ダイバーシティ経営とは?基礎知識からメリットやリスク、事例まで徹底解説

コラム
SDGs・ESGダイバーシティ

社会のグローバル化、経営の多角化、労働人口の減少などさまざまな背景により、「ダイバーシティ経営」の必要性が叫ばれ続けています。ダイバーシティ経営の必要性を知り、女性活躍を推進する企業も少なくありません。

しかし、ダイバーシティ経営を女性活躍の推進だけで終わらせず、多種多様な人材によるイノベーションの創出を起こせるかどうかが、今後の大きな課題と言えそうです。

この記事では、ダイバーシティ経営について改めて理解していただくために、ダイバーシティの基礎知識を解説します。

ダイバーシティ経営の本質を知り、自社ビジネスにおけるダイバーシティの導入や発展について具体的にイメージするためにも、ぜひ参考にしてみてください。

ダイバーシティとは

ダイバーシティ(diversity)とは、日本語で「多様性」を表す言葉です。「多様な」「異なった」を意味するdiverseの語尾に状態を表すityを付け加え、diversity(多様性)となります。

いわば、「人材ごとに抱えている違い」のことです。ビジネスシーンで使われるダイバーシティには、次のような意味の「違い」が含まれています。

ダイバーシティに含まれる要素を示した図

※以下を元に弊社で作成
出典:ダイバーシティ&インクルージョンの基本概念・歴史的変遷および意義|中村豊

たとえば同じ日本人であっても、性別や年齢、ライフスタイルや働き方、子供の頃に受けた教育などは多種多様です。そのため、我々は常に「ダイバーシティの中で生きている」と言っても過言ではありません。

昨今では社会のグローバル化に伴い、社会の多様化はさらに進んでいます。

身近なダイバーシティを知り、自分と他人との違いを受け入れ、認め、共に発展していく。これはダイバーシティ社会を生きる現代人にとって、欠かせない素養の一つとなっています。

ダイバーシティ経営とは

ダイバーシティ経営とは、多種多様な人材を生かし、その能力を最大限発揮できる機会を提供し、イノベーションを創出するための経営手法です。

「多種多様な人材」とは、性別や人種に限った話ではありません。年齢、障がいの有無、性的指向や宗教など、あらゆる「違い」が、ダイバーシティ経営における「多種多様な人材」の定義です。

会員数27万人を超える人事情報メディア「日本の人事部」の調査によれば、ダイバーシティ経営は約半数の企業がすでに取り組み、約4分の1社が今後の取り組みを検討していることがわかっています。

ダイバーシティ経営に取り組んでいる企業の割合を示した図

※以下を元に弊社で作成
出典:半数近い企業がダイバーシティを推進。取り組み開始5年以内は感じる効果が低め|日本の人事部

「=女性活躍」という誤解

ダイバーシティ経営と聞くと、「=女性活躍」と考える人も少なくありません。女性の活躍の場を広げることは、経営の多角化につながり、イノベーションを創出するための大切な要素です。しかし、ダイバーシティ経営は「=女性活躍」ではありません。

前述のように、ダイバーシティが示すのは性別の違いに限らず、人種や能力など、あらゆる「違い」を含みます。したがって、ダイバーシティ経営を「=女性活躍」と考えず、広い視野でダイバーシティを捉え、多種多様な人材が活躍できる場を提供することが、より大きなイノベーションを創出するための促進剤になります。

インクルージョンとの違い

ダイバーシティに類似した言葉が「インクルージョン(inclusion)」です。これも近年よく聞く言葉の一つであり、日本語では「包括」を意味します。

ダイバーシティが「多種多様な人材を活かせる環境」という文脈で使われるのに対して、インクルージョンは「多種多様な人材が組織として一体になる」という文脈で使われています。

そのため「ダイバーシティ&インクルージョン」と、一つの概念として語られることも多くなりました。

日本でダイバーシティ経営が注目される背景

ダイバーシティ経営が注目されている背景は、国によって違います。日本においては、次のの理由を背景として、ダイバーシティ経営が注目されていると考えられます。

少子高齢化の加速

内閣府が発表した資料によれば、日本の高齢化率(65歳以上の人口の割合)は2025年に30%に達すると予測されています。

少子高齢化の加速を表現したデータ

出典:令和4年版高齢社会白書 |内閣府

少子高齢化の加速により生産年齢人口(15~64歳の合計)が減少し、日本企業の人材不足はさらに深刻化します。この問題を解消するためにも、ダイバーシティ経営により多種多様な人材を受け入れ、活躍の場を提供する取り組みが欠かせません。

