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「いいプログラム」のように組織を育てる──LayerX・名村卓が考える「強い組織」の条件とは

実現のヒント
イノベーションインタビュー実現

どんな組織にいても、組織づくりやマネジメントの悩みは尽きないものです。

サイバーエージェントで「アメーバピグ」「AWA」「AbemaTV」など数々のヒットプロダクトを生み出した名村卓さんは、メルカリ、ソウゾウを経てLayerXへと籍を移した現在、事業部執行役員兼イネーブルメント担当として組織づくりの重責を担っています。

プログラムのように合理的に動くことばかりではない人間を載せつつ、それでも高いパフォーマンスが出る組織をいかにつくるのか。その挑戦の中で、エンジニアとしての経験をどう活かしているのか。

パフォーマンスを最大化する組織づくりのヒントを伺います。

POINT

  • 組織も「いいプログラム」のように作っていく
  • 任せることで、チームの化学反応が生まれる
  • 強いチームは「期待には期待以上で応える」という価値観を共有している
株式会社LayerX 事業部執行役員(Enabling)
名村卓(Suguru Namura)

受託開発経験を経て、2004年株式会社サイバーエージェント入社。各種メディアやゲームなどの新規事業立ち上げの開発を担当。2016年に株式会社メルカリ入社。USのサービス開発を経てCTOに就任後、2021年1月にメルカリグループの株式会社ソウゾウ取締役CTO。2022年6月、株式会社LayerXに入社。イネーブルメント担当として「テクノロジーを活用した全社の生産性に責任を持つ」役割を担う。

プロダクトと組織に共通する面白さ

——2022年6月、LayerXにジョインされ、名村さんの参画と同時に「イネーブリングチーム」を立ち上げたと伺いました。イネーブリングチームは社内でどのような役割を担っているのでしょうか。

イネーブリングチームは、社内のさまざまなメンバーのパフォーマンスを引き出し、生産性の向上と会社全体のパフォーマンス向上に取り組むチームです。

イネーブリングとは、『Team Topologies』という本で紹介されている比較的新しい考え方です。本書では、イネーブリングチームの役割を「特定のテクニカルドメインのスペシャリストから構成され、能力ギャップを埋めるのを助けること」と定義しています。

もともと共通基盤チームなどといわれていた役割に近いのですが、基盤チームが出来上がった機能だけを提供するのに対して、イネーブリングチームはプロダクト開発チームの外にありつつも開発チームの中まで入っていき、一緒に機能を作ります。そうすることで、外にいるからこそ気付ける最適な選択肢を提示でき、各プロダクトチームが新たな能力を獲得するのを支援できます。

現在はまだエンジニアにフォーカスして活動していますが、ゆくゆくはセールスやカスタマーサクセスなど、エンジニア以外の領域にいる人にも同じような体験を提供していき、会社全体のパフォーマンス向上に取り組んでいきたいと考えています。

——名村さんは以前、「合理性があるし、説明できない場所がないからこそ良いプログラムが好き」というお話をされていました。ロジックだけではコントロールできない人や組織に注力されているのは意外にも思えます。

確かに、過去のインタビューで「マネジメントよりコードを書いている方が好き」と話したことがありました。いいプログラムというのはキレイじゃないですか。合理性もあるし、説明できない場所がない。

でも、メルカリとソウゾウでCTOとして組織のことを見るようになったのをきっかけに、組織もまた「いいプログラム」のようなものとして作っていかなければならないと思うようになったんです。

誰がやっても同じ結果が出る。あるいは、能力の高い人がいればその分だけいい結果が出る。そういう状態を仕組みで作るという点で言えば、組織はソフトウェアと似ています。

一方で、明確に違うのは、人間には感情があるということです。人間というのは、プログラムほど合理的に動くことばかりではありません。ですから、理想的な状態を作る過程では、どうすれば一人ひとりがモチベーションを高く保てるか、といったことも考える必要があります。

その分難しいとも言えますが、人間という不確実性の高い存在を載せながら、それでも高いパフォーマンスが出る仕組みを作るのは、すごく面白い挑戦だと感じています。

「任せること」を覚えた原体験

——ビジネスパーソンとしての志が高く、「こうあるべき」という理想を持っている人であればあるほど、周囲とぶつかることも多いように思います。組織で起こりうる、人間ならではの感情の衝突とはどのように向き合ってきたのでしょうか。

これは、サイバーエージェント時代、「プーペガール」という着せ替えアバターサービスを作っていた時の経験が大きいです。

当時の自分はエンジニアとしてかなり尖っていました。「こうあるべき」「こういう機能を作るべき」という強い意思を持っていたんです。

ですが、「プーペガール」は女性向けのサービスでした。「こうあるべき」という自分の意思をいくら込めても、ユーザーにはまったく使われないわけです。そこで初めて「自分の意見が常に正しいわけではない」ことを学びました。

自分とは違う意見を持っていたとしても、その道のプロ、例えばデザイナーがそう言うのならそちらの方が正しいかもしれないと思えるようになっていきました。意見の異なる人のことを理解し、自分の理想とは別方向に進む可能性を受け入れられる心の余裕が、徐々にでき始めていったんです。

——失敗した経験から、色々な人の意見を聞く重要性に気づいたんですね。

面白かったのは、例えばデザイナーに対して「こういうものが欲しい」とフワッとしたアイデアを投げると、返ってくるものが決まって自分の想定よりいいものだったことです。なんとなく「こういうものができたらいい」と思っているものに対して、必ずそれを超えてくる。そういうチームだったんです。

