投資家・起業家が選ぶ 「次世代のイノベーティブカンパニー」10選
イノベーティブカンパニー。直訳すると「革新的な企業」です。
イノベーティブカンパニーと呼ばれてきた企業はこれまでにもたくさんありますが、世の中の変化とともに、その定義は変わってきました。
これまでは、利益の最大化を目指す資本主義的なイノベーションもよしとされてきました。しかし、いま株主や投資家、消費者が企業に求めるのは、企業利益の最大化だけではありません。環境問題や人権問題、雇用問題や経済格差の解決に向けた取り組み、経営の透明性、長期的な企業価値の向上など、業界や社会全体、さらには全世界によい影響をもたらす存在であることが、企業の価値を左右する重要なバロメーターになっています(*1、*2)。
この流れを受けて、この記事では「次世代のイノベーティブカンパニー」として、3つの条件を定義しました。
「次世代のイノベーティブカンパニー」3つの条件
1. 業界・社会の将来に対する明確なビジョンを持っている
2. 既存システムの合理化や利便性の向上に留まらず、本質的な変革に取り組んでいる
3. 自社の利益のみを追求するのではなく、業界や社会、環境へのポジティブな影響を追求した変革を目指している
その上で、7人の投資家・起業家に「次世代のイノベーティブカンパニー」10社を、推薦理由とともに挙げてもらいました。
幅広い業界にまたがる10社ですが、よく見ると共通点も見えてきます。
目次
EX-Fusion(PIVOT代表 佐々木紀彦氏)
EX-Fusion 会社概要
「脱炭素社会を実現する」という世界的な動きの中で、「レーザー核融合商用炉」の実現をとおして、社会の発展と持続可能性への貢献を目指す。
これまで国が行うものだった核融合研究開発の分野に参入し、スピード感を持った技術開発にチャレンジ。商用炉の実現だけではなく、宇宙産業、半導体製造などのものづくり産業、地域の安定と平和に貢献する技術開発など、さまざまな分野に挑戦し、「レーザー核融合」そのものの存在意義をも変える取り組みを実践している。
佐々木 エネルギー問題という世界と日本の最重要イシューに、レーザー核融合技術で挑戦する。競争戦略上の理由で、あえて日本で起業する点もユニーク。
TBM (ケイアンドカンパニー代表 高岡浩三氏)
TBM 会社概要
「過去を活かして未来を創る。100年後でも持続可能な循環型イノベーション。」をビジョンに、環境配慮型の素材や製品の開発や資源循環モデルの構築でサステナビリティ革命を起こす、ものづくりスタートアップ。
石灰石を主原料とする、プラスチックや紙の代替素材「LIMEX(ライメックス)」、回収したLIMEXや使用済みのプラスチックなど、再生材料を50%以上含む素材「CirculeX(サーキュレックス)」などを開発。また、資源を最大限に活用し、資源の価値を持続的に再生利用し続ける資源循環事業にも取り組み、持続可能なサーキュラー・エコノミーの実現を目指す。
高岡 地球上に無尽蔵にある石灰石を主原料とする新素材「LIMEX(ライメックス)」で紙やプラスチックを代替し、化石燃料や自然の木材の使用量削減に貢献している。LIMEXは、水や木を使わずに紙の代わりとなるシートを製造でき、ポリエチレンやポリプロピレンのフィルムやシートなど、プラスチックの代替としても使用可能。日本発のサステナビリティ社会の実現に臨んでいる。
リージョナルフィッシュ(ケイアンドカンパニー代表 高岡浩三氏)
リージョナルフィッシュ 会社概要
「いま地球に、いま人類に、必要な魚を。」をミッションに掲げ、世界のタンパク質不足や国内の水産業の課題解決に取り組む。京都大学・近畿大学の共同研究を母体とし、2019年に設立された。
調査によると、2030年にはタンパク質の需要が供給を上回り、2050年には現在の約2倍必要とされている。ゲノム編集技術を利用した超高速品種改良と、AI・IoTを活用したスマート陸上養殖を組み合わせた次世代養殖で、世界のタンパク質不足や日本の水産業/地域経済の活性化に貢献することを目指している。
高岡 ゲノム編集技術を導入することで劇的に進化した超高速品種改良により、2030年に迫る世界的なタンパク質クライシスや、日本の水産業の衰退といった問題を解決しようとしている。