性別や人種、年齢や経歴などに関係なく、人材ごとの能力を最大限発揮できる環境があれば、人材不足問題を解消するばかりか、イノベーションの創出にもつながります。

グローバルの競争力向上

社会のグローバル化が進んだことで、海外でのビジネスチャンスが増えたと同時に、国内市場での競争が激化しています。マーケティング活動に長けた外資系企業と対等に戦うためには、日本企業もグローバル視点を取り入れなければいけません。

ダイバーシティ経営では、国という枠を超えてさまざまな人種が活躍できる環境を提供し、グローバルの競争力向上を素早く実現できる可能性があります。

日本にはない外国独自の文化を受け入れ、海外の優秀な人材を積極的に招き入れる姿勢が大切です。

ダイバーシティ経営のメリット

では、ダイバーシティ経営を取り入れるメリットとは何でしょうか?さまざまなメリットが考えられる中で、特に着目していただきたい4つのメリットを紹介します。

採用活動の戦略化

ダイバーシティ経営を促進するということは、多様なワークスタイルを提案することでもあります。多種多様な人材が活躍できる場を提供するためには、一人ひとりに合ったワークスタイルを提案する必要があるためです。

これによって生じるメリットが、採用活動の戦略化」です。多様なワークスタイル環境を武器に、優秀な人材をより多く獲得するための、戦略的な採用活動が可能になります。

フレキシブルな働き方を実現できれば、全国各地、あるいは世界の優秀な人材に会社としての魅力をアピールできます。

最近では地方にサテライトオフィスを設けて従業員の地方移住をサポートするなど、多様なワークスタイルでダイバーシティ経営を推進する企業も増えています。

人材活用の基盤を整えられる

近年、多くの日本企業で重要視されているのが「Z世代人材の採用」です。Z世代とは1990年代中頃から2010年代に生まれた世代であり、これからの日本を担う若き人材たちを指します。

Z世代の人材は、幼少期からスマホやSNSにあふれる多種多様な情報に触れてきたことから、非常に柔軟な価値観を備えています。柔軟な価値観はイノベーションの源泉です。

しかし、そのZ世代人材とのジェネレーションギャップ(世代間に生じる価値観の違い)に苦しむ管理職世代も多く、「Z世代人材の採用」をどのように行うかが、今後のビジネス成長を左右する要素と考えられています。

ダイバーシティ経営を推進すると多種多様な人材活用の基盤が整えられます。そのため、「Z世代人材の採用」において、管理職世代がZ世代人材の価値観を受け入れるための基盤作りに繋がる、というメリットがあるのです。

人材の心理的安全性を確保できる

心理的安全性とは、「組織内のメンバーが自分の発言を拒絶したり罰したりしないと確信できる状態」のことです。人材の心理的安全性と企業利益の関係は、さまざまな調査で明らかになっています。

従業員サーベイサービスを提供する株式会社カルチャリアの調査によれば、99.1%の経営者が健全な組織運営のために心理的安全性が重要だと考えていることがわかっています。

心理的安全性が重要だと示すアンケート

出典:84.7%の経営者が「心理的安全性」を高める施策で「売上が上がった」と回答
|PR TIMES

多種多様な人材を受け入れることで、日本人が陥りがちな「集団的なバイアス(集団心理)」を排除し、性別・年齢・人種・役職などに関係なく、心理的安全性が保たれた環境をつくれます。

人材の心理的安全性を確保できれば、性別や年齢などに関係なく、誰もが忌憚のない意見を言い合える環境を整えられます。これにより売上増加や、仕事のモチベーションアップなどの効果が期待できるでしょう。

