アンコンシャスバイアスとは|具体例で知る要因と改善方法、バイアスとの違い
無意識のうちに抱えている先入観や偏見を、「アンコンシャスバイアス(無意識の偏り)」と呼びます。
人は社会的通念やこれまでの経験によって、さまざまなアンコンシャスバイアスを形成しています。アンコンシャスバイアスを持っていること自体は悪いことではありません。先入観や偏見というのは、人として自然に生まれるものです。
しかし、アンコンシャスバイアスを人に押し付けるような言動をとると、職場ではパワハラやセクハラと判断されたり、ときには人権問題に発展したりもします。また、企業の広告制作などにおいては、アンコンシャスバイアスに十分注意しながらプロジェクトを進めないと、気づかないうちに社会から反感を買う恐れがあります。
この記事では、ビジネスシーンで意識すべきアンコンシャスバイアスと、企業が発信をする際に気を付けるべきアンコンシャスバイアスを、実際の広告事例も含めて解説します。
目次
アンコンシャスバイアス(unconscious bias)とは?
「A型は真面目で几帳面」
「B型は個性的で好奇心旺盛」
「O型はおおらかで安定感抜群」
「AB型は天才肌で二面性あり」
これらの血液型診断を見聞きしたことがある方は多いでしょう。2016年の調査では、約40%の人が上記のような血液型診断を「信じている」と回答しています(*1)。
しかし、こうした血液型診断を証明するような科学的根拠はなく、社会的通念から誕生した、多くの日本人に浸透しているアンコンシャスバイアスです。
アンコンシャスバイアスは無意識下ではたらく意見の偏りであり、本人も気づかないうちに、その偏りが言動に表れていることがあります。ある人にとっては「当たり前のこと、気にするほどではないこと」だとしても、またある人は違う意見を持っているかもしれません。
自分が抱えているアンコンシャスバイアスを認識し対処しなければ、コミュニケーション不全を起こし、ときにはチームや組織の崩壊をまねくこともあります。
(*1)野村総合研究所 INSIGHT SIGNAL https://www.is.nri.co.jp/report/short-research/2016/000171.html
バイアスとの違い
バイアス(bias)とは、人が抱える先入観や偏見、意見の偏りなどの総称です。
正常性バイアス、自己奉仕バイアス、生存者バイアスなどのさまざまなバイアスが存在する中に、アンコンシャスバイアスがあります。
『バイアスとは|意味と種類【データ分析時の注意点まで解説】』では、バイアスの概要と、データを武器にしたいビジネスパーソンにとくに注意していただきたいバイアスについて解説しています。
バイアスにより間違った分析結果を導き出してしまうことは珍しくないので、データ分析に携わるビジネスパーソンはぜひこちらの記事を参考にしてみてください。
日常に転がるアンコンシャスバイアス
アンコンシャスバイアスはあらゆる生活シーンで表れる思考の偏りです。数百種類あると言われており、ビジネスシーンにおいては下記のようなアンコンシャスバイアスが生じることがあります。
- 営業成績の悪い社員が遅刻するのはだらしない性格のせいだ
- 自分が可愛がっている部下は多少ミスをしても許してしまう
- 飲み会の幹事、社内イベントの雑用は新入社員がやるもの
- 女性社員はいずれ会社を辞めるから管理職に就かせたくない
- 上司が残業しているのに退勤する社員にはやる気が感じられない
- ITリテラシーが低い人はビジネスの能力も低いと思っている
- 「男のくせに」「女のくせに」という発言をよくする
- 性格が合わないという理由だけで相手の意見を必ず否定する
- 相手の年齢が自分より下だと知った瞬間から態度を変える
- 育児休暇を取得する男性社員は体よく休みたいだけだと思う
アンコンシャスバイアスを認識しないまま行動すると、無意識のうちに他者を傷つけたり、精神的ストレスを与えたりしてしまいます。前述したように、アンコンシャスバイアスは「まず認識すること」が大切です。
この機会に、自分がどのようなアンコンシャスバイアスを抱えているのか、日頃の言動を思い返しながら考えてみてください。
日常的に意識したい7つのアンコンシャスバイアス
ビジネスパーソンに意識していただきたいアンコンシャスバイアスが7つあります。
これらがアンコンシャスバイアスのすべてではありませんが、日常的に意識することで、チームのコミュニケーションを正常に行い、組織の心理的安全性を高められるでしょう。
1. 確証バイアス
自分が立てた仮説や、他人に与えられた仮説が正しいかどうかを判断するにあたって、その仮説を反証するような情報を無視しようとする無意識の偏りです。
「自分が信じたい仮説」に都合の良い情報ばかり集めてしまうため、ものごとの本質を見極めることが難しくなります。