sustenキャピタル・マネジメント(マネーフォワードCEO 辻庸介氏)
sustenキャピタル・マネジメント 会社概要
2019年7月に設立された同社は、「家族や友人にすすめられる投資運用サービスを創出する」をミッションとし、「誰もが安心して暮らせるsustainableな社会の実現」をビジョンに掲げる。
個人向けの完全成果報酬型おまかせ資産運用サービス『SUSTEN』を提供。『SUSTEN』は、最新のテクノロジーを駆使した運用を強みとし、運用資産の過去最高評価額を更新した場合にのみ手数料が発生する、日本初(*)の「完全成果報酬型」投資運用を導入している。
(*)国際分散投資を提供する一般投資家向け投資一任サービスにおいて、基本報酬のない「完全」成果報酬型を採用するのは同社が日本初。
辻 国内における個人の金融資産が2000兆円を突破している中、「貯蓄から投資へ」の流れを推進する画期的なサービスだと考えている。2021年には、マネーフォワードを含む4社を引受先としてシリーズBラウンドにて総額6億円を調達し、今後の事業拡大が期待されている。
エンペイ(DNX Ventures 倉林陽氏)
エンペイ 会社概要
「やさしいフィンテックを。〜テクノロジーの力で、新しいお金の流れと社会をつくる。〜」というビジョンのもと、集金業務のキャッシュレス化・自動化を実現する、Fintech×SaaSプラットフォーム『enpay(エンペイ)』を提供。
なんとなく続いていた慣習やルールによって生じる、お金に関する不満や不便、不安をテクノロジーの力で解消。だれもが自分の可能性を発揮することができる、やさしい社会の創造を目指す。子ども支援のNPO団体への寄付活動を積極的に実施。
倉林 やさしいFintechとして保育園等、教育業界に特化した集金作業のDX、キャッシュレスを実現。また創業期から社会貢献活動を実施。
スカイマティクス(レオス・キャピタルワークス社長 藤野英人氏)
スカイマティクス 会社概要
「リモートセンシングで、新しい社会を創る」をミッションに掲げるテクノロジースタートアップ。
リモートセンシングとは、離れた場所からセンサーを用いて観測し対象を調べるテクノロジーのこと。ドローン、衛星、スマホなどを使って、さまざまなリモートセンシングデータが取得できるようになってきた。しかし、そのデータを扱うためには専門知識が必要で、データが大量になればなるほど、管理も分析も大変になる。
実際に現地に行かなければ得られなかった情報だけでなく、人の目では得られなかった情報、人の目とは違った視点まで提供する「時空間解析プラットフォーム」を開発・提供する。「見えないものを、見えるようにする」をテーマに、人間が受け取れる情報の制約を取り除く挑戦を続けている。
藤野 「10年後の課題」を見据え、空から得た画像データ活用の可能性に着目。農業、建設、測量、防災、インフラ点検などの業界に向けて最先端の技術を導入しやすい価格帯で提供しており、社会実装する力のあるテック企業として注目している。
ViXion(レオス・キャピタルワークス社長 藤野英人氏)
ViXion 会社概要
光学レンズメーカーHOYA株式会社での社内起業をきっかけに、2021年3月に分社独立化。新会社として稼働を始めた。
暗所視支援眼鏡「HOYA MW10 HiKARI」は、夜盲症で暗所での見え方に困っている視覚障がい者の方に明るくカラーの視界を、視野狭窄の方には広い視野を届ける、前例のないメガネタイプのウェアラブルデバイス。QOL向上を通し就労・学業支援を図る。
「Light the World〜あなたの世界に光を灯す」を合言葉に、ビジョンケア機器やサービスの提供を通じて、世界中の見え方でお困りの方を応援する組織を目指す。
藤野 2021年にHOYAから分社独立。日本に約180万人いると言われる、目が不自由で見え方に困っている「ロービジョン」の人のための眼鏡を展開する。電子眼鏡事業に限らず、視覚障害者が一歩を踏み出す総合支援サービスの実現を目指し、社会貢献と収益の両立に取り組んでいる。