ビジネスシーンで注意すべきバイアスについては、「バイアスとは?意味と種類【データ分析時の注意点まで解説】(内部リンク)」をご覧ください。

株式市場での評価が上がる

「ダイバーシティ経営を推進すると株価が上がる」というメリットには、根拠があります。

アメリカで上場企業を対象に行われた研究調査によれば、取締役会に女性が入ることで、ガバナンスと企業価値が改善され、株価に好影響が出る可能性を示しています。

参考:Women in the boardroom and their impact on governance and performance|SienceDirect

女性に限らず、異なる人種が取締役会に入ることで、企業の意思決定プロセスに好影響を与えるケースは多々あります。最近では、海外人材を取締役会に迎え入れる上場企業も少なくありません。

ダイバーシティ経営にはリスクもある

ダイバーシティ経営の推進により、さまざまなメリットがあります。その一方で、ダイバーシティ経営の推進によるリスクがあるということも、ここで押さえておきましょう。

コミュニケーションコストの増加

ダイバーシティ経営には、コミュニケーションコストを増やすリスクがあります。コミュニケーションコストとは、「情報伝達や意思疎通にかかる時間・労力」のことです。

日本は世界に比べて英語教育で遅れをとっているため、海外人材を積極的に採用しても、言語の壁によってコミュニケーションコストが増大する可能性があります。この他にも、他業界から多種多様な人材を受け入れると、業界特有のコミュニケーションに慣れるまで時間がかかり、コミュニケーションコストが増えるかもしれません。

そのため、ダイバーシティ経営を推進するにあたって、「コミュニケーションコストをどのように維持するか?」という対策が、非常に重要です。

仕事のパフォーマンス、生産性が下がるリスク

コミュニケーションコストの増加は、情報伝達や意思疎通が難しくなるだけでなく、仕事のパフォーマンスや生産性にも影響すると考えられます。

情報伝達や意思疎通が円滑に進まなければストレスを感じやすくなり、仕事のパフォーマンスも低下します。従業員がストレスを慢性的に抱えるようになると、甚大なパフォーマンス低下につながるかもしれません。これにより生産性が低下し、市場の競争力を失う可能性すらあります。

やはり「コミュニケーションコストの維持対策」が、ダイバーシティ経営の推進を成功させる鍵になるでしょう。

ハラスメントが生じるリスク

多様な価値観を受け入れることは、組織によっては困難なケースもあります。とりわけ、「前例踏襲志向」が強い組織では、多種多様な人材が持ち込む新しい価値観を、拒絶する可能性が高いでしょう。

すると、ハラスメント(嫌がらせ)が生じるリスクが高まります。パワーハラスメント、セクシャルハラスメント、ジェンダーハラスメントなど、これらのハラスメントは組織に悪影響を及ぼします。

ダイバーシティ経営の推進には、コミュニケーションコストの維持に加えて、ハラスメント対策も重要ということを忘れないでください。

ダイバーシティ経営の具体的な取り組み

事例1. パナソニック グループ

パナソニック ホールディングス株式会社を中核とするパナソニック グループは、ダイバーシティ経営の一環として「DEI(ディー・イー・アイ)」を掲げています。

パナソニックグループのDEIとは?

Diversity挑戦する一人ひとりの個性を互いに受け入れ、尊重し、個性に価値を見つけること
Equity挑戦する一人ひとりに対する機会の提供の公平性を追求すること
Inclusion挑戦する一人ひとりが個性を発揮し、組織として活かしあうこと
出典:Diversity, Equity & Inclusion – サスティナビリティ|パナソニックグループ

パナソニック グループのDEIにおける「一人ひとり」とは、「性別・性自認をはじめとするあらゆる属性にとらわれない多様な個性を持つ社員一人ひとりのこと」と指します。

この言葉の定義から、ダイバーシティ経営が、単なる女性活躍の推進に終わらず、多種多様な人材を受け入れようとする姿勢が伺えます。

このDEIの推進により、2018年にはわずか13.9%だった男性の育休取得率が、2020年には96.65%に増加しました(パナソニック システムソリューションズ ジャパン株式会社の実績)。

DEI推進の中心人物として活躍した、パナソニック コネクト株式会社CEOの樋口 泰行氏は、「人任せにしていてはダイバーシティは進まない。心の中で否定している人がいたとしても、トップは絶対に諦めてはいけない」とメッセージを発信しています。(PRESIDENT Onlineより)。

