アンステレオタイプとは|意味やアンステレオタイプアライアンスについて解説

コラム
ステレオタイプダイバーシティ

みなさんは「アンステレオタイプ」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?

「アンステレオタイプ」は、固定観念を意味する「stereotype」と、否定を意味する接頭辞「un」を組み合わせた造語で、国連女性機関が主導する「アンステレオタイプアライアンス」という組織が提唱している言葉です。

アンステレオタイプアライアンスは、メディアと広告の力でジェンダー平等を推進し、有害なステレオタイプ(固定観念)を撤廃する世界的な取り組みを推進しており、このような取り組みを「アンステレオタイプ」と呼んでいます。

広告業界では、2010年代からジェンダーバイアスをはじめとするステレオタイプに対して問題提起がなされてきました。そしてこの流れは、2017年に国連女性機関UNWomenが「アンステレオタイプアライアンス」を発足させたことで決定づけられたといえます。

この記事では、「アンステレオタイプアライアンス」と、アンステレオタイプアライアンスが提唱する「アンステレオタイプ」について、意味や背景、これまでの取り組みをわかりやすく解説します。

アンステレオタイプとは

「A型の人は几帳面・O型の人はおおざっぱ」「男性は理系・女性は文系」など、多くの人に浸透している固定観念やイメージのことを「ステレオタイプ」といいます

ステレオタイプとは|バイアスとの違いやメリット・デメリットをわかりやすく解説 | 株式会社サイカ

ステレオタイプは、「女性はこうあるべき」「事務職はこうあるべき」のような型にはまった考え方で人や企業を縛ったり、イノベーションや自由な発想を遠ざけます。

また、情報へのアクセスが簡単にできるようになった現代では、消費者も企業の姿勢を重視するようになっています。男女の役割を明確に区別するようなテレビCMが原因で不買運動が起こってしまった事例からもわかるように、消費者は、ステレオタイプにとらわれたブランドや商品からは離れていくでしょう。

そしてまた、ステレオタイプはジェンダー平等を達成するための大きな障壁にもなっています。

このような有害なステレオタイプを、メディアや広告によって社会から取り除いていこうとする取り組みが「アンステレオタイプ」です。

「アンステレオタイプ」という言葉が生まれた背景

広告づくりは、まずターゲットを決めるところから始まります。「20代男性」「40代主婦」といった購買可能性の高いターゲットを設定し、彼ら・彼女らの心理をくすぐったり、気持ちや悩みを代弁したりするメッセージを出すことで購買につなげるのが、広告の役割です。

ですが、こういった広告のあり方は、一歩間違えると男女や年代による役割を固定化し、ステレオタイプを強化する危険性もはらみます。

マーケティングや広告づくりのプロセスを変えるのは難しいかもしれません。

しかし、広告やメディアは、倫理観やあらゆる人への配慮を忘れない存在であるべきではないか。こうした課題感をもって、国連機関のUN Womenが「アンステレオタイプアライアンス」を立ち上げ、「アンステレオタイプ」な広告のあり方を提唱しました。

日本におけるジェンダー平等の実態

さて、ここで、日本のジェンダー平等がどれくらい進んでいるかを見てみたいと思います。

世界経済フォーラムによる「ジェンダーギャップ指数2021」のランキングを見てみると、日本は、156か国中120位となっています。

これは、男女平等がどれだけ実現できているかを、「経済」「政治」「教育」「健康」の各分野に分けて数値で算出し、ランキング化したものです。

日本は、特に「経済」「政治」の分野で男女の差が大きいことが明らかになりました。実際、日本における男女の所得格差や、女性管理職・女性政治家の少なさは、アジア諸国に比べても顕著です。

アンステレオタイプアライアンスについて

アンステレオタイプアライアンスは、メディアと広告の力で、固定観念の撤廃を目指す組織

アンステレオタイプアライアンスは、2017年に、フランスのカンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバルにおいて発足しました。ジェンダー平等と女性のエンパワーメントのために活動する国連機関のUN Womenが主導しています。

UNSTEREOTYPE ALLIANCE

各国の課題に即した対応の必要性から、世界各地に支部が設立され、現在、オーストラリア・ブラジル・インド・ケニア・メキシコ・ナイジェリア・南アフリカ・トルコ・アラブ首長国連邦・英国に支部が設立されています。

2020年5月には、日本アドバタイザ-ズ協会(JAA)と日本経済新聞社(日経)が発起メンバーとなって、日本支部が設立されました。実は日本は、大規模な広告市場を持つ国で、広告の市場規模は、アメリカ、中国に続き、世界第3位となっています(*1)。