TeaRoom (PIVOT代表 佐々木紀彦氏)
TeaRoom 会社概要
日本の伝統的な文化価値である「お茶」に着目した事業を展開。「お茶」を、商品ではなく「茶道」の精神を軸とした課題解決の手段ととらえ、柔軟な開発とスピード感のある提案で、生産から販売にいたる全行程を管理するフローを構築。「お茶」の体験価値をとおした、総合的なプロデュース事業を展開する。
1世帯あたりの日本茶消費量が年々減少し、衰退産業ともいわれる「お茶」産業だが、同社は「お茶」の価値、日本文化の価値にあらためて着目し、世界へ証明する挑戦を続けている。
「対立のない優しい世界を目指して」という企業理念のもと、世の中にあるすべての隔たりをなくすため、相手を優しく肯定する課題解決手段として、「お茶」や「道」の思想・文化を捉えている。
佐々木 「お茶で、日本文化の価値を世界へ証明する。」というビジョンに共感。今後の日本企業は「文化価値をどうビジネスにつなげるか」が問われるはずで、TeaRoomはその先駆となりうる。
ヤマップ(シニフィアン共同代表 村上誠典氏)
ヤマップ 会社概要
「地球とつながるよろこび。」というパーパスのもと、テクノロジーとアイデアをかけ合わせ、山をはじめとした自然に新たな価値を生み出し続ける。
人々が自然をもっと楽しみ、身近に感じられる世界を実現するために、登山・アウトドア向けの地図アプリ・Webサービス「YAMAP(ヤマップ)」を提供。320万ダウンロード(2022年7月時点)を超える、日本最大の登山・アウトドアプラットフォームになっている。
また、選りすぐりの登山・アウトドア用品を扱う「YAMAP STORE」や「YAMAP MAGAZINE」など登山メディアの運営も行なっており、さまざまなアプローチで山の魅力を伝える。
村上 自然と人間の関係の規定は簡単ではない。「山」を単にビジネス機会と捉えるのではなく「人と自然の関係性」と捉えることで、新たなプラットフォーム、ステークホルダーの関係性を模索している。
CAVIN Inc.(ココナラ代表 南章行氏)
CAVIN Inc. 会社概要
“素直な「気持ち」を伝えられる世界をつくる”をミッションに、花屋と生産者の直接取引・相互交流型プラットフォーム『CAVIN』を展開する。花の取引がスマホで簡単にでき、これまでにない鮮度で花を届ける仕組みを構築した。
また、花の美しさを楽しんでもらうだけでなく、花の廃棄ロス削減も目標に掲げる。少量からの取引を可能にし、必要な分だけ仕入れできるほか、突然変異を起こした奇形花の価値にも着目し、消費者のニーズを見極めて展開することで廃棄ロスを削減する。花業界の従来の常識をアップデートするための取り組みを行なっている。
南 市場を通さないことで物流日数が短縮され、鮮度がよい花を長期間販売でき、フラワーロスを軽減できる。花屋は、市場にいく手間を省きながらほしい花をほしいタイミングで注文でき、生産者も花屋から直接フィードバックをもらえることで、ユーザーニーズを活かした栽培が可能になる。このようにマーケットのあり方全体を改革することで、様々なステークホルダーの課題を同時に解決している。
編集後記
今回紹介した10社に共通するのは、業界や日本社会、さらには世界全体のより良い未来を見据えて事業を展開していること。どの企業も、テクノロジーやアイデアを活かして新しい産業や新しい価値を創り出し、未来の世代に大きな資産を引き継ごうとしています。
社会的価値を重視する世界的な消費・投資行動の変化とともに、採用の観点でも、中途市場では企業のSDGsへの姿勢や取り組みを重視する転職者が多く(*3)、新卒市場でも企業の「社会貢献度の高さ」は、就活生が就職先企業を選ぶ上でもっとも重視するポイントとなっています(*4)。
こうしたさまざまなデータは、この記事で紹介した「次世代のイノベーティブカンパニー」の条件が、企業にとってもはや必須条件であることを示唆しているようにも思えます。
「次世代のイノベーティブカンパニー」3つの条件
1. 業界・社会の将来に対する明確なビジョンを持っている
2. 既存システムの合理化や利便性の向上に留まらず、本質的な変革に取り組んでいる