参考:https://holdings.panasonic/jp/corporate/sustainability/diversity-equity-inclusion.html

事例2. コクヨ グループ

文房具やオフィス家具の企画・製造事業を中核とするコクヨ グループは、日本における障害者雇用の先駆けとしても知られています。

コクヨ グループの障害者雇用は戦前の1940年に始まり、2003年9月に特例子会社としてコクヨKハート株式会社を設立しました。さらに、2006年12月には知的・精神障害者の雇用を目的とした、ハートランド株式会社が設立されました。

※特例子会社とは障がいのある人の雇用の促進、その安定を図るために設立される会社のこと

そんなコクヨ グループでは、ダイバーシティを「社員一人ひとりが本来持っている能力を発揮するため、さまざまな境遇や価値観を認め合い、多様な働き方を実現できる環境をつくりあげていくこと」と考えています(コクヨより)。

また、コクヨ グループでは障がいを持つことは「害ではない」と考え、今後も障害者雇用の促進を図る姿勢を示しています。

グループ内で「障害者」ではなく「障碍者」とあえて表現しているのも、「碍」という字にはポジティブな意味が込められているという解釈からです。言葉一つの表現からダイバーシティ経営に取り組んでいる姿勢は、多くの企業にとって参考になります。

※「障碍者」と表現するのはコクヨ グループのポリシーであり、当ブログでは国の表記方法である「障害者」を用いています

参考1:https://www.kokuyo.co.jp/sustainability/esg/society/reform/
参考2:https://www.kokuyo-k-heart.com/company/greeting.html

事例3. アイ・ビー・エム グループ

ITコンサルティング事業を中核とし、世界170以上の国と地域でビジネスを展開するアイ・ビー・エム グループ(以下IBM)もまた、先進的なダイバーシティ経営に取り組む企業です。

IBMが推進するダイバーシティ経営では、障害の有無、人種、性別、思想、文化、出身地などにかかわらず、各個人が能力を最大限発揮できる環境を整えることに注力しています。

なかでも注目していただきたいのが、「LGBTQ+を支援する取り組み」です。IBMは「Be Equal Ally(平等な仲間であれ)」をスローガンに、LGBTQ+などのマイノリティー理解を深めるキャンペーンを継続的に実施しています。

2016年には同性パートナーを配偶者と同等とみなす「IBMパートナー登録制度」を施行しました。こうした積極的な取り組みにより、IBMはwork with Prideが策定した「PRIDE指標」にて、7連続Gold受賞とレインボー認定を獲得しています。

※work with PrideはLGBTQ+などの性的マイノリティに間んするダイバーシティ・マネジメントの促進と、定着を支援する団体です
参考:https://www.ibm.com/ibm/responsibility/jp-ja/inclusion/

データ活用がダイバーシティ経営成功の鍵になる

ダイバーシティ経営を目指す理由、目標などは企業によって異なります。しかし、いずれの企業のダイバーシティ経営にも共通して言えることが、「データ活用が成功の鍵になる」ということです。

ダイバーシティ経営では「従業員サーベイ」などのデータ活用が行われています。従業員サーベイとは人材に関するさまざまなデータを指標に、組織へのエンゲージメント(愛着心)や、従業員ごとのニーズや課題を把握するためのデータ活用です。

データを活用することで、ダイバーシティ経営の進捗や達成率などを把握でき、ダイバーシティ経営の成功に向けたデータに基づく戦略策定ができるようになります。また、売上や営業利益など、さまざまな数値データとその推移を分析し、イバーシティ経営が企業利益に与えた影響を可視化することも可能です。

こうしたデータ活用は、いわばダイバーシティ経営における「健康診断」のような役割を果たします。企業の健康状態をリアルタイムに把握し、企業利益とのつながりを監視しながら、ダイバーシティ経営を推進できるようになるのです。

おわりに

ダイバーシティ経営は「多種多様な人材を採用して終わり」ではありません。肝心なのは、多種多様な人材が活躍できる場を提供し、多種多様な人材が組織として一体感を持ってビジネスに取り組める環境を作ることです。

「人材を採用したその先」まで具体的にイメージしながら推進するのが、ダイバーシティ経営の本質だと言えます。

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