MMM(マーケティング・ミックス・モデリング)についてよくある10の誤解

コラム
MMM

マーケティング領域において、データドリブンな意思決定がますます重要になる中、「MMM(マーケティング・ミックス・モデリング)」という分析手法が注目を集めています。

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しかし、注目されつつも、この手法に対して、「MMMは高額で大企業しか使いこなせない」「MMMは理論的すぎて実用的ではない」… こうしたネガティブな印象を持たれていることも事実です。

そこで本記事では、MMMに関してよく挙げられる誤解を取り上げ、その真実を明らかにしていきます。これらの誤解を解くことで、MMMの真の価値と可能性を理解し、より効果的なマーケティング戦略の立案にお役立ていただけますと幸いです。

使いやすさと実用性に関する誤解

1. MMMは大企業にしか使いこなせない

MMMを知るマーケターの多くは、MMMは大規模な広告予算を持つ大企業にのみ有益だと考えています。これは、過去にMMMが主に大企業で採用されていたことが背景にあります。しかし実際には、MMMはさまざまな規模に合わせて調整することができ、あらゆる規模の企業に価値ある示唆を提供することが可能です。

企業の規模に問わす、MMM分析を実施できるかどうかの判断軸としては以下のようなポイントを考慮すると良いでしょう。

  • データの質と量:MMMには十分な量の高品質なデータが必要です。一般的には、少なくとも2年分の詳細なマーケティングデータと売上データが理想的です。
  • マーケティング施策の多様性:複数のマーケティングチャネルや媒体を使用している企業ほど、MMMから得られる示唆が豊富になります。
  • 組織の分析リソース:社内に統計学やデータ分析のスキルを持つ人材がいるか、外部の専門家と協力できる体制があるかが重要です。
  • 予算の柔軟性:MMMの分析結果に基づいてマーケティング予算を調整できる柔軟性が必要です。
  • 経営陣のサポート:データドリブンな意思決定を重視する経営陣のサポートがMMMの実装と実用化に非常に重要です。

2. MMMは実用的ではない

マーケターの多くが、MMMは理論的すぎて実用的ではないと考えるかもしれません。しかし、正しく活用することで、MMMはマーケティング戦略や予算配分を導くための有益な示唆を提供します。たとえば、サイカでは、MMMサービスの提供で多数のクライアントがその示唆を用いて広告予算の配分を最適化し、ROIや売上を向上させています。このように、MMMは理論に留まらず、実際のビジネス成果に直結する手法です。

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3. MMMは一度きりの取り組みである

一部の人は、MMMの分析モデルを一度構築すれば、それをずっと活用できると考えています。しかし実際には、分析モデルはMMMの要であり、市場の変化やマーケティング戦略に適応するために、継続的かつ柔軟に更新されるべきプロセスです。必要に応じて毎月や四半期ごとに更新・調整することで、PDCAを速く回すことが可能になります。

4. MMMは実装が複雑すぎる

複雑さを理由に、MMMは敬遠されやすい傾向にあります。確かに多くのデータと専門知識は必要ですが、技術やソフトウェアの進歩により、MMMはより身近で導入しやすいものになっています。たとえば、サイカのMMMサービス「MAGELLAN(マゼラン)」では、独自開発の技術により、分析の工程・試行錯誤をシステム化している他、​クライアント企業が迅速にMMMを導入できるよう、専門知識を持ったコンサルタントとアナリストのチームがサポートすることで、MMMを活用しやすい環境づくりを行っています。

データと正確性に関する誤解

5. MMMには完璧なデータが必要

MMMで使用するデータに欠損があってはいけないと考える人もいますが、実際にはMMMは不完全なデータでも機能し、十分な示唆を提供することが可能です。もちろん、データが完全であればあるほどモデルの精度は向上しますが、たとえば、すべての日次データや詳細な変数のデータが揃っていなくても、代替指標を用いるなどで対策は可能であり、状況に応じた柔軟なアプローチを取ることができます。重要なのは、データの完全性を追い求めすぎる前に、まずはビジネスの課題や目標を分析チームやMMMの専門家と相談しながら仮説を立てることです。次に、その仮説を検証するために必要なデータを検討し、柔軟に対応しましょう。

6. MMMの分析結果は常に正確である

MMMからは常に正確な答えが提供されると期待する人もいるかもしれません。しかし、MMMの分析結果は統計モデルに基づいており、一定の不確実性を伴います。これらの結果は絶対的な真実としてではなく、ガイドラインとして使用すべきです。重要なのは、分析結果を元に仮説を検証し、継続的な改善を図ることです。

7. MMMは大まかな示唆しか提供しない

これは古い考え方であり、使用するデータの粒度やロジックによって大きく異なります。現在のMMMは、より詳細で具体的な示唆を提供し、マーケティング活動の精密な最適化を可能にする技術を持ち合わせています。たとえば、消費者セグメント(新規・既存)や販売チャネル(店舗・EC)ごとの事業成果に対する影響を分析することが可能です。これにより、それぞれに対してどのマーケティング施策がどれぐらい効くかを数値化し、マーケティング活動をより効果的かつ効率的に行えるようになります。

機能に関する誤解

8. MMMはリアルタイムの示唆を提供する

MMMはリアルタイムまたはほぼリアルタイムの示唆を提供するという誤解が広く存在します。最新の実績データを迅速に取り込んだり、分析モデルの更新頻度を高めたりすることで分析スピードを向上させることは可能ですが、実際のところ、MMMは過去の実績データに基づいて分析を行うため、即時的な意思決定よりも、戦略的な計画立案に適しています。特に、月次や四半期ごとの計画において、MMMの分析はその真価を発揮します。

