データを武器にできないマーケターは生き残れない時代が来た

メディアの多様化やコロナ禍による消費者の生活変化、個人情報保護規制の強化など、マーケティングを取り巻く環境は変わり続けている。

変化に適応できない企業は、本当に生き残れない時代が来たのだ。

では、こうした環境の変化にマーケター、ひいては経営陣はどう対応すべきか。
データをどのように戦略に役立てればいいのか。

マーケティング起点の経営でネスレ日本を急成長させた高岡浩三氏と、知識や経験だけに頼らないデータドリブンなマーケティングを支援する株式会社サイカCEOの平尾喜昭氏の対話から、変化に強いマーケティングの要諦を穿つ。

高岡浩三と平尾喜昭の対談

日本のマーケティングの課題はROI意識の低さ

高岡浩三(以下高岡)  よく「コロナ禍でマーケティングにはどんな変化が起きましたか」という質問をいただきます。

ですが、コロナをきっかけに急に変わったことなんてほぼありません。「これまでもあったが、見ようとしてこなかった変化」の対応を迫られただけなのです。

ケイアンドカンパニー株式会社代表取締役・高岡浩三氏

たとえば、DX(デジタル・トランスフォーメーション)。これまでもデジタルの時代だと言われてきましたが、実際にマーケティングに組み込めていた企業は一握りでした。

それが、コロナでリアルの活動が制限され、デジタルを活用せざるを得なくなったわけです。

平尾喜昭(以下平尾)  日々多くのマーケターの方と接していますが、「変化が加速しただけ」というご指摘には非常に共感します。

私たちサイカはデータサイエンスに基づき、テレビCMを含めた広告効果の可視化や最適な予算配分、クリエイティブ設計からテレビCMのプランニング・バイイングまでをトータルで支援する「ADVA(アドバ)」というサービスを展開しています。

データ分析の可能性を信じ、5年ほどツールを提供してきましたが、コロナ禍でこれまで以上にこの領域への期待が急速に高まっていると感じます。

サイカが提供するADVAの全容

高岡 サイカのことは以前から知っていましたよ。テレビCMというほぼ効果検証がされていなかった領域に切り込んだのが素晴らしい。

私がいたネスレ日本(以下ネスレ)などの外資企業は、テレビでもデジタルでも、どれくらい広告投資が売り上げに貢献したか=ROI(Return on Investment、投資利益率)をシビアに分析します。

「長く続くブランドを作る」という思想のもと、中長期的なマーケティング戦略を立てる必要があるからです。

一方、日本企業は次々と新商品を作ってスピード重視で売る、というやり方が一般的でした。まずはたくさん認知を取ろうという考えゆえに、ROIの検証が後回しになっていたのでしょう。

平尾 私が感じた課題はまさにそこでした。高岡さんもご存じの通り、欧米では1950年代からMMM(マーケティング・ミックス・モデリング)のもと、さまざまなマーケティング活動をデータで可視化するカルチャーが根付いています。

ところが、日本ではこの「効果の可視化」という部分に光が当てられてきませんでした。

MMMとは何か

ですが、コロナ禍をきっかけに経営のコスト意識も厳しくなり、マーケティング施策への説明責任も重くなっている。そこで、広告のROIを可視化したいというニーズが高まったのだと思います。

高岡 それはあるでしょうね。私も、広告施策のROIがわかっていたからこそ、数十億あったテレビの広告予算をゼロにして「キットカット」の受験生応援キャンペーンを立ち上げました。

キットカットはすでに認知のあるブランドだったため、テレビ広告が得意な「認知獲得」以外の部分に予算を使う戦略に切り替えたのです。

2000年代初めにネスレが公開した、『キットカット』の広告
2000年代の初めに、ネスレ日本は九州の方言「きっと勝っとお」に響きが似ていることを背景に、『キットカット』を受験の応援アイテムとして位置づけるコミュニケーションを展開。(写真出典:ネスレ日本公式HP https://nestle.jp/brand/kit/juken2021/)

