マーケティング実務で因果推論を活用する方法:観察データ解析による効果検証

「因果推論」をテーマに、その基本概念を理解し、効果検証の実践的なアプローチについて探る本連載。第3回となる本記事では、マーケティング実務で活用可能な因果推論の手法をご紹介します。因果推論の理想と現実を理解しながら、効果的な施策評価の方法を探っていきましょう。

本テーマの連載内容は下記のとおりです。因果推論の活用に向けて、ぜひ他記事もご参考ください。

観察データから因果推論を活用する分析手法

マーケティングでは、実験的なデータを取得することが必ずしも可能とは限りません。実験データとは、特定の条件を操作することで、因果関係を明確に特定できるデータを指します。一方で、施策の多くは厳密に制御された環境での実験が難しく、すでに発生した出来事のデータや外部要因の影響を受けたデータ(観察データ)をもとに分析を行うことが一般的です。そのため、観察データから因果関係を導き出す手法が重要になります。そこで、以下ではマーケターが実践できる、観察データから因果推論を活用する手法について、活用例やチェックポイントを含めてご紹介します。

傾向スコアマッチング

傾向スコア(Propensity Score)は、ある施策が実施される確率を数値で表したもの(指標)です。この指標を活用することで、施策を実施したグループとしなかったグループの背景をできるだけ揃え、共通する特徴を持つ対象同士をマッチングさせることで施策の因果効果を推定します。

活用例
キャンペーン効果を測定する際に、キャンペーンを実施した顧客としなかった顧客を年齢や購買履歴などの基準でマッチングさせ、売上の増減を比較します。これにより、売上の違いがキャンペーンによるものか、顧客属性によるものかを切り分けることが可能になります。

チェックポイント

  • マッチング変数の選定:上記の例のように、顧客属性などといった影響を与える可能性がある変数を適切に選ぶことが重要です。
  • サンプルサイズの確保:マッチング後のサンプル数が不足すると、分析結果の信頼性が低下する可能性があるため、十分なデータ収集が求められます。

回帰不連続デザイン(RDD)

回帰不連続デザイン(RDD:Regression Discontinuity Design)は「ある基準(閾値)を境にして前後のグループを比較する」手法です。この境界線付近では似たような属性のユーザーが集まっていることから、境界線の前後で結果に違いがあるなら、それは属性以外の要因(たとえば施策など)の影響によるものだと判断できます。

活用例
「過去累積購入金額10,000円以上のお客様を対象にしたクーポン配布キャンペーンの効果を測る場合、この「10,000円」という境界線の前後にいる、10,200円の購入者(クーポンあり)と9,800円の購入者(クーポンなし)を比較することで、クーポンの効果を推定できます。累積購入金額がとても近いため、クーポン以外の要因による違い(たとえば年齢や興味など)はあまりないと考えられるためです。

チェックポイント

  • 閾値の選定:閾値が恣意的に設定されると、対象者に偏りが生じる可能性があるため、操作されていない自然な基準であることが理想です。
  • 十分なデータ密度:閾値付近でのデータが豊富であるほど、信頼性の高い推定が可能です。

差分の差分法(DID)

差分の差分法(DID:Difference in Differences)とは、施策を実施したグループとしなかったグループの「実施前後の変化の差」を比較し、施策の効果を推定する手法です。たとえば、「値引きをした店舗の売上増加 ー 値引きをしなかった店舗の売上増加 = 値引きの純粋な効果」というように、単なる売上の変化ではなく、他の要因を排除したうえで施策の効果を測ることができます。重要なのは、「施策の実施がなかった場合でも、両グループは同じような変化をしたはずだ」という前提(平行トレンド仮定)が成り立つことです。

活用例
関東でテレビCMを流した際、 関東の売上が放映前後で前 100 →  150(+50)、テレビCMを流していない関西の売上が同じ期間で 100 → 110(+10)になった場合、テレビCMの純粋な効果は+40(50 – 10)と推定できます。

チェックポイント

  • 対象グループの選定:前述の通り、「施策実施グループでもし施策を実施しなかった場合でも、売上は施策未実施のグループと同じ変化をする」ことが仮定としておかれているため、この仮定を満たすグループを過去のデータなどをもとに選定する必要があります。
  • 長期的な影響の考慮:短期的な効果だけでなく、施策実施後に観察された持続的な変化も捉える工夫が必要です。

Causal Impact

Causal Impactは、施策がなかった場合の「仮定の結果(反実仮想/Counterfactual)」を統計的に予測し、それと実際の結果を比較して因果効果を推定する手法です。こちらは、差分の差分法のように適切な対照グループが見つからない場合などに用いられます。

活用例
関東でテレビCMを流した際、 関東の売上が実施前 100 → 実施後 180(+80)になったとします。差分の差分法では、関西などのテレビCMを流していない別の地域と比較しますが、Causal Impactでは関東の過去の売上データをもとに「もしテレビCMを流さなかったら、関東の売上はどうなっていたか」を予測します。仮に「テレビCMなしの売上予測」が実施前  100 → 実施後 130(+30)になった場合、テレビCMの純粋な効果は+50(80-30)と推定できます。

チェックポイント

  • データ品質の確保:施策を実施しなかった場合の予測がどれだけ正確かに依存するため、過去のデータが十分にあることが重要です。
  • 比較範囲の考慮:急激な変化や予測困難な要素(例:競合の大規模なプロモーション、コロナ禍のような突発的な変動)がある場合は、予測が正しくない可能性があります。

因果推論を活用するためのステップ

これらの手法を理解することは重要ですが、適切に活用するためには全体の流れを押さえることも大切です。そこで、以下では因果推論を実践するための具体的なステップを解説します。

  1. 目的を明確化:どのビジネス指標(売上、顧客獲得コスト、LTVなど)を改善したいかを定義します。
  2. データを収集・整理:顧客データ、施策データ、成果データ、外部要因データなどを一元化し、分析に必要なデータ基盤を整備します。
  3. 因果関係の仮説を設定:どの施策がどの結果に影響を与える可能性があるのか、仮説を明確にします。
  4. 適切な手法の選択:施策の特性やビジネス環境などを考慮し、最適な手法を選択します。
  5. 分析実施と必要に応じた外部サポートの検討:社内の分析担当者にて分析を行い、その結果を評価します。効率化を図る必要がある場合など、状況に応じて、外部のプロフェッショナルサービスの活用も検討してみてください。
  6. 検証と改善:小規模テストから始め、結果をもとに仮説を再検討しながら徐々に規模を拡大します。
  7. 成果の定量化と共有:結果を具体的な数値で示し、ROIを評価します。関係者にも結果を共有しながら、次の施策・アクションにつなげましょう。

これらのステップを実践することで、因果推論を活用した分析をより効果的に進めることができます。ただし、因果推論には注意すべき点もあります。たとえば、分析モデルの前提が誤っていると、結果が偏るリスクがあるため注意が必要です。複数の視点から前提や結果を検証し、客観性を担保しつつ、他のデータやビジネスの知見と組み合わせて、妥当性を検証しながら慎重に活用しましょう。

因果推論の限界

因果推論は、適切な準備とアプローチがあれば武器になりますが、現実的なマーケティング環境においては、因果推論を完全に実現するのはきわめて難しいです。詳しくは、連載第1回「マーケティングにおける因果推論の基本と重要性」にてご紹介していますが、以下のような課題があげられます。

1. 理想的な実験環境の欠如
施策の効果を検証するために、意図的に一部の人に施策を実施し、一部の人には実施しないという方法は、倫理的・コスト的に許容されない場合があります。

2. データ収集の難しさ
因果推論を行うためには、適切なデータが十分な量で収集される必要がありますが、実際にはデータの欠損や不足などが見受けられるケースも少なくありません。

3. 交絡因子の多様性
「Aが要因となりBという結果が起こった」と結論付けるためには、他の要因(交絡因子)の影響を取り除く 必要がありますが、現実には交絡因子は複雑かつ多岐にわたるため、因果推論の完全な実現は難しいとされています。

補完的手法:MMMとパス解析で実現する効果測定の精度向上

これらの因果推論の限界は、マーケターが意思決定を行う際の大きなハードルとなります。しかし、このような制約を補うための補完的手法として、「MMM(マーケティング・ミックス・モデリング)」の活用が考えられます。

改めて、因果推論とは、ある行動が特定の結果を引き起こしたかどうか、つまり「Aが要因となりBという結果が起こった」ということを明らかにするための理論のことです。一方で、MMMは、因果推論のように厳密な因果関係の証明を目指すのではなく、過去のデータをもとに広告やプロモーションなどの各要素が売上にどの程度寄与したかを相関的に推定するアプローチです。

MMMが補完的手法として有効だとされる理由は、理想的な実験環境や完璧なデータがなくても、実際のビジネス環境に即した、意思決定に役立つ示唆を提供できるためです。また、因果推論の前提や前述した手法(傾向スコアマッチングなど)と組み合わせることで、その有用性をさらに高めることが可能です。

MMMが因果推論にどのように役立てるのか?

MMMは過去のデータをもとに施策と売上の関連性を明らかにしますが、それが必ずしも「原因と結果」を示すわけではありません。このように、MMM自体が因果関係(因果推論)を直接的に証明するものではないという点には注意が必要ですが、以下を通じて因果関係の検証に貢献することは可能です。

1. 施策効果の見える化
MMMは、施策と売上の間の関連性を定量化します。これにより、「この施策がどれだけ売上に寄与したか」を推定することができます。

2. 仮説の検証
MMMは、「広告投資を増やすと売上が上がる」「価格変更が売上に影響する」といった仮説を検証する手助けになります。ただし、この検証には前提条件や仮定が必要であり、それが因果関係として成立するかどうかは慎重に評価する必要があります。

3. シミュレーションでの活用
MMMでは、施策やシナリオをモデル化し、その効果をシミュレーションすることが可能です。単なる結果の予測にとどまらず、施策の影響を定量的に評価し、意思決定の精度を高めるために活用できます。

パス解析による効果測定

パス解析は、説明変数と目的変数の関係性をパス図で視覚的に表現し、施策がどのようなプロセスを経て売上に影響を与えるかを分析する手法です。

これをMMMに採用することで、施策が直接売上に影響するのか、または指名検索やブランド認知などを介して間接的に売上に影響するのか、その流れをステップごとに検証できるため、より詳細な施策評価が可能です。つまり、MMMは厳密な意味での因果推論ではありませんが、パス解析を組み込むなど工夫をすることで因果関係を考慮しながら施策の効果を評価する有用な手法といえます。

パス解析を採用したMMMの実践例

サイカのMMMソリューション「MAGELLAN(マゼラン)」は、この手法を採用しており、特定の施策が他の要因にどのような影響を与えたのかを詳しく分析することが可能です。MAGELLANは、5年以上の研究開発を経て誕生し、現在では300社以上の企業導入実績を誇ります。以下は、そのMAGELLANの特徴についてまとめたものです。

仮説を検証できる分析モデル設計

  • MAGELLANの「分析モデル図」を活用し、検証したい仮説に沿ってマーケティング活動全体を可視化し、認知から購買までの顧客行動プロセスを体系的に整理
  • 施策や、売上をはじめとする成果、価格、外部要因(たとえば天候、季節性、マクロ経済トレンド、競合動向など)の多様な要素間の関連性を明確化

包括的な効果測定と予測

  • マーケティング活動の直接効果だけでなく、間接(波及)効果も可視化
  • 短期的影響から数年にわたる中長期的な効果まで分析可能
  • 売上最大化や予算最小化などの目的に合わせた予算配分の最適化を支援

専門家によるサポート体制

  • データサイエンティストとマーケティングコンサルタントによる専門チームが伴走
  • プロジェクトの各段階(ゴール設定、データ収集、モデリング、分析、レポーティング)で手厚いサポートを提供

MMMソリューション「MAGELLAN」について詳細はこちら

まとめ

因果推論は、施策の効果を深く理解するための重要なアプローチですが、実務ではその条件を完全に満たすことが難しい場面も多くあります。そのため、因果推論を過信するのではなく、現実的な手法としてMMMなどを併用しながら、効果検証を進めることが有効です。

MMM自体は因果推論ではありませんが、施策の効果検証を通じて、因果推論の第一歩を踏み出すことができます。マーケティングの意思決定をより精度の高いものにするために、因果推論とMMMを適切に活用しながら、実務での分析スキルを磨いていきましょう。

覚えておくべき要点

  • 因果推論は施策の効果検証に役立つが、実務では制約が多い
  • MMMを活用することで、因果推論の要素を取り入れた効果検証が可能
  • 因果推論とMMMを組み合わせ、より精度の高い意思決定を目指す

因果推論の概念をマーケティング分析や意思決定に取り入れたい方や、MMMの導入などをお考えの方は、サイカの専門チームにご相談ください。データサイエンスを活用した科学的なアプローチとソリューションの提供で、より効果的なマーケティング戦略の実現をサポートします。

