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苦しみから救ってくれた環境を「運がよかった」で終わらせない──今井紀明の挑戦

挑戦のヒント
Diversity&Inclusionインタビューステレオタイプ挑戦

2004年、日本で衝撃的なニュースが報じられました。子どもたちを支援するため、当時紛争地域だったイラクに渡航した高校生の今井紀明さんが武装勢力に拘束されたのです。

幸い日本政府の尽力により今井さんは無事帰国できましたが、この事件は彼の人生に大きな影響を与えました。「国に迷惑をかけるな」「自己責任だ」「自作自演だ」といった多くの誹謗中傷やデマが向けられ、今井さんは心を崩すことに。

周りの支援もあってその状況を乗り越えた今井さんは、「10代の孤立」という社会問題の解決を目指し、『認定NPO法人D×P(ディーピー)』を設立。不登校・中退・家庭内不和・経済的困難・いじめ・虐待・進路未定・無業などによって、安心できる暮らしを失った子どもたちの支援をしています。

社会からバッシングを受け、一時は家に引きこもるしかなかった今井さんが、もう一度社会と向き合おうとした背景にはどんな思いがあったのか。挑戦し続ける今井さんの原動力に迫ります。

認定NPO法人D×P 理事長
今井 紀明(いまい・のりあき)

1985年札幌生まれ。立命館アジア太平洋大学(APU)卒。神戸在住、ステップファザー。高校生のとき、イラクの子どもたちのために医療支援NGOを設立。その活動のために、当時、紛争地域だったイラクへ渡航。その際、現地の武装勢力に人質として拘束され、帰国後「自己責任」の言葉のもと日本社会から大きなバッシングを受ける。結果、対人恐怖症になるも、大学進学後友人らに支えられ復帰。偶然、中退・不登校を経験した10代と出会う。親や先生から否定された経験を持つ彼らと自身のバッシングされた経験が重なり、2012年にNPO法人D×Pを設立。

経済困窮、家庭事情などで孤立しやすい10代が頼れる先をつくるべく、登録者9000名を超えるLINE相談「ユキサキチャット」で全国から相談に応じる。10代の声を聴いて伝えることを使命に、SNSなどで発信を続けている。

Twitter:@NoriakiImai

社会的な行動の原点にある「怒り」

── 今井さんは高校生のときに単身でイラクへ渡られました。きっかけとなった出来事はありますか?

2001年、僕が高校1年生のときに起きた9.11(アメリカ同時多発テロ事件)です。その報復としてアメリカは、アフガニスタンへの空爆を始めました。テレビで連日報道されるニュースを見て、関係のない子どもたちが不条理に亡くなっていることへの「怒り」を感じたんです。社会に対して何かできないかと思い、インターンをしたり、海外に行ったり、国会議員に意見書を提出したりなどの活動を始めました。

そして、2004年。イラクの子どもたちの医療支援のため、当時紛争地域だったイラクへ渡航。そこで現地の武装勢力に人質として拘束されました。

── 問題意識を持ったとしても行動に移せない人もいると思います。今井さんが社会問題を自分ごと化し、行動できたのはなぜでしょうか。

誰もが自分の意見や考えは持っていて、社会的に行使する術を習っていないだけなのだと思っています。僕の場合は、自分の「内的な課題意識」を社会的に行使する術を学べる環境にいた。

高校時代の担任の先生が、海外の大学で平和学を学んだ方で、社会問題に対して一人の市民である僕たちがどう行動するべきか、自分の意見をどう社会に発信していくかといった話をよくしてくれていたんです。

また、学校だけだとつまらなかったので、学校の外に自分の世界を広げてたくさんの人に会い、自分の意見を言える場所に身を置いていました。

そうした環境があったことと、戦争が終わった当時のイラクは少しずつ安定していると言われていたこともあって、イラクへの渡航を決意。しかし、結果的に僕は拘束された。その事件を皮切りに同じような事件が、イラクで次々と起きました。

改めて、ご迷惑をおかけした方々には申し訳なく思っています。ただ、テレビの報道は誤報も多かった。自己責任論や自作自演説が広まり、帰国してからも多くのバッシングを受けました。脅迫めいた手紙が送られてきたり、街で突然知らない人に殴られたり、「人質だ」と顔を指されたりして、僕は対人恐怖症を発症し、2年間は家から一歩も出れないほど追い詰められていました。

誹謗中傷の手紙と向き合うことが立ち直るきっかけに

── 想像を絶する辛い体験だったと思います。それでも、現在はNPOの経営者として活躍されている今井さん。立ち直れたきっかけはなんだったのでしょうか。

家に寄せられた誹謗中傷の手紙と向き合ったことです。偶然、家の押し入れに親が保管してくれていた手紙を見つけた僕は、なにを思ったか1通1通の手紙に目を通し、タイピングで文字起こしをすることにしました。