「任せること」がいかに大事かというのを身をもって体感することができました。それ以来、「チームの化学反応」みたいなところをすごく意識するようになったんです。

ものづくりって、一人でももちろんできるんですが、自分の想定以上にはならないじゃないですか。自分の能力や発想力がキャップになってしまうから。それはあまり面白くないな、と最近は思います。

世の中には「こういうことがやりたい」「こういうものを作ってほしいんだ」というフワッとしたコンテクストだけ投げると、こちらが思っているよりもすごいものを作ってくる人たちが結構います。そういう人たちでチームを作ると、生み出されるプロダクトは結果として、それぞれのキャップをうまく超えて、すごいものになるんです。

お互いに刺激し合って高め合い、成長することにもつながっていく。そういうものづくりが楽しいなって思うんですよね。

期待には期待以上で応える

——今のお話には同意しつつも、強いチームだからこそ成り立つ話だとも思うんです。名村さんが考える強いチーム、それを構成する人々に求められる条件はなんですか?

一つは、許容の広い人でなければならないと思っています。

尖れば尖るほど、許容が狭くなるところがありますよね。自分が「こうあるべき」と思うもの以外を拒絶する人が増えてくる。でも、チームでものを作る以上は、色々な人の意見、例えばまだ経験の浅い人の考え方なども受容できる心の広さを持つ必要があるでしょう。

もう一つベースとして必要なのは、期待には期待以上で応えるという価値観をチームのみんなが共有していることです。

なので、どういう環境ならそういう価値観を持ってもらえるか、どういう組織カルチャーを作っていけばいいのかということにも、現在取り組んでいます。

——「期待に応える」ことの喜びを経験したことがある人は多いと思いますが、「期待を超える」ことがデフォルトになっている人はそこまで多くない気がします。名村さんご自身はどのようにして「期待には期待以上で応える」価値観を持つようになったのでしょうか。

それは、「エンジニアだから」かもしれません。

どんなに時間がかかっても、どんなに苦労しても、結果としてそれを使って喜んでくれる人がいれば報われる。それがエンジニアリング、ものづくりをしていて最も楽しい瞬間ではないかと思うんです。自分はかなり早い段階から、そういう楽しさを実感できる環境に身を置くことができていました。だから自然と期待値を超える快感を得られていたのではないかと。

例えばエンジニアだったら、社内でもいいので、新機能を実装したら定期的にデモンストレーションをする、とか。色々な人から「すごい!」と言われる機会を意識的に増やしたらいいと思います。

でも、それをやろうとすると結局、技術力・スキルが必要になります。だから最終的には、自分自身の技術やスキルを磨かないといけないし、新しいことを学び続けないといけない、という話につながっていくわけです。

楽しいと思える環境がイノベーションを生み出す

——名村さんは、組織づくりのような難しい挑戦に、迷いながら取り組んでいるというより、常に確信を持って取り組んでいるように見えます。

僕自身はエンジニアリングが好きで、会社の成果につながるもの、人に喜んでもらえるものを作るのが好きなのですが、もともとは、そうやって楽しいと思える環境を提供されてきた側でした。

特に思い出されるのは、サイバーエージェントでのことです。さまざまなプロジェクトに立ち上げから関わらせてもらったのですが、押し並べて全部が楽しかったんですよね。

しっかりと権限委譲がされていたこと。何かやってみようという人がいたら水を差す人がいなかったこと……。楽しかった理由は色々と考えられますが、幸運にも常にそういう環境を与えてもらっていたので、キャリアに関して悩むこともありませんでした。好き勝手にやっていたら、気づいた時には色々な知見が溜まっていて、エンジニアとしていい感じになっていた。

だから、今度はそういう環境を提供する側になれたらと思って、今の活動をしているんです。自分のような感情を持てるエンジニア、ものづくりの担い手がもっと増えたらいいと思ってやっているところがあります。

——最後に、イネーブリングチームでの取り組みを含め、名村さんが今後やっていきたいことを教えてください。

エンジニアリングというのは、好きでもない人が無理やりやるような仕事でも、趣味でもないと思います。だから、好きな人だけがやっていればいいと思うんです。あまりにも好きだから、気づけば求められていないことまでやっていた。そういう人に向いている仕事ではないかと。

ただ、昔と比べればエンジニアのハードルが低くなっているのも事実です。昔は訳のわからないことまで全部知っていなければ成り立たなかったですけど、今は技術がそれをやってくれるから。気軽にできるし、面白い。それでいて色々なものを生み出せる。

そのハードルを今後もどんどん下げていって、色々な人が入ってこられる世界にしたいと思っています。

根っからのエンジニアではない人がエンジニアリングをやる。そうすると、そこから思いもよらないものが生まれてくる。イノベーションというのは、そういうところから生まれるものですよね。

それに、そういう人たちが増えてくれば、昔からこの業界でやっている僕らとしても「なるほど、そういう考え方もあるのか」と刺激を受けることができる。

切磋琢磨して、お互いに発展していける。そういう世界になっていったら楽しいなと思います。


[文] 川畑夕子(XICA)
[写真]幡手龍二
[企画・編集] 川畑夕子(XICA) 
[取材協力] 鈴木陸夫

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