サイカのソリューションについて詳細はこちら

DAG(有向非巡回グラフ)でマーケティング施策の因果構造を理解する

「因果推論」をテーマに、その基本概念を理解し、効果検証の実践的なアプローチについて探る本連載。第2回となる本記事では、DAG(有向非巡回グラフ) を用いて因果構造を視覚化し、仮説を整理する手法を解説します。DAGの基本概念を押さえることで、変数間の因果関係を直感的に捉え、施策の背景にある要因を明確にします。さらに、正しい因果関係の推定を妨げる可能性のある、バックドアパス(2つの変数間に見かけ上の関連性を生じさせる経路)や交絡因子(説明変数と目的変数の両方に影響を与える外部変数)の制御といった実践的なアプローチを通じ、誤った結論に陥らないための分析設計もご紹介します。

本テーマの連載内容は下記のとおりです。因果推論の活用に向けて、ぜひ他記事もご参考ください。

DAGとは

因果推論において変数間の関係を視覚化し、仮説の妥当性を検証するために用いられるのがDAG:Directed Acyclic Graph(有向非巡回グラフ)です。DAGは「原因と結果の地図」のようなもので、変数をノード(円や四角)で表し、因果関係を矢印(パス)で示します。マーケティング施策の効果分析においてこのツールを活用することで、複雑な因果関係を体系的に整理し、施策の効果を特定しやすくなります。特に、施策が複数の要素に影響を与える場面では、DAGは重要な役割を果たすため、因果推論に取り掛かる第一歩目として、DAGを活用して因果構造を整理することが重要です。DAGによって仮説を整理したうえで、適切な分析対象および分析手法を選択しましょう。

主な記述ルール

  • ノード:変数(広告費、売り上げなど)を円で表す。
  • エッジ(矢印):直接的な因果関係を示す。A→Bの場合、Aが原因、Bが結果を表す。
  • 非巡回:ループ(循環)がないことが必須。たとえば、A → B → C → A のような循環はNG。
  • 条件付け:ノードを四角で囲む(詳細は後述)。

4つの基本的な因果構造

上記の記述ルールに則り、DAGを作成していきます。構造は主に以下の4種類があげられます。これらのDAGの矢印の方向は、統計的な相関ではなく因果関係を示すため、専門知識や過去の知見、文献などをもとに決める必要があります。逆に言うと、変数間の相関関係や因果関係を数値計算なしに判定できることがDAGのメリットでもあります。

1. 完全独立

AとBの間にいかなる因果パスも存在しない構造です。

たとえば、SNS広告(A)がある商品の売上(B)に全く影響を与えない場合、この関係は「完全独立」に該当します。こうした状況の場合、売上増加の要因解明のためにはSNS広告以外の要因を検討する必要があります。

2. 連鎖

AからBに向かう矢印が一方向に続く「因果連鎖」が存在する構造です。DAGでの矢印は原因から結果に向かって伸びます。したがって、このパスは直接的かつ直列的な因果関係を表します。

たとえば、テレビCM(A)がブランド認知度(M)を高め、その結果として売上(B)が増加する場合、下記の図のように表されます。この時、M(メディエーター)は因果連鎖の中間変数として機能します。

3. フォーク(分岐)

AとBが共通の変数Cを通じて繋がる構造です。AとBの間に共通の原因が存在することを示し、このCはよく「交絡因子」と呼ばれます。

たとえば、気温(C)がアイスクリームの売上(A)と海水浴客数(B)に影響を与えている場合は、下記図のように表されます。この場合、AとBの間には見かけ上の相関関係があるため、DAGで整理しないと、アイスクリームの売上と海水浴客数の間に誤った因果関係を推測してしまう可能性があります。

4. コライダー(合流点)

AとBが共通の結果変数Dを通じて繋がる構造です。このDは「コライダー変数」と呼ばれ、AとBに共通の結果が存在することを示します。

たとえば、新規顧客獲得数(A)と既存顧客の離脱率(B)がともに売上(D)に影響を与える場合、下記の図で表されます。

合流点となるDで条件付けすることで、AとBに偽の相関が生まれるバイアスが生まれることがあり、これを「合流点バイアス」といいます。

バックドアパスと交絡因子の制御について

因果推論においては、交絡因子を制御することが重要です(詳細は「マーケティングにおける因果推論の基本と重要性」をご覧ください)。DAGの強みは、「バックドアパス」や「合流点バイアス」といった概念を用いることで、交絡因子を制御した信頼性の高い分析設計が可能になることです。ここでは一例として、バックドアパスを用いた交絡因子の制御について説明します。

バックドアパスとは

バックドアパスは、「A から B への因果関係をゆがめる別のパス」のことです。たとえば、コートの売上(B)に対する広告費(A)の効果を推定したいとき、季節性(C)が下記の分岐構造のようにA、Bどちらにも影響を与える構造になっている場合、季節性が交絡因子として、A から B への因果関係をゆがめるパスを形成しています。

より具体的に言うと、冬はコートの売上が増える(B↑)、冬は広告費も増やす(A↑)となっている場合に、「広告費が増えたから売上が増えた」ように見えてしまいますが、実際は季節が両方に影響しているだけの可能性があります。このAからBへの直接効果以外の経路(ここではA ← C → B)をバックドアパスといいます。この例では、AからBへの直接効果とバックドアパスを経由したCによるAとBへの効果を区別することができません。この状態を、バックドアパスが開かれた状態といいます。

交絡因子の制御

それでは、交絡因子の影響を取り除くにはどうすればよいでしょうか?解決策としてバックドアを閉じるという方法があります。バックドアを閉じるとはどういうことかというと、交絡因子となっているCを「条件付け」することです。DAGとしては、下図のようにCが四角で囲われた状態が条件付けされた状態で、条件付けとは、具体的にはその変数の値を固定することです。たとえば、上記の例の場合、冬のデータのみ、もしくは冬以外のデータのみに絞って分析することです。この場合、分析期間中は「季節」という要因が一定に保たれるため、季節による影響を排除し、他の要因による影響をより明確にすることができます。

もしくは回帰分析で季節性を変数として組み込むことも条件付けになります。そうすることで、バックドアパスは閉じられ、CによるAとBへの効果を区別して、AからBへの因果効果を推定することができます。このようなアプローチにより、因果構造を視覚的に整理し交絡因子があるか、交絡因子がある場合には、どのような分析設計にすれば交絡因子の影響を取り除いたうえで因果推論ができるか、といったことが整理できます。

まとめ

覚えておくべき要点

  • 変数をノード、因果関係を矢印で示すDAGを用いることで、単なる相関ではなく因果性を推定することができる
  • 交絡因子やバックドアパスの概念を理解し、誤った結論を招くリスクを軽減することで、正確な施策評価が可能となる
  • 因果推論の理論を基礎から応用まで理解することで、データサイエンティストとの対話や実際のマーケティングデータを使った分析設計がスムーズに進められる

このように、DAGによる因果構造の整理は、マーケティングにおける意思決定の質を大幅に向上させるための必須スキルです。次の記事「マーケティング実務で因果推論を活用する方法:観察データ解析による効果検証」では、具体的な分析手法に焦点を当て、実際の施策に応用する方法を解説します。因果推論の理論を実務に応用したい方は、引き続きぜひご一読ください。

因果推論とは?マーケティングで相関と因果を見誤らないための基本と実践

マーケティングの効果を正しく評価することは、企業の成長にとって不可欠です。しかし、「広告を出したら売上が上がった」といった単純な観察だけでは、広告が本当に売上増加の原因であったかを判断することはできません。なぜなら、売上の変動には、広告のようなマーケティング活動以外にも、季節性や競合の動きなど多くの要因が関与している可能性があるからです。この因果関係を正しく見極めるための手法が「因果推論」です。

そこで本記事では、マーケターが押さえておくべき因果推論の基本概念を解説し、効果検証の実践的なアプローチについてご紹介します。一方で、因果推論は理論的に重要であるものの、実務において完全な因果関係を証明するのは容易ではありません。その制約についても、本記事では説明しています。

はじめに

本記事は、マーケティングにおける因果推論の基本を理解し、実務で活用するための思考法についてご紹介していく連載の第1回目です。

本テーマの連載内容は下記のようになっています。

因果推論の厳密な条件を完全に満たすことは現実的に難しいものの、本連載を通じてその概念を理解し、適切に活用することで、マーケティングの意思決定をさらに一歩進めるための視点を磨いていきましょう。

マーケティングの効果を正しく評価するための因果推論とは何か?

因果推論とは、ある行動が特定の結果を引き起こしたかどうか、つまり「因果関係」を明らかにするための理論のことです。マーケティングにおいては、施策が売上や顧客行動にどのような影響を与えたかを正確に理解するための枠組みとして活用することができます。これにより、施策の効果を過大評価することや、誤った施策を展開することのリスクを軽減することができます。

因果推論の大きな目的は、「相関関係」と「因果関係」を区別することです。データが示す表面的な関連性が、果たして本当に原因と結果の関係であるのかを見極めることで、施策をより正確かつ効果的に評価・改善することが可能になります。

とはいえ、現実世界で完全な因果推論を実現することは非常に困難です。しかし、それはマーケティングにおいて因果推論が価値を持たないというわけではありません。その理由については、次の章で詳しく見ていきましょう。

マーケティングにおける因果推論の理想と現実

現実の制約で因果推論はどこまで可能か?

マーケティングにおいて、因果推論を完全に実現することは困難とされています。因果推論を阻む現実的な課題として、以下があげられます。

1. 理想的な実験環境の欠如
因果推論を精緻に行うためには、一般にA/Bテストとも呼ばれる手法である「ランダム化比較試験(Randomized Controlled Trial/RCT)」を用いることが理想的です。しかし、マーケティングの現場では、すべての顧客をランダムに割り当てることは難しく、倫理的・コスト的な制約もあります。加えて、顧客行動や市場条件が常に変化するため、安定した比較条件を確保することは容易ではありません。

 2. データ収集の難しさ
上記の課題を解決するために様々な統計手法が提案されているものの、これらを活用するうえでの必要なデータの取得が難しい場合もあります。たとえば、オフライン広告は顧客行動ログなどの取得が困難な場合が多く、また、広告配信や販売データなどのデータは、記録漏れや誤差により不完全な状態にあることが少なくありません。

3. 交絡因子の多様性
たとえば、特定の施策の効果を測定する際、同時に発生する他の施策や外部環境の影響を完全に排除することはほぼ不可能です。後述しますが、これを「交絡因子(説明変数と目的変数の両方に影響を及ぼす外部要因)」といい、マーケティングにおいては、交絡因子が複雑かつ多岐にわたるため、因果推論の完全な実現は難しいとされています。

因果推論がマーケターに与える実践的な利点

因果推論が完全には実現できなくとも、その概念を理解し、活用することは、マーケターにとって大きなメリットをもたらします。ここでは、因果推論がマーケターに与える実践的な利点を3点ご紹介します。

1. 仮説形成と検証スキルの向上
因果推論の知識を持つことで、施策に対する仮説をより具体的かつ合理的に立てることが可能になります。また、仮説検証のプロセスにおいても、必要なデータや分析手法を的確に選択し、より信頼性の高い結果を得られるようになります。たとえば、「新しいクリエイティブが購入意欲にどう影響するか」を考える際、適切な対照群(後述)を設定する重要性を認識できるようになるはずです。

2. 施策評価の精度向上
因果推論の基礎を活かした視点を持つことで、施策の評価をより正確に行うことができます。たとえば、前後比較や単純な相関分析に頼らず、交絡因子を考慮した分析手法を採用することで、「本当に効果があった施策」の特定についてより確信をもって判断できるようになります。

3. データ分析専門家との効果的な連携
因果推論の基礎を理解していると、データ分析チームや外部コンサルティング会社とのコミュニケーションがスムーズになります。たとえば、「この施策の効果を測定するためにどのデータが必要か」「どの因果関係が検証可能か」を議論する際に、より建設的で具体的な質問や提案ができるようになります。

マーケティングで押さえておきたい因果推論の基礎概念

因果関係と相関関係の違い

因果推論を理解するには、「因果関係」と「相関関係」の違いを押さえることが重要です。AとBの2つの要素を例に挙げると、相関関係は、AとBが双方に関係し合っている状態のことです。因果関係は、Aが原因でBが起こっているという状態のことです。

たとえば、リターゲティング広告のクリック回数と売上に相関関係がある場合、「リターゲティング広告が売上を上げた」と早合点するのは危険です。実は、広告配信対象が「既に購買意向が高い層」の場合、リターゲティング広告に接触しなかったとしても購入していたかもしれません。ここでは「広告配信対象者の元々の購買意向」が交絡因子であり、因果推論でこの交絡因子を考慮しないと誤った評価につながってしまいます。

相関関係≠因果関係を正しく見分けるには、データの背後にある因果構造の理解が不可欠なのですが、より詳しく知りたい方は、連載第2回「DAG(有向非巡回グラフ)でマーケティング施策の因果構造を理解する」をぜひご覧ください。

