マーケティングでの統計モデル一覧:概要、活用法、課題と要件を分かりやすく解説(方程式なし)

コラム
データサイエンスデータ分析統計

統計分析は、現代のビジネス環境で不可欠な手段となっています。企業はますますデータドリブンな意思決定を求めるようになっていますが、その成功の鍵となるのが統計モデルです。

「自社で統計モデルが活用されているが、実は良くわらない」「より効果的なマーケティングの実践に向けてこれから取り入れたい」と考えている方々へ、本記事では主な統計的モデリング手法の概要、活用事例、そして課題と前提条件などをわかりやすく解説していきます。

目次

統計モデルとは?

統計モデルは、データからパターンや関係性を理解し、現象を方程式化するなど、数学的に表現するための数学モデルです。ある変数(説明変数、または独立変数)と他の変数(目的変数、または従属変数)の関係性を定量的に理解することができ、予測や意思決定に役立てることができます。

皆さんにとって身近にあって日々体験する統計モデルの例は、天気予報です。気圧、湿度、温度、風の速度等の説明変数を基に、例えば雨(目的変数)がどこで、いつに、どれぐらい降るのかを予測・説明できるモデルになっています。

マーケティングにおける統計モデルの応用

以下、モデルの種類ごとに例を提示していきますが、一般的にマーケティング分野では、顧客の行動予測、広告やプロモーションなどのキャンペーンの最適化、市場セグメンテーションなど、多くのマーケティング活動で統計モデルを活用することができます。

マーケティングにおける統計モデル活用のメリット

透明性と説明力

統計モデルは、マーケティングの結果を科学的に説明することができます。なぜ特定の結果に至ったのか、どの変数が影響を与えたのかが明らかになるので、意思決定の透明性が高まります。これは上層部やステークホルダー、自部門のチームや他部門に向けて、納得度の高い説明をするためには非常に重要です。

精度の高い予測

統計モデルは、ビジネスにおいて精度の高い予測を可能にします。例えば、商品の需要や売上を予測するモデルを活用することで、予算や在庫の最適化や生産計画の調整が行えます。これにより、コスト削減や生産販売効率の向上を実現できます。

意思決定のサポート

統計モデルは意思決定をサポートする重要な手段です。経営層、マーケティング責任者やブランドマネージャーは、分析結果に基づいて戦略を立てることができ、より良い判断を下すことができるようになります。

マーケティングに役立つ統計モデルの主な種類一覧

重回帰分析

(Multiple Regression Analysis)

重回帰分析(Multiple Regression Analysis)

重回帰分析の概要

重回帰分析は、何かの出来事や結果が複数の要因によって影響を受ける場合、それらの要因と結果の関係を理解するための手法です。この分析を通じて、結果にどの要因がどの程度影響を与えているかを評価し、要因間の関係性を明らかにします。この手法の目的は、要因と結果の関係を数学的にモデル化し、因果関係を理解することです。重回帰分析では、結果(目的変数)と複数の要因(説明変数)との関係性を式で表現します。これにより、異なる要因が結果に対してどの程度影響を与えるかを推定できます。モデルは数学的な式として表現され、要因と結果の関係を示す係数が計算されます。これにより、要因の影響度や因果関係を明らかにします。

重回帰分析のマーケティング活用例:広告効果の分析

広告効果の分析として、広告費、ソーシャルメディアの投稿、季節要因などを説明変数として使用し、売上や顧客の獲得などの成果を目的変数として重回帰分析を実行することができます。これにより、どの広告チャネルや要因が成果に最も影響を与えているかを理解し、効果的な広告戦略を立てるのに役立ちます。

重回帰分析における課題

主な課題には、多重共線性(予測変数間の相関が高い)、オーバーフィット/過剰適合(モデルが複雑すぎる)、アンダーフィット/過小適合(モデルが単純すぎる)などがあります。また、重回帰分析は予測変数と結果の間に線形な関係(予測変数の変化に合わせて、結果が変化する割合が常に一定であること)を仮定した分析モデルになりますが、これは現実に常に保持される現象とは限りません。

重回帰分析が有効となる条件

多重共線性が低く、複数の要因間の線形関係における仮説を検証したい時には重回帰分析が有効です。

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階層的重回帰分析

(Hierarchical Multiple Regression Analysis)

