広告効果に関するマーケターの直感的判断の限界:研究論文からの主要な知見

コラム
データ分析

マーケティングにおいて、広告効果の予測は企業の収益を左右する重要な意思決定です。しかし現状では、多くの企業がマーケターの直感や経験に基づいて広告クリエイティブの選定やメディア予算の配分を行っており、これは大きなリスクを伴います

本記事では、広告効果に関する直感的な予測がどれほど信頼に値するかを検証した研究に基づき、直感に頼る意思決定の危険性と、エビデンスに基づく意思決定支援システムの重要性について解説します。

今回ご紹介する研究「Marketers’ Intuitions about the Sales Effectiveness of Advertisements 」は、南オーストラリア大学のマーケティングの権威、バイロン・シャープ教授らが著者に名を連ねています。

※引用文献:Nicole Hartnett, Rachel Kennedy, Byron Sharp and Luke Greenacre (2016), “Marketers’ Intuitions about the Sales Effectiveness of Advertisements”, Journal of Marketing Behavior: Vol. 2: No. 2–3, pp 177-194. http://dx.doi.org/10.1561/107.00000034 

研究の概要

この研究では、消費財メーカー系616名と広告代理店系82名、合計約700名のマーケターやその領域の専門家を対象に、消費財メーカーが提供した16本のテレビ広告をAとBのペアで提示し、どちらの広告が売上効果が高いかを直感で予測してもらいました。その後、予測結果と実際の成果とを比較し、予測がどれだけ当たったか(予測精度)を確認しました。

研究結果のポイント

1. 広告効果の予測における直感の限界

研究の結果、驚くべきことに全体の予測精度は51%にとどまり、これは偶然の確率とほぼ同等でした。この発見は、マーケターや専門家であっても、直感のみに依存した広告選定には限界があることを示しています。特に、衝動買いが多い商品カテゴリでは、消費者の購買意欲が予測しづらいため、正確な予測が難しい傾向が確認されました。

直感的な判断の正確さ:予測精度

2. 経験は重要だが期待ほどではない

研究では、回答者の職種や経験(現場レベル、マネージャーなど)が予測精度にどのように影響するかも調査されました。マーケティングや広告関連の経験が豊富な人ほどやや高い予測精度を示しましたが、その差は期待ほど大きくはありませんでした。特に「マーケティングと消費者インサイト」に従事する人や特定の商品カテゴリでの経験を持つ人は若干良い結果を示しましたが、経験だけでは決定的な影響を及ぼさないことが明らかになりました。

3. 集団の知恵は通用しない

個人の予測を集約してグループの判断とした場合でも、いくつかの広告クリエイティブでわずかに精度が向上しただけでした。つまり、データに頼らずに集団の直感に頼る方法は信頼できる解決策ではないことがわかります。

なぜ直感を過信することが危険なのか?

広告の意思決定において直感を信頼しすぎることは、多くのリスクを伴います。特に、広告クリエイティブの選定やメディアの予算配分において、以下の理由で失敗に陥りやすいことが明らかにされています。

  • 複雑な環境と影響要因:広告以外にも価格や販促、競合の動きなど、売上に影響を与える要因が多岐にわたるため
  • 主観的な解釈の余地:広告の効果は、上記の通りさまざまな要因に左右されることから、たとえ同じ事象だとしても解釈を加えやすくなるため
  • 明確なフィードバックの欠如:広告の効果に対する明確なフィードバックが得られないことが多く、何が成功要因かを正確に把握するのが難しいため

これらの要因により、直感に基づく判断はしばしば適切ではなく、広告費の無駄遣いにつながるリスクがあります。特に広告費が大きな割合を占めるマーケティング活動において、直感に頼りすぎることは、企業にとって大きな財務的リスクとなる可能性があります。

データと直感の融合による新たなアプローチ

直感のみに頼ることのリスクは明らかですが、直感自体がマーケティングにおいて全く価値がないわけではありません。むしろ、データドリブンなアプローチと直感を適切に組み合わせることで、より強力な意思決定プロセスを構築することができます。

エビデンスに基づくデータドリブンなアプローチの利点

直感のみではパフォーマンスが低いことを踏まえると、マーケターは事業成果を改善するためにエビデンス(実証データ)に基づく意思決定のシステムを取り入れる必要があります。先ほどの研究においても、広告クリエティブ選定の改善に向けて、エビデンスに基づく意思決定支援システムの活用を推奨しており、直感からデータに基づいた戦略策定への転換が必要であるとしています。また、以下の理由からもデータに基づくアプローチは重要だと考えられます。

  • 客観性の確保:データは意思決定から個人的なバイアスを排除し、より客観的な判断を可能にするため
  • 測定能力の向上: 具体的な指標により、広告の効果を明確に評価できるため
  • 継続的な学習と改善: 体系的なデータ収集により、継続的な改善が促進されるため

直感の役割

直感と分析プロセスを組み合わせることで、意思決定をさらに強化することが可能になります。主に次のような場面で、直感を適切に活用することが有効です。

  • 創造性とイノベーションの促進:直感は、データでは捉えきれない新しいアイディアやアプローチを生み出す源泉となる
  • 迅速な意思決定が必要な場面での活用:急激な市場変化や危機的状況では、詳細なデータ分析を待つ時間がない場合があり、このような場面においては経験豊富なマーケターの直感は貴重な判断材料となる
  • 定量化が困難な要素の評価:ブランドイメージやエモーショナルな訴求など、数値化しにくい要素の評価には直感が重要な役割を果たす

結論

広告における意思決定において、直感のみに依存することはリスクが高く、データに基づいたアプローチが不可欠です。今回ご紹介した研究の結果は、直感のみに頼るのではなく、データドリブンなアプローチも取り入れることで広告効果を高められることを示しています。データドリブンな意思決定支援のシステムを導入し、データ分析の専門家と連携することで、マーケターは広告予算の最適化を実現し、事業成果の向上を実現することができます。また、データと直感を組み合わせることで、単なる数値分析を超えた新しい広告戦略の構築が可能となり、競争の激しい市場において他社との差別化を図ることができるでしょう。

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