コロナをきっかけにROIへの意識が変化した。これからは、ブランドなりサービスなりが、「本当に今投資すべき施策」を見極められるかがカギになるでしょう。

データは「建設的な議論」の必須要素

平尾 マーケティングや経営の現場に長くいらっしゃる高岡さんから見て、マーケティングのROIが根付いている企業とそうでない企業の差はどこにあると思いますか。

サイカ代表取締役CEO・平尾喜昭

高岡 一つは、経営者がマーケティングをわかっているかどうかです。

顧客の課題を発見し、それを解決する商品を作って届ける。私は、企業活動のすべてとも言えるこのプロセスを「マーケティング」と定義していますが、残念ながらこの一連をきちんと捉えられている経営者は日本にはほぼいません。

現場にはこれらを捉えた素晴らしいマーケターがいるのですが、トップの意識が変わらないと予算配分にも反映されない。当然、企業全体のROIへの解像度も低いままです。

平尾 日本ではマーケティングがコストセンターとして扱われることも多いですが、高岡さんがネスレで証明したように、本来は経営そのものであり、利益を生み出すプロフィットセンターですよね。

高岡浩三と平尾喜昭の対談

私たちもさまざまな企業をご支援していますが、マーケティングが強い会社からはおしなべてリーダーの強い意思を感じます。

高岡 逆に言えば、トップがきちんとゴールを掲げないと、現場がKPIやKGIを設定するときにブレが生じます。

変化に強いマーケティングの条件1:経営層がマーケティングに強い意思を持っている

トップと現場、そして現場同士が議論をする上で、ベースとなるのが数字やデータといったファクトです。特にネスレは外資企業ですから、ファクトが言語やバックグラウンドの違う人たちの共通言語として機能していたわけです。

一方、日本企業ではファクトを用いた議論が少なすぎる。もちろん、経験や感覚での意思決定も大切ですが、それに寄りすぎるのは危ういな、と。

平尾 実は、私たちはもともとマーケティングに限らず、あらゆる分野に向けてデータを活用したコンサルティング業を展開していました。

ですが、数年やってみてクライアントがほとんどマーケターだと気づきました。それくらい、他分野よりもマーケティングや広告の世界はデータを用いた議論が社内で少なかったのだと推察します。

そこで、当時のマーケターの課題を解決するために開発したのが、テレビCMを含めたオンライン・オフラインの広告効果を可視化するツール「ADVA MAGELLAN(アドバ マゼラン)」です。

ADVA MAGELLAN

高岡 素晴らしい。特に、日本企業だと声の大きい人の意見が通ってしまうことも多いですが、ファクトがあれば建設的な議論ができる。

ファクトはマーケティング戦略だけではなく、健全なマーケティング組織をつくっていく上でも欠かせない要素です。

いくら優秀なマーケターが優れた戦略を出したとしても、ロジックのない「鶴の一声」で方針が変わってしまったら、モチベーションを維持するのが難しいでしょうから。

変化に強いマーケティングの条件2:ファクトを用いた建設的な議論ができる

仮説なきデータ分析には意味がない

平尾 これまで10年ほどデータ分析の世界にいて、よく耳にする勘違いに「データ=過去を実証するもの」があります。

データ分析で、過去の施策を振り返ることもできますが、結果を出している企業は、何らかの仮説を立てた上で、未来の施策のために分析に取り組んでいるんですね。

この「仮説」という部分が非常に重要です。データを見る時の「軸」がないまま分析をしても、ぼんやりとした結果しか得られません。

サイカ代表取締役CEO・平尾喜昭

高岡 私もよく、「消費者調査をいくらしてもヒット商品やすごいキャンペーンはできない」と言っています。それは、結果ばかりを見ていて仮説がないからです。

逆に、仮説さえあれば、どんなデータも強力な武器になります。

ネスレで「1杯ずつ抽出可能なコーヒーマシーン」を作ったときもそうです。

核家族化が進むなか、一気に4杯、5杯を作れる従来のコーヒーマシンではなく、1杯ずつコーヒーを沸かしたい人が多いのではないか、という仮説を立てました。

それをアンケートで分析したところ、賛同の声が多く、商品化に至ったわけです。

平尾 私もよく、クライアントに「目的→問題意識→仮説→データ分析→意思決定」の流れが大切だと提案するのですが、目的がないと問題が特定できないし、問題意識がないと仮説は得られない。

さらに、仮説がないと良い分析もできない……と、目的や仮説が曖昧なままデータ分析という「手段」から入る、つまりデータ分析が「目的」になるのは間違いなんですよね。

変化に強いマーケティングの条件3:データ分析に目的や仮説がある

分析ツールを提供する私たちが言うのも少し変ですが(笑)、手法がいくら進化したとしても、結局は顧客のことを考え抜いているかどうか。それがマーケティングの成否をわけるのだと思います。