9. MMMは他の分析手法の代替となる

MMMは、オンライン・オフラインに問わず、時系列のデータさえあれば、ほぼすべてのマーケティング要因における影響を可視化することが可能で、マーケティング施策の全体的な影響を把握できることから全能な手法として認識されていることがあります。しかし実際には、MMMは他の手法を補完するものであり、マーケティングの効果をより広範な視点から評価する手段に他なりません。たとえば、アトリビューション分析、ブランドリフト調査、CMM(コンシューマー・ミックス・モデリング)などと組み合わせることで、各手法の強みを活かしながら、より正確で確信をもった意思決定ができるようになります。

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10. AIを用いたMMMは人間の判断を完全に置き換えられる

AIや機械学習は、MMMにおいて膨大なデータから隠れたパターンを見つけ出し、予測精度を向上させる強力なツールです。しかし、AIに基づくモデルは、その結果の過程や裏側が見えないためしばしば「ブラックボックス」と見なされることがあります。たとえば、年間予算や四半期ごとの予算配分といった重要な戦略的決定において、結果の根拠が理解できないことは大きなリスクです。また、MMMが提供する客観的な示唆は過去のデータに基づくものであり、市場や消費者の急速な変化には常に対応できません。だからこそ、AIによる結果を活用するだけでなく、マーケターの洞察力や消費者行動の理解を組み合わせ、結果を正しく解釈し、次のアクションに結びつけることが重要です。データと人間の判断が融合することで、よりバランスの取れた意思決定が可能になります。

なぜこれらの誤解が生まれるのか?

MMMに関する誤解が広がる背景には、いくつかの重要な要因が存在します。これらの要因を理解することで、MMMを正しく捉え、より効果的に活用するためのヒントが得られるはずです。

根強い過去のイメージ

MMMはもともと大企業向けの手法として誕生しました。グローバル規模で展開する企業が、テレビ広告や新聞広告など、複数のチャネルをまたぐマーケティング活動の効果を測定するために利用してきた歴史があります。そのため、現在でも「MMMは高コストで、大規模予算を持つ企業専用のツールだ」というイメージが残り続けています。

リアルタイム性と短期的対応への過剰な期待

現代のマーケティングでは、リアルタイムでのデータ分析が求められるケースが増えています。たとえば、オンラインキャンペーンの効果を瞬時に測定し、翌日の施策に反映させるような短期的な対応がその一例です。しかし、MMMは過去のデータを基に中長期的な傾向を分析する手法であり、リアルタイムでの意思決定には適していません。そのため、リアルタイム性を過度に期待することで、「MMMは現代のマーケティングには合わない」といった誤解が生まれやすくなります。

専門知識の不足

MMMは、回帰分析や時系列データ解析など、高度な統計手法を駆使するため、専門的な知識が求められます。たとえば、マーケティング担当者が日常的に接することの少ない数理モデルやデータ処理技術が多く含まれます。そのため、MMMの全貌を理解するのは容易ではなく、この複雑さが誤解の一因となっているのです。また、MMMの結果を正しく解釈し、適切なマーケティング施策に結びつけるためには、統計の基礎知識と経験が必要です。これらが不足していると、MMMの価値を十分に引き出せず、結果としてその有効性に疑問を抱くことにつながります。

誤解を解消し、MMMの多様性を認識する

MMMはマーケティング活動の効果を測定し、予算配分を最適化するための手法として広く知られていますが、その手法やアプローチは一律ではありません。企業や組織の特定のニーズに応じて、MMMはいかようにも活用できます。

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たとえば、自社内で独自にMMMを開発する企業もあります。この場合、企業は自社のデータとMMMに詳しいデータ分析のチームを形成し、特定のビジネスニーズに最適化されたカスタマイズモデルを構築します。このアプローチは、労力はかかるものの、非常に柔軟であり、企業の特有の課題に対処することに適しています。一方、広告代理店やコンサルティング会社が提供するMMMは、業界全体のベストプラクティスに基づいたパッケージソリューションが一般的です。人的サポートもあり、これにより迅速な導入が可能とあり、特にMMMに初めて取り組む企業にとっては導入のハードルが低くなります。

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さらに、MMMについては、MetaのRobynやGoogleのLightweightMMMといったオープンソースのライブラリを利用することができます。これらのライブラリを基に、企業、広告代理店、コンサルティング会社などの開発者やデータサイエンティストは、自社開発のモデルと比較しながら、低コストに精度を高めていくことも可能です。

また、サイカが提供するMMMソリューション「MAGELLAN」は、250社以上の支援実績を背景に、特定の技術やカスタマイズ性を持った独自のMMMです。MAGELLANは、企業の特定のニーズに合わせた柔軟なモデルを提供し、他のMMMとは一線を画すカスタマイズ性があります。

おわりに

MMMは、マーケティング活動の全体像を把握するための有力な手法です。MMMを正しく理解し、活用することで、より効果的なマーケティング戦略を構築し、持続的なビジネス成長を実現することができるでしょう。一方でMMMに関する誤解は、マーケティングの現場でその価値を十分に引き出すための障害となり得ます。この記事を通じて、そのような誤解を解消し、MMMが提供する実用的かつ戦略的な示唆とは何かを理解していただけたのではないでしょうか。

サイカは、MMMにおいて10年以上のサービス提供実績があり、国内エンタープライズ企業を中心に多くのクライアントを支援してきました。MMMに関する詳細や、どのようにマーケティング活動に適用できるかについてご興味をお持ちでしたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。MMMを最大限に活用するため、そして多くの企業・マーケターがより良い意思決定を行えるよう、多岐にわたる業界での豊富な専門知識を持つアナリストとコンサルタントが支援いたします。


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