日本支部には、サポーターとして内閣府や外務省も参画し、現在(2022年3月時点)、国内の大手企業を中心とする民間企業17社が、メンバーとして参画しています。

(*1)https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000031.000007447.html

アンステレオタイプアライアンス設立の目的

アンステレオタイプアライアンスは、企業の広告などメディアの力でポジティブな変革を起こし、社会から有害なステレオタイプを撤廃することを目的に活動しています。

直近だと、2030年までに、持続可能な開発目標(SDGs)の5番目の目標である「ジェンダー平等を達成し、すべての女性と女児のエンパワーメントを図る」の達成を目指しています。

アンステレオタイプアライアンスのこれまでの取り組み

広告は、人々の思考や価値観を刺激し、行動を喚起する影響力を持っています。アンステレオタイプアライアンスは、その強みをうまく活用することで、人々のステレオタイプにポジティブな変化を与えるという指針のもと、広告のステレオタイプを打破する様々な取り組みを行なってきました。

ここで、アンステレオタイプアライアンスのこれまでの活動をいくつかご紹介します。

アンステレオタイプアライアンスの活動

報告書「アンステレオタイプ:ジェンダーを超えて。隠れたステレオタイプ」の発行

男女に染み付いたステレオタイプと、それに基づく行動実態を探る目的で、南アフリカ・ブラジル・インドの3カ国、男女それぞれ1,000人を対象に調査を行い、調査報告書を発行しました。

調査の結果、性別・年齢・人種・地域・交際状況(独身、既婚、離婚経験の有無、彼氏・彼女の有無など)・宗教・性的志向(恋愛・性愛の対象)など、個人のさまざまなアイデンティティが複雑に絡み合い相互に作用することで、差別や抑圧が生み出されている(*2)ことが分かりました。

ユニリーバの最高マーケティング・コミュニケーション責任者であり、アンステレオタイプ・アライアンスの副議長でもあるキース・ウィード氏は以下のように話しています。

「ジェンダーのみに焦点を当てても、人々の多様性を正確に描くことはできません。ジェンダーと他の要素、例えば人種、セクシュアリティ、障害、年齢などとのインターセクショナリティを理解することで、複数のレベルの差別に挑戦し、地域にポジティブな社会の変化をもたらすことができます(*3)。」

▼ 「アンステレオタイプ:ジェンダーを超えて。隠れたステレオタイプ(Unsetereotype: Beyond gender. The Invisible Stereotypes)」報告書はこちらから

(*2)このことを、intersectionality(インターセクショナリティ:交差性)という
(*3)引用:https://japan.unwomen.org/ja/news-and-events/news/2018/8/unstereotype

「Beyond Gender 2(ビヨンド・ジェンダー2)」の発行

2021年4月に、日本・トルコ・イギリス・アメリカの4カ国を対象に、広告におけるインターセクショナリティ(交差性)の影響についての新たな調査が行われました。調査結果は「Beyond Gender 2」として発行され、同年12月には日本語版も発表されています。

このうち日本についての調査を見てみると、日本の広告は、個人よりも調和を重視する日本の文化を反映する傾向にあるようです。

特に女性のジェンダー問題については、ステレオタイプの変革に挑戦するものは少なく、むしろステレオタイプを強化する傾向にあることが分かりました。

▼ Beyond Gender 2(ビヨンド・ジェンダー2)日本語版はこちらから

短編映画 「問題だと分かっていないことが問題(The Problem is not Seeing the Problem)」上映

私たちは、ジェンダーや人種、年齢にまつわる思い込みに頼って行動したり、世の中に発信される情報を精査せず、きちんと考えないまま受け取ってしまうことがあります。上に挙げた調査からも、隠れたステレオタイプに気づくことが重要ということが分かりました。

そこで、アンステレオタイプアライアンスは「問題だと分かっていないことが問題」というコンセプトの短編映画を制作しました。

映画では、役者のオーディションが行われ、俳優が「疲れた母親」「だめな父親」といったステレオタイプ的な役柄を演じています。よく知られた典型的な役柄が繰り返し演じられた後、役に対する俳優の本音と、代わりにつくりたい作品が明らかになります。

ユニリーバのグローバルマーケティング担当であるアライン・サントス氏は、「40%の女性が、目にする広告の中に自分を見出せない」と話しています。そしてさらに、この問題が女性だけではなく、すべての人に当てはまるものであるとも言っています。