血液型診断に科学的根拠はなくとも、それでも「A型は真面目で几帳面」と信じるのは、確証バイアスが作用している可能性が高いでしょう。
2. 正常性バイアス
危機的状況においても、自分にとって都合の悪い情報を無視しようとしたり、過小評価したりする無意識の偏りです。
ビジネスシーンにおいては、例えばサイバー攻撃に遭遇した時、「きっと実害は出ていないから大丈夫」と思い込もうとして、初動が遅れることがあります。
これは正常性バイアスが作用している証拠であり、事態を悪化させる危険性が高いため、とくに意識したいアンコンシャスバイアスの一つです。
3. 集団同調性バイアス
集団に属し続けることにより、周囲への同調傾向や少数派への圧力を自然と高めてしまうという、無意識の偏りです。
これまで起きた大規模な自然災害や火災に対して、「集団同調性バイアスが作用したことで被害が拡大した」という見解があります。集団への同調は安心感を生むため、たとえ間違った行動だとしても、人はその行動を正解だと思い込もうとするのです。
集団同調性バイアスは「集団による意思決定を円滑に行える」という利点がある反面、「いじめの助長」につながる危険もあります。
4. アインシュテルング効果
これまでに慣れ親しんだ考え方に固執し、多角的な視点を見失うことを「アインシュテルング効果」と呼びます。
「うちの会社は今までこのやり方で成功してきた」とビジネス環境の変化に順応できない場合は、アインシュテルング効果が作用している可能性があります。
顧客視点を失う原因にもなるので、ビジネスシーン全体を通じて意識したいアンコンシャスバイアスです。
5. 慈悲的差別
自分よりも立場が弱いと思っている人に対し、不要な配慮や気遣いをすることを「慈悲的差別」と呼びます。一見すると悪意のない親切心に思える行動も、差別につながる可能性があるので注意が必要です。
とりわけ、「女性は男性よりも弱い存在である」という慈悲的性差別(ベネヴォレント・セクシズム)は、ビジネスシーンでも無意識に生まれています。
6. インポスター症候群
自分の能力や実績を過小評価してしまうことを、「インポスター症候群」と呼びます。
育った環境やこれまでの経験から形成されるのがインポスター症候群であり、いわゆる「自己肯定感が低い状態」でもあります。
インポスター症候群が形成されている人は、自分の可能性を閉ざしてしまうリスクがありますが、謙虚さや周囲への感謝の気持ちも持ち合わせています。
そのため、自認と克服により、仕事のパフォーマンスや周囲からの評価を大きく上げられる可能性も秘めているのです。
7. ステレオタイプ
多くの人に浸透している固定観念やイメージ、思い込み、概念、思考の型を「ステレオタイプ」と呼びます。
前述の血液型診断も一種のステレオタイプですが、アンコンシャスバイアスとの違いがあります。
詳しくは『ステレオタイプとは|バイアスとの違いやメリット・デメリットをわかりやすく解説』にて解説しているので、この記事と合わせて参考にしてみてください。
アンコンシャスバイアスに陥った広告事例
アンコンシャスバイアスを認識しないまま広告制作などを行うと、社会的批判の的になる可能性があります。ここでは、大手企業がアンコンシャスバイアスに陥った広告事例を3つご紹介します。
大手食品メーカーのテレビCM
大手食品メーカーが2014年に放映したテレビCMは、早朝から夜にかけて、母親が育児・家事・仕事に追われる姿を描いています。
制作側としては「日本のお母さんはスゴイ」と応援する気持ちがありました。しかし結果として、「育児や家事は母親がするもの」というアンコンシャスバイアスに陥ったテレビCMとして社会的批判を集めました。
テレビCM冒頭では、母親が子供たちに朝食を食べさせながら洗濯物を干している背後で、無関心そうにパソコンを操作している父親の姿があります。
母親と父親の対比により「日本のお母さんはスゴイ」を強調したかったのかもしれませんが、父親の協力的な姿が少しでも描かれていれば、批判は防げた可能性があります。
大手化粧品会メーカーのWebムービー
大手化粧品メーカーは、「家庭的な父親の葛藤」を描写したWebムービーを2017年に公開しました。しかし公開しばらく、SNS上では「主人公の行動に共感できない」などの批判が多く集まりました。
息子の誕生日当日、ケーキとプレゼントを購入した主人公の父親は、帰り道に落ち込んでいる後輩社員を見かけ、飲みに誘います。そこに至るまでには、主人公が抱えている「理想の父親像」に対する葛藤が描かれており、その結果として、「息子の誕生日当日に後輩社員と飲みに行く」という行動に出ています。
このWebムービーは「がんばるお父さんたちを応援するムービー」として紹介されましたが、視聴者からすると、共感できない行動に映ってしまいました。