高岡 結局、自分の頭でどれくらい考えられているか、ということですよね。

よく「変化の激しい時代」なんて言うけれど、その変化の中身についてちゃんと考えられている人って実は少ない。

私は変化の定義を、平尾さんが今おっしゃったような「顧客の問題がどう変わったか」と置いています。

外部環境が変化するのは当たり前なのだから、まずは目の前のお客さんが何に今困っていて、何を欲しているのかを考える。それに向き合わないと、変化に踊らされるだけですから。

変化に強いマーケティングの条件4:外部環境が変わろうと顧客の問題を考え抜く

「資料作り」にばかり時間を割く人々

高岡 ただ、マーケティングの現場に目を向けると、「考える」という部分に時間を使えている人は一握りです。

マーケターが考えごとに使えるのは、業務時間の7%というデータもあるほどで、資料を作ったり、データを集めたりすることに多くの時間を奪われている。

マーケター個人というより仕組みの問題なんですが、はっきり言って資料作りって仕事じゃなくて作業なんですよ。マーケティングの本来の使命である「顧客の課題の発見と解決」に向き合えている人が少ないのは問題です。

変化に強いマーケティングの条件5:マーケティングの使命は「顧客の課題の発見と解決」

平尾 テクノロジーの進化によって作業が自動化されていくと、マーケティング本来の仕事をしている人とそうでない人の差がどんどん広がっていきますよね。

先ほどの話にも通じますが、目的や仮説を捉えられる人はデータを使って戦略も組み立てられるし、実行フェーズでもPDCAを回せます。

短期の顧客獲得単価(CPA)などに逃げず、あくまで経営者と同じ目線を持って、です。

高岡 そうですね。「考える」の先にある「実行」が大切で、結局手を動かしてみないとわからないことが山ほどあります。

顧客から選ばれるブランドやサービスというのは、もちろん戦略自体も素晴らしいのだけど、実行していくなかでフィードバックを吸収して必ずブラッシュアップをしています。

サイカのADVAシリーズも、顧客がこれまで無理だと思っていた「テレビCMの効果分析」という課題をなんとか解決しようと試行錯誤して、その過程で得たいろんな手応えを反映してきたからこそ今の形があるんだと思うんですね。

高岡浩三と平尾喜昭の対談

平尾 ありがとうございます。まさに、分析は顧客のニーズからスタートした事業ですし、後からはじめた広告の代理事業なども、分析だけでなく実践フェーズまで支援してほしいというご要望を受けて展開したサービスです。

せっかく分析結果が得られても、次の戦略に生かせなければ「絵に書いた餅」になってしまう。ならば、それを一貫で支援しますよ、とサービスを広げたんです。

高岡 そう考えると、データ分析のところでお話しした仮説が大事だという話は、ビジネスを作っていく上でも同じなんですよね。

繰り返しになりますが、変化に強いマーケティングやビジネスは、顧客の課題を解決するという目的があり、そのための仮説検証ができているかどうか。それに尽きます。

変化に強いマーケティングの条件6:仮説検証の積み重ねが「強さ」につながる

強調しておきたいのは、仮説の時点ではいくら間違っていてもいい、ということです。それを繰り返すことで、また新しい仮説が生まれて正解に近づけますから。

平尾 おっしゃる通りですね。そして、その仮説を確かめる手段として、データという強力な武器があるので、データサイエンスをマーケター、ひいてはすべての企業の方にご活用いただきたいです。

まだまだ日本で浸透していないデータドリブンなマーケティングを広げていけるよう、私たち自身も試行錯誤を重ねていきます。

マーケティングにデータという武器を。サイカ

[編集]高橋智香・大高志帆
[撮影]小池彩子・後藤渉
[デザイン]月森恭助
NewsPicks Brand Designにて取材・掲載されたものを当社で許諾を得て公開しております。

クッキーレス時代、日本がマーケティングにMMMを取り入れるべき3つの理由

マーケティング先進国アメリカで、約8割のマーケターが認知し、約半数の企業が実践している(*1)マーケティング分析手法「マーケティング・ミックス・モデリング(MMM)」。日本ではまだ1割の企業でしか導入が進んでいない(*2)MMMですが、実はさまざまなポイントで、現代のマーケティング環境に最適な分析手法であるといえます。