広告は、日常生活の行動を形成し、より深いレベルで、社会的・文化的規範を作り出す力を持っています。また、広告が伝えるメッセージは強力であるため、よりポジティブなメッセージを伝えるために利用するべきだとアンステレオタイプアライアンスは訴えています。

▼ 短編映画 「問題だと分かっていないことが問題(The Problem is not Seeing the Problem)」はこちらから

広告のステレオタイプを撤廃するための進歩を測定するツール(ジェンダーギャップ分析ツール)「Unstereotype Metric(UM)」の開発

2020年、広告におけるステレオタイプを撤廃するより実践的な取り組みとして、広告の進歩を測定するためのツールの開発を行いました。広告を制作する過程で、広告におけるジェンダー描写が、先進的か後進的かを判断するためのツール「Unstereotype Metric」(UM)です。

▼ 広告が先進的か後進的かを測定するツール「Unstereotype Metric(UM)」はこちらから

アンステレオタイプアライアンスは、このツールを使って、56カ国、1,100ブランド、29カテゴリーで3,500以上の広告を分析しています。

分析から得た気づきは以下の資料にまとめられており、先進的な広告はよりメッセージ性が強く特徴的なため、消費者の共感を集めやすく、購入意欲に結びつくことが明らかになりました。

▼ Unstereotype Metric 2020: Key Findings はこちらから

アンステレオタイプアライアンス日本支部の活動

「NIKKEI UNSTEREOTYPE ACTION」の新聞広告掲載

2020年春、日本経済新聞社主宰の「日経ウーマンエンパワーメントプロジェクト」がスタートしました。このプロジェクトは、勉強会・セミナーによる「Input」、大型イベントを通じた「Output」、国連女性機関(UN Women)と連携した「Action」の3つの柱から成っています。

この中の「Action」の一環として、「NIKKEI UNSTEREOTYPE ACTION」の新聞広告を日経新聞に掲載しました。

広告では、「職場のステレオタイプを壊せ。」を訴えかけ、「#女性リーダーを増やそう」のハッシュタグでSNSでの応援・賛同コメントを募集しました。

また、「子育てのステレオタイプを壊せ。」を訴えた新聞広告も掲載し、母になってもプロでいる女性を応援しています。

▼ 「NIKKEI UNSTEREOTYPE ACTION」の新聞広告はこちらから
UNSTEREOTYPE ACTIONに込めた思い | 新聞広告 | 日経マーケティングポータル 
ルーシーの夢を叶えよう。#女性のリーダーを増やそう:日経xwoman 
子育てのステレオタイプを壊せ#母になってもプロでいる:日経xwoman 

「日経ウーマンエンパワーメント広告賞」への応募実施

同じく「Action」の一環として、日本経済新聞社が、ステレオタイプを打破し、ジェンダー平等と女性のエンパワーメントに貢献する広告を制作した企業を表彰するアワードを開催しました。

第1回では、UNSTEREOTYPE広告賞に、ユニ・チャームの「#NoBagForMe PROJECT 2019-2020」が選ばれ、日経特別賞には、サイボウズの「がんばるな、ニッポン。」が選ばれました。

▼ 第1回「日経ウーマンエンパワーメント広告賞」受賞広告はこちらから
日経ウーマンエンパワーメント広告賞が決定:日経xwoman 

第2回では、UNSTEREOTYPE広告賞に、東海テレビ放送「ジェンダー不平等国で生きていく。」が、UNSTEREOTYPE広告賞審査員特別賞に、味の素冷凍食品「冷凍餃子手間抜き論争」、「日経特別賞」に、ツムラの「#OneMoreChoice プロジェクト」がそれぞれ選ばれました。

▼ 第2回「日経ウーマンエンパワーメント広告賞」受賞広告はこちらから
第2回「ウーマンエンパワーメント広告賞」受賞作、優秀作を一挙紹介:日経xwoman 

アンステレオタイプアライアンスが今後行なっていく活動

サミットの開催

アンステレオタイプアライアンスは、広告業界に必要なマインドやツールについて議論するサミットを定期的に開催しています。

2021年5月には、グローバル・メンバー・サミットがオンライン上で開催され、世界中から集まったアンステレオタイプアライアンス賛同企業が、さらにポジティブな広告を制作するためにはどうすれば良いか、議論を繰り広げました。

日本からも、アンステレオタイプアライアンス日本支部の会員である賛同企業が参加し、「固定観念を撤廃するための行動と公約」というタイトルの会合で、日本における取組を報告しました。

アンステレオタイプアライアンス グローバル・メンバー・サミット | UN Women – 日本事務所

調査結果と広告測定ツールの発表

アンステレオタイプアライアンスは、世界中を対象とした、ジェンダーに関する意識調査や、広告における男性と女性をどのように表現しているか等の測定を継続的に行っています。