階層的重回帰分析(Hierarchical Multiple Regression Analysis)

階層的重回帰分析の概要

階層的重回帰分析は、結果に対する影響を調べる方法で、さまざまな要因を段階的に評価する手法です。この分析の目的は、結果への影響を理解し、どの要因が最も影響力を持つかを特定することです。この手法は、結果に寄与する主要因とその相対的な重要性を評価するのに役立ちます。階層的重回帰分析は、まず最も基本的な要因を評価し、その後、他の要因を順次追加して影響を評価します。モデルの構築段階で、要因間の因果関係や相互関係を仮定し、それらの影響を統計的に分析します。

階層的重回帰分析のマーケティング活用例:価格設定の最適化

商品の価格を説明変数として扱い、売上を目的変数として階層的重回帰分析を実行することで、最適な価格を分析することができます。基本的な要因を商品の価格として評価し、その後、広告費や競合他社の価格など他の要因を追加することで、価格設定が売上に及ぼす影響を要因間の関係も含めて分析できます。これにより、最適な価格戦略を特定し、収益を最大化することに役立ちます。

階層的重回帰分析における課題

重回帰分析と同様、多重共線性や過剰適合などの課題があります。さらに、モデル構築における変数の選定や入力順序は仮説に基づくことになるため、仮説における間違いやバイアスなどの課題もあります。

階層的重回帰分析が有効となる条件

階層的重回帰分析が有効となる条件は、通常の重回帰分析と同様です。また、特定の変数や順序の仮説がある場合に適切です。

パス解析

(Path Analysis)

パス解析(Path Analysis)

パス解析の概要

パス解析は、さまざまな要因や変数の関係性を視覚的に示し、それらの関係が結果にどのように影響を与えるかを理解する方法です。この手法の目的は、要因間の関係を明確にし、特定の出来事や結果における影響を理解することです。また、モデルを活用して要因間の影響を視覚的に表現し、統計的な関係を評価します。パス解析は、さまざまな要因や変数を図表で表現し、それらの要因が結果にどのように影響を与えるかを示します。要因間の関係性を矢印で表現し、結果における影響の程度を評価します。

パス解析のマーケティング活用例:顧客体験の向上

現代では、顧客とブランドの間でウェブサイト、モバイルアプリ、またはオフラインなどのさまざまな接点を通じて無数のやり取りが行われています。初期の接点(例:ソーシャルメディア、ウェブサイトなど)から、中間のステップ(例:商品レビュー、価格比較、営業など)を経てコンバージョン(例:購入、ダウンロード、ニュースレター登録など)まで、パス解析を活用することでカスタマージャーニーをより深く理解することができます。また、経路(パス)の中で、顧客の生涯価値を向上させる重要な接点を特定することで、リソースを最適化し、コンバージョン率の向上やプレミアム商品のアップセルなど、費用対効果の最大化を図ることができます。

パス解析における課題

主な課題は、最適なモデルを設計すること、多変量正規分布の仮定であること、潜在変数(直接は観察されないが、観測された他の変数から推定される変数)の取り扱いが不可であることです。

パス解析が有効となる条件

パス解析は、変数間の因果関係について仮説をもって明確に定義された理論モデルがある場合や、全ての変数が観測可能である場合に適しています。

ロジスティック回帰分析

(Logistic Regression Analysis)

ロジスティック回帰分析(Logistic Regression Analysis)

ロジスティック回帰分析の概要

ロジスティック回帰分析は、ある出来事や結果が発生する確率を調べる方法です。具体的に、特定の出来事が発生するかどうかを予測したり、理解したりするために活用されます。この分析の目的は、2つです。1つ目は、特定の出来事が発生する確率を予測すること。もう1つは、どの要因がその出来事の発生に影響を与えるかを理解することです。ロジスティック回帰分析は、さまざまな要因(説明変数)が特定の出来事の発生(目的変数)にどの程度影響を与えるかを数学的にモデル化します。モデルは確率を表す式として表現され、要因が発生確率にどのように関連しているかを示します。

