顧客ロイヤルティを左右する要因:CMM(コンシューマー・ミックス・モデリング)からの新たな知見

コラム
CMMイノベーション

顧客の価値観の多様化や購買行動の変化が加速する環境下において、従来の顧客ロイヤルティ戦略が今も通用するとは限りません。ポイントカードだけでは測れない「顧客との真のつながり」を構築するには、どのような要因に注目すべきなのでしょうか?ここで紹介するCMM(コンシューマー・ミックス・モデリング)とは、目に見えない顧客ロイヤルティの背後に潜む要因をデータで明らかにし、顧客ロイヤルティを高めるためには何に注力すべきか、逆に何には注力しなくても良いのか、といった取捨選択を可能にする手法です。

本記事では、現在用いられている顧客ロイヤルティの主な測定指標や分析方法を紹介したうえで、従来の分析における課題、そしてそれを克服する新たなアプローチとなるCMMの概要と活用方法を解説します。顧客ロイヤルティを左右する要因を解明するための新たな知見を紹介します。

目次

顧客ロイヤルティの重要性

顧客ロイヤルティは、企業の経済的基盤を強化する重要な要素です。ロイヤルティが高い顧客は、リピート購入や高い購買頻度を通じて、企業に安定した収益をもたらします。また、これらの顧客は他の潜在顧客に対してポジティブな口コミを広げることが多く、自然な形での新規顧客の獲得を促進する可能性もあります。

さらに、一般的にロイヤルティの高い顧客は価格に対する感度が低い傾向にあるため、過度の値下げや頻繁な割引に頼らずとも、比較的安定した収益を確保できる可能性が高くなります。このように、ロイヤルティ顧客を増やすことは、企業にとって短期的な収益だけでなく、長期的な成長にも直結する重要な取り組みです。

顧客ロイヤルティを測定するための指標

顧客ロイヤルティの重要性を理解したところで、次に直面する課題は「どのように測定し、評価するか」という点です。企業がロイヤルティを効果的に管理・向上させるためには、適切な指標の選択と継続的なモニタリングが不可欠となります。

ここでは主要な測定指標と分析手法を紹介します。ただし、すべての企業に適用されるものではないため、マーケターは、自身が担当するビジネスに適した指標を選定あるいは新たに定義することが重要です。

1. 顧客リテンション率(「CRR」Customer Retention Rate)

一定期間内に維持できた顧客の割合を示します。
計算式: CRR = ((終了時の顧客数 - 新規顧客数) / 開始時の顧客数) × 100
CRRが高いほど、顧客ロイヤルティが高いことを示します。

2. 購入頻度

顧客がどのくらい頻繁にリピート購入を行っているかを示します。
計算式: 購入頻度 = 総注文数 / ユニーク顧客数(特定の期間内)
頻度が高いほど、顧客ロイヤルティが高いことを示唆します。

3. リピート購入率(「RPR」Repeat Purchase Rate)

複数回購入を行う顧客の割合を表します。
計算式: RPR = (リピート顧客数 / 顧客総数) × 100
RPRが高いほど、顧客ロイヤルティが高いことを意味します。

4. 顧客生涯価値(「LTV」Customer Lifetime Value)

顧客が企業にとって生涯で生み出す総収益を予測する指標です。
計算式: LTV = 平均購入額 × 購入頻度 × 平均顧客寿命
LTVが高い場合、一般的に顧客ロイヤルティも高い傾向にあります。

5. ネットプロモータースコア(「NPS」Net Promoter Score)

推奨意欲に基づいて顧客満足度とロイヤルティを測定します。
計算式: NPS = 推奨者の割合 - 批判者の割合
NPSが高いほど、顧客ロイヤルティや推奨度が高いことを示します。

6. カスタマーエフォートスコア(「CES」Customer Effort Score)

顧客が企業とのやり取りをどれだけ簡単に感じたかを測定します。アンケートで顧客に体験の容易さを評価してもらいます。
計算式:7段階の選択肢のうち上位2区分の得票率 – 下位3区分の得票率
CESが高い、つまり負担が少ないほど、顧客ロイヤルティが高まる傾向にあります。

7.  顧客満足度スコア(「CSAT」Customer Satisfaction Score)

製品やサービスに対する顧客の総合的な満足度を測る指標です。アンケートを通じて満足度を評価してもらいます。
高いCSATスコアは、顧客ロイヤルティの向上に関連することが多いです。