交絡因子と選択バイアス

交絡因子とは、施策(説明変数)と事業成果(目的変数)の両方に影響を与える外部変数です。これを識別し、制御することが、因果関係を理解するうえでは重要です。

たとえば、ある商品の売上が増えたからといってその商品のマーケティングが成功したとは限りません。季節性や競合の動きがその売上に影響を与えた可能性があります。実際に、あるおもちゃの売上増加をテレビCMの効果と判断したものの、実際には夏休み中の放送だったため、「夏休み」がテレビCMの効果と売上の両方に影響していたケースがあります。このように、交絡因子を見落とすと、施策の効果を過大評価してしまうリスクがあります。

マーケティングでよくある交絡因子の例

  • 季節要因(年末年始、需要期など)
  • 外部環境(競合、経済指標など)
  • 顧客属性(年齢、購買履歴など)


選択バイアスとは、参加者やデータがランダムに選択されない場合に生じます。たとえば、メルマガでクーポンを送った結果、購入率が上がったためクーポン付きメルマガは効果があると判断したものの、実際には過去購入履歴のある顧客やアクティブユーザーに優先的に配信されていたため、クーポンがなくても購入する可能性が高い顧客が多く含まれていたというケースがあげられます。このように、実験やデータ分析の設計においては、このバイアスを最小限に抑えることが必要です。

ランダム化比較試験(RCT)と観察研究

ランダム化比較試験(RCT:Randomized Controlled Trial)は、因果効果を検証するためのゴールドスタンダードとされる手法で、一般にA/Bテストとも呼ばれます。処置群(マーケティング施策を実施するグループ)と対照群(マーケティング施策を実施しないグループ)をランダムに割り当てることで、交絡因子の影響や選択バイアスを取り除いたうえで因果効果を推定することが可能です。

しかし、前述の通り、マーケティングの現場では、すべての顧客をランダムに割り当てることは難しく、倫理的・コスト的な制約もあります。加えて、顧客行動や市場条件が常に変化するため、安定した比較条件を確保することは容易ではありません。

観察研究は、ランダム化比較試験が実施できない場合に、観察データから因果を推論するための他の方法です。差分の差分法(DID:Difference In Difference)、傾向スコアマッチングや回帰不連続デザイン(RDD:Regression Discontinuity Design)、回帰分析などが利用されます。これらについての詳細は、連載第3回「マーケティング実務で因果推論を活用する方法:観察データ解析による効果検証」にてご紹介していますが、ここでは差分の差分法について簡単にご紹介します。

差分の差分法とは、施策を実施したグループとしなかったグループの「実施前後の変化の差」を比較し、施策の純粋な効果を推定する手法です。たとえば、「値引きをした店舗の売上増加 ー 値引きをしなかった店舗の売上増加 = 値引きの純粋な効果」というように、単なる売上の変化ではなく、他の要因を排除したうえでその効果を測定することができます。ただし、差分の差分法では「施策を実施したグループでもし実施をしなかった場合に、売上は施策を実施しなかったグループと同じ変化をする」といった仮定がおかれています。現実においては、そのような仮定にあてはまる施策未実施のグループを見つける困難が伴うため、まずは可能な範囲での効果検証を実施することが現実的です。

マーケターがやりがちな3つの失敗:因果推論の視点から見る注意点

因果推論の基本概念を理解していれば、施策の効果をより適正に評価できるはずですが、実際には現場ではその理論が十分に活かされず、以下のような失敗に陥ることがよくあります。

1.「前後比較」の罠

多くのマーケターが陥りがちな間違いの一つが、キャンペーンの効果を単純な前後比較だけで判断してしまうことです。

問題点:交絡因子の無視
たとえば、冬のコート販売キャンペーンを12月に実施し、8月と比べ売上が向上したとしても、実際にはキャンペーンではなく、「気温の低下」や「年末ボーナス時期」などの外部要因が影響していた可能性があります。このように、単純に施策の実施前と実施後の数値を比較する前後比較では、交絡因子が十分に考慮されていないケースが多いのです。

因果推論の視点による対策
前述の差分の差分法をはじめとする施策以外の要因をコントロールする手法を用いれば、より正確に因果効果を推定できます。

2.「平均効果」に騙される

施策の効果を全体の平均値だけで評価することは、一部の顧客層(個別のセグメント)における予期しない逆効果や異なる反応を見逃すリスクを伴います。

問題点:セグメント間の違いの無視
たとえば、高級アパレルの20%OFFクーポンを全顧客に配布した結果、新規顧客にはクーポンが強く効いた一方で、既存顧客には、逆にクーポンが「値下げ期待(「またすぐクーポンが出るだろう」と待つ心理)」を生み、購入を遅らせたとします)。その結果、平均では購買金額が向上したように見えても、特定の顧客層では逆に離反が起きているケースがあります。

因果推論の視点による対策
傾向スコアマッチング(似た特性を持つ顧客同士をペアにして効果を比較する統計手法で、詳細は第3回記事にてご紹介しています)などを活用することで、各セグメントごとに因果関係を捉え、平均値だけでは見えない実態を把握できます。

3.「データサイエンティスト任せ」のリスク

マーケティングにおける実務的な文脈や意図についてのすり合わせをしないままデータサイエンティストに分析を丸投げすることで、正しい解釈がなされない場合があります。

問題点:ビジネス目標に直結しない分析
たとえば、マーケターが新たなデジタル広告キャンペーンの効果を評価するため、データサイエンティストに分析を依頼したとします。返ってきた分析結果は、「広告のクリック数やウェブサイトの訪問者数は、統計的に有意な改善が見られない」というものでした。

しかし、マーケターが本来知りたかったのは、そのキャンペーンがロイヤルカスタマーの購買行動、「コンバージョン率」や「売上」といったビジネス成果にどのように貢献したかという点でした。「クリック数」や「訪問者数」に対する分析だけでは実務にとって意味のある因果関係を捉えられず、キャンペーンの効果を正しく評価することができないというリスクが生じます。

因果推論の視点による対策
このようなズレを防ぐためには、まずはマーケター自身が分析の目的やビジネス上の前提条件を明確に定義し、KPI(例:特定ターゲットでのコンバージョン率や売上)を設定することが重要です。また、データサイエンティストと定期的にすり合わせを行い、因果推論の概念をもとにしたモデルの設計や結果の解釈が、実務の意図と合っているかを確認することが求められます。

まとめ

因果推論は、マーケティングの効果を正しく評価するための強力な手法ですが、その適用には慎重さが求められます。まずは、可能な範囲で効果検証を実施することが現実的であり、その際、因果に固執し過ぎることなく、データを活用してより良い意思決定を行えるようになることが重要です。

第2回「DAG(有向非巡回グラフ)でマーケティング施策の因果構造を理解する」では、DAGを用いて因果構造を視覚化し、仮説を整理する手法を解説します。より理論的な知識を身につけるためにも、ぜひご一読ください。

いま、なぜMMMがマーケターに必要とされているのか

MMM(マーケティング・ミックス・モデリング)とは、オンライン・オフラインのマーケティング施策、さらには季節要因などマーケティング活動以外の外部要因をふくめて統合的に分析し、各施策が売上に与える影響を可視化する分析手法のことです。

マーケティング先進国アメリカでは約8割のマーケターが認知し、約半数の企業が実践しているマーケティング分析手法(1)ですが、2020年時点での日本企業の導入率は約1割に留まっていました(2)。

しかし、昨今、日本でMMM領域への新規参入が相次いでいます。2016年から約8年にわたりMMMを提供してきたサイカは、このMMMの流行に強い危機感を感じています。

なぜいま、日本のマーケターはMMMを必要としているのか。そして、サイカがMMMの流行に対して鳴らす警鐘とは。サイカの代表取締役社長CEOで、これまで250社以上のナショナルクライアントのマーケティングに併走し、MMMの最前線に立ち続けてきた平尾喜昭氏に話を聞きました。

(1) ニールセン・メディア、Facebook、Googleによるコンソーシアム最新レポート「マーケティング・ミックス・モデリングを活用して広告のパフォーマンスを向上させる方法」発行のお知らせ(ニールセン・メディア・ジャパン合同会社のプレスリリース)https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000004.000070691.html
(2)企業の広告宣伝担当者212名に聞いた 広告の効果測定方法に関するアンケート調査 2020年版(株式会社サイカのプレスリリース)https://www.atpress.ne.jp/news/213842

POINT

  • MMMに必須なのは精度とスピード
  • MMMの本質的価値は、PDCAを回せるようになること
  • MMMのニーズが「予算配分の最適化」から「マーケティング戦略設計」に変わってきた

なぜいまMMMなのか?

マーケティングを表すイメージ画像

── 日本のマーケティング業界でもMMMが注目されてきたように思います。

実は、海外では1950年頃からMMMがあって、外資系企業だとみんな知っているような当たり前のものなんです。そのため、サイカとしてはあまり状況は変わっていないのですが、確かに最近日本で流行ってきている実感はあります。

── 日本で流行ってきた要因は?

流行している要因として考えられることは2つあります。

まず1つは、マーケティング施策の多様化・複雑化です。

ユーザーのライフスタイルや接点が多様化するなか、成果を最大化するためには、オンライン・オフラインを問わず、さまざまなマーケティング施策が求められます。

そうすると、効果測定もより複雑化し、難易度が上がりますよね。そこで、複雑な要因が絡み合っていても成果に与える影響を高い精度で可視化できる、MMMの重要性が増しているのだと思います。

── もう1つの要因はなんでしょうか?

「クッキーレス時代」の到来です。

日本では2022年4月に個人情報保護法が改定され、グローバルで見てもプライバシー保護意識が高まっています。その流れのなか、企業がマーケティング活動のために個人情報を取得することが難しくなってきました。

MMMは統計を使った分析手法のため、個人情報がなくても統計データから傾向を把握することができます。そのため、クッキーレス時代には必須となっているのだと思います。

── サイカがMMMを使った分析サービスを提供するに至った経緯を教えてください。

サイカは2016年からMMMを使った分析サービスを提供してきました。僕たちはもともと、データサイエンスの会社としてスタートし、広告やマーケティング領域に特化した会社ではありませんでした。「誰でも気軽に統計分析ができます」というコンセプトのプロダクトを開発し、提供を開始してから1年半くらい走っていたところ、クライアントの9割5分以上がマーケターになっていました。

クライアントに話を聞くと、「広告にはすごい額を使って投資している。でも、どれくらいリターンがあるかわからない」という話が上がってきました。それは解くべき課題だなと思って、そこから、MMM分析サービスMAGELLANが出来上がりました。

既存のMMMでは何が達成されないのかという点をシューティングし、MAGELLANをアップデートしていった結果、現在では250社以上のクライアントに使っていただける状態まで広がりました。

── 導入社数200社突破のプレスリリースもありましたね。その後も順調に伸びているんですか?

順調に伸びています。また、僕たちの方向感も変わってきましたMMMは仮説を作るための起点でしかないので、SaaSのようにMMMツールをポイとわたすのではダメだと気がついたんです。

そこで現在は、MMMによる効果検証を基盤に、クライアントのマーケティング戦略の立案、戦略・戦術の策定といったコンサルティングから、クリエイティブ制作やメディアへの出稿といったエグゼキューション、さらにはマーケティングを統合評価するシステムの構築・運用までご支援しています。

なので、MMMを幅広い企業に広げていく状態というよりは、一社一社にマーケティングパートナーとして深く関わり、事業成長に向けて長く伴走していくという状態です。

MMMを活用する際に重要なこと

重要なポイントを表すイメージ画像

── MMMを活用する際、重要なことはなんですか?

MMMにおいて重要なことは、2点あると考えています。精度とスピードです。

精度とスピードはまさに表裏一体の関係にあるんですが、この2つが両立していなければMMMの価値は発揮できません。

売上は、販促や価格、競合の状態などさまざまな要素が絡み合って構成されています。その関係性を解き明かすなかで、それぞれのマーケティング施策の効果がようやくわかってくるんです。関係するさまざまな要素を統合的に分析しないと、分析結果が真逆に出ることもあります。

もう少し専門的にいうと、マーケティング施策とそれぞれの貢献値を、構造的に把握しないと分析する意味がありません。そのため、MMMは精度を上げきることがとても重要です。

マーケティングの規模が大きいほど、マーケティング施策以外の影響も大きくなり、分析結果がぶれやすいので、精度が担保できないMMMは、意思決定に活用しないほうがいいです。

── スピードについてはどうでしょう?

