MMM(マーケティング・ミックス・モデリング)の最新トレンドと将来の展望(2024年版)
サイカは、10年以上にわたりデータサイエンスと向き合いながら、これまでに250社以上のクライアントと協力してMMMプロジェクトを推進してきました。当社は「MAGELLAN(マゼラン)」という独自の機能や分析手法を採用したMMMソリューションを開発するなど、常にMMM分野の最前線に立ち続けてました。その当社の予測では、技術の進歩やデータ活用性の向上などにより、MMMは今後さらなる変革を迎えると見込んでいます。
そこで本記事では、MMMに関する最新の主要トレンドと将来の展望について、新技術やイノベーションがどのようにMMMを進化させているのかなどを詳しく解説していきます。
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目次
1. データと技術の進化
MMMの未来は、多様なデータソースと人工知能・機械学習(AI・ML)の進化により、予測精度と実用性が飛躍的に向上することが期待されます。これにより、企業はより的確なマーケティング戦略を構築し、消費者行動の変化に迅速に対応できるようになります。
データソースの多様化と拡充
より多様で精緻なデータソースの活用が進むことで、MMMの活用がさらに発展すると考えられます。たとえば、位置情報データの統合により、消費者の行動や嗜好に関するより深い洞察が得られるようになります。また、IoT(モノのインターネット)による接続デバイスからのデータの活用により、新たな視点で消費者の行動や嗜好を理解することができるようになります。他にも、経済指標や天候、競合の動向などに関するデータの統合が進むことで、モデルの精度が一層向上し、より信頼性の高い予測が可能となります。
人工知能と機械学習の統合
人工知能(AI)と機械学習(ML)は、MMMの革新を促進しています。これらを有効に活用することで、データの整理・準備やクレンジングなど、従来は手作業で行われていた複雑で時間のかかるプロセスを自動化することができ、データ処理を大幅に効率化させることができます。また、AIとMLを駆使すれば、複雑な市場の変化や消費者行動の微妙な動きを捉える高度な予測モデルを構築することが可能です。複雑な統計モデルに対する最適なアルゴリズムの選定と調整も可能となります。
応用のポイント:
これらの技術革新は、MMMの発展として期待されています。現在、一部の先進企業がこれらの技術を導入し始めていますが、まだすべての企業が標準的に活用できる状態ではありません。このような技術進化を見据えながら、現在のMMMツールやデータソースを活用し、段階的に新技術の導入を検討することが重要です。
2. リアルタイム対応と意思決定のアジリティ
これまで、MMMはリアルタイムでの意思決定や柔軟な戦略調整には不向きとされてきましたが、これを可能とする適応型モデルとアジャイルな分析手法へと進化してきています。これにより、市場の変化に迅速に対応し、効果的なマーケティング施策を展開することが可能になります。
頻度とアジャイル性の向上
MMMの予測能力は、より適応型かつ自己学習型に進化しています。AIベースのモデルは、新しいデータを取り入れるたびに学習を続け、その精度を向上させます。また、市場の変化に応じてモデルが自動的に調整されることで、常に最新の状況に基づいた予測を提供します。これにより、月次や週次、日次、さらにはリアルタイムでマーケティング施策を調整することが可能になりつつあります。また、継続的なデータストリームと自動化された処理によって、モデルの更新頻度が高まり、最新のインサイトがより迅速に得られるようになっています。
シナリオプランニングとシミュレーションの強化
MMMは、シナリオプランニングツールとしても進化しています。シミュレーションを通じて、マーケターはさまざまなマーケティングシナリオを試し、その結果を予測することが可能です。また、What-If分析により、異なる予算配分やマーケティングミックス戦略の有効性を事前にテストすることができ、より戦略的な意思決定が可能になります。
応用のポイント :
リアルタイム対応は、MMMの未来の姿として注目されていますが、現在すべての企業がこれらを実現できるわけではありません。限定的(デジタルマーケティングなど、限られたチャネルのみが対象)に取り入れているサービスも見受けられますが、多くの企業にとっては、まずは基本的なMMMの実装と運用から始め、次第にリアルタイム対応への移行を目指すことが現実的です。また、予算策定やメディアプランニングのサイクルに対応するためには、四半期や月次での更新が実用的な場合も多く、目的に合わせた活用が重要です。
3. MMMの利便性とアクセシビリティの向上
MMMは、より多くの企業がアクセスしやすく、運用しやすい形へと進化しています。これにより、中小企業や専門技術や知識を持たない企業においても、MMMを効果的に活用することが可能になります。
複雑さの軽減