8. センチメント(感情)分析

顧客のフィードバックやレビューを分析し、ブランドに対する全体的な感情を評価します。
多くの場合、ポジティブな感情は、顧客ロイヤルティの高さを示します。

9. エンゲージメント指標

ウェブサイト訪問、アプリの利用、SNSでのエンゲージメントなど、さまざまな接点での顧客とのやり取りを追跡します。
エンゲージメントが高いほど、顧客ロイヤルティが高まる傾向があります。

顧客ロイヤルティを向上させる要因を特定する方法

なぜある顧客は長期的なロイヤルティを示し、他の顧客はそうでないのでしょうか?その違いを生む要因を理解することは、効果的な戦略立案の鍵となります。

顧客ロイヤルティを向上させる要因を特定するには、データ分析、顧客フィードバック、業界のベストプラクティスなど、さまざまな手法を組み合わせた包括的なアプローチができます。マーケターは、仮説に基づいて最も適した方法を選び分析を行うことが重要です。以下に、代表的な方法をご紹介します。

1. 顧客行動データの分析

LTVが高い顧客やリピーターの共通点を探ることで、顧客の特徴や顧客ロイヤルティを促進する要因を理解することに繋がります。

【活用可能なデータ】

  • 購入頻度と直近の購入日
  • 平均注文金額
  • よく購入される商品カテゴリやサービス
  • 顧客生涯価値(LTV)
  • ロイヤルティプログラムや特典への参加度合い

2. 顧客からのフィードバック収集

顧客の動機を理解するため、積極的に意見を集めることが重要です。顧客がリピートする理由として頻繁に言及する要因に注目するのが効果的です。

【活用可能なフィードバック】

  • 満足度や推薦意向、購入理由についてアンケートを実施
  • リピーターを対象にしたフォーカスグループやインタビュー
  • カスタマーサクセスとのやり取りやクレーム内容の分析
  • SNSの言及やレビューのモニタリング

3. カスタマーエクスペリエンス(顧客体験)の評価

顧客が触れる接点での体験を総合的に評価することができます。優れたカスタマーサポートは、顧客ロイヤルティを高める最も重要な要因の一つとされています。

【活用可能な評価】

  • ウェブサイトやアプリの使いやすさと機能性
  • 店舗での体験(店舗がある場合)
  • 顧客対応の質と迅速さ
  • パーソナライゼーションの取り組み
  • 購入後のサポート体制

4. 商品やサービスの品質を検証

品質は唯一の要因ではないものの、依然として重要です。商品やサービスが顧客のニーズを満たし、価値を提供できているかを確認することができます。

【活用可能なデータ】

  • 返品率とその理由の分析
  • 顧客からの商品の特徴や性能に対するフィードバック
  • 競合商品との比較

5. ロイヤルティプログラムと特典の評価

ロイヤルティプログラムを実施している場合は、その効果を評価しましょう。効果的なプログラムは、顧客ロイヤルティを大きく向上させる可能性があります。

【活用可能なデータ】

  • 参加率
  • 特典・ポイントなどの利用率
  • 購買行動への影響

6. 感情的・社会的要因を考慮

取引面だけでなく、感情的なつながりも重視しても良いでしょう。感情的な繋がりや共通の価値観は、強力なロイヤルティの源となり得ます。

【活用可能な情報】

  • ブランドの価値観や社会的責任への取り組み
  • 感情に訴えるマーケティング施策
  • ブランドから連想される感情や思い

7. 業界標準とのベンチマーク

業界のベンチマークやベストプラクティスと貴社のパフォーマンスを比較することもできます。これにより、自社が優れている分野や競合他社に遅れをとっている分野を特定することができるかもしれません。

【活用可能なデータ】

  • 顧客満足度スコア
  • ネットプロモータースコア(NPS)
  • 顧客リテンション(維持)率

顧客ロイヤルティを向上させる要因を特定する際の課題

多くの企業がポイント還元プログラムやその他の特典など、効果が明確に見えるロイヤルティ向上策に注力しています。これらは確かに一定の効果を持ちますが、競合がより高いポイント還元率や割引を提供すれば、簡単に顧客がそちらに移るというリスクもあります。長期的で強固な顧客ロイヤルティを築くためには、目に見える施策だけでなく、顧客との深い信頼関係を育むことが欠かせません。

たとえば、店舗の雰囲気や従業員との温かいコミュニケーションといった、目には見えなくとも顧客心理に微妙な影響を与える要素も見逃せません。こうした要因の効果は一見測りにくいものの、顧客の長期的なロイヤルティに寄与する可能性があるのです。

これまでの分析手法では、顧客ロイヤルティに対して影響を与える複雑な要因を完全に理解することが困難でした。たとえば、アンケートなどで顧客が重視する点を特定できても、それらがビジネス成果(自社ブランドの購買)にどの程度影響を与えるのかを定量的に評価することが課題でした。このような課題に対応するためには、より包括的で高度な分析が必要となります。