さきほどお話しした「精度を上げる」を実現しようとしたときに問題になってくるのが、2点目のスピードです。精度を追い求めると、あまりにも分析が重くなり、時間もかかるんです。精度を追求しすぎたあまり、年に1回くらいしか分析ができないということもあります。

分析に時間がかかると、せっかくMMMで高精度な分析をしても、分析期間中に市場環境やトレンドが変化してしまい、業務改善に活かせなくなってしまいます。

精度とスピードはまさに表裏一体の関係にありますが、この2つを共存させないとMMMは使えません。

MMMの流行に対する危機感

流行を表現したイラストの画像

── 昨今さまざまなMMMツールが流行していますが、それについてどう思いますか。

マーケティングの成功に統合的な評価は不可欠なので、MMMが広く取り入れられるようになったことは、日本のマーケティングにとって明るい兆しだと思います。

しかし一方で、現在の流行には危うさを感じる部分もあります。

MMMにおいて精度とスピードが重要、と話しましたが、近年さまざまなMMMのソリューションが出てきたなかで、スピードの速さや価格の安さばかりが強調され、肝心の精度がおろそかになっているものもあるように思います。

目的はあくまでマーケティングの成功であり成果の創出なので、この分野の先駆者として、ひきつづき事業の成長につながるソリューションを提供することで、業界全体のMMMのクオリティを担保することに貢献していきたいと考えています。

MMMに限らず、特定の技術や手法が流行したときに、表層的な理解にもとづくソリューションが乱立して本質的な価値が見失われる、というのはよくあることです。

── 精度の低いMMMだと、何が達成されないのでしょうか。

前提として、売上を構成する要素には「構造」があります。

たとえば、「テレビCMがオンライン施策のパフォーマンス向上に寄与している」といった構造です。より具体的にいうと、「テレビCMの放映によってブランド蓄積効果(ブランド・エクイティ)が高まった結果、クリック率が上がり、コンバージョンが増え、売上が増える」といった、間接的で流動的な心のありようや人のアクションが作り出す構造です。

この構造を正しく把握することが、正しい効果測定の鍵になります。

ライトなMMMも出てきていますが、こういった構造や、ブランド蓄積効果(ブランド・エクイティ)、時系列まで突き詰めて正しく分析しないと、意思決定が真逆になる可能性もあるので、すごく怖いなと思っています。

── 構造とは、どういったものでしょうか。

インプレッション-クリック-コンバージョンという一連の流れの間にうまれる、間接効果をふくめた相互関係や相関のことです。

MMMの分析手法には、多段の分析モデルと、一段の分析モデルがありますが、間接的で流動的な心のありようや人のアクションが作り出す構造を明らかにするには、多段の分析モデルを使う必要があります。

多段の分析モデルでは、上記のような構造を把握できるのに加え、認知系施策(中長期的なブランド構築による利益獲得を目的とした施策)と刈り取り系施策(短期的な利益獲得を目的とした施策)の効果をフェアに評価できます。

多段の分析モデル一段の分析モデル
中間変数の設定
間接効果の分析
評価の特徴認知系施策と刈取系施策をフェアに評価できる刈取系施策が評価されやすい

── ブランド蓄積効果というのはどういったものでしょうか。

ブランド蓄積効果とは、広告が長期にわたってユーザーの購買行動に与える影響のことです。たとえばテレビCMは、間違った分析によって減額の意思決定がされやすいものの代表例といえますが、そもそもテレビCMは短距離走ではなく長距離走。5〜10年のスパンで、ブランド地位を確立する目的で実施されることの多い施策です。

テレビCMの効果を正しく把握するためには、このブランド蓄積効果や波及効果、残存効果といった、広告終了後も持続する効果も分析にふくめなければいけません。

このような効果とKPIを押し上げる間接効果をかけ算して分析することで、テレビCMの効果の見方はガラッと変わる可能性があります。

波及効果企業やブランドの指名検索数、商品・サービスの販売率を徐々に押し上げていく効果
残存効果広告の訴求内容が広告終了後も継続して印象付けられる効果(テレビCMで約10週間残存する*³)
ブランド蓄積効果広告が長期にわたってユーザーの購買行動に与える影響(テレビCMの場合、短期で獲得したコンバージョン数の+65〜75%を長期*⁴で獲得する*³)

フジテレビジョンとサイカの共同研究より引用

ブランド蓄積効果を説明するグラフ

※ ベースライン:過去に積み重ねてきたブランド構築の成果で、広告を出稿しなくて発生する売上のこと
(*3)XICA保有の統計処理された分析データ(249事例)から作成したスコア(2017年~2021年)のため、すべての案件に共通するものではありません
(*4)本研究では「長期」を3〜5年の期間と定義しています

── 時系列を踏まえた分析というのは、どういったものでしょうか。

時系列データとは、日次、月次、四半期、年単位など、時間の順序によって並べられるデータのことで、売上やインプレッションも時系列データです。

MMMでは、統計的手法を使って、売上に影響を与えているであろう複数の時系列データの関係をモデル式であらわします。そうすることで、要因の構造が明らかになり、各要因の相互関係や影響度合いを精度高く評価できます。

ここまで話した間接効果やブランド蓄積効果、時系列をふまえて、投資と成果の構造を把握しなければ、正しい分析にはなりません。

MMMの本質的な価値

広告やマーケティングを構成する単語の集まりを表現した画像

── MMMの本質的な価値は何だと思いますか?

PDCAを回せるようになることだと思います。

── どういうことでしょうか?

MMMがくれるのは「仮説を立てるためのヒント」であり、答えではありません。さきほど「精度が重要」とお話ししましたが、精度を上げるためには仮説がなければいけないんです。

また、分析結果はずっと一定ではありません。競合やトレンドなど、市場環境によってどんどん変わっていきます。なので、できれば月1、遅くとも四半期に1度のスパンで定常的に分析を続けていく必要があります。

僕たちのクライアントで成果を出し続けている企業様は、試行錯誤の量が多いです。戦略策定→打ち手の実行→MMMで振り返り→仮説と照らし合わせて軌道修正や強化を決定、というサイクルを高速で回し続けているからこそ、持続的に成果が出ているんです。

高精度でスピーディーにPDCAを回せるようになることが、MMMの本質的な価値だと考えています。

── さまざまなツールが出たり、外資系MMMのオープンソース化が進んだりするなかで、サイカのMMMに対する思いは?

さきほど述べたとおり、MMMは海外企業では当たり前ですから、日本企業でもやるべきだと思っています。ですから、日本で流行っているのはウェルカムです。

とはいえ、MMMは、分析精度を追求しないと、信じてはいけない結果が簡単に出てしまう手法なので、MMMの価値をちゃんと啓蒙しなければいけないという思いがあります。

分析精度の高くないMMMツールを使った結果を見て「MMMが使えない」と思われてしまうのがいちばんいやなので、構造を把握することと時系列を理解することの重要性をきちんと啓蒙し、MMMの秩序を保っていきたいです。

── 今後、MMMはどうなっていくと思いますか?

いままでは、「MMMでテレビCMの効果がわかる!」ということだけで革新的と思われる時代がありました。しかし、認知が広がった現在は、MMMをどう活用するかで判断される時代だと思います。

── クライアントからの要望にも変化があるのでしょうか?

はい。5〜6年前までは、最適なメディア予算配分のためにMMMを活用するという使い方が主流でした。

ですが、ここ数年は、「どのようなクリエイティブが良いのか」「ブランディングと商品訴求の広告のバランスをどうするか」「(ユーザーのファネルごとに見たときに、)それぞれのファネルに対して各施策がどのように響いていて、全体的な売上向上のためはどのようなマーケティングミックスが最適か」など、長期的なブランド蓄積効果をふくめて分析しないとできない、より上流の戦略設計にMMMを活用したいというクライアントが増えています。マーケティングコミュニケーションの戦略を立てるため、課題抽出にMMMを活用するといった使い方ですね。

── サイカとしての今後の戦略は?

サイカでは、コンサルティングを強化しています。MMMを基盤として、今後は分析結果を「戦略・戦術に落とす」「実行に移す」ところに、より尽力していきたいと思っています。

その他MMMに関するお役立つ記事:

マーケティングでの統計モデル一覧:概要、活用法、課題と要件を分かりやすく解説(方程式なし)

統計分析は、現代のビジネス環境で不可欠な手段となっています。企業はますますデータドリブンな意思決定を求めるようになっていますが、その成功の鍵となるのが統計モデルです。

「自社で統計モデルが活用されているが、実は良くわらない」「より効果的なマーケティングの実践に向けてこれから取り入れたい」と考えている方々へ、本記事では主な統計的モデリング手法の概要、活用事例、そして課題と前提条件などをわかりやすく解説していきます。

統計モデルとは?

統計モデルとは、データからパターンや関係性を見つけ出し、それを数式で表現する手法です。「原因となる要素(説明変数)」と「結果(目的変数)」の関係を数値で捉えることで、予測や意思決定に役立てられます。

身近な例は天気予報です。気圧、湿度、気温、風速といった要素から、いつ、どこで、どれくらい雨が降るかを予測しています。これがまさに統計モデルの働きです。

マーケティングでの活用シーン

統計モデルは、マーケティングのさまざまな場面で力を発揮します。

  • 市場セグメンテーション:顧客をどうグループ分けするか
  • 顧客の行動予測:誰が、いつ、何を買うのか
  • 広告・プロモーションの最適化:どの施策が効果的か

統計モデルを使う3つのメリット

1. 透明性と説明力

統計モデルは、マーケティングの結果を科学的に説明できます。「なぜこの結果になったのか」「どの要素が影響したのか」が明確になるため、上司やチームメンバー、他部門への説得力が増します。

2. 精度の高い予測

商品の需要や売上を正確に予測することで、予算配分や在庫管理、生産計画を最適化できます。結果として、コスト削減と効率向上を実現できます。

3. 意思決定のサポート

経営層やマーケティング責任者は、分析結果を基に戦略を立てられます。勘や経験だけでなく、データに裏打ちされた判断ができるようになります。

マーケティングで使える統計モデル8選

1. 重回帰分析(Multiple Regression Analysis)

重回帰分析(Multiple Regression Analysis)

重回帰分析の概要

重回帰分析は、何かの出来事や結果が複数の要因によって影響を受ける場合、それらの要因と結果の関係を理解するための手法です。この分析を通じて、結果にどの要因がどの程度影響を与えているかを評価し、要因間の関係性を明らかにします。この手法の目的は、要因と結果の関係を数学的にモデル化し、因果関係を理解することです。重回帰分析では、結果(目的変数)と複数の要因(説明変数)との関係性を式で表現します。これにより、異なる要因が結果に対してどの程度影響を与えるかを推定できます。モデルは数学的な式として表現され、要因と結果の関係を示す係数が計算されます。これにより、要因の影響度や因果関係を明らかにします。

活用例:広告効果の分析

広告効果の分析として、広告費、ソーシャルメディアの投稿、季節要因などを説明変数として使用し、売上や顧客の獲得などの成果を目的変数として重回帰分析を実行することができます。これにより、どの広告チャネルや要因が成果に最も影響を与えているかを理解し、効果的な広告戦略を立てるのに役立ちます。

重回帰分析における課題

主な課題には、多重共線性(予測変数間の相関が高い)、オーバーフィット/過剰適合(モデルが複雑すぎる)、アンダーフィット/過小適合(モデルが単純すぎる)などがあります。また、重回帰分析は予測変数と結果の間に線形な関係(予測変数の変化に合わせて、結果が変化する割合が常に一定であること)を仮定した分析モデルになりますが、これは現実に常に保持される現象とは限りません。

重回帰分析が有効となる条件

多重共線性が低く、複数の要因間の線形関係における仮説を検証したい時には重回帰分析が有効です。

Excelでできる重回帰分析ガイド

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2. 階層的重回帰分析(Hierarchical Multiple Regression Analysis)

階層的重回帰分析(Hierarchical Multiple Regression Analysis)

階層的重回帰分析の概要

階層的重回帰分析は、結果に対する影響を調べる方法で、さまざまな要因を段階的に評価する手法です。この分析の目的は、結果への影響を理解し、どの要因が最も影響力を持つかを特定することです。この手法は、結果に寄与する主要因とその相対的な重要性を評価するのに役立ちます。階層的重回帰分析は、まず最も基本的な要因を評価し、その後、他の要因を順次追加して影響を評価します。モデルの構築段階で、要因間の因果関係や相互関係を仮定し、それらの影響を統計的に分析します。

活用例:価格設定の最適化

商品の価格を説明変数として扱い、売上を目的変数として階層的重回帰分析を実行することで、最適な価格を分析することができます。基本的な要因を商品の価格として評価し、その後、広告費や競合他社の価格など他の要因を追加することで、価格設定が売上に及ぼす影響を要因間の関係も含めて分析できます。これにより、最適な価格戦略を特定し、収益を最大化することに役立ちます。

階層的重回帰分析における課題・注意点

重回帰分析と同様、多重共線性や過剰適合などの課題があります。さらに、モデル構築における変数の選定や入力順序は仮説に基づくことになるため、仮説における間違いやバイアスなどの課題もあります。

階層的重回帰分析が有効となる条件

階層的重回帰分析が有効となる条件は、通常の重回帰分析と同様です。また、特定の変数や順序の仮説がある場合に適切です。

3. パス解析(Path Analysis)

パス解析(Path Analysis)

パス解析の概要

パス解析は、さまざまな要因や変数の関係性を視覚的に示し、それらの関係が結果にどのように影響を与えるかを理解する方法です。この手法の目的は、要因間の関係を明確にし、特定の出来事や結果における影響を理解することです。また、モデルを活用して要因間の影響を視覚的に表現し、統計的な関係を評価します。パス解析は、さまざまな要因や変数を図表で表現し、それらの要因が結果にどのように影響を与えるかを示します。要因間の関係性を矢印で表現し、結果における影響の程度を評価します。