3. 自社の利益のみを追求するのではなく、業界や社会、環境へのポジティブな影響を追求した変革を目指している
私たちサイカも、誰もがデータサイエンスを使いこなせる未来を実現することで、あらゆる人々が自身の才能を開花させ、自由にチャレンジできる世界を目指しています。
しがらみや不透明な慣習によって複雑化した状態をシンプルにすることで、あらゆるマーケットを解放する。それが私たちの使命です。
今回紹介した企業と切磋琢磨しながら、よりよい未来を実現していきたいと思います。
(*1)欧米先進諸国を中心に、CSR(企業の社会的責任)に関する規定や取り組みが進み、企業の社会的責任の重要性が高まってきた。SDGsの策定やESG投資の拡大もこの流れを後押しした。
・2006年、当時の国際連合事務総長であるコフィー・アナンが、金融業界に対して責任投資原則(PRI:Principles for Responsible Investment)を提唱。「投資の意思決定プロセスにESG課題を組み込むべき」というガイドラインが示された。
・2010年、国際標準化機構が「ISO260000」を発行。組織の社会的責任に関するガイドラインを規定。
・2011 年、EUが「新CSR戦略2011〜2014年」 を発表。「企業の社会への影響に対する責任」というCSRの定義を明確化。
・2011年、OECDが「多国籍企業行動指針」を改訂。「企業には人権を尊重する責任がある」という内容が盛り込まれた。
・2012年、CSR推進を主導する「CSRヨーロッパ」が、「エンタープライズ2020」プロジェクトを始動。CSRを実践するためのプラットフォームやノウハウを提供。
・2015年、国連サミットで「持続可能な開発目標(SDGs)」が採択され、持続可能な国際経済社会の実現に向けた 2030 年までの17の目標と169のターゲットが提示された。
・2020年、経団連は、2030年に向けた新成長戦略を発表。キーワードとして「サステイナブルな資本主義の確立」を掲げた。
(*2)世界のESG投資の投資残高は、2016年の22兆8390億ドルから、2020年には35兆3010億ドルに増加(約1.5倍)。米国に限っては、2016年の8兆7230億ドルから、2020年には17兆810億ドルと倍増。(参照:https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=70652?pno=2&site=nli#:~:text=%EF%BC%A7%EF%BC%B3%EF%BC%A9%EF%BC%A1%E3%81%AE%E8%AA%BF%E6%9F%BB%E3%81%AB%E3%82%88%E3%82%8C,%E5%84%84%E3%83%89%E3%83%AB%E3%81%AB%E5%80%8D%E5%A2%97%E3%81%97%E3%81%9F%E3%80%82)
(*3)SDGsへの姿勢、転職で「重視」65% 関連求人の動向は|日経BizGate https://bizgate.nikkei.co.jp/article/DGXZQOLM05224005062022000000?channel=BSH05013&page=3
転職希望者の74.1%が「SDGs推進企業に転職したい」、株式会社ワークポート調査 | HRog | 人材業界の一歩先を照らすメディア https://hrog.net/news/trend/102525/
(*4)就活生の企業選びとSDGsに関する調査(2020年8月)|DISCO
https://www.disc.co.jp/press_release/7937/
参考文献
- 日本におけるCSRの系譜と現状 https://www.nli-research.co.jp/files/topics/38077_ext_18_0.pdf
- 「CSR実態調査」結果 https://www.keidanren.or.jp/CBCC/report/201707_CSR_survey.pdf
- EU MAG 企業の競争力を強化するEUのCSR戦略 https://eumag.jp/feature/b0913/