CMMの概要と顧客ロイヤルティ向上に向けた活用

従来の分析手法の限界を克服し、より深い顧客理解を実現するため、近年注目を集めているのがCMM(コンシューマー・ミックス・モデリング)です。この革新的なアプローチは、複雑な顧客行動を多角的に分析し、ロイヤルティに影響を与えるさまざまな要因を統合的に評価することを可能にします。

CMMとは

CMMとは、顧客意識データ(アンケート調査)をもとに、自社や競合ブランドの購入メカニズムを解明する手法です。「どうすれば顧客が他社ではなく自社ブランドを選ぶのか」「どうすれば顧客のロイヤルティを向上させることができるのか」を定量的に明らかにするアプローチです。
CMMを活用すれば、顧客ロイヤルティに影響を与えるさまざまな要因を統合的に評価し、それらがビジネス成果に与える影響を定量的に示すことができます。たとえば「特定の要因(ブランドイメージ等)を1ポイント向上させることで、ターゲットセグメント(例:ミドル層)の〇%をロイヤル化(例:ミドル層からヘビー層へ移行)させることができる」といった具体的な洞察を得ることが可能です。これにより、マーケティング施策の優先順位付けや、効率的なリソース配分や実行を実現できます。

・関連記事のご紹介:CMM(コンシューマー・ミックス・モデリング)とは?消費者行動を解明する科学的アプローチの特徴や実施プロセス、活用事例を解説

従来の分析手法との比較

従来の調査や分析手法では、「顧客が何を重視しているか」という要素についてヒントは得られるものの、それらの要素がビジネス成果にどの程度影響を与えるのか(つまり、その要素を押し上げることによってどのくらいの購買(売上)が伸びるのか)を定量的に示すことが困難でした。一方、CMMはアンケート調査による消費者の意識データをもとに、あらゆる要素とビジネス成果との関係性を統合的に分析し、各要素がロイヤルティ向上に与える影響を構造的かつ定量的に解明することができます。これにより、どの要因に注力すべきか、あるいはどの要因には過度に注力する必要がないのかという、効率的な取捨選択が可能になります。

CMMによるロイヤルティに影響を与える要因の統計的分析

CMMの分析では、特定の顧客セグメントにおけるロイヤル化、たとえば「ライトユーザー」から「ミドルユーザー」へ、さらに「ヘビーユーザー」への促進に影響を与える要因を特定します。分析対象の変数には、商品の特徴やデザイン、価格設定、店舗数や販売経路、プロモーション施策(広告やキャンペーン)といったマーケティング4Pに加え、CX(顧客体験における要素)やブランド資産(感情的・機能的におけるブランドイメージ)も含まれます。これにより、従来の表層的な分析では成し得なかった、隠れた顧客心理や行動を深く理解することができるのです。また、各要因がどの程度顧客のステータス変化に影響を与えるかを定量的に評価することも可能です。

顧客ロイヤルティ向上を解明する統計分析

CMMの活用例

CMMの概念と手法について理解を深めたところで、具体的にどのように活用され、どのような成果をもたらすのかを見ていきましょう。以下にあるクレジットカードサービス会社におけるCMMの活用例を紹介します。

抱えていた課題

顧客ロイヤルティの向上のために何に注力すべきか、自社独自の重要な要素がわからないという課題を抱えていました。

  • ボリュームゾーンであるライト層からミドル層への移行(ミドル化)が最重要課題であり、次いでミドル層からヘビー層への移行(ヘビー化)が課題

分析内容

以下の二軸に分けて、各スイッチにおける重要要素(ドライバー)を解明しました。

  • 分析軸①:ミドル化へのスイッチ
  • 分析軸②:ヘビー化へのスイッチ

分析結果

CMMを活用して顧客ロイヤルティの要因を分析した結果、以下のような洞察を得ることができました。

各分析軸におけるスイッチングドライバーをスコア(スイッチ率)と共に算出

特典やポイント還元プログラムの影響

  • 特典やポイント還元プログラムが顧客ロイヤルティに与える影響は以前から認識していましたが、CMMによりその重要度を定量的に評価できました。

旅行関連サービスの影響

  • 旅行中に利用できるサービスが、ライト層からミドル層、さらにミドル層からヘビー層へ移行する際の重要な要因であることが判明しました。この情報は、旅行客をターゲットとするマーケティング施策の訴求ポイントとしても、戦略的に旅行客層を獲得・促進するヒントとしても有効です。