活用例:顧客体験の向上

現代では、顧客とブランドの間でウェブサイト、モバイルアプリ、またはオフラインなどのさまざまな接点を通じて無数のやり取りが行われています。初期の接点(例:ソーシャルメディア、ウェブサイトなど)から、中間のステップ(例:商品レビュー、価格比較、営業など)を経てコンバージョン(例:購入、ダウンロード、ニュースレター登録など)まで、パス解析を活用することでカスタマージャーニーをより深く理解することができます。また、経路(パス)の中で、顧客の生涯価値を向上させる重要な接点を特定することで、リソースを最適化し、コンバージョン率の向上やプレミアム商品のアップセルなど、費用対効果の最大化を図ることができます。

パス解析における課題・注意点

主な課題は、最適なモデルを設計すること、多変量正規分布の仮定であること、潜在変数(直接は観察されないが、観測された他の変数から推定される変数)の取り扱いが不可であることです。

パス解析が有効となる条件

パス解析は、変数間の因果関係について仮説をもって明確に定義された理論モデルがある場合や、全ての変数が観測可能である場合に適しています。

4. ロジスティック回帰分析(Logistic Regression Analysis)

ロジスティック回帰分析(Logistic Regression Analysis)

ロジスティック回帰分析の概要

ロジスティック回帰分析は、ある出来事や結果が発生する確率を調べる方法です。具体的に、特定の出来事が発生するかどうかを予測したり、理解したりするために活用されます。この分析の目的は、2つです。1つ目は、特定の出来事が発生する確率を予測すること。もう1つは、どの要因がその出来事の発生に影響を与えるかを理解することです。ロジスティック回帰分析は、さまざまな要因(説明変数)が特定の出来事の発生(目的変数)にどの程度影響を与えるかを数学的にモデル化します。モデルは確率を表す式として表現され、要因が発生確率にどのように関連しているかを示します。

活用例:顧客セグメンテーション

ロジスティック回帰分析は、顧客セグメンテーションに役立てることができます。例えば、オンラインショップでは、顧客が特定の製品を閲覧し、カートに入れ、最終的に購入するかどうかを予測するのにロジスティック回帰分析を活用できます。この情報をもとに、顧客の購買意向を理解し、広告やプロモーションの配信や商品のリコメンドを最適化することができます。顧客が購入の最終段階に進む要因や特性を把握することで、販売効率の向上と収益の増加が期待できます。

ロジスティック回帰分析における課題・注意点

目的変数と説明変数の間は、非線形な関係が仮定されています。また、信頼できる結果を得るためにはサンプルサイズが大きいことが必要です。説明変数が多い場合は、過剰適合が問題になることもあります。

ロジスティック回帰分析が有効となる条件

目的変数がバイナリで(「はい」または「いいえ」のようなカテゴリーであること)、説明変数と目的の関係が非線形であると仮定される場合に有効です。

5. 共分散構造分析(Structural Equation Modeling/SEM)

共分散構造分析(Structural Equation Modeling/SEM)

共分散構造分析の概要

共分散構造分析は、さまざまなデータの関係性を調べ、データ間の因果関係や相関を理解する方法です。この分析の目的は、データのパターンや構造を理解し、異なる変数がどのように関連しているかを理解することです。また、モデルを活用して、データの背後にある潜在的な因果関係を特定することもあります。共分散構造分析は、さまざまな変数の観測データから、それらの変数間の構造をモデル化します。モデルには観測されたデータと潜在的な因果関係を示すパスが含まれます。

活用例:調査結果の解釈

共分散構造分析は、調査結果の解釈に役立てることができます。例えば、消費者調査を行った場合、共分散構造分析を活用して異なる質問項目や調査項目の間の関係性を明らかにすることができます。これにより、特定の広告施策が顧客の購買意向にどのように影響を与えるかを理解し、製品の特性や価格と購買行動との関連性を評価できます。共分散構造分析を活用することで、マーケティング戦略の改善やターゲット消費者の特定に繋げることができます。

共分散構造分析における課題・注意点

共分散構造分析は、大きなサンプルサイズと複雑な仮説を必要とします。適切なモデルの特定と構築が難しく、統計理論に関する専門的な知識を持っている人と、仮説をしっかりと持っている事業ドメイン知識のある人を揃えることが重要です(統計理論だけでも、事業ドメイン知識だけでも不十分です)。他の手法も同じことが言えますが、共分散構造分析はとくにこれが顕著です。

共分散構造分析が有効となる条件

パス解析と同様で、変数間の因果関係について仮説をもって明確に定義された理論モデルがある場合に適しています。

6. ARIMA(自己回帰和分移動平均)モデル

ARIMA(自己回帰和分移動平均)モデル

ARIMAモデルの概要

時系列分析の主なモデルとして、ARIMA(自己回帰和分移動平均)は、時間とともに変動するデータのパターンやトレンドを理解し、未来の予測を行う手法です。このモデルの目的は、時間に関連するデータの変動やパターンを理解し、将来の出来事やトレンドを予測することです。また、モデルを活用して、データの背後にある因果関係や影響を明らかにすることもあります。

活用例:需要予測

ARIMAモデルは、マーケティング分野における需要予測に活用できます。例えば、過去の売上データをもとにARIMAモデルを活用して将来の需要を予測し、この予測をもとに商品の発注量や在庫管理を最適化することで、需要の変動に効果的に対応することができます。ARIMAを活用することで、在庫の過不足を減らし、効率的なサプライチェーン管理を実現します。

ARIMAモデルにおける課題・注意点

データの定常性(時系列データの統計的な特性(平均、分散、自己相関など)が時間によらず一定であること)を前提としていますが、現実では必ずしもそうではない場合もあります。また、データに季節性がある場合も課題となります。

ARIMAモデルが有効となる条件

データに定常性がある場合、時系列データの分析に適しています。

7. 状態空間モデル(State-Space Model)

状態空間モデル(State-Space Model)

状態空間モデルの概要

状態空間モデルは、時間の経過とともに変化するデータを理解するための手法です。このモデルは、データの中に含まれる隠れた要因や状態を推定するのに活用されます。このモデルの目的は、データの背後にある隠れた状態やトレンドを特定し、将来のデータを予測することです。また、モデルを活用して、データの変動や周期性などの特徴を理解することもあります。状態空間モデルは、データの観測値と、それらのデータの背後にある状態を表すモデルから成り立っています。モデルは通常、時間の経過に伴う変化を捉え、データの変動や予測に役立ちます。

活用例:在庫管理

状態空間モデルは、在庫管理に活用できます。例えば、商品の在庫状況を把握し、需要の変動に対応するのに活用できます。このモデルを用いて、過去の販売データや在庫レベルをもとに将来の需要を予測し、適切な在庫レベルを維持します。これにより、在庫コストの最適化や在庫切れの回避に貢献し、効率的な在庫管理が実現できます。

状態空間モデルにおける課題・注意点

主な課題は、潜在変数の存在によるパラメータ推定の難しさです。

状態空間モデルが有効となる条件

「状態」(現在の状態)と「観測値」(その状態を観測した値)を持つ時系列データの分析に適しています。また、ARIMAよりは状態空間モデルはARIMAより柔軟性があり、データに必ずしも定常性を仮定していないため、幅広い時系列パターンに適用でき、複雑な動的システムを捉えるのに適しています。

8. ベイジアンネットワーク(Bayesian Network)

ベイジアンネットワーク(Bayesian Network)

ベイジアンネットワークの概要

ベイジアンネットワークは、事象や要因の関係を視覚的に表現し、確率的な推論を行うための方法です。この手法は、さまざまな出来事や要因が互いにどのように影響を及ぼすかを明確に示します。この手法の目的は、事象や要因の関係を理解し、特定の出来事が発生する確率を計算することです。また、モデルを活用して、異なる要因が結果に与える影響を予測することもあります。ベイジアンネットワークは、さまざまな要因や出来事をノード(節点)として表現し、これらの要因間の関係を矢印(エッジ)で示します。確率分布を使用して、出来事が発生する確率を計算し、モデルを活用して情報の伝達と推論を行います。

活用例:新商品開発

ベイジアンネットワークは、新商品開発に活用できます。例えば、企業が新商品の特徴や価格設定を検討する際、ベイジアンネットワークを活用して市場の反応を予測します。このモデルを利用することで、異なる商品特徴や価格設定の組み合わせが市場でどのように受け入れられるかを評価できます。また、競合他社の戦略や市場状況との関連性も考慮し、最適な新商品戦略を策定します。ベイジアンネットワークを用いることで、新商品の成功確率を向上させ、リスクを最小限に抑えることが可能です。

ベイジアンネットワークにおける課題・注意点

ベイジアンネットワークの構造をデータから学習するのは、特に大規模なネットワークの場合は計算コストが高くなる手法です。信頼できる結果を得るためには、十分な量のデータが必要です。

ベイジアンネットワークが有効となる条件

MCMC法と同様に、ビジネス用途・目的において、確率理論と不確実性をモデリングする必要がある場合に有効です。変数間の確率的関係をグラフ形式(ネットワーク)で表現するのに適しています。

終わりに

統計モデルは、マーケティングに透明性、予測精度、意思決定のサポートをもたらします。

ただし、モデルの選択は、解決したい課題と利用できるリソース(知識、時間、データ)によって変わります。ビジネス側とデータサイエンティストが連携し、課題を正確に理解して適切なモデルを選ぶことが、成功の鍵です。

マーケティングの実態を完璧に表現できる統計モデルはありません。しかし、確信を持ってアクションにつなげるには、これらのモデルを有効活用することが不可欠です。

データサイエンティストがモデルの精度を検証し、調整することが極めて重要です。信頼性のあるデータと正確なモデルを組み合わせることで、マーケティングの最適化を実現できます。

統計モデルに関するよくある質問(FAQ)

Q1. 統計モデルを使うには、高度な数学の知識が必要ですか?

実務で統計モデルを活用する場合、すべての人が数式を理解する必要はありません。大切なのは、各モデルの特徴と適用場面を理解することです。

実際の分析はデータサイエンティストが担当し、マーケティング担当者は課題の定義と結果の解釈に注力するという役割分担が一般的です。両者が協力することで、最大の成果を生み出せます。

Q2. どのモデルを選べばいいか分かりません

モデル選択は、以下の3つの要素で決まります。

解決したい課題

  • 予測したいのか、要因を理解したいのか
  • 結果は数値か、2択か、それとも時系列データか

利用できるデータ

  • サンプル数は十分か(最低でも数百件、理想は数千件以上)
  • データの種類(数値、カテゴリー、時系列)
  • データの質(欠損値や異常値の有無)

リソース

  • 分析にかけられる時間
  • 利用できる専門知識
  • 予算

迷った場合は、まず重回帰分析やロジスティック回帰分析といったシンプルなモデルから始めることをお勧めします。

Q3. 統計モデルの結果は、どれくらい信頼できますか?

統計モデルの信頼性は、以下の要素に左右されます。

データの質

  • サンプル数が十分か
  • データに偏りがないか
  • 欠損値や異常値が適切に処理されているか

モデルの適切性

  • 課題に対して適切なモデルが選ばれているか
  • モデルの前提条件が満たされているか
  • 過剰適合や過小適合が起きていないか

検証プロセス

  • 予測精度が検証されているか
  • 複数のデータセットで確認されているか

完璧な予測は不可能ですが、適切に構築されたモデルは、勘や経験だけよりも高い精度で意思決定をサポートできます。定期的にモデルの精度を検証し、必要に応じて調整することが重要です。

Q4. AIや機械学習との違いは何ですか?

統計モデルと機械学習は、目的とアプローチが異なります。

統計モデル

  • 要因と結果の関係を理解することに重点
  • 「なぜそうなったか」を説明できる
  • 比較的少ないデータでも機能する
  • 結果の解釈がしやすい

機械学習

  • 予測の精度を最大化することに重点
  • 「何が起こるか」を予測する
  • 大量のデータが必要
  • ブラックボックスになりやすい

マーケティングでは、両方を使い分けることが効果的です。要因を理解したい場合は統計モデル、純粋に予測精度を高めたい場合は機械学習が向いています。

Q5. 結果をどう経営層に説明すればいいですか?

統計モデルの結果を経営層に説明する際は、以下のポイントを押さえましょう。

専門用語を避ける

  • 「決定係数」→「モデルの当てはまりの良さ」
  • 「有意水準」→「偶然ではないと言える確からしさ」

ビジネスインパクトを示す

  • 統計的な数値だけでなく、売上や利益への影響を金額で示す
  • 「相関係数0.8」より「広告費を10%増やすと売上が8%増える見込み」

視覚化を活用する

  • グラフや図で直感的に理解できるようにする
  • 複雑な関係性は、パス図などで可視化する

リスクと限界も伝える

  • 予測の不確実性を正直に説明する
  • どこまでが分かって、どこからが分からないかを明確にする

Q6. モデルの精度をどう評価すればいいですか?