自分が前に進むためには、誹謗中傷している相手がなぜ批判しているのかを理解するしかないと感じていたのかもしれません。「天誅」などの恐ろしい言葉が並べられた手紙は5万字にもなりました。それから、連絡先が書いてある人には返信をしたり、電話をしたり、直接会って話したりもするようになったんです。

── 前に進むために必要なことだったのですね。

今思い返してみれば、あくまで僕にとってのですが、トラウマを乗り越えるために必要なプロセスだったのかもしれません。

PTG(Post Traumatic Growth:心的外傷後成長)という概念があります(*1)。心的外傷や大きなストレスを受けた人が、それを乗り越えることで成長する現象のことです。トラウマを乗り越えるためには、なぜそれが起きたのかを理解し、自分の気持ちを内省し、体験談を話しながら出来事に対する意味づけをしていくことが有効と言われています。

手紙をタイピングし、批判してきた相手と対話することは、まさにPTGに向かう一歩目だったのかもしれません。その行動を通じて、過去の苦痛な体験を自分の身体の一部にし、怒りや恨みの矛先を社会に向けることなく、前に進む力へと変えることができました。

── 手紙との向き合いや批判をしていた人たちとの対話を通じて、気づいたことはありますか。

もっとも大きな気づきは、「対話をすればちゃんと分かり合える」ということ。最初は批判的な態度だった人たちも、話をしていくうちに徐々に変わっていきました。大半の人が、当時の僕の状況を理解してくれて、最後にはこれからのことを応援してくれたんです。

同時に、批判する人にもその人なりの背景があることを知りました。一人暮らしで孤独を感じていたり、お子さんとの関係がうまくいっていなかったり、生活が厳しい方も多かった。対話を通じて、お互いなかなか人には話せないことを受け入れてもらう機会になったのだと思います。

── 対話をとおして、理解し、受け入れ合うことで両者の関係性が変わったんですね。

この時の体験は、D×Pの活動にも活きています。NPOの現場では、日々さまざまな悩みや相談が寄せられます。女性の性被害の話や家庭内暴力の話など多種多様なケースがあり、「孤立」とひとくくりに語ることはできません。

たとえば、先日家に訪問した10代の方は、経済的に困窮していてご飯を全然食べられていない子でした。身体を動かすことができなくて、1日のほとんどを天井を見つめながら過ごしているそうです。そんな状況を想像したことありますか。

そうした方々が、最低限文化的な生活をしていくために必要な支援の答えは、想像の中ではなく「現場」にあります

自分自身もステレオタイプで見られたり、自作自演だと決めつけられたりして、苦しい思いをしました。だからこそ、表面的な情報だけで決めつけるのではなく、対話を通じて深く理解することの重要性を強く感じているんです。

(*1)傷つきから人は成長することができる;PTG(心的外傷後成長)➀|日本女子大学心理学科

政府がつくれない「子どもたちのセーフティーネット」を作る

── そうした思いが今の活動に繋がっている。

僕が苦しみを自分の身体の一部にできたのは周りに支えてくれる人がいたからです。そうした環境を「運がよかった」で終わらせたくないんです。

日本には「孤立」した若年層が多くいます。そして、親に頼ることができずに困窮している状態の若年層が多数存在しています。ひとり暮らしで親に頼れない人、同居しているけれど親が原因で苦しい思いをしている人もいます。

その正確な数を計算するのは難しいのですが、15〜24歳で一人暮らしの子が197万世帯。そのうち年収200万円未満は3割、約60万世帯あることがわかっています(*2)。これに、同居していても親に頼れない人も合わせると、相当数が孤立している可能性がある。

その子たちの支えになる仕組みとして、D×Pを設立しました。

── 海外で活動する選択肢もあったのではないでしょうか。日本を選んだ理由はありますか?

大学卒業間際にJOCV(青年海外協力隊)と一緒に、アフリカのザンビアで学校建築の仕事をしていました。当時のザンビアは平均寿命が40歳くらいの発展途上国でしたが、経済成長がすごくて、貧困地域の子どもたちは、自分の夢やこれからの社会の展望を生き生きと語っていました。

日本のほうが豊かなはずなのに、日本の子どもたちが孤立し、未来に希望を持てていない。その現状に危機感を感じたんです。

いま、10年前の直感は正しかったと思っています。3年前、約15年ぶりにイラクの難民キャンプに行った際にも、同じことを感じました。難民キャンプの暮らしは酷く、クーラーもないテントに暮らしている人が多いのですが、それでも食料はあって家族の繋がりもある。一箇所に集まっているため、支援の手も差し伸べやすい。

