CMM(コンシューマー・ミックス・モデリング)とは?消費者行動を解明する科学的アプローチの特徴や実施プロセス、活用事例を解説
競争がますます激化し、消費者の選択肢が多様化する現代において、企業が持続的な成長を遂げるためには、消費者行動を理解した戦略立案が必要不可欠です。
そこで重要となるのが、消費者の意識や行動データを基にした精緻な分析です。この記事では、その中でもサイカが開発する「CMM(コンシューマー・ミックス・モデリング)」についてその概要や活用メリット、実践方法について詳しく解説します。マーケティング戦略の最適化を目指す企業やマーケターにとって有益な情報をお届けします。
目次
CMM(コンシューマー・ミックス・モデリング)とは?
CMMの定義と特徴
CMMは、Consumer Mix Modeling(コンシューマー・ミックス・モデリング)の略称で、消費者の意識データ(アンケート調査)を基に、消費者のブランド選択のメカニズムを統計的に分析する、サイカ発の分析手法です。この手法の最大の特徴は、競合他社との比較を通じて、自社ブランドの強みと弱みを明確化することで、自社ブランドが選ばれる確率を最大化できることです。
具体的には、マーケティングの4PやCX、ブランド資産などのブランド選択に影響を及ぼす要素がそれぞれどのように選択行動にインパクトを与えているかを統計的に明らかにします。これにより、各競合相手から自社へスイッチさせるために有効な「投資すべきレバー」を明らかにすることができます。
CMMの主な特徴
- 消費者の意識データを活用
- 競合他社との比較分析
- 統計的手法によるブランド選択メカニズムの解明
- 自社ブランド選択確率の最大化
MMMとの違い
CMMは、よく知られているMMM(マーケティング・ミックス・モデリング)と名称が似ていますが、それぞれ異なるアプローチと目的を持っています。以下に、CMMとMMMの主な違いを解説します。
CMMとMMMの主な違い
項目 | CMM(コンシューマー・ミックス・モデリング) | MMM(マーケティング・ミックス・モデリング) |
必要な データ | アンケート調査などで得られる消費者意識データ | 売上や広告投資などの過去の実績データ |
分析の 目的 | 消費者行動の理解と、ブランド選択を促進する戦略の策定・最適化 | マーケティング施策の効果可視化と、投資の最適化 |
予測の対象 | 消費者意識データから「将来の消費者行動」を予測 | 過去の実績データから「将来の事業成果(売上など)」を予測 |
CMMとMMMは、それぞれ異なる視点とデータを用いて分析を行うため、企業はこれらの手法を適切に組み合わせることで、より精度高くマーケティングを行うことが可能となります。
CMM(コンシューマー・ミックス・モデリング)の基本的な実施プロセス
CMMを効果的に実践するには、以下の3つの基本ステップを押さえる必要があります。
STEP1:戦略整理
まず、ターゲットとするセグメントやスイッチさせたい競合などを整理します。このステップでは、自社ブランドの強みや競合の弱点について仮説を立て、分析の方向性を固めます。
STEP2:分析設計とデータ取得
次に、分析とアンケート調査の設計を行い、対象セグメントの意識データを取得します。このデータは、消費者がどのような要素でブランドを選択しているかを明らかにするための基盤となります。
STEP3:モデル構築とシミュレーション
最後に、消費者行動モデルを構築し、スイッチングのシミュレーションを行います。このシミュレーションを通じて、各要素が消費者のブランド選択にどの程度影響を与えるかや、各要素のスコアを+1ptした場合のスイッチ確率を算出し、示唆を導きます。
CMM(コンシューマー・ミックス・モデリング)の利点
CMMを活用することで、以下のようなメリットを得ることができます。
従来のアンケート調査における課題の克服
クロス集計などの一般的なアンケート調査を行う場合、どの要素がブランド選択に対して有効なレバーか分からないという課題が見受けられます。この場合、「評点が平均より/競合より高ければ良い」という評価になりがちですが、すなわちブランド選択確立が上がるというわけではありません。一方で、CMMならどの要素がブランド選択にどのくらいインパクトを与えるかを統計的に明らかにできるため、有効性や再現性を担保した戦略策定が可能となります。
データドリブンな意思決定
CMMを活用することで、企業は感覚や経験だけでなく、統計的な裏付けのある戦略立案が可能となります。これにより、企業はデータに基づいた意思決定を行うことができ、リスクを最小限に抑えつつ、効果的な戦略を実行できます。
競合他社との明確な差別化
消費者の意識データを解析することで、自社の強みと弱みを競合と比較して把握し、効果的な差別化戦略を立案することができます。例えば、自社ブランドのどの要素が競合に対してどれくらい優位性があるかを明確にすることで、その要素を強調したコミュニケーションを展開することができます。さらに、競合他社のマーケティング活動やブランドイメージを定期的にモニタリングすることで、競合が採る戦略への迅速な対応が可能となります。
市場変化への迅速な対応
消費者の意識は市場の変化に大きく影響を受けます。CMMを活用することで、企業は消費者意識の変化を定期的に捉え、市場の変化に対応した適切な戦略調整が可能です。迅速な対応力は、特に激しい競争が繰り広げられる現代において、企業の成功を左右する重要な要素です。