モデルの評価方法は、モデルの種類によって異なります。

予測モデルの場合

  • 予測値と実際の値の差(誤差)を測定
  • データを分割して、未知のデータでの予測精度を確認
  • 複数の指標(決定係数、二乗平均平方根誤差(RMSE)など)で多面的に評価

分類モデルの場合

  • 正解率、適合率、再現率などを確認
  • 混同行列で詳細な結果を把握

一般的な確認事項

  • モデルの前提条件が満たされているか
  • 異常値や外れ値が結果に影響していないか
  • 過剰適合が起きていないか

最も重要なのは、実務での運用を通じて継続的に精度を確認し、改善を続けることです。

Q7. 分析結果が期待と違う場合、どうすればいいですか?

期待と異なる結果が出た場合、以下のステップで確認しましょう。

データを再確認

  • 入力ミスや異常値がないか
  • データの集計期間や範囲は適切か
  • 欠損値の処理は適切か

モデルを見直す

  • 選択したモデルは課題に適しているか
  • 前提条件は満たされているか
  • 重要な変数が抜けていないか

仮説を再検討

  • 当初の仮説が正しかったか
  • 見落としている要因はないか
  • 市場環境の変化が影響していないか

予期しない結果は、新たな発見のチャンスでもあります。固定観念にとらわれず、データが示す事実を受け入れることが重要です。

サイカについて

サイカは、マーケティングのデータサイエンス領域で10年以上、国内エンタープライズ企業を中心に280社以上の支援実績があります。

多様な業界の専門知識を持つデータサイエンティストとコンサルタントが、統計手法を活用したデータドリブンな戦略の策定から、顧客理解、クリエティブ分析・制作、メディアプランニング、効果検証と予算の最適化まで、より良い意思決定を支えるデータ活用をサポートします。

貴社固有の課題・目標や、入手可能なデータに応じた最適な統計モデルの活用や分析支援について、ぜひお問い合わせください。

マーケティングに役立つ計量経済学|重要性、主な分析手法、活用事例と課題

マーケティングの領域では、データの種類と量が増え続ける中、効果的な戦略の策定や意思決定を行うために、データ分析がますます重要になっています。金融、農業、医療などの様々な分野で利用されている計量経済学は、マーケティングのデータ分析においても有用な学問です。

本記事では、マーケティングにおける計量経済学の活用方法について解説します。

計量経済学とは

エコノメトリックスとも呼ばれることがあり、計量経済学は、数学的なモデルや統計的な手法を用いて経済現象を分析する学問です。経済学の理論と実証データを組み合わせることで、経済現象の原因や影響を解明することができます。そして、計量経済学はマーケティング分野においても広く活用されています。

マーケティングにおける計量経済学の重要性

現代マーケティングの初期、20世紀前半では、マーケティング担当者が集められるデータはアンケート調査等に限られており、計量経済学は広く使われているアプローチではありませんでした。しかし、コンピューター技術の台頭に伴い、マーケティング担当者は、より多くのデータを手に入れることができるようになり、計量経済学モデルを用いた分析が可能となりました。

マーケティングは競争の激しい世界であり、効果的な戦略の策定や意思決定が求められます。計量経済学はデータに基づく分析を行うため、マーケティングの効果や影響を客観的に評価することが可能です。これにより、リソースの最適化や効果的な広告戦略の立案など、マーケティング活動の質を向上させることができます。

計量経済学(エコノメトリックス)の主な手法

計量経済学にはさまざまな手法が存在します。マーケティングにおいて活用される代表的なものとしては、重回帰分析、パネルデータ分析、時間数列分析などがあります。これらの手法を適切に活用することで、マーケティングデータから有益な情報を引き出すことができます。

1. 重回帰分析

回帰分析は、マーケティングにおいて最もよく使われる手法の一つです。これは、データ間の関係性を説明する数式を求める方法です。例えば、広告費と売上の関係を分析する際に回帰分析が用いられます。この手法により、広告費の増減が売上にどのような影響を与えるかを評価することができます。

重回帰分析とは、この回帰分析における説明変数が複数となったときに、複数の説明変数と目的変数の関係性を説明する数式を求める方法です。例えば、テレビCMやWeb広告、販促活動などの複数の説明変数が、売上という目的変数にどのような影響を与えるかを評価することができます。

重回帰分析の基本、概念や分析の手順について知りたい方はこちらの記事を読んでください。
図で学ぶとわかりやすいんです!|マーケティングと重回帰分析 – その1

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2. 時系列分析

時系列分析は、時間の経過とともに変化するデータを扱う手法です。マーケティングにおいては、売上の季節変動や需要のトレンドを把握するために用いられます。時系列分析により、過去のデータから将来の予測(シミュレーション)を行うことができます。これにより、売上予測や在庫管理、生産計画の最適化に役立てることができます。

3. パネルデータ分析

パネルデータ分析は、異なる個体や地域における複数の時点でのデータを分析する手法です。マーケティングにおいては、異なる地域や顧客グループの行動を比較する際に用いられます。例えば、異なる地域の市場シェアの違いを分析し、地域ごとのマーケティング戦略を立案することができます。

4. メディアミックスモデル

メディアミックスモデルは、広告予算を複数の広告媒体にどのように配分するかを評価する統計分析手法です。マーケティングにおいては、複数の広告媒体を効果的に組み合わせることが重要です。メディアミックスモデルにより、各広告媒体の貢献度を評価し、広告効果を最大化する広告予算の配分を決定することができます。

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計量経済学の活用事例

計量経済学は、マーケティングのさまざまな領域で活用されています。例えば、広告効果の評価やマーケットセグメンテーションの分析、価格設定の最適化などに計量経済学の手法が利用されています。また、競合分析や市場予測においても計量経済学は有用な学問です。

1. セグメンテーション

計量経済学は、マーケティングにおいて顧客を適切なセグメントに分類するのに役立ちます。過去の購買データや行動データを分析することで、顧客のニーズや行動パターンに応じた市場の細分化が可能となり、効果的なマーケティング戦略を立案することができます。例えば、特定の商品やサービスに関心を持つ顧客を特定し、ターゲット広告を展開することができます。

2. プロモーション効果とROIの評価

計量経済学は、マーケティングキャンペーンの効果を評価するためにも利用されます。広告やプロモーション活動のデータ、これらにかかった費用と収益の関係性を分析します。その効果を統計的に評価し、ROIを算出することで、有効なキャンペーンを見極めることができます。これにより、無駄な広告費の削減や投資対効果の高いチャネルの選定が可能となります。

3. 需要予測

計量経済学は、商品の需要予測にも応用されます。過去の販売データを元に需要予測モデルを作成し、将来の需要を予測することができます。これにより、需要の増減に適切に対応し、在庫管理や生産計画を最適化することができます。

需要予測に関する主な手法やポイントについては、詳細な記事もございますので深掘りしたい場合はご覧ください。

マーケティングに欠かせない「需要予測」の重要性とその手法を解説

4. 価格最適化

計量経済学は、価格設定に関する重要なツールとして活用されます。需要曲線を分析することで、価格と需要の関係を把握し、適切な価格帯を見つけることができます。また、価格変動が収益に与える影響を予測することで、利益を最大化する価格戦略を策定することができます。

マーケティングにおける計量経済学活用の課題

計量経済学を活用することは、データに基づく客観的な分析が可能となり、意思決定の根拠となる信頼性の高い情報を取得することができるというメリットがあります。一方で、マーケティング活動に計量経済学の適用には課題もいくつかあります。

1. データの取得と整理に手間がかかる

計量経済学を活用するには、多くのデータを収集し、整理する必要があります。データの収集には時間とリソースがかかる場合があり、また、データの整理には専門的なナレッジやスキルが必要です。そのため、データの取得と整備においては注意が必要です。

データ収集のポイントについては、さらに詳細な記事をぜひご覧ください。

データ収集のベストプラクティス:クライアントとの伴走で得た知見をご紹介

2. 複雑な数学的手法の理解が必要

計量経済学は、数学的な手法を用いてデータを分析する学問であるため、モデリングなど高度で専門的な知識やスキルが必要となります。統計学や数学に詳しくないマーケティング担当者にとっては、手法の理解や適用が難しい場合があります。適切なトレーニングや専門家のサポートが必要となることがあります。

3. データへの過度な依存

計量経済学を活用することは重要ですが、過度に依存することは逆効果となる場合もあります。データだけに頼りすぎて、クリエイティビティや直感を軽視してしまうと、マーケティング施策が単調になり、競争力を失う可能性があります。計量経済学を柔軟に活用し、データと感覚を組み合わせることが重要です。

まとめ

計量経済学(エコノメトリックス)は、データの種類と量が増え続ける中、データドリブンな意思決定を行う上で、今後ますます重要になっていくでしょう。

重回帰分析や時系列分析、パネルデータ分析、メディアミックスモデルなど、さまざまな手法を組み合わせることで、顧客のセグメンテーションや価格最適化、プロモーション効果の評価や需要予測など、様々な側面で利用されています。

計量経済学を活用することで、データを元にした客観的な分析に基づいてマーケティング戦略を立案し、競争の激しい市場での優位性を築くことができます。一方で、データの取得や整備の手間、数学的な理解の必要性、過度の依存による問題などのデメリットも存在します。マーケティング担当者や企業は、計量経済学を有効活用し、事業成果を促進するデータドリブンな意思決定を行えるよう、適切な人材・専門的なサポートやテクノロジーに投資することが重要です。

サイカは、マーケティングにおけるデータサイエンス領域で10年以上、コンサルティングおよびサービス提供を行っています。自社開発のMMM(マーケティング・ミックス・モデリング)といった高度なマーケティング効果分析ソリューションの提供を始め、国内エンタープライズ企業250社以上のコンサルティング支援実績があります。

我々は、計量経済学を含む統計学やデータサイエンスの手法を駆使し、クライアントのビジネスの成長をサポートしています。 データに基づく客観的な分析を通じて、より効果的なマーケティング活動を実現し、競争激しい市場での成功を支援しています。

この記事を参考に、計量経済学のマーケティングへの活用に興味を持たれて、自社にもっと取り入れたい方は、ぜひお問い合わせください。

景気後退や不安定な経済の中で、マーケティングにおける統計学の役割

近年、コロナ禍、ウクライナ情勢を受けたエネルギーコストの上昇、さらには円安による原材料の高騰や変動の激しい株式市場等、日本経済は景気が後退し不安定な状況に陥っています。また、インフレに対する懸念などの経済的要因も相まって、消費者の行動は変化しています。

このような状況下において企業のマーケティングは、変化する環境や消費者行動に対応していかなければなりません。その際、マーケティングの意思決定をサポートすることができるのが、統計学を活用した取り組みです。

本記事では、景気後退や不安定な経済の下で、統計学が果たすマーケティングにおける重要な役割について探っていきます。

景気の後退がマーケティングに与える影響

景気の後退は、企業のマーケティングに対して以下のようなさまざまな問題をもたらします。

消費者の購買行動の変化

景気後退時には、消費者の購買行動に変化が生じます。消費者は支出を減らし、生活必需品や安価な商品の購入に重点を置く傾向があります。マーケターはこの変化に対応し、需要の低迷する市場で競争力を維持するための施策を講じる必要があります。

予算削減と広告戦略の見直し

景気後退時には、企業は予算削減を余儀なくされることがあります。このため、マーケティング予算配分の見直しや効果的な広告戦略の策定が求められます。広告の効果を適正に測定したうえで、ROIの高い広告施策実行することをが重要です。

市場・競争環境への対応

景気後退は市場、競争環境にも大きな変化をもたらします。市場の縮小や、消費者の購買ニーズの変化などにより、新たな競争環境が形成される可能性があります。マーケターは市場の変化を常に把握し、競争力を維持するための戦略を模索する必要があります。

統計学の重要性

統計学では、確率論や数学的モデリングを用いて、データから意味のある情報を抽出する方法を研究します。情報を客観的に評価し、より合理的に意思決定するための重要な手法となります。

そのため統計学は、ビジネス、社会科学などのさまざまな領域で広く活用されています。データのパターンや傾向を把握し、将来の予測やリスク管理に役立つ情報を得ることができるため、ビジネスにおける戦略的な意思決定をサポートすることができます。

景気後退の環境下で、統計学はマーケティングにどのように役立つのか?