MMMの導入と運用における複雑さを軽減する取り組みが進んでいます。たとえば、データ管理に関するプラットフォームやツールが、MMMに必要なデータ収集プロセスを自動化するような動きがみられています。さらに、一部のプラットフォームでは、事前にテンプレートを提供し、モデル開発に伴う負担を軽減しています。加えて、ドキュメントやチュートリアル、ケーススタディの充実により、学習コストが大幅に削減され、MMMの導入が一層容易になっています。
アクセシビリティの向上
MMMは、企業規模や技術レベルを問わず、さまざまな企業にとってよりアクセスしやすいものになりつつあります。たとえば、GoogleのMeridianやMetaのRobynといったオープンソースのMMMツールの普及により、高度なモデリング技術へのアクセスが可能となっています。さらに、業界特化型モデルの提供が進み、さまざまな業種の企業が自社のニーズに合ったMMMソリューションを利用できるようになっています。他にも、MMMに特化したコンサルティングサービスの成長により、内部リソースが不足している企業でも、MMMの導入と運用をスムーズに行えるようになりつつあります。クラウドベースのMMMソリューションの登場によって、企業は大規模な社内インフラや高度な技術・専門知識を必要とせずに利用できるようになりました。また、多くのMMMツールが直感的なユーザーインターフェース(UI)を提供しており、技術や専門知識を持たないユーザーでも使いやすくなっています。
応用のポイント :
MMMの利便性やアクセシビリティ向上は将来的に期待されるトレンドですが、現在すべての企業が恩恵を受けられているわけではありません。まずは、自社の規模や業種に適したツールやサービスを選択し、MMMを導入することが第一歩です。時間をかけてMMMの利便性を高める取り組みを行いましょう。
さらに、優れたツールへのアクセスが可能になったとしても、それをさらに効果的に使いこなすためには一定の知識が不可欠です。サイカは、長年にわたる豊富な経験と数百件に及ぶMMMプロジェクトで培ったノウハウを活かし、マーケターがMMMを効果的に活用するためのガイドを公開しています。ぜひご覧いただき、お役立ていただけますと幸いです。
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4. クロスチャネル分析と相互運用性の進化
MMMは、オンラインとオフラインの各種マーケティング施策を統合し、カスタマージャーニー全体の効果を測定する方向へ進化しています。また、他の分析ツールとの統合により、より包括的なマーケティング分析が可能になります。
オムニチャネルマーケティングの統合
従来、オンライン・オフラインそれぞれ個別の施策ごとの効果測定が主流でしたが、最新のMMMはこれらを統合し、カスタマージャーニー全体を通じたマーケティング施策の影響を評価します。これにより、各施策の役割とチャネル間のシナジー効果をより深く理解し、消費者の複雑な購入経路を詳細に解析できるようになるなど、各施策の実際の影響を明確にすることができます。
他の分析ツールや手法との統合
MMMは、他のマーケティング分析ツールや手法との統合を進めることで、より包括的な視点を提供します。たとえば、MTA(マルチ・タッチ・アトリビューション)や、CMM(コンシューマー・ミックス・モデリング)などの他の分析手法との組み合わせにより、マーケティング効果をより深く理解できるようになります。また、MMMのインサイトを統合したダッシュボードの開発が進み、複数のデータソースや分析結果を一元的に管理できるようになります。
応用のポイント :
この領域は、サイカが最も研究を進め、業界をリードしている分野の一つです。まだ多くの企業にとってはチャレンジングな領域と捉えられていますが、MMMソリューション「MAGELLAN(マゼラン)」は、カスタマージャーニーにおけるマーケターの仮説をモデルに反映できるパス解析といった手法を採用しており、カスタマージャーニー全体を通じたマーケティング施策の評価を可能にします(「どこで・どれくらい」を解明)。また、CMMソリューション「COMPASS(コンパス)」とのシナジーにより、消費者のブランド選択メカニズムを解明し、「誰に・どのような」アプローチをすればよいか、成長機会を特定することも可能です。
5. 持続可能性と社会的責任に関する指標の統合
MMMは、環境への影響度の測定や社会的責任の評価を含む新しい指標の統合により、企業の持続可能な成長を支援するツールとして進化しています。これにより、経済的な成功と社会的価値の創造を両立させることが可能になります。
環境への影響度の測定
近年、環境意識の高まりとともに、企業のマーケティング活動においても持続可能性が重視されるようになっています。MMMは、これまでの売上やROIの評価に加えて、マーケティング施策が環境に与える影響を定量的に測定する手段としても進化しています。たとえば、オフライン広告キャンペーンや販促施策がどの程度のCO2を排出しているかを分析し、そのデータをもとにより環境負荷の少ない施策へのシフトを提案することが可能になります。これにより、企業は消費者の環境意識に応えるとともに、ブランド価値を高めることができるようになります。
