけになりました。

PRI(責任投資原則)について

「ESG投資」という言葉があるとおり、投資家はキャッシュフローなどの財務情報だけでなく、ESGの観点でも企業を評価するようになっています。

2006年、金融業界に対して国連が提唱した責任投資原則(PRI:Principles for Responsible Investment)では、投資機関の指針として、以下6つの責任投資原則が示されています。

6つの責任投資原則について説明された図

PRIの署名機関は、2006年の発足以降、右肩上がりで増加しています。2022年末時点での署名機関数は、5,314機関。運用資産合計は121.3兆ドル(1ドル=135円換算で約1京6000兆円)にのぼり、日本のGDPの約30倍になります。

PRIの署名機関の推移を示したグラフ

※朝日新聞デジタルの記事を元に弊社で作成
出典:PRI(責任投資原則)とは? 実践的な取り組み事例を交えて解説:【SDGs ACTION!】朝日新聞デジタル

GRIスタンダードについて

GRIスタンダードとは、オランダ・アムステルダムに本部を置く、GRI(Global Reporting Initiative)が作成した、企業のサステナビリティに対する取り組みを情報開示する際に使われる世界的な枠組みです。GRIスタンダードを用いて情報を開示することで、企業のサステナビリティへの取り組みを評価しやすくなります。

サステナビリティに取り組む際は、自社の活動や貢献度などの情報を開示し、企業としての説明責任を果たすことで、より多くの社会的信頼を獲得することができます。

コーポレート・サステナビリティとは

コーポレート・サステナビリティとは、前述したサステナビリティの考え方を、企業活動レベルに落とし込んだ概念です。また、「自然環境の保護」といった視点だけでなく、「ビジネスの持続」にも焦点を当てて、企業の経営方針などを定めます。

たとえば、UNIQLOやGUなどのファストファッションブランドを手がける株式会社ファーストリテイリングでは、ホームページ上で次のようなコーポレート・サステナビリティを公表しています。

<ファーストリテイリングが取り組むべきサステナビリティ活動における6つの重点領域(マテリアリティ)>

商品と販売を通じた価値創造

サプライチェーンの人権・労働環境の尊重

環境への配慮

コミュニティとの共存・共栄

従業員の幸せ

正しい経営

出典:私たちが考えるサステナビリティ 重点領域|株式会社ファーストリテイリング

コーポレート・サステナビリティを策定することにより、ESG視点を含めた経営方針を固められ、サステナビリティに対して一貫性のある経営を実現できます。

なぜサステナビリティを経営に取り入れる必要があるのか

サステナビリティやESG、CSRは、「経営に取り入れることで、消費者や投資家からの評価が上がるもの」と考えている方が多いかもしれません。ですが、もはやサステナビリティは、「対応しない企業にとって、致命的なダメージを負いかねないもの」になっています。

ESGのうち、社会(Social)に関するリスクが顕在化した国内事例として、2012年の飲食チェーン運営会社の女性従業員過労自殺問題があります。この問題に対する創業者の不適切な発言や会社の対応がメディアや消費者から厳しく批判され、「ブラック企業」というレッテルを貼られた結果、同社の株価は大きく下落しました。

また、2016年に大きな問題となった広告代理店の女性従業員過労自殺事件では、同社が労働基準法違反で書類送検・起訴されました。メディアからの強い批判を受け、入札資格の停止措置による受注機会の損失、経営トップは辞任に追い込まれる事態となりました。

また、環境(Environment)に関するリスクが顕在化した事例として、石油企業がメキシコ湾で原油掘削中に起きた爆発事故があります。大量の原油が海へ流出し、海洋の生態系破壊や大気汚染、漁業への悪影響や風評被害などに甚大な影響を及ぼしました。同社は、地元住民への補償や環境修復の費用として、総額約400億ドル(約3兆2800億円)を支払っています。

上述した事例のように、企業にサステナビリティやESGという観点が抜けていると、経営や事業の存続に大きな影響を与えかねません。

サステナビリティを経営に取り入れるメリット

上記のように、サステナビリティはあらゆる企業が必ず取り組まなければいけないものです。そして、企業にとっても、サステナビリティを経営に取り入れることで多くのメリットがあります。ここでは代表的な3つのメリットを解説します。

企業イメージの向上(ブランディング)

サステナビリティを経営に取り入れると、「自然環境の保護や社会貢献への関心が高く、透明性ある企業」として、企業イメージが向上するメリットがあります。

たとえば、日本国内ではスターバックスコーヒーやマクドナルドなど、大手の飲食チェーンを中心に紙ストローが採用されています。紙ストローは原料に石油を使わず、燃えるゴミとして処理できることからも、サステナビリティに長けています。

実際のところ、総合マーケティング支援を行う株式会社ネオマーケティングの調査によれば、紙ストローを導入した企業に対して「印象が良くなる」と回答した人は全体(n=1,000人)で65.2%でした。

サステナビリティを経営に導入した企業の印象の変化を示したグラフ
※ネオマーケティングの調査をもとに弊社で作成
出典:紙ストロー導入、年代間で意見に差が出る結果に!「紙ストロー導入に関する調査」|PR TIMES