この記事では、日本において主流とされているMTAとMMMの違い、そしてMMMが次世代のマーケティングに最適といえる理由をお伝えします。

(*1) ニールセン・メディア、Facebook、Googleによるコンソーシアム最新レポート「マーケティング・ミックス・モデリングを活用して広告のパフォーマンスを向上させる方法」発行のお知らせ(ニールセン・メディア・ジャパン合同会社のプレスリリース)https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000004.000070691.html
(*2)企業の広告宣伝担当者212名に聞いた 広告の効果測定方法に関するアンケート調査 2020年版(株式会社サイカのプレスリリース)https://www.atpress.ne.jp/news/213842

MMMは、現代のマーケティング環境に合った効果測定手法

現代のマーケターは、数多くのメディアやチャネルを組み合わせたマーケティングコミュニケーションの展開を求められています。このように複雑化した環境下で成果を最大化するためには、各施策の効果を正しく把握するだけでなく、施策間の相乗効果を最大化する必要があります

「マーケティング・ミックス・モデリング(MMM)」は、さかのぼること70年以上前、1950年代のアメリカで誕生しました。テレビCM・ラジオ広告・交通広告・新聞広告といったオフラインのマーケティング施策が売上に与える影響の可視化を目的に開発されたものです。

そこから進化を遂げた現代のMMMは、オンライン・オフラインを問わず、さまざまなマーケティング施策が成果に与える影響を定量化できる効果測定手法となりました。あらゆるマーケティング施策を統合的に分析することから、「統合アトリビューション分析(*3)」とも呼ばれます。

(*3)アトリビューション分析:各マーケティング施策の成果(売上)への貢献度を定量的に測定する分析のこと。

このMMMが現代のマーケティング環境に合っているといえる理由が3つあります。

1つ目は、各マーケティング施策の「成果への影響(直接効果)」と「ほかのマーケティング施策への影響(間接効果)」の両方を数値化できること。

2つ目は、自社でコントロールできない外部要因についても分析できることです。

外部要因とは、市場環境(競合他社の広告や販売施策など)、季節性、天候など、マーケティング施策の効果や業績に影響を及ぼす可能性のあるあらゆる要因を指します。

たとえマーケティング施策が完璧だったとしても、競合他社が大幅な値下げを実施すれば販売数は減少するでしょうし、台風が来れば来客数は減少します。近年で言えば、COVID-19の影響は、マーケティング施策の成否にかかわらず、売上に大きなインパクトを与えました。

逆に、自社のマーケティング施策が成功したわけでなくとも、外部的な要因により売上が向上するケースもあります。

3つ目は、ブランド・エクイティ(ブランドが持つ価値のことで、製品やサービスの価値を増大させるもの)など、数ヶ月から数年単位に及ぶ中長期的な施策の成果と、短期的なマーケティング施策の成果とを分解してとらえられることです。

応用的なアプローチではありますが、ブランド力は、マーケティング成果のベースとなるものです。自社やサービスがどのくらい知られているのか。良い印象を持ってもらえているのか。そしてそれらがどのくらい成果に影響しているのか。これらを可視化することで、必要な施策も変わってくるはずです。

このように、MMMはこれまで効果の可視化が難しいとされてきた施策同士の相乗効果や外部要因の影響、ブランド価値といったあらゆる要因を包括的に把握し、「マーケティング施策の真の効果」を数値化します。

マーケティング施策の種類が多様化し複雑になった現代においても、個別最適ではなく全体最適で広告予算を最適化し、マーケティング成果を最大化するためのヒントを得られるのがMMMなのです。

日本企業のMMM活用率は約1割

MMMは、発祥の地でありマーケティング先進国である米国では、企業の規模や業種業態を問わず広く活用されています。一方、日本ではMMMのような高度な分析はまだあまり行われていないのが現状です。

サイカが2020年4月に実施した調査「企業の広告宣伝担当者212名に聞いた、広告の効果測定方法に関するアンケート調査 2020年版」でも、それが明らかになりました。