どの状況においても、マーケターにとって統計学は非常に有用な手法です。統計学を駆使することで、マーケターは効果的なマーケティング戦略を策定し、ターゲット顧客に対して最適なメッセージや広告を届けることができます。

景気後退の環境下で、市場の変動やコストの高騰などの問題に直面している状況では、データに基づいた客観的な情報がますます不可欠です。統計学は数値データを分析し、傾向やパターンを見つけ出すことに役立ちます。この情報を活用することで、マーケティングの意思決定をより合理的かつ戦略的に行うことができます。

以下は統計学がマーケティングに果たす主なメリットです。

マーケットトレンドの把握と予測

統計学は市場のトレンドやパターンを把握するのに役立ちます。例えば、景気後退の時期において、消費者の支出傾向や需要の予測が困難となることがあります。しかし、自社データや経済状況に関するデータを用いて統計分析をすれば、過去の傾向やパターンを把握し、将来のマーケット動向を予測することができます。

ターゲット顧客の洞察

統計学は、消費者の行動パターンや好みを把握するための貴重な手段です。ソーシャルデータや調査データをもとに、統計的手法を用いて顧客セグメンテーションを行い、ターゲット顧客の特性やニーズを分析することができます。これにより、パーソナライズされたマーケティング戦略を展開し、消費者の関心を引くことができます。

効率的な広告予算の配分

統計学は、広告予算の最適な配分を決定するためにも活用されます。データ分析によって、どの広告チャネルが最も効果的か、どの施策が最もROI(投資対効果)が高いかを判断することができます。これにより、マーケターは非効率な支出を減らし、 効果的・効率的な広告施策に予算を配分することができ、限られた予算を最大限に活用することができます。

リスクの評価と管理

景気後退や不安定な経済の下では、リスクの評価と管理が重要です。統計学を用いてリスク要因(例えば、景気後退による需要の減少)を特定し、過去のデータや市場動向を分析し、リスクの起きやすさ(発生確率)や影響度を数値化することができます。また、統計学はシミュレーションやシナリオ分析にも活用されます。これによって、ビジネスが直面する可能性のあるリスクに対して備えることができます。

マーケティングにおいて、景気後退時での統計学活用事例

背景・問題

ある小売企業は、景気後退や競争激化により売上が低下しているという課題を抱えています。また、消費者の購買行動が不確実で将来が予測困難な状況です。

課題

1) 売上の低下原因の特定:
景気後退や競争激化による売上低下の主な要因を特定することが困難である。

2) 購買行動の予測
不確実性の高い状況下で、消費者の購買行動を正確に予測することが難しい。

3) 効果的なマーケティング戦略の立案
限られたリソースで、効果的なマーケティング戦略を立案することが難しい。

統計学を活用した対策

1) データ分析に基づく要因特定:
売上データ、市場動向データ、競合他社のデータなどを用いて分析し、売上低下の原因を特定する。例えば、回帰分析や相関分析によって各要素と売上との関連性を明らかにし、売上低下の主な要因を特定する。

データ分析に基づく要因特定

2) 予測モデルの構築:
過去の購買データや顧客属性データを活用し、機械学習アルゴリズムを用いて、消費者の購買行動を予測するモデルを構築する。この予測モデルを活用することで、将来の需要の動向や傾向を把握し、需要予測に基づいた販売戦略を策定できる。

予測モデル

3) マーケティング施策の最適化:
MMM(マーケティング・ミックス・モデリング)を用いて、異なるマーケティング施策やプロモーションの効果を比較・評価する。また、クラスタリングやセグメンテーション分析を行い、各顧客セグメントに対して最適なマーケティング施策を実行。これにより、限られたリソースを最も効果的なマーケティング施策に注力することが可能となる。

マーケティング予算の最適化

このように、景気後退時においても統計学を活用することで、売上低下の原因を特定し、予測モデルを活用して需要を予測し、効果的なマーケティング戦略を立案・実行することが可能となります。

終わりに

統計学はマーケティングおいて有用な手法であり、景気後退と不安定な経済な時代である現在において、非常に価値のある取り組みです。

統計学に基づいたデータ分析や予測は、マーケティングの意思決定や、リスクを評価するに役立ちます。さらに、データから新たな洞察を得ることができ、効果的なマーケティング戦略を策定・実行することができます。

一方で、統計学をマーケティング戦略に活用するためには、分析の方法や精度が重要となります。データの質や選定、モデルの精度、解釈など、様々な要素が分析結果に影響を与えるため、専門的な分析スキルが必要です。

マーケティングに特化した統計家の支援を検討

弊社サイカは、データサイエンスを軸に、マーケティングの戦略策定/戦術設計/実行/検証を一気通貫で支援するコンサルティングカンパニーです。マーケティングにおけるデータサイエンス領域で10年以上、コンサルティングおよびサービス提供を行っており、国内エンタープライズ企業250社以上のマーケティング支援実績があります。

<統計学の活用におけるサイカサービスのメリット>

  • 専門知識と経験に基づく最適なデータ分析の実行
  • 統合的なケイパビリティによる戦略策定から実行までの効率的な支援
  • スピーディな意思決定による競争優位性の獲得
  • データ分析やモデリングにかかる時間と労力の削減

サイカが伴走することで、統計学を効果的に活用し、マーケティング活動を効率的に最適化することができます。データドリブンな意思決定とスピーディな改善により、売上の増加やコストの最適化などの成果を得ることができます。

ご興味のある方は是非お問い合わせ・ご相談ください。

また、サイカのサービス説明資料をダウンロードしてください。

ビッグデータとは|意味や活用事例、分析手法など【今だからこそ知るべき基礎知識】

「ビッグデータ(Big Data)」という言葉は、2011〜2012年にかけて日本で大きなトレンドとなり、2013年には新語・流行語大賞の候補にもなりました。それから10年以上が経過し、耳にする機会が減ったようにも感じます。

しかし、ビッグデータの重要性が低下したわけではありません。データ分析に携わるビジネスパーソンが増えている今だからこそ、ビッグデータの意味や活用事例、その分析手法などを、あらためて理解すべきです。

ビッグデータ活用は、いまや大手企業や先進企業だけのものではなく、すべての企業が受けられるITの恩恵です。

この記事では、今だからこそあらためて知ってほしい「ビッグデータ」の基本的な知識をわかりやすく解説します。ビッグデータを活用する意義や活用事例を理解するためにも、ぜひ参考にしてみてください。

ビッグデータ(Big Data)とは

ビッグデータとは文字通り、「膨大なデータの集まり」です。それは時間に比例して増えるのではなく、指数関数的に増加していきます。

下のグラフは、Intel Architecture Day 2020で紹介された資料を抜粋したものです。

データ増加の推移を表したグラフ
出典:Intel Architecture Day 2020https://player.vimeo.com/video/447304765?dnt=1&app_id=122963|intel)
※クリックすると動画再生ページに遷移します
※上記グラフは、リンク内にあるこちらの動画内、再生時間12:00時点で紹介

このグラフは、世界におけるデータ増加の推移を表しています。2025年には、世界のデータは「175ゼタバイト(ZB)」という膨大なデータに成長すると予測されています。ゼタバイトはあまり聞き慣れない単位ですが、これは、テラバイトの10億倍に当たるデータの単位です。

175ゼタバイトというデータ量がいかに膨大なのか、イメージしやすいように例を挙げてみましょう。

たとえば、米国・ニューヨーク証券取引所では、1日あたり約1テラバイトの取引データが生成されています。これを175ゼタバイトに換算すると、2025年には約4,800万年分の証券取引データが生成されることになります。

この例で挙げたような、想像を絶するほど膨大なデータのことを、ビッグデータと呼びます。

ビッグデータの定義「5つのV」

しかし、ビッグデータの定義を「世界中で生成される膨大なデータ」で片付けてしまうと、企業でのビッグデータ活用は進みません。

そこで、ビッグデータの定義として世界中で用いられているのが「5つのV」です。

ビッグデータの5つのV

1. Volume(データの総量)

2. Velocity(データのリアルタイム性)

3. Variety(データの豊富さ)

4. Veracity(データの信頼性)

5. Value(データの価値)

この定義は、元ガートナー・VPアナリスト、ダグラス・レイニーが発案した「3つのV(1~3)」に、新たに「2つのV(4、5)」を追加したものです。企業単位でビッグデータを定義する際は、この「5つのV」を備えているかを一つの基準として考えてみてください(*1)。

(*1)ここで挙げた「5つのV」を備えていない=ビッグデータではない、というわけではありません。例えばデータの総量が1テラバイトほどでも、その他の「4つのV」が整っていれば、ビッグデータとしてビジネスへの活用が期待できるものもあります。

構造化データと非構造化データの違い

ビッグデータは、大きく2種類のデータによって構成されています。それが「構造化データ」と、「非構造化データ」です。

構造化データ

行と列で構成されているテーブル形式に整理できるデータ。クエリ(条件指定による検索)を容易に行える。

例)ExcelやCSV、リレーショナルデータベースにまとめられたデータ

非構造化データ

規則性がなく、テーブル形式で整理できないデータ。自由度が高く、AI開発や機械学習における重要度も高い。

例)チャット、SNS投稿、動画、IoTデータ、衛星画像など

近年のビッグデータ活用において注目されているのは、非構造化データです。しかし、非構造化データは扱いが難しく、データサイエンスの専門知識を必要とします。

非構造化データの活用に注目が集まる

昨今、世界で生成されているデータの約80%が非構造化データだと言われています。

インターネットとSNSの普及、IoT機器の増加、AI開発の進歩。これらを背景に非構造化データを活用し、ビジネスに新しい価値を見出そうとする企業が増えています。

扱いの難しい非構造化データですが、データサイエンスの力によりこれを可能にすれば、企業にとってビジネスを大きく推進する力になります。

非構造化データの活用については、「広がりを見せるビッグデータの活用事例」のセクションで詳しく解説しますので、参考にしてみてください。

今すぐできるビッグデータ解析

非構造化データのように特定の構造を持たないデータを分析可能な状態に整えるには、データサイエンスの専門知識が欠かせません。しかし、さまざまなツールを使うことで、データサイエンスの専門知識がなくても、ビッグデータから示唆を見つけ出すことができます。

たとえば、Googleの検索動向を調べられる「Googleトレンド」を使えば、駅利用者の推移を分析できます。

過去5年間のGoogleトレンドで見た「渋谷駅」のトレンドを表すグラフ
「渋谷駅」のトレンドを表す過去5年間のグラフ|Googleトレンド

上記は、Googleトレンドで見た「渋谷駅」のトレンドを表す過去5年間のグラフです。2019年12月~2022年5月にかけて、トレンドが急激に低下しています。これは新型コロナウイルス感染症が急拡大し、緊急事態宣言が発令された時期と重なっています。

その後、「渋谷駅」のトレンドは上下を繰り返しながら、2023年2月頃にトレンド指数がコロナ禍以前の状態に戻りました。ちなみにグラフが下降している部分は、第1波~第7波の時期とちょうど重なっています。

このように、非構造化データとそれを視覚化するツールがあれば、誰でもビッグデータからヒントを得ることができます。

現代のビジネスパーソンに強く求められているのは、Googleトレンドのような視覚化ツールを利用し、データ分析を通じて何を読み解き、ビジネスにどう活かすかを考え、実行する力です。

ビッグデータは日本企業のデジタルシフトに欠かせない

日本のデジタル産業のこれからは、ビッグデータ活用を推進できるか否かによって、その結果が大きく変わると考えられています。

経済産業省が2018年9月に発表した「DXレポート」では、日本経済を待ち受ける「2025年の崖」に警鐘を鳴らしました。

「2025年の崖」について説明した図表
出典:DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~|経済産業省

「2025年の崖」とは、IT活用やデータ活用の遅れにより、2025年~2030年にかけて年間最大12兆円の経済損失が生じるというシナリオのことです。

この最悪のシナリオを回避するためには、IT環境の抜本的な見直しとともに、データ活用を可能にする「DX推進」が必要となります。 

DXを推進するためにはIT環境の抜本的な見直しだけでなく、ビッグデータ解析も行いながら、新しい製品やサービス、新しいビジネス、新しい企業風土を生み出す取り組みが欠かせません。

つまり、ビッグデータは日本企業のデジタルシフトに欠かせない要素であり、DXを推進し「2025年の崖」を回避するためにも、極めて重要な役割を持っています。

ビッグデータで広がるAIやIoTの可能性

ビッグデータを語るうえで切り離せないのが、AI(Artificial Intelligence)IoT(Internet of Things)です。

ひと口にAIと言っても、さまざまな研究分野があります。その中でもビッグデータとの関わりが深いのが、機械学習とディープラーニングです。

機械学習では膨大なデータをプログラムに取り込み、データの特徴を解析し、AIによるデータの分析や予測を可能にします。一方、ディープラーニングは膨大なデータをプログラムに取り込ませ、学習させることで、自律的な判断を可能にするAIを開発しています。

近年話題のChatGPTは機械学習とディープラーニングのなせる技であり、ChatGPTの学習や精度向上にもビッグデータが使われています。

IoTとは、センサーによるデータ収集とインターネット通信を可能にした機器のことで、これもビッグデータと深い関わりがあります。IoTが生み出すデータそのものがビッグデータとなり、分析を通じて、さまざまな知見やサービスを利用者に提供できます。

ビッグデータとAIとIoT、これらは相互補完の関係にあり、今とこれからのデジタル産業を支えるテクノロジーです。

AIやIoTと組み合わせたビッグデータの活用は、日本でも少しずつ広がっています。具体的にどういった活用事例があるのかご紹介します。

製品やサービスの企画、開発、生産

世界中で生成される消費者データや企業の購買データを分析することで、消費者や企業のニーズを把握し、ニーズに合った製品やサービスの企画・開発が可能になります。

ドイツ政府が2011年に発表した国家戦略プロジェクト「Industry 4.0」に代表されるように、製品生産においてもビッグデータ、AI、IoTの活用が進んでいます。