また、20代では59.0%が「印象は変わらない」と回答していることから、若い年代ほど「サステナビリティは意識して当たり前」と考えているといった仮説も立てられます。

エネルギーコスト、資材コストの削減

サステナビリティを取り入れた経営促進により、循環型のエネルギーや資材を導入すれば、エネルギーコスト・資材コストの削減にもなります。

たとえば、Meta社(旧Facebook)やAmazon.com社などの先進IT企業の多くは、太陽光発電を導入しています。Amazon.com社の場合、太陽光発電を含む274件の再生可能エネルギープロジェクトを立ち上げ、米国300万世帯分の供給量調達を過去に実現しました(Amazonニュースより)。

また、ゴミやゴミを焼却した灰を1,200度以上の高温で溶かし、固化させたものをコンクリート用資材として活用するなど、循環型のエネルギーや資材により、コスト削減に取り組む企業も少なくありません。

戦略的な人材採用活動の実現

サステナビリティを取り入れた経営による企業イメージの向上は、戦略的な人材採用活動の実現を助けます。とりわけ期待できるのが、「Z世代における優秀な人材確保」です。

前述のように、Z世代の中心でもある20代の人材は、「サステナビリティは意識して当たり前」と考えている傾向があります。そのため、サステナビリティを意識していない企業は、就労対象として除外される可能性が高いのです。

「Z世代における優秀な人材確保」は、まず先にサステナビリティを取り入れた経営にシフトすることが、戦略的な人材採用活動の最短距離かもしれません。

一方で、サスティナビリティを意識している世代は、ミレニアル世代(1980〜1995年生まれ)にも及んでいます。

PwC Japanが発表した資料によれば、「環境・社会課題に取り組む必要性を理解・共感し・行動を実践している」と回答したミレニアル世代の人は、全体の60%でした。これは同じように回答したZ世代の人よりも、1ポイント高い結果です。

年代別に、環境・社会課題に取り組む必要性を理解・共感し・行動を実践している人の割合を示したグラフ
※PwCの調査データをもとに弊社で作成
出典:新たな価値を目指して サステナビリティに関する消費者調査2022|PwC

サスティナビリティを取り入れた経営へのシフトは、ミレニアル世代の優秀な人材にも、魅力的に映る可能性があるでしょう。

サステナビリティ戦略を支えるのは「データ活用」

前述したように、サステナブル活動によって生じるデータを活用することが、新たなビジネス創出につながります。また、サステナビリティを経営戦略に取り入れた、サステナビリティ戦略を実現するためにも、データ活用は欠かせません。

たとえば、SNSに投稿されているユーザコンテンツを幅広く収集・分析すれば、消費者がサステナビリティに対してどのような印象を持っているか、またどのような企業活動を期待しているかなどを把握できます。また、企業が推進するサステナブル活動に対して、消費者がどのように感じているかをSNSなどから調査することも可能です。

企業のサステナビリティ戦略を実現するためには、さまざまなデータ指標を用いて、自社のサステナブル活動を多角的に評価する必要があります。

データで企業の健康診断を行う

企業のサステナブル活動に対する関心が高まるなか、自社のサステナビリティを客観的に評価する取り組みも始まっています。

経済産業省が2022年12月に発表した資料では、さまざまなサステナビリティデータをKPI(成果指標)として推進する、「SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)※」の重要性について言及しています。

サステナビリティデータの例示

サステナビリティデータの項目を示したグラフ

出典:ESGデータの収集・開示に係るサーベイ 2022|デロイト トーマツ(資料内より引用)

これらのサスティナビリティデータをKPIとして推進するSXは、まさに「企業の健康診断」といえます。

※SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)社会のサステナビリティと企業のサステナビリティを「同期化」させていくこと、及びそのために必要な経営・事業変革を指す。

新たなビジネス創出の可能性も

サステナブル活動を通じて生成されるデータを活用しようとする動きも、徐々に広がっています。

たとえば、SFAシステムを展開する株式会社セールスフォース・ジャパンでは、脱炭素社会に向けたサステナビリティ管理ソリューションのNet Zero Cloudを提供しています。Net Zero Cloudは、さまざまなデータをもとに温室効果ガスの排出量や、再生利用可能エネルギーの利用率などを算出します。

また、以下のような新しいビジネスを創出できる可能性もあります。

  • 独自に収集した環境データを使った農業・漁業支援
  • 循環型エネルギーの利用によって得たノウハウを活用したエネルギーコンサルティング

サステナビリティを経営に取り入れるだけでなく、そこからの発展・ビジネス創出こそが、サステナビリティ社会を生きる企業にとって重要な課題だと言えるでしょう。

おわりに

これまで、「サステナビリティの意味は理解していてもビジネスとのつながりを具体的にイメージできていなかった」、という方は多いでしょう。この記事をきっかけに、サステナビリティへの理解が深まれば幸いです。

サステナビリティとビジネスのつながりを具体的にイメージしながら、自然環境の保護や社会・経済の発展に対して、「自社は何ができるのか?」をぜひ考えてみてください。

参考文献

この記事を読んだ方におすすめの記事