広告宣伝担当者を対象に、「現在用いている分析手法と今後用いたい分析手法」を尋ねたところ、「統計モデル・AI・機械学習などの技術を用いた広告効果の数値化、および最適な予算配分のシミュレーション」を現在活用していると回答した企業はわずか11.2%と、約1割にとどまりました。過去の調査と比較しても、2018年は4.9%、2019年は10.7%となっており、増加傾向にはあるものの、国内全体でみると導入企業はいまだ多いとはいえない状況です。

一方、「統計モデル・AI・機械学習などの技術を用いた広告効果の数値化、および最適な予算配分のシミュレーション」を今後活用したいと回答した企業は49.7%と約半数にのぼりました。2018年の調査時から3年連続で増加しており、高度な分析手法へのニーズは拡大傾向にあります。

広告宣伝担当者をに聞いた、現在用いている分析手法
広告宣伝担当者をに聞いた、今後用いたい分析手法

また、同調査では、オンライン施策・オフライン施策・外部要因などを統合した、領域横断的な分析がどの程度実践されているかも調査しました。

現在取り組んでいる分析として「インターネット広告・オフライン広告を領域ごとで分けて分析」が44.3%と最多だったのに対し、今後取り組みたい分析としては「インターネット広告・オフライン広告に加えて外部的な影響要因も含めた統合的な分析」が36.8%と最多です。

この結果を見ても、日本企業においては、MMMのような高度かつ領域横断的な分析手法へのニーズは高いものの、実践できていないのが現状のようです。

広告宣伝担当者をに聞いた、現在取り組んでいる分析と今後取り組みたい分析

日本ではMTA、世界ではMMMが高評価

MMMを活用している企業が約1割にとどまる日本で、現在主流となっている分析手法が「マルチ・タッチ・アトリビューション(MTA)」です。

MTAは、クッキーなど個人の行動ログデータをもとに、デジタル広告が売上などの事業成果に与える影響を測定します。

MTAとMMMは、過去のデータを分析して施策の売上貢献度やROIを算出し、広告予算の最適化を検討する手法である点では同じですが、分析のベースとなるデータが違います。MTAは各タッチポイントの接触データをベースにしますが、MMMは売上に影響していると考えられる要因の、時系列ごとの連動性をベースにします。

MTAは、マーケティングも販売もオンラインで完結しているEC事業者などの場合、非常に精度の高い分析が可能です。一方、オンラインとオフラインを組み合わせて施策を展開している企業の場合、オフライン施策における個人の行動データを取得することが難しく、MTAのみでの詳細な分析は難しくなります。

では、MTAとMMM、どちらが現代のマーケティングに適した分析手法なのでしょうか。

サイカが実施した、米国におけるマーケティング効果測定の歴史と最新動向調査によると、2016年以降、MTAとMMMを組み合わせた統合分析でマーケティングを測定・最適化することが企業の差別化のポイントとなっていることが分かりました(*4)

また、米国でMMMとMTAを融合したマーケティングの効果測定・最適化サービス、コンサルティングを提供するAnalytic Partnersは、2019年11月、「クライアントに提供する最適化のヒントのうち、増加価値の80%がMMMによるインサイトから得られ、MTAは残り20%にしか貢献していない」との調査結果を発表(*5)しました。
施策同士の関わりや時系列ごとの施策の連動性を明らかにしてくれるMMMは、タッチポイントごとの効果測定を得意とするMTAよりも、マーケティング全体の最適化につながるヒントを得やすいということでしょう。

米国では、社内にMMMを実践する専門チームが設置されている企業や、MMMツールを提供している事業者も増えてきました。このことからも、MMMが有効な分析手法として認められ、急速に浸透してきたことがうかがえます。

(*4)以下URL参照
・Market Guide for Attribution and Marketing Mix Modeling (Gartner, Inc. )https://www.gartner.com/en/documents/3463318/market-guide-for-attribution-and-marketing-mix-modeling
・The Forrester Wave™: Marketing Measurement And Optimization Solutions, Q1 2020(Forrester)https://www.forrester.com/report/The-Forrester-Wave-Marketing-Measurement-And-Optimization-Solutions-Q1-2020/RES145975
・The Forrester Wave: Marketing Measurement and Optimization Solutions, 2016 (Forrester)https://www.forrester.com/blogs/16-10-12-the_forrester_wave_marketing_measurement_and_optimization_solutions_2016/
 ​​(*5)Disrupting MTA: Introducing Commercial Mix Modeling(Analytic Partners)https://analyticpartners.com/news-blog/2019/11/disrupt-mta-commercial-mix/