一方、日本の孤立世帯は分散して存在しています。家はあるけれど、食べ物を買うお金もなく、ガス、電気、水道も止まっていることもあります。そんな人たちが各地に点在しているんです。僕らが見つけなければ、その状況に気づくことすらできません。

── 政府や自治体の支援は十分ではない、と。

大きな課題は、孤立している若年層が、オンラインで困窮の相談をできる場所がほどんどないことです。そもそも、若年層は政府が提供する電話相談にアクセスしません。「いのちの電話」も、データを見ると、10代、20代の相談者数は全体の5%しかいないんです(*3)。

政府や自治体では作れないセーフティーネットが求められています。そこで、LINEのチャットで気軽に相談ができ、そのまま支援物資や給付金を送付できる「ユキサキチャット」という仕組みを作りました。

現在の登録者数は1万人弱。オンライン給付支援は誰もやってこなかったことなので、リスクはありました。でも、誰もやっていないなら自分がやろうという気持ちがありますし、バッシングや引きこもりといった過去の経験がある自分だからこそ伝えられるものがあると思い、行動することにしたんです。

(*2)令和2年国勢調査 人口等基本集計結果
(*3)いのちの電話 2020年度 事業報告

「内在的な課題意識」を表現する人を増やしたい

── 若年層の孤立化がここまで深刻な状況とは知りませんでした。今後のD×Pの展望はどう考えていますか。

さらに活動を広げて、多くの子どもたちを支援できるようにしたいと思っています。コロナ禍において僕らは、8万5千食分の食糧支援と900人への現金給付を行いました。でも、孤立世帯全体の1%にも及びません。すごく厳しい状況です。

政治家に対して支援の強化を要請をしているけれど、なかなか動きがない。民間からやっていかなければいけないんです。

── そうした支援の団体は増えているんでしょうか?

残念なことに、NPOの新設数は減っています(*4)。事業を継続的に行う難しさもありますし、うちのように寄付型で事業を成り立たせられるところは、全NPO法人5万社のうち100社くらいしかありません。

社会問題が深刻化する一方、解決しようと動く人が減っている現状にとても危機感を覚えています。社会問題に挑戦する人、内在的な課題意識をなんらかの形で表現しようとする人が増えなければ、世の中が改善していくことはないでしょう。

── 今井さんのように行動したいと願う人ができることはありますか?

まずは原点を作ることだと思います。原点、という重い言葉よりはきっかけでしょうか。

そのためには、興味がある人の話を傾聴したりインタビューをしたり、フィールドワークでリアルな場にいくなどして、体験することや人と話をすることから始めてみるといいと思います。NPOの現場に行ってみてインターンやボランティアをしてみることからスタートしてもいいかもしません。あるいは、寄付でもいいです。寄付も、自分の内面にある課題感や感じている社会課題、自分の過去の体験などに向き合うものなので。

次の段階として自らアクションをとってみたい方にとっては、いろんな方法があると思っています。

高校生には、自分で人の話を聞くイベントを企画してみたり、学校のルールを変えるための取り組みをしてみたり、変えるための取り組みとして署名活動や先生と対話・議論をしてみるのがいいと話しています。

そういった活動の中で重要なのは、一人でせずに、仲間を集めながら実施することです。話すことで共感してくれる仲間を集め、活動を大きくしていくのは、高校生でなくとも、何か行動を起こしたい人にはぜひしてほしいと思います。

単純な話のように聞こえるかもしれませんが、意外に、大人でもできていないことです。自分が思っていることをSNSでつぶやくだけではなく、別の方法をとってみることから輪が広がります。そこからアクションが波及するのです。

僕のようにNPOを設立することや企業をすることだけが、行動の選択肢だとは思いません。誰にでもできることがあるはずです。子どもたちが希望を感じられる国にするためには、僕たち大人が挑戦する姿を見せる必要があります。

僕自身もさらなる挑戦を続けていきます。いま日本で起きている若年層の孤立化の問題は、今後、アジア各国でも起きるはず。日本での活動を起点にしながら、将来的には海外の支援などもやりたいと思っています。

この記事を読んでひとりでも多くの人が挑戦を始めてくれたらと願っています。また、D×Pの活動に共感していただいた方は、無理のない範囲で力をお貸しいただけたら幸いです。

(*4)令和2年度 特定非営利活動法人に関する実態調査 報告書|内閣府

※ D×Pへのボランティアの応募や寄付はこちらから

[インタビュー・文] 佐藤史紹 
[写真]小池大介
[企画・編集] 川畑夕子(XICA)

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