大手自動車メーカーのSNSアンケート
2019年に、「女性ドライバーの皆様へ質問です。やっぱり、クルマの運転って苦手ですか?」という投票機能を使ったツイートが、大手自動車メーカーの公式アカウントから投稿されました。直後に批判が殺到し、投稿は取り消され、謝罪する事態にまで発展しました。
この記事を読まれている方は、このSNS投稿の何が問題なのか、すでにお気づきでしょう。
「やっぱり」という文言に、SNS投稿担当者の「女性は運転が苦手なもの」というアンコンシャスバイアスが表れています。また、ツイートに対する選択肢が上から「とても苦手」「すこし苦手」となっている点についても、女性に対する偏った意見が感じられます。
SNSアンケートに「運転が苦手な人にも安全で楽しいカーライフを」という前向きな目的があったとしても、アンコンシャスバイアスにより、企業ブランドそのものに傷がつくことも珍しくありません。
「アンコンシャスバイアスな広告」を作らないための3つのP
前述した「アンコンシャスバイアスな広告」は、決して他人事ではありません。自分でも気づかないうちに言動に表れるからこそ、無意識の偏りなのです。
テレビCMやWebムービーなど、多角的な意見が得られそうな広告制作の現場においても、アンコンシャスバイアスが作用してしまいます。
これを避けるために意識すべきことが、国連が主導するアンステレオタイプアライアンスが提唱する「3つのP」です。
アンステレオタイプアライアンスとは
アンステレオタイプアライアンスとは、国連が主導し、「メディアと広告の力で固定観念の撤廃」を目指す組織です。2017年、フランスのカンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバルにおいて発足しました。
詳しくは、『アンステレオタイプとは|意味やアンステレオタイプアライアンスについて解説』で解説しています。
このアンステレオタイプアライアンスが、広告表現を見つめるための原則として提唱しているのが、「3つのP」です。
- Presence(存在)
- Perpective(視点)
- Personality(個性)
1. Presence(存在)
「男性、女性を含め多様な人々が存在しているか」
多様性が叫ばれるようになった現代社会において、社会的・文化的な区別をなくすジェンダーレスを広告に取り入れることが、大前提になりつつあります。
男性のみ、女性のみ、あるいは特定の人種に偏った広告は「差別的表現だ」と捉えられる可能性が高いでしょう。
2. Perspective(視点)
「偏りのない視点でストーリーが語られているか」
2022年4月、大手新聞社に掲載された全面広告に対して、「女性を男性の性的な対象としている」という抗議が、アンステレオタイプアライアンスを主導するUN Women(国連女性機関)から寄せられました。
たとえ一枚の広告だとしても、男性と女性の視点を平等に取り上げられるようにしなければ、ステレオタイプの助長につながる危険があります。
3. Personality(個性)
「人格や主体性を持つ存在として描かれているか」
「男性は背が高く強い存在」、「女性はスリムでか弱い存在」など、外見的な個性に偏った広告はアンコンシャスバイアスを多分に含んでいます。
典型的な男性像・女性像にはめ込んだ描写は避けるべきです。男性や女性である前に、人格や主体性を持ったひとりの人物として描く必要があります。
おわりに
2018年5月、スターバックスはアンコンシャスバイアスのトレーニングを実施するため、アメリカ全土にある8,000以上の店舗を、一時封鎖しました。フィラデルフィア州の店舗において、スタッフによる人種差別が発覚したためです(*2)。
アンコンシャスバイアスをスターバックスのように重く捉えるのか、あるいは「わが社は大丈夫」と考えるのか、対応は企業によって違います。
しかし近い将来、アンコンシャスバイアスを意識した広告、マーケティング、ビジネス、経営を行わなければ、社会的批判が集中する時代が来るかもしれません。
それに備えるかのように、アンコンシャスバイアス研修を実施する企業も増えています。
▼参考:アンコンシャスバイアス研修|社員研修のリスキル
アンコンシャスバイアスによって傷つく人々を生まないため、企業ブランドを傷つけるような事態を避けるためにも、個人や組織が抱えているアンコンシャスバイアスについてぜひ考えてみてください。
(*2)An open letter to Starbucks customers from Howard Schultz | https://stories.starbucks.com/stories/2018/an-open-letter-to-starbucks-customers-from-howard-schultz/