「クッキーレス時代」到来で、日本でもMMMの導入が加速

日本では導入が遅れているMMMですが、いくつかの理由から、今後は日本でも導入が進んでいくと考えられます。なかでも最も大きな理由は、データ規制・プライバシー保護強化の流れがグローバルで加速していることにあります。

欧州連合の「EU一般データ保護規則(General Data Protection Regulation:GDPR)」(2018年施行)、米・カリフォルニア州の「カリフォルニア州消費者プライバシー法(California Consumer Privacy Act:CCPA)」(2020年施行)をはじめ、各国・各地域がデータプライバシーに関する取り組みを進めているほか、Appleが2021年春のiOS 14.5ベータ版リリースに合わせて発表した「広告識別子(IDFA)の取得制限」、Google Chromeをはじめとする各Webブラウザにおける「サードパーティークッキーの廃止」など、近年、データプライバシー保護に関する動きが活発化しています。

これは、オンライン上で取得できる顧客に関するデータの量、種類、粒度、そして活用目的が大きく制限されることを意味します。つまり、個人の行動データにもとづいて分析を行うMTAの精度を担保することが、技術的に難しくなっていく可能性が高いのです。

MMMは、クッキーなどを用いた個人の行動データにもとづくリアルタイムの分析は行いません。分析で利用するデータは、広告出稿量(テレビCMのGRP、デジタル広告のインプレッション数やクリック数など)、コスト、成果(来店客数、売上、申込数・契約数などのコンバージョン数)、および市場環境・季節性・天候といった外部要因に関するデータです。

このように、クッキーレス時代にも、マーケティング活動を正確かつ持続的に測定できる手法がMMMなのです。

日本でMMMを実践する3つの方法

日本企業においてもすでに潜在的ニーズは非常に高く、今後さらに需要が高まっていくとみられるMMM。実践する方法は主に3つあります。以下では、それぞれのメリット/デメリットとともにご紹介します。

1. 調査会社・コンサルティング会社に分析を依頼する

  • メリット:プロのデータサイエンティストによってデータ分析の調整が丁寧に行える/提供企業が比較的多く、サービスの選択肢が多い
  • デメリット:費用が高額/分析結果が出るまでに3~6カ月とやや時間がかかる

2. データサイエンティストを自社で雇用する

  • メリット:自社の課題を理解した上で分析するので、分析結果を次のアクションにつなげやすい
  • デメリット:データサイエンティストの採用は非常に難易度が高いため、採用までに多くのコストを必要とする場合が多い/採用市場にいるデータサイエンティストの数が少ない

3. MMM分析ができるツールを活用する

  • メリット: 専門知識がなくても短時間で分析できる/調査会社・コンサルティング会社に依頼するよりも安価
  • デメリット:日本ではMMM分析ツールがほとんど提供されておらず、ツールの選択肢が少ない

これらの方法について、「次のアクションへのつなげやすさ(問題意識・仮説の精度)」「分析にかかる時間」「分析にかかる費用」「選択肢の多さ」という4つのポイントで比較したのが下表です。

現代、そして次世代のマーケティングにおいて、各施策の売上への貢献や、施策間の相乗効果を正しく評価するためのデータ分析は、もはや必要不可欠です。

限りあるリソースを無駄遣いせず、適切な投資で最大限の成果を得るために、自社の事業の特徴やマーケティング戦略に合った効果測定手法を選択して、あるいは組み合わせて活用することが重要です。

データ保護・プライバシー規制強化などの社会動向もにらみながら、自社のマーケティング効果測定の今後のあり方について、改めて検討・議論してみてはいかがでしょうか。

個人情報保護規制の今後の見通しと、企業が取るべきアクション

企業が広告を通じて本当に伝えたいメッセージは何かを起点に、その企業の存在意義を考え直すタイミングが来た。インターネットの普及以降、拡大を続けてきたデジタルマーケティングは、いま分岐点に立っている。クッキーに代表される、個人に紐づくデータ(以下、パーソナルデータという)の取得や利用に、技術上及び法規制上の制限が生じるためだ。この変化は、デジタルマーケティングを手がけるすべての企業に大きな判断を迫っている。

パーソナルデータに対する人権意識の高まり

ユーザーが自社のサイトでチェックしていた商品を、他社のサイトでも広告として掲示し購入を促す。また、