社会的影響の評価
企業の社会的責任(CSR)や環境・社会・ガバナンスを考慮した活動(ESG)への取り組みが強化される中で、MMMはその評価手段としても重要な役割を果たしていけるでしょう。マーケティング施策が地域や社会にどのような影響を及ぼしているかを測定することで、ブランドの社会的貢献度を明確に示すことができます。たとえば、多様性や包括性をテーマにした広告キャンペーンが実際にどのような社会的インパクトをもたらしているか、消費者の認識にどのように寄与しているかを定量化することが可能です。また、地域コミュニティへの貢献や、エシカルマーケティングの効果を評価することで、企業のCSRやESGを強化し、ブランドの信頼性向上に貢献します。これにより、マーケティング施策が経済的な成功だけでなく、社会的価値の創造にも寄与することを示し、企業の持続可能な成長をサポートします。
応用のポイント :
社会的責任と持続可能性に関する指標の統合は、MMMの発展に向けた重要な要素ですが、現時点ですべての企業がこれらを実施しているわけではありません。現在、いくつかの先進的な企業がこれらを取り入れていますが、多くの企業はまだこの分野での取り組みを始めたばかりです。段階的に新指標を取り入れることで、MMMの未来に備えることが重要です。
6. グローバル市場への適応
グローバル展開を進める企業にとって、地域特性や為替リスクを考慮したアプローチは不可欠な要素です。MMMでは、地域ごとの市場特性や経済環境を反映したモデルを構築することで、各市場における最適な戦略立案の支援が可能となります。
地域特性の考慮
グローバル市場へ進出する中で、各地域の特性や文化的差異を考慮したマーケティングがますます重要になっています。MMMは、各国の経済指標や地域ごとの消費者行動データをモデルに組み込むことで、各地域に適した戦略の策定を支援します。たとえば、アジア市場におけるモバイルの普及率や、欧米市場におけるオンライン購買の傾向など、地域特有のデータを反映することで、より的確な市場アプローチが可能になります。また、地域ごとの広告効果の違いや文化的背景を考慮したクリエイティブ戦略の最適化が進むことで、企業は各市場でのパフォーマンスを最大化することができます。このような地域特性を踏まえたモデリングは、グローバルな視点での戦略立案において重要な要素となります。
多通貨対応
グローバル企業にとって、多通貨での対応はマーケティングの重要な課題です。MMMは、異なる通貨を考慮したモデル構築を可能にし、グローバルなキャンペーンの効果測定をより精緻に行います。たとえば、為替変動が広告効果に与える影響を分析することで、異なる市場間での比較を正確に行うことができます。このような多通貨対応の強化は、グローバル展開を目指す企業にとって競争優位性を高めるための重要な要素となっています。
応用のポイント :
グローバル市場への適応は、MMMの発展に向けた重要な課題ですが、すべての企業が即座に対応できるわけではありません。多くの企業は、まず国内でのMMMの活用から始め、次第にグローバル市場への対応を進めることが現実的です。地域特性や多通貨対応のニーズを段階的に取り入れることで、将来のグローバル展開に備えましょう。
まとめ
MMMの未来には、マーケティング最適化のアプローチを大きく変える可能性が秘められています。人工知能や機械学習の進展により、MMMはリアルタイムでインサイトを提供できるようになるなど、さらに効率的かつ正確な予測が可能になりつつあります。加えて、データ管理の改善やユーザーフレンドリーなMMMプラットフォームの普及により、中小企業を含む多くの企業がMMMを導入しやすくなるでしょう。これらの技術革新を活用することで、マーケターはMMMを最大限に活かし、より効果的で影響力のあるマーケティング戦略を実現できます。
MMMの今後の発展には多様な可能性があり、唯一の「最適解」が存在するわけではありません。データの増加やそれを処理する技術の進歩、さらには市場の変化や消費者の行動に合わせたマーケティング手法の進化が期待されますが、業界や企業ごとに求められるMMMの機能やアプローチは異なります。つまり、これからのMMMには、多様なニーズに柔軟に対応できる適応力が必要とされるのです。
サイカは、データサイエンスを日々研究し、より効率的で効果的なMMMソリューションを提供しています。さらに、データドリブン・マーケティングにおける専門的なコンサルティングサービスや、MMMを補完する分析ソリューション「CMM(コンシューマー・ミックス・モデリング)」の開発においても、サイカは業界のリーダーとして未来のマーケティングをリードしています。
これからのデータドリブン・マーケティングに向けて、MMMに関する詳細や、どのようにマーケティング活動に適用できるかについてご興味をお持ちでしたら、ぜひお気軽にお問い合わせフォームにてご連絡ください。
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