ロジスティック回帰分析のマーケティング活用例:顧客セグメンテーション

ロジスティック回帰分析は、顧客セグメンテーションに役立てることができます。例えば、オンラインショップでは、顧客が特定の製品を閲覧し、カートに入れ、最終的に購入するかどうかを予測するのにロジスティック回帰分析を活用できます。この情報をもとに、顧客の購買意向を理解し、広告やプロモーションの配信や商品のリコメンドを最適化することができます。顧客が購入の最終段階に進む要因や特性を把握することで、販売効率の向上と収益の増加が期待できます。

ロジスティック回帰分析における課題

目的変数と説明変数の間は、非線形な関係が仮定されています。また、信頼できる結果を得るためにはサンプルサイズが大きいことが必要です。説明変数が多い場合は、過剰適合が問題になることもあります。

ロジスティック回帰分析が有効となる条件

目的変数がバイナリで(「はい」または「いいえ」のようなカテゴリーであること)、説明変数と目的の関係が非線形であると仮定される場合に有効です。

共分散構造分析

(Structural Equation Modeling/SEM)

共分散構造分析(Structural Equation Modeling/SEM)

共分散構造分析の概要

共分散構造分析は、さまざまなデータの関係性を調べ、データ間の因果関係や相関を理解する方法です。この分析の目的は、データのパターンや構造を理解し、異なる変数がどのように関連しているかを理解することです。また、モデルを活用して、データの背後にある潜在的な因果関係を特定することもあります。共分散構造分析は、さまざまな変数の観測データから、それらの変数間の構造をモデル化します。モデルには観測されたデータと潜在的な因果関係を示すパスが含まれます。

共分散構造分析のマーケティング活用例:調査結果の解釈

共分散構造分析は、調査結果の解釈に役立てることができます。例えば、消費者調査を行った場合、共分散構造分析を活用して異なる質問項目や調査項目の間の関係性を明らかにすることができます。これにより、特定の広告施策が顧客の購買意向にどのように影響を与えるかを理解し、製品の特性や価格と購買行動との関連性を評価できます。共分散構造分析を活用することで、マーケティング戦略の改善やターゲット消費者の特定に繋げることができます。

共分散構造分析における課題

共分散構造分析は、大きなサンプルサイズと複雑な仮説を必要とします。適切なモデルの特定と構築が難しく、統計理論に関する専門的な知識を持っている人と、仮説をしっかりと持っている事業ドメイン知識のある人を揃えることが重要です(統計理論だけでも、事業ドメイン知識だけでも不十分です)。他の手法も同じことが言えますが、共分散構造分析はとくにこれが顕著です。

共分散構造分析が有効となる条件

パス解析と同様で、変数間の因果関係について仮説をもって明確に定義された理論モデルがある場合に適しています。

ARIMA(自己回帰和分移動平均)モデル

ARIMA(自己回帰和分移動平均)モデル

ARIMAモデルの概要

時系列分析の主なモデルとして、ARIMA(自己回帰和分移動平均)は、時間とともに変動するデータのパターンやトレンドを理解し、未来の予測を行う手法です。このモデルの目的は、時間に関連するデータの変動やパターンを理解し、将来の出来事やトレンドを予測することです。また、モデルを活用して、データの背後にある因果関係や影響を明らかにすることもあります。

ARIMAモデルのマーケティング活用例:需要予測

ARIMAモデルは、マーケティング分野における需要予測に活用できます。例えば、過去の売上データをもとにARIMAモデルを活用して将来の需要を予測し、この予測をもとに商品の発注量や在庫管理を最適化することで、需要の変動に効果的に対応することができます。ARIMAを活用することで、在庫の過不足を減らし、効率的なサプライチェーン管理を実現します。

ARIMAモデルにおける課題

データの定常性(時系列データの統計的な特性(平均、分散、自己相関など)が時間によらず一定であること)を前提としていますが、現実では必ずしもそうではない場合もあります。また、データに季節性がある場合も課題となります。

ARIMAモデルが有効となる条件

データに定常性がある場合、時系列データの分析に適しています。

状態空間モデル

(State-Space Model)

状態空間モデル(State-Space Model)

状態空間モデルの概要

状態空間モデルは、時間の経過とともに変化するデータを理解するための手法です。このモデルは、データの中に含まれる隠れた要因や状態を推定するのに活用されます。このモデルの目的は、データの背後にある隠れた状態やトレンドを特定し、将来のデータを予測することです。また、モデルを活用して、データの変動や周期性などの特徴を理解することもあります。状態空間モデルは、データの観測値と、それらのデータの背後にある状態を表すモデルから成り立っています。モデルは通常、時間の経過に伴う変化を捉え、データの変動や予測に役立ちます。