同時に、調査結果とそれに基づいたアンステレオアライアンスの見解や広告を測定するオープンアクセスツールを公表し、更なる効果的な広告制作に向けて情報を発信しています。

Unstereotype Metric:2021の主な調査結果 

国際女性デーの祝福

毎年、3月8日の国際女性デー(IWD)に、公式テーマに基づいて、働く女性の背中を押すメッセージを届けています。

2022年の国際女性デー公式テーマは、「持続可能な明日のための今日の男女平等(Gender equality today for a sustainable tomorrow)」でした。アンステレオタイプアライアンスに携わる、働く女性のメッセージと共に、国際女性デーを祝福しています。

また、当日の日経新聞朝刊では、アンステレオタイプアライアンス加盟企業17社のトップメッセージを載せた広告が掲載されました。

アンステレオタイプアライアンスへの加盟

アンステレオタイプアライアンス加盟のメリット

アンステレオタイプアライアンスに加盟すれば、国連機関が主催するジェンダー平等を目指すグローバルな取り組みの一員となり、 広告におけるステレオタイプを取り除いていくためのフレームワークやツール、調査を活用できます。

▼ 6つの会員特典

  • 国連本部でのUA年次サミットへの参加
  • カンヌ広告祭への参加
  • UN Woman主催イベントへの参加
  • プレイブックやフレームワークの提供
  • 調査やツールの提供
  • サイトでの企業名・ロゴ掲載

アンステレオタイプアライアンスに加盟するには

アンステレオタイプアライアンスには、以下の手順で加盟申請をすることができます。

① 企業が参加意向をUN Woman日本事務所へメールにて連絡する。
② アンステレオタイプアライアンスの事務局であるUN Womanが、申し込み企業の適正審査を実施する。
③ 適正審査に通過した企業は、同意書や会員規約に署名する。
④ 申し込み企業は、年間費60万円をUN Womanに支払う。

UN Woman日本事務所問い合わせ窓口

サイカの加盟について

サイカは、2021年12月にアンステレオタイプアライアンス日本支部に加盟しました。日本で広告代理業を行う企業としては初の参画となります。

サイカ、国連女性機関が主導する「アンステレオタイプアライアンス」日本支部に加盟 | 株式会社サイカ

サイカはこれまで、独自のデータサイエンス技術により、200社を超える企業に対して、適正かつ定量的に広告を評価する手段と、透明性の高い広告取引の仕組みを提供してきました。

サイカのデータサイエンス技術でアンステレオタイプな広告の効果を可視化し、その重要性を証明することで、業界と社会の発展に貢献したいと考えています。

サイカ、国連女性機関が主導する「アンステレオタイプアライアンス」の加盟企業として野田聖子内閣府特命担当大臣を表敬訪問 | 株式会社サイカ 

アンステレオタイプなマインドを持つために必要なこと

アンステレオタイプアライアンスは、アンステレオタイプな広告を作成するための3つの枠組みとして、「3Ps」を提唱しています。

3Psとは、以下の3つの観点です。

① Presence(プレゼンス:存在)広告の中で、誰が取り上げられているのか?

・ストーリーの中心人物は誰になっているのか?
・文化的・民族的にさまざまな人々が参加しているか?性別、年齢、人種、社会経済的地位、体の大きさ、性的指向、宗教、能力などを考慮しているか?
・登場人物はリアルに描かれているか?

② Perspective(パースペクティブ:視点)ストーリーを組み立てているのは誰なのか?

・男性と女性の視点を平等にとりあげているか?
・登場人物の個人的な経験と視点が描かれているか?
・制作者側に多様性があるか?
・この作品は、人々/コミュニティ/関係/規範に関する時代遅れの考え方に挑戦しているか?

③ Personality(パーソナリティ:個性)登場人物に奥深さはあるのか?

・女性と男性、子どもや大人を、多面的に描いているか?
・主体性があり、それぞれの個性を持つ存在として描かれているのか?
・美しさは、見た目や魅力だけでなく、その人自身の性格やパーソナリティの観点で考えられているか?
・美しさのステレオタイプは考慮されているか?

ステレオタイプに囚われない、ポジティブな広告を作成するために、この3つの枠組みを意識してみるとよいでしょう。この3Psの枠組みは、「日経ウーマンエンパワーメント広告賞」の審査基準に採用されているほか、アンステレオタイプアライアンスによるUnstereotype Metric 2020という調査でも、その有効性が実証されています。

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