KDDIとサイカのデータドリブン・マーケティングの取り組みは、2019年から始まりました。通信業界において多岐にわたるサービスを展開するKDDIは、複雑な顧客獲得プロセスにおいて、成果を最大化するためのコミュニケーション最適化を目的に、サイカのMMM(マーケティング・ミックス・モデリング)を活用しています。
導入から5年が経ったいま、KDDIのMMM活用は非常に発展しており、月次分析による高頻度なPDCAサイクルを実現しています※1。2021年から分析を開始したUQ mobileでは、月次のマーケティング投資最適化により、契約者一人あたりに投じるコミュニケーション費用を、最適化前と比較して約2割削減するなどの顕著な成果を上げました※2。
本事例では、KDDIがサイカと取り組んでいるデータドリブンなマーケティング最適化方法について、UQ mobileにおけるプロジェクトを中心に紹介します。
※1 2024年8月現在
※2 2023年度実績
競合ひしめく市場における勝ち筋は、“データドリブン”と“スピード”
携帯電話・スマートフォンなどの通信サービスの市場は競合の参入も多く、機能面での差別化の難しさから、価格競争に陥りやすいという特徴があります。そのため、コミュニケーションによる差別化が重要であり、そのためにもクリエイティブとメディアの最適化が求められています。
また、近年の特徴的なのは顧客における携帯キャリアへの意識が薄まっているという変化です。キャリアに対する興味関心がなく、どのキャリアでも構わないという人が増えてきているのです。ストック型ビジネスモデルであるため、購買行動期に入っている顧客は市場の約2割程度であるということがKDDIの自主調査でわかっています。
KDDIでは購買行動期に入っていない市場の約8割を占める消費者(以下、日常期と表現)に向けて、日常期の段階からKDDIが提供する通信ブランド(au, UQ mobile, povo)へのイメージを持ってもらい、乗換先を検討する際にKDDIを一番に想起してもらうことを目指し、ターゲットに合わせた施策の展開を図っています。
そして、これらのマーケティング活動の成果を最大化させるためにKDDIが重要視しているのが、データドリブンな意思決定と分析サイクルのスピードです。
UQ mobileをはじめKDDIの各サービスにおける顧客が加入や成約に至るまでのプロセスは非常に複雑で、多数の要因が絡み合っているのが特徴です。これらの影響を正しく捉えながらより適切な意思決定をするために、KDDIでは大量のデータをもとにこの影響を可視化しています。これがMMM活用の主な目的です。
そして、KDDIにおけるMMM活用の特徴の一つは、月次でこの分析を回しているという点です。KDDIでは主にオンラインメディアのクリエイティブや予算の最適化にMMMを活用しており、月次の運用サイクルに合わせて分析を行っています。
通信サービスの市場環境
データに基づいたマーケティング意思決定の実現
前述のとおり、KDDIでは月次でマーケティング投資の最適化を継続した結果、契約者一人あたりに投じるコミュニケーション費用を、最適化前と比較して約2割削減するという成果を上げています。ここからはKDDIがどのようにデータに基づく意思決定をしているのかを紹介します。
KDDIがMMM活用で目指しているのは下記の4つです。
- マーケティング施策の効果を正確に測定・可視化する
- 施策ー消費者意識ー成果の関係性を明らかにする
- 各ターゲットに対する最適なアプローチを特定する
- マーケティング予算の効率的な配分を実現する
この目的を達成するために構築されたモデルが、KDDIのMMMの大きな特徴となっています。
KDDIの分析モデルの特徴
- 消費者の意識指標をモデルに組み込み、「施策 → 意識 → 成果」の構造を解明
- 目標とする意識指標をユーザー導線に合わせて設定
- 成果を複数に分け、ターゲット毎に有効な施策を明確化
KDDIでは週次で消費者の意識調査を行っていることから、その調査結果をMMMの変数に組み込むことが可能となっています。成果に対して影響が大きいと想定される意識指標をユーザー導線に合わせてモデルに組み込み、どの意識指標を上げれば成果が最大化するのか、またその意識指標を上げるにはどの施策を強化すればよいのかを分析できるようにしているのです。これにより、施策の投下量や予算配分だけでなく、どのような意識指標を伸ばすべきかという質の面も最適化を図ることができます。
UQ mobileの販売チャネルは店舗などのリアルチャネルだけでなく、オンラインチャネルもあります。MMMの目的変数となる成果を複数のパターンに分けることで、それぞれの成果を上げるにはどの施策が有効なのかがわかるようにしています。
KDDIではMMMの分析モデルに消費者の意識指標を組み込んでいる
月次運用の実現
KDDIのMMM活用のもう一つの特徴は、月次で分析し最適化を図るというPDCAサイクルの速さです。月次の分析サイクルが必要な理由は、KDDIにおけるマーケティング投資の最適化がオンラインメディアを中心としていることに加え、新規トライ施策を織り交ぜながらPDCAサイクルを実現していることにあります。
もちろん、テレビCMを中心としたオフラインメディア効果も含めた最適化を行っていますが、よりクイックな評価が求められるオンラインメディアを軸にMMMを活用してマーケティングの効率向上を図っています。
成果を上げるための最適化サイクル
KDDIで実行している月次のMMM分析サイクル
月次でMMMを回す上では、分析だけでなくデータ収集にかかるスピードも重要です。KDDIでは、自社や競合他社に関するマーケティングデータを、社内外から収集・統合し、分析用データの成形と分析不使用データも含めた可視化環境を構築し、データ活用のスピードを担保しています。この時にポイントとなるは下記の2点です。
- ブフォーマットや粒度の異なる様々なデータを収集し、分析用データに統合すること
- 分析担当者がワンストップで異常値および傾向変化を把握できるトラッキング環境を構築すること
下図のように、MMMの分析結果も常に可視化できる環境を構築しているのが特徴です。このようなデータ基盤の構築が、KDDIにおけるデータドリブン・マーケティングの要になっています。
KDDIのデータドリブン・マーケティングの要となるデータ基盤の構築方法
組織を動かすために
戦略や戦術の徹底には組織の巻き込みが必要ですが、一般的に、組織が大きくなればなるほどその難易度は高くなります。馬場氏が指揮を執るコミュニケーションデザイン部では、広告運用プロジェクトを編成し、グループ横断でお互いの組織を理解しながら広告運用の全体最適化を図る取り組みをしています。これにより、よりスピード感のある運用が可能となるだけでなく、一気通貫したブランド・コミュニケーションの全体最適化が可能となっています。
また、組織を跨いだ社内連携においては、各施策の評価を共通指標で語れるという点でMMMの分析結果が非常に有用です。共通指標により施策を横並びで評価することで、施策ごとの部分最適ではなく、施策を統合した全体最適を図ることができるのです。
広告運用の全体最適化を図るプロジェクト
マーケティングのさらなる最適化を目指して
上記のように、MMMを駆使してデータドリブンなマーケティング投資の最適化を図るKDDIでは、現在、新たに生成AIを活用したクリエイティブのさらなる最適化にも取り組んでいます※。
※こちらはサイカとのプロジェクトの内容ではありません
マーケティングにおいて重要となる、質(誰に・何を)と量(どこで・どのくらい)の両輪をデータドリブンに最適化することに挑んでいるKDDI。今後ますます進化を続けるKDDIの挑戦に、サイカは引き続き伴走していきます。
「サイカのMMMは、大量のデータから複雑なモデル化を行い、可視化できる点で非常に価値があります。またコンサルタントの支援により、分析~施策適用のスピード感を実現できており、現在では欠かせないパートナーとなっています。」
KDDI株式会社 馬場氏