状態空間モデルのマーケティング活用例:在庫管理

状態空間モデルは、在庫管理に活用できます。例えば、商品の在庫状況を把握し、需要の変動に対応するのに活用できます。このモデルを用いて、過去の販売データや在庫レベルをもとに将来の需要を予測し、適切な在庫レベルを維持します。これにより、在庫コストの最適化や在庫切れの回避に貢献し、効率的な在庫管理が実現できます。

状態空間モデルにおける課題

主な課題は、潜在変数の存在によるパラメータ推定の難しさです。

状態空間モデルが有効となる条件

「状態」(現在の状態)と「観測値」(その状態を観測した値)を持つ時系列データの分析に適しています。また、ARIMAよりは状態空間モデルはARIMAより柔軟性があり、データに必ずしも定常性を仮定していないため、幅広い時系列パターンに適用でき、複雑な動的システムを捉えるのに適しています。

ベイジアンネットワーク

(Bayesian Network)

ベイジアンネットワーク(Bayesian Network)

ベイジアンネットワークの概要

ベイジアンネットワークは、事象や要因の関係を視覚的に表現し、確率的な推論を行うための方法です。この手法は、さまざまな出来事や要因が互いにどのように影響を及ぼすかを明確に示します。この手法の目的は、事象や要因の関係を理解し、特定の出来事が発生する確率を計算することです。また、モデルを活用して、異なる要因が結果に与える影響を予測することもあります。ベイジアンネットワークは、さまざまな要因や出来事をノード(節点)として表現し、これらの要因間の関係を矢印(エッジ)で示します。確率分布を使用して、出来事が発生する確率を計算し、モデルを活用して情報の伝達と推論を行います。

ベイジアンネットワークのマーケティング活用例:新商品開発

ベイジアンネットワークは、新商品開発に活用できます。例えば、企業が新商品の特徴や価格設定を検討する際、ベイジアンネットワークを活用して市場の反応を予測します。このモデルを利用することで、異なる商品特徴や価格設定の組み合わせが市場でどのように受け入れられるかを評価できます。また、競合他社の戦略や市場状況との関連性も考慮し、最適な新商品戦略を策定します。ベイジアンネットワークを用いることで、新商品の成功確率を向上させ、リスクを最小限に抑えることが可能です。

ベイジアンネットワークにおける課題

ベイジアンネットワークの構造をデータから学習するのは、特に大規模なネットワークの場合は計算コストが高くなる手法です。信頼できる結果を得るためには、十分な量のデータが必要です。

ベイジアンネットワークが有効となる条件

MCMC法と同様に、ビジネス用途・目的において、確率理論と不確実性をモデリングする必要がある場合に有効です。変数間の確率的関係をグラフ形式(ネットワーク)で表現するのに適しています。

終わりに

透明性と説明力、精度の高い予測や意思決定のサポートなどで、統計分析、統計モデルがマーケティングにおいて果たすメリットは非常に大きいものです。モデルの適切な選択は、問題の性質と利用可能なリソース(知識、時間、データ)に依存しているので、ビジネスとデータサイエンティストの連携を通じて、問題を正確に理解し、適切なモデル、分析手法を選択するための共同作業が成功の鍵となります。

マーケティングの実態を完璧に表現できる統計モデルはないかもしれませんが、確信をもってアクションに繋げるためには、これらの有効活用が欠かせません。統計モデルの正確さが分析の信頼性に繋がり、それを活用したビジネスにも直接影響を与えるため、データサイエンティストがモデルの精度を検証し、調整することが極めて重要です。信頼性のあるデータと正確なモデルを組み合わせることで、マーケティングの最適化につなげることができます。

サイカは、マーケティングにおけるデータサイエンス領域で10年以上と、国内エンタープライズ企業250社以上の支援実績があるコンサルティングおよびサービス提供を行っています。

多岐にわたる業界における豊富で深い専門知識をもつデータサイエンティストとコンサルタントが、統計手法を活用したデータドリブンな戦略の策定から、顧客理解クリエティブ分析・制作メディアプランニング効果検証と予算の最適化まで、より良い意思決定を支えるためのデータ活用をサポートします。
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