こうしたビッグデータ解析を通じて、製品・サービスの販売予測モデルを構築すれば、より効率的な企画、開発、生産を実現できます。

サービタイゼーション

サービタイゼーションは、従来は「モノ」として販売していた製品に新しい付加価値を生み、「コト(サービス)」として提供するビジネスモデルの転換を意味します。

たとえばロールス・ロイスが提供する「Power by the Hour」は、航空機エンジンをサブスクリプション契約で提供する、サービタイゼーションの代表例です。

エンジンにセンサーを搭載しIoT化することで、航空機の推進に使われたエネルギーを算出し、従量課金制サービスとしての提供を可能にしました。

スマート農業・スマート漁業

農業、漁業でもビッグデータが活用されており、近年は「スマート農業」や「スマート漁業」と称して注目されています。

ビッグデータ解析を通じて、最適な収穫時期の把握、効率的な漁獲方法の実行などを可能にし、さらに産地直送の販売モデルを構築するなど、ビッグデータ活用は小売にまで広がっています。

スマート農業でもスマート漁業でも、勘や経験に頼らない「データドリブンな収獲・漁獲」の実現が可能になります。

CX(カスタマーエクスペリエンス)の向上

WebサービスやECサイトにおいては、サービスやサイトから収集できるカスタマーデータを分析し、CXの向上に活用しています。

身近なところでは、カスタマーの類似点を把握し、製品やサービスを自動ですすめる「レコメンド機能」にビッグデータが活用されています。

今後は特定のサービスやサイトだけでなく、インターネット全体をまたいだカスタマーデータの収集・分析が進み、より快適なサービス提供に向けたCX向上が期待されています(データは匿名化されます)。

コンプライアンスとセキュリティの強化

個人情報や機密情報の漏えいは、「外部からのサイバー攻撃よりも、内部の不正や操作ミスに起因するものが多い」と言われています。

社内のデータ利用や不正のパターン、操作ミスによる情報漏えいのパターンなどをビッグデータとして分析すれば、内部の不正や操作ミスによるセキュリティ事件を未然に防ぐシステムを開発できます。

実際、世界中のセキュリティ・ソフトウェア開発企業が、ビッグデータ解析を通じたセキュリティ製品の強化を図っています。

マーケティング活動の最適化

近年主流のデジタルマーケティングにおいては、施策後に生じるビッグデータをリアルタイムで処理・分析できるかどうかが、マーケティング活動の成否を決めています。

たとえば、MMM(マーケティング・ミックス・モデリング)は、オンラインとオフラインをまたいだマーケティング施策の効果測定を可能にする統計的手法です。

これには、デジタル広告やSNSなどのマーケティングプラットフォームが生み出すビッグデータが活用されています。

外部データ取込みによる広告最適化

広告ビジネスにおけるビッグデータ活用として注目されているのが、DMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)です。

DMPは自社が保有する1stパーティデータに加えて、DMP事業者が独自に入手・整理した3rdパーティデータを合わせ、一つのビッグデータとして分析できます(*1)。

2種類のデータの組み合わせにより広告最適化を促し、効率的なROI(投資収益率)向上を目指せます。

(*1)近年、個人情報保護意識の高まりから、Cookieのような個人に紐づくデータの取得が難しくなっています。パーソナルデータの利用に関しては企業としての指針を明確に決めておく必要があります。

▼ 個人データ利用の今後の見通しについては、こちらの記事も参考にしてみてください。

個人情報保護規制の今後の見通しと、企業が取るべきアクション

ビジネスでビッグデータを活用するための6つのシステム

前述したようなビッグデータ活用を実現するためには、データ分析を可能にするツール(手段)が欠かせません。マーケティング業界では、これらのツールが広告配信のような施策の実行まで担う場合もあります。

ここでは代表的な6つのシステムを紹介しますが、6つすべてが必要なのではなく、ビッグデータ活用の目的に応じて正しく取捨選択することが大切です。

1. BI(ビジネス・インテリジェンス)

BIとは、ビジネスを通じて生成されるデータを収集、加工、分析し、経営や現場の意思決定をサポートするシステムやプロセスの総称です。

データの収集・蓄積、集計・分析、レポーティングを得意とし、さまざまな形式でのデータ分析、データマイニング(探索)、レポート出力などの機能を提供し、意思決定の迅速化を促します。

2. DMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)

膨大なデータを収集、蓄積し、他のシステムと連携することでビッグデータ活用を可能にするシステムです。

DMPといえば、一般的には、サービス・プロバイダが収集、蓄積した膨大な匿名データを利用できる「オープンDMP」を指します。このほか、社内のビジネスデータを収集・蓄積し、安全に管理できる「プライベートDMP」によるビッグデータ活用も進んでいます。

DMPを活用してセグメントしたユーザーごとに、広告配信やメール配信までできるため、One to Oneマーケティングが可能になります。近年の広告最適化には欠かせないシステムの一つです。

3. ERP(エンタープライズ・リソース・プランニング)

ERPとは、会計、販売、生産、在庫、人事など、企業の各部門のデータを統合データベースによって一元管理できる大規模な業務システムのことです。

ERPでカバーされた領域のデータをBIやDMPと連携することで、ビッグデータ活用の環境・基盤を作り出せます。

また、異なる業務間でのデータのやりとりが円滑になり、さらには企業の経営状況がリアルタイムで確認できるようになります。

データの処理効率アップ、最適で迅速な経営判断に寄与するビッグデータ活用のためのツールです。

4. MA(マーケティング・オートメーション)

MAとは、事前定義したシナリオと取り込んだ見込み客データにより、リードジェネレーション(見込み客の創出)とリードナーチャリング(見込み客の引き上げ)を可能にするシステムです。

オンラインとオフラインの見込み客データを分析しながら、事前に定義したシナリオをトリガー(きっかけ)にして、マーケティング施策の一部を自動化できます。

ビッグデータを活用したマーケティング業務の効率化を実現し、マーケターをクリエイティブな仕事に集中させることができます。

5. MMM(マーケティング・ミックス・モデリング)ツール

MMMとは、マーケティング関連のビッグデータを統合的に分析し、マーケティングの各施策が成果に与えた直接的な影響と間接的な影響を可視化する統計的手法のことをいいます。この仕組みを誰もが使えるよう、ツールに落とし込んだのがMMMツールです。

サイカが提供する「MAGELLAN(マゼラン)」はまさにMMMツールであり、広告効果の可視化・最適な予算配分のために、幅広い業界・業種の企業に導入されています。

6. RDBMS(リレーショナル・データベース・マネジメント・システム)

RDBMSとは、リレーショナル・データベースを管理するためのシステムです。

リレーショナル・データベースはテーブル形式でデータを保存できます。「Excelのようにテーブル形式でデータを保存するデータベース」と、シンプルに考えて差し支えありません。つまりは、ビッグデータのうち構造化データを管理できる環境・基盤のことです。

RDBMSはSQLというデータベース言語を使い、リレーショナル・データベースに保存されているデータをさまざまな形で処理できます。

ビッグデータに使われる主な分析手法

ビッグデータ活用は、ビジネスの目標から逆算し、適切な分析手法を選び、適切なデータを集め、分析することが大切です。

ここでは、ビッグデータに使われる主な分析手法を解説するので、これからデータ分析に携わる方は、ぜひ参考にしてみてください。

1. クロス集計分析

アンケートによって集計したデータを、細かい切り口で分析するための手法です。

たとえば、内閣の支持率を調査した場合、「支持するか否か」の単純集計ではなく、性別、年代別、都道府県別など、複数の項目とクロスさせて集計データを分析します。

一見するとシンプルな分析手法ですが、「何を軸に分析するか」によって導き出される結果が異なるため、データ分析の目的をハッキリさせておくことが大切です。

2. ロジスティック回帰分析

複数の説明変数(要因)から、「2値の目的変数(結果)」が起こる確率を予測・説明するための分析手法です。2値とは、「YESかNOか」のように、2つの目的変数しか存在しない値を意味します。

活用例として代表的なものがマーケティング施策のDM(ダイレクトメール)です。DMを経由して購入に至ったユーザーを「1」、購入しなかったユーザーを「0」として、ユーザーの購入確率を算出します。購入確率の高いユーザーに優先的にDMを送るようにすれば、効率よく成果につなげることができます。

3. アソシエーション分析

小売におけるPOS(販売実績)データをもとに、消費者の購買行動に関連性を見つけ出す分析手法を、アソシエーション分析といいます。

わかりやすく説明すると、「過去のPOSデータから、30代女性は商品Aを購入する可能性が高い」といった仮説を立てるための分析手法です。

アソシエーション分析をアルゴリズムに組み込むことで、ECサイトやVODサービスにおいて高度なレコメンド機能を実装できます。

4. クラスター分析

クラスター分析とは、母集団の中からデータごとの特徴を見つけ、データを分類した上で類似点と非類似点を明らかにすることで、分類したデータ(クラスター)の傾向を観察する分析手法です。

マーケティングやブランディングだけでなく、機械学習など幅広い分野に取り入れられている分析手法です。非構造化データの分析も可能であり、ビッグデータ活用において重視されている分析手法の一つでもあります。

5. 決定木分析

予測や判別、分類を目的としたデータマイニングの一種です。データマイニングとは、統計学や機械学習を用いて、ビッグデータから新しい知見を導き出すための技術を指します。

分析結果が樹形図になることから「決定木分析」と呼ばれています。

「Akinator」というスマホアプリをご存知でしょうか?いくつかの質問に答えるだけで、頭に浮かんだ著名人を言い当てられる、というアプリです。このAkinatorのアルゴリズムにも、決定木分析が使われています。

6. 主成分分析

たくさんの説明変数を持っているデータを集約し、新しく作成して変数(主成分)に置き換えて分析することで、データごとのパワーバランスを把握できます。

飲食チェーンの店舗分析を例に挙げると、来店客から集めたアンケート調査から、店舗ごとの総合力や、特定分野における能力などを分析できます。

どのような説明変数を用いて、どのような主成分で構成するかにより分析結果が大きく変わるため、分析のセンス・スキルが問われます。

7. MMM(マーケティング・ミックス・モデリング)

MMM(マーケティング・ミックス・モデリング)とは、マーケティング施策が成果に与える影響を定量化する統計学的な分析を意味します。マーケティング施策を実施することによる「他のマーケティング施策への影響 (間接効果)」や「成果への影響 (直接効果)」を数値化できるのがMMMの特徴です。

メディアやチャネルが多様化する中でマーケターに求められるのは、マーケティングの各施策の最適化だけではありません。複数のメディア・チャネルを使い、複数のマーケティング施策を同時並行で実施することが求められています。この状況で成果を最大化させるためには、施策同士の相乗効果を分析し、全体最適化によって成果を最大化することが重要です。

▼ MMMについては、以下の2記事で詳しく解説しています。データを武器にしたいビジネスパーソンにとっての必須ツールでもあるので、ぜひ参考にしてみてください。

クッキーレス時代、日本がマーケティングにMMMを取り入れるべき3つの理由

広告の正しい効果測定にマーケティング・ミックス・モデリングを使うべき理由

サイカが考えるビッグデータ解析の未来

ビッグデータという言葉がIT業界のトレンド入りを果たしてから、10年以上が経過しました。業界の中でも「もはや死語では?」という認識が、多からず浸透しています。にもかかわらず、ビッグデータについて当記事であらためて解説しているのはなぜか。

それは、ビッグデータが死語になっているどころか、ビジネスにおける重要性が年々増しているからです。

ビッグデータはいたるところに存在し、大企業だけのものではなく、中小企業でも十二分に活用できます。インターネット環境の整備と、SNSの爆発的な普及がそれを可能にしました。

しかし、企業側がそれに気づかず「ビッグデータをただ生成しつづけているだけ」という現状があります。ビッグデータを活用した業界の覇権争いは、すでにグローバル規模で始まっています。

ビッグデータへの感度が高い先進的な外資系企業は、データ分析システムを用いて一般的なビジネスパーソンをデータアナリストへと育てています。

データ分析の大部分はシステムと少数のデータサイエンティストに任せ、「現場視点で考えられるデータアナリスト」が、今後数年の間に生まれていくのです。ちなみにそのシステムというのが、前述した6つのシステムとなります。

日本でもようやく、IT人材育成プログラムが始まりました。しかしそれは「IT技術者を育てること」に重きを置いています。IT技術者不足は確かに深刻な社会問題ですが、それはシステムでカバーできる部分も多いでしょう。

大切なのは、ビジネスの目標と目的に応じて正しいシステムを選択し、システムから得られる分析データを用いて「現場視点で考えられるデータアナリスト」の存在です。

この動画では、ビジネスの現場で求められているデータ分析のスキルを話しています。ぜひ参考にしてみてください。

本記事を読まれたビジネスパーソンのみなさまには、「自社にとって本当に必要なIT人材とは」をあらためて定義してみていただきたいと思います。