ブランド価値の向上
消費者の意識データを基に、自社の強みや競合の弱点を把握し、ブランド価値を向上させるための戦略を策定することができます。ブランドの競争力を高め、市場におけるシェアの拡大に貢献します。
CMM(コンシューマー・ミックス・モデリング)の活用事例
消費財メーカー
ある消費財メーカーでは、競合Aおよび競合Bから自社へブランドスイッチさせるための戦略策定に向け、CMMを活用しました。
分析の結果、競合AとBからのスイッチングレバーは共通して「機能性」であり、自社ブランドの機能性のスコアが1pt上昇した場合の各競合からのスイッチ率は17%と18%であることが判明しました。またその他の要素としては、競合Aからのスイッチには「デザイン性(スイッチ率16%)」「ブランド魅力度(スイッチ率14%)」が重要であることが分かりました。一方で、競合Bからのスイッチには「価格(スイッチ率14%)」と「利便性(スイッチ率13%)」が重要であることが判明しました。さらに、「ブランド魅力度」を上げるために重要な要素を分析したところ「体験と表現」のイメージを訴求することが重要だということがわかりました。
この分析結果を基に、消費財メーカーはまずは「機能性の良さ」を訴求することが重要であると判断しました。さらに、特にシェアの大きい競合Aからのスイッチを促すべく、コミュニケーションメッセージでは機能の良さに加え「デザインの良さ」にもフォーカスすること、また、ブランディングを強化することを決定しました。ブランディングにおいては「魅力度」を押し上げるために、「自己表現ができる」という観点を訴求することを方針としました。
このようにCMMを活用することで、競合からのブランドスイッチにより、市場でのポジションを強化するための今後の戦略や有効な施策が明確となりました。
CMM(コンシューマー・ミックス・モデリング)の課題
十分な量かつ高品質なデータ収集が困難
CMMを効果的に活用するためには、十分な量の高品質なデータが必要です。しかし、現実にはこういったデータを収集することは困難な場合が多くあります。特に、消費者の意識や行動に関するデータを得るには、必要なデータを網羅的に収集するための調査設計が重要です。さらに、調査回答者の数が不十分であったり、回答の質が低かったりすると、データの信頼性が低下し、分析結果に影響を及ぼします。
サンプルバイアスによる分析結果の歪み
アンケート調査を通じたデータ収集には、サンプルバイアスが生じるリスクも存在します。サンプルバイアスとは、特定のグループや属性のサンプルが多くまたは少なく収集されてしまう不適切な標本抽出のことです。例えば、特定の年齢層や地域の消費者データが多く集まりすぎると、分析結果はそのグループに偏ったものとなり、全体の消費者意識・行動を正確に反映できなくなる可能性があります。このようなバイアスが存在すると、CMMの分析結果が歪み、誤った戦略を立案してしまうリスクが高まります。
高度な統計知識が必要
CMMは高度な統計解析手法を用いるため、その実行には専門的な知識が必要です。例えば、ベイズ統計や回帰分析などといった高度な手法を理解する必要があり、統計学やデータサイエンスへの深い知識が求められます。
結果の解釈が難しい
CMMの分析結果を正確に解釈することも課題の一つです。分析結果をビジネスの現場で理解し、意思決定に活用するためには、統計解析の専門知識だけでなく、実際のビジネス環境やマーケティング戦略に対する深い理解が必要です。結果を誤って解釈すると、誤った戦略を立ててしまうリスクがあり、ビジネスに悪影響を与える可能性が高まります。したがって、分析結果を正しく解釈し、それを具体的なアクションに落とし込むためのスキルが求められます。
まとめ
CMMは、現代のビジネス環境において企業が競争力を強化し、持続的な成長を遂げるための重要な手段です。本記事では、CMMの定義と特徴、メリット、実践方法、そして実際の活用事例について詳しく解説しました。特に、消費財メーカーにおける具体的な成功事例は、CMMがどのようにビジネスに貢献するかを具体的に示しています。
しかしながら、CMMの活用にはいくつかの課題も存在します。データの質と量の担保やサンプルバイアスのリスク、また高度な統計知識が必要とされること、結果の解釈が難しいことなどが挙げられます。これらの課題を克服するためには、適切なデータ収集方法の確立や専門的な知識とスキルを持った人材の育成などが不可欠です。
総じて、CMMは企業がマーケティング戦略を最適化し、競争力を高めるための強力な手段です。今後もさらなる活用と発展が期待される中で、CMMを効果的に取り入れ、データドリブンな意思決定を推進したいとお考えの方は、サイカをはじめとする専門家にぜひご相談ください。
サイカは、マーケティングにおけるデータサイエンス領域で10年以上サービスを提供しており、国内エンタープライズ企業を中心に250社以上の支援実績があります。多岐にわたる業界の豊富で深い専門知識を持つアナリストとコンサルタントが、データサイエンスを用いて、クライアント様がより良い意思決定を行えるよう支援いたします。
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