迅速で丁寧な対応の影響

  • 顧客対応の速さと丁寧さが、ライト層からミドル層に移行するための重要な要因であることがわかりました。

周囲からの評価の影響

  • 周囲から褒められたり認められたりすることが、ミドル層からヘビー層へ移行するための重要な要因であると判明しました。

分析結果の活用

これらの分析結果に基づいた洞察により優先すべきアクションが明らかとなり、以下の施策の検討に繋がりました。

マーケティング施策の最適化

  • 旅行関連サービスの利便性を訴求した広告・プロモーションを強化し、旅行客向けキャンペーンを実施する
  • ミドル化の促進に向け、迅速かつ丁寧な対応の特徴をアピールする
  • ヘビー化の促進に向け、会員向け特典やポイントプログラムの認知や理解促進を図る施策やイベントを企画する

商品・サービス改善

  • 顧客対応の質を向上させるための従業員トレーニングを強化する
  • 旅行関連の追加サービスを拡充し、顧客満足度を向上させる

このように、CMMを活用することで、企業は顧客ロイヤルティ向上に繋がる具体的かつ効果的な戦略を立案でき、ターゲット層ごとの精度の高い施策を構築することが可能です。

顧客ロイヤルティ向上におけるCMM活用のメリット

CMMを用いることで、企業はロイヤルティ向上のための効率的かつ効果的な意思決定が可能になります。以下に主要なメリットを提示します。

包括的な要因分析と影響度の定量化

CMMは、ポイント還元プログラムや特典などの目に見える施策だけでなく、店舗の雰囲気や従業員とのコミュニケーションといった要因まで、あらゆる要素を包括的に分析します。特に重要なのは、各要因がビジネス成果に与える影響を定量的に評価できる点です。例えば、「特定の要因への取り組みを強化することで、ターゲットセグメントの何%がより高いロイヤルティ状態に移行するか」といった具体的な予測が可能になります。これにより、投資対効果の高い施策を優先的に選択できます。

競合優位性の構築

CMMによる分析は、単なる価格競争や還元率の向上といった模倣されやすい施策を超えて、自社固有の競争優位性を構築するためのインサイトを提供します。どの要因が顧客のロイヤルティ向上(例:ライト層からヘビー層の移行)に最も影響を与えているかを定量的に把握することで、競合が簡単には模倣できない、独自の価値提供に焦点を当てた戦略を立案できます。

データに基づく戦略立案と説明力の向上

CMMは、施策の影響度を具体的な数値で示すことができるため、経営層への提案や戦略の策定において強力な説得材料となります。例えば、「特定の施策への投資を○○%増加させることで、顧客ロイヤルティが××%向上する可能性がある」といった、統計的な関係性に基づく提案が可能になります。これにより、マーケティング施策の戦略性と説明力を高めることができます。

マーケティング活動の持続的な最適化の実現

CMMは、マーケティング活動の効果を定期的にモニタリングし、その結果に基づいて戦略を調整することを可能にします。特に、従来のMMM(マーケティング・ミックス・モデリング)と組み合わせることで、質的要因(ブランド選択確率を上げる要因)と量的要因(投資量や配分の要因)の両面から、より精緻なマーケティング活動の最適化を実現できます。この継続的な改善サイクル(PDCA)により、市場環境の変化に応じた柔軟な戦略調整が可能になります。

質(CMM)と量(MMM)の最適化によるPDCAサイクルイメージ

・関連記事のご紹介:MMM(マーケティング・ミックス・モデリング)とは?特徴、手順や事例などを解説

おわりに

顧客ロイヤルティの向上において、多くの企業は「何を重視すべきか」という課題に直面しています。従来の分析では顧客が重視する要因を特定できても、それらがビジネス成果にどの程度影響を与えるのかを定量的に評価することは困難でした。

CMMは、このギャップを埋める革新的なアプローチです。マーケティングの4Pにおける要因やCX、ブランド資産などのさまざまな要素を統合的に分析し、各要因がロイヤルティ向上に与える影響を構造的かつ定量的に示すことができます。

特に重要なのは、「特定の施策への投資を増加させることで、どの程度のロイヤルティ向上が期待できるか」といった具体的な予測が可能になる点です。これにより、企業は感覚や経験則だけでなく、データに基づいた戦略的な意思決定を行うことができます。

自社での戦略効果の現状を把握したい、見直したい、顧客ロイヤルティの向上に関する課題(顧客ロイヤルティ向上のために、どの施策に優先的に投資すべきか判断に迷っているなど)について検証したい仮説がある場合は、CMMの導入を検討する良いタイミングかもしれません。

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