MMM(マーケティング・ミックス・モデリング)とは?特徴、手順や事例などを解説

コラム
MMM

マーケティング・ミックス・モデリング(Marketing Mix Modeling、以下「MMM」)とは、マーケティング施策が成果に与える影響を定量化する統計学的な分析を意味します。

MMMは、マーケティング先進国のアメリカではプロモーション予算の大きな企業を中心に取り入れられていますが、日本における浸透度は高くありませんでした。ただし、日本においてもここ4~6年で注目度、採用率が急上昇しています。

その理由は一般的な「消費者調査(定量・定性)」、Cookieによる「トラッキング」や「ログ分析」では不可能な分析、消費者のプライバシーを考慮しながら、デジタル施策に限らず、テレビCM、OOHなどオフラインマーケティング施策も統合的に網羅できるというMMMの特徴が評価されているからです。

MMMとは?知っておくべきポイント

MMMの目的

MMMの主な目的は、様々なマーケティング施策が事業成果をどのように牽引しているかを理解することです。

MMMの仕組み

MMMでは、事業成果に関する様々な要素を分解し、広告施策や販売促進活動による貢献(増分効果)とその他の(ベース要素)を区別します

MMMのメリット

MMMがもたらす主な利点は、マーケティング予算の効率的な配分と企画されたマーケティング活動を基に成果を予測します(あるいはシミュレーションしたい別の支出シナリオ)。

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全マーケターが知るべき「MMM」とは?
~3社の事例に見る活用効果~

グローバルにおけるMMMの実態:広告業界団体による外部調査

「マーケティング先進国のアメリカではプロモーション予算の大きな企業を中心に取り入れられています」に関連して深掘りすると、2019年で116社へのIAB(非営利団体である”Interactive Advertising Bureau”)の調査により、MMMのグローバルにおける実態、活用度合いについて分かります。

グローバルにおいてのMMMの活用状況

マーケティング効果測定に関する調査により、66%以上の企業がMMMを活用していることが分かります。さらに、マーケターの方においては8割近くがMMMを活用しています。MMMは、グローバルにおいて大半の企業に活用されているということです。

また、活用されている企業のうち63%以上が5年以上前からMMMを導入して、マーケティング効果の分析手法として継続的に活用されていることが分かります。

※出典:The Interactive Advertising Bureau (IAB), ”The essential guide to MMM and MTA”, n=116, 2019年

MMMを活用する方の役職と平均的なROI改善

MMMを活用する役職でみると部長以上、経営幹部と執行役員クラスの方々が8割を占めています。これはマーケティング効果の全体像をデータに基づいて理解してROI最適化をするための意思決定の役割と責任があればあるほど、MMMが欠かせなくなる傾向があることが分かります。

また、取り組みの成果のベンチマーク的な意味合いで、特に継続的な活用の場合は予算配分の最適化によるROIの改善が平均で3-4%程度だというのは現実的であります。

MMMを活用する方の役職と平均的なROI改善

※出典:The Interactive Advertising Bureau (IAB), ”The essential guide to MMM and MTA”, n=116, 2019年

MMMの特徴

MMMの特徴のひとつは、あるマーケティング施策を実施することによる「他のマーケティング施策への影響(以下、間接効果)」や「成果への影響(以下、直接効果)」を数値化できることにあります。

メディアやチャネルが増加し続けている現代において、マーケターは①複数のメディア・チャネルを通じ、②複数のマーケティング施策を同時に実施すること、を求められます。この環境下で成果を最大化させるためには、各マーケティング施策の最適化をすすめるだけでなく、各マーケティング施策の相乗効果を最大化させる必要があります。相乗効果を間接効果として数値化できるのがMMMですから、その注目度や採用率が急上昇するのも当然のことです。

また、MMMの別の特徴として、自社でコントロールできない外部要因も分析対象に含められるということがあります。

自社で実施するマーケティング施策が完璧だったとしても、競合他社が大幅な値下げを実施すれば販売数は減少するでしょうし、台風が来れば来客数は減少してしまいます。逆に、自社のマーケティング施策が失敗していても、何らかの要因により成果が向上するということもありえます。MMMであれば、そういった外部要因も分析対象に含めることができ、外部要因を除いた、マーケティング施策のピュアな効果を数値化することが可能です。

関連サービス:MMM(マーケティング・ミックス・モデリング)分析サービス

MMMの手順と手法

マーケティング・ミックス・モデリングの手順と手法

MMMの手順は

  1. 分析ロジックを決める
  2. 過去に実施したマーケティング施策(=内部要因)と成果に影響を与える外部要因を洗い出す
  3. 消費者の購買行動の各段階に洗い出した施策を振り分ける
  4. データを収集する
  5. 分析をする
  6. 分析精度を向上させる

というものになります。

1. 分析ロジックを決める

まず、分析ロジックを決める(選ぶ)必要があります。

MMMにおける具体的な分析ロジックはひとつではありません。そして、どのロジックを採用するかによって後の手順は変化します。本記事では、MAGELLAN (以下、マゼラン)で採用しているパス解析という分析ロジックを前提に後の手順を示します。

パス解析は、変数間の影響を線形関係だと定義し、目的に至るまでのステップ(変数間の因果関係)を事前に想定する分析ロジックです。

2. 過去に実施したマーケティング施策(=内部要因)と成果に影響を与える外部要因を洗い出す

過去に実施したマーケティング施策をもれなく洗い出します。ここで特に重要なのは、分析の目的に沿った粒度で洗い出すことです。例えば、複数の訴求軸のクリエイティブをテレビCMで展開している場合に、その訴求軸毎の効果を可視化したいという目的があるのであれば、「テレビCM」という粒度でなく「A訴求軸のテレビCM」「B訴求軸のテレビCM」という粒度で施策を洗い出す必要があります。

そして、成果に影響を与える外部要因を洗い出します。これは、自社でコントロールできないものの、成果に大きく影響を与える要因を意味しています。例えば、競合のテレビCMが放送されるか否かはコントロールできませんが、分析対象の製品・サービスの成果に影響を与えると考えられるのであれば、「競合テレビCM」を外部要因として洗い出します。

3. 消費者の購買行動の各段階に洗い出した施策を振り分ける

マーケティング施策を洗い出したら、消費者の購買行動を定義します。アウトプットイメージは画像1をご覧ください。

消費者の購買行動の有名なモデルであるAIDMA(アイドマ)を例にすると、消費者は製品・サービスを認知し(Attention)、興味を持ち(Interest)、欲しいと思い(Desire)、製品・サービスについて記憶した上で(Memory)、購買に至ります(Action)。

製品・サービス毎に消費者の購買行動は様々ですので、分析対象の製品・サービスにふさわしいモデルを仮説ベースで結構ですので決定してください。

その後、消費者行動における段階(AIDMAであれば、認知、興味、欲求、記憶)毎に、消費者に最も効果的であると考えられるマーケティング施策を振り分けます。例えば、消費者がテレビCMを見ることで、製品・サービスの指名検索をする(指名検索量が増える)という仮説があるのであれば、テレビCMはリスティング指名検索より前のステップに振り分ける必要があります。

4. データを収集する

次に、「(2)過去に実施したマーケティング施策と成果に影響を与える外部要因を洗い出す」で洗い出した粒度で施策のデータを収集します。

日次や週次の単位で各マーケティング施策のデータ(出稿量と費用)と、成果のデータ(販売数や費用等)を収集します。

5. 分析をする

「(1) 分析ロジックを決める」で決めたロジックに合わせた分析を実施します。
このとき、マーケティング分析に特有の考慮すべき点がありますので、そこには注意が必要です。

6. 分析精度を向上させる

一般的に、初回の分析における精度は低くなるため、分析精度を向上させるために様々な調整が必要になります。例えば、あるマーケティング施策を割り当てるべきステップが、「(3)消費者の購買行動の各段階に洗い出した施策を振り分ける」の段階で想定していたものと異なる場合は、別のステップに割り当てた上で、再度分析を実行し、その精度が上がっているか否かを確認します。

また、想定していなかった外部要因により精度が落ちていることが確認できた場合には、その外部要因を分析対象に含める必要がありますので、その外部要因のデータを収集し、再度分析を実行した上で、その精度が上がっているか否かを確認しなければなりません。

MMMの事例

MMMの事例として公開されているものはそれほど多くありません。というより、ほぼ存在していないといっても過言ではありません。その理由は、MMMが製品・サービスのマーケティングにおいて重要度の高い事実を明らかにするからです。

MMMは各マーケティング施策の最適化でなく、マーケティングの全体最適を目的として実施されます。そのため、MMMにより明らかになる情報は「A施策とB施策を同時に実施することによる相乗効果が非常に大きい」「外部要因Aの影響度が非常に大きく、特にC施策に対して大きなマイナス効果がある」「売上向上のための最重要KPIがD指標である」などの競合に知られたくないものが多くなり、その情報に基づいたアクションの結果も含めて公開するには大きなハードルがあります。

弊社のMMM分析ソリューション「 MAGELLAN(マゼラン)」では、プロモーション予算自体を変えることなく、各マーケティング施策への予算配分を最適化するだけで、成果が数%改善するという結果が平均的に出ています。

一方で、なぜMMMの導入理由については、MAGELLANの導入事例インタビューにて弊社クライアント様に語っていただいていますので、ぜひご覧になってください。

MMM(マーケティング・ミックス・モデリング)ソリューションの導入インタビュー

MMMを活用する時に意識すべきこと

マーケティング・ミックス・モデリングを活用する時に意識すべきこと

MMMを活用するときに意識すべきことは、一般的な「消費者行動調査(定量・定性)」や「ログ分析」との目的の違いです。

代表的例として、消費者調査(定量)とMMMの違いについて説明します。

消費者調査(定量)は、広告等による消費者の購買心理の変化を明らかにできる調査です。例えば、テレビCMの実施前後で消費者調査を実施することで、自社の製品・サービスへの「認知度」「好意度」「第一想起」「購入意向」などの変化を明らかにできます。広告を制作した意図が正確に伝わっているか、そして、意図通りの反応(購買心理や態度変容)を得られたかを確認するのに、消費者調査は適しています。一方で、購買心理の変化がどの程度あったかをしれたからといって、成果である販売数や契約数が本当に増加したのか、どの程度増加したのかには言及できません。

MMMは、購買心理の変化には言及できない一方で、先述の間接効果、直接効果を明らかにできるため、「テレビCMの視聴率が1%上がれば、販売数が10増える」というような言及が可能です。

MMMによって明らかにできること、明らかにできないことをそれぞれ十分に理解し、意識していなければ、自社のマーケティングやプロモーションを改善していくことはできません。マーケティング領域には様々な調査や分析が存在し、いずれも目的が異なるため、予算が許すのであればそれぞれ実施すべきですし、予算に限りがある場合は、現在の自社の課題解決にふさわしい分析を選択する必要があります。

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MMM(マーケティング・ミックス・モデリング)のまとめ

MMMとは、マーケティング施策が成果に与える影響を定量化する統計学的な分析を意味しており、マーケティング先進国であるアメリカでは導入が進んでおり、日本においても注目度/採用率が高まっています。

MMMの特徴は、成果に対する各マーケティング施策による成果への直接効果と他のマーケティング施策への間接効果を明らかにできること、また、外部要因を分析対象に含むことができることにあります。

そのようなMMMの特徴を正確に理解し、他の調査・分析手法との違いを意識することで、マーケティングの改善を促せるようになります。

MMMについてさらに詳しく知りたい方は、マーケティング担当者が理解しておくべきこと、MMMプロジェクトを成功させ、実際のアクションや企業への貢献につながるために注意すべきことを包括的にまとめたMMM実践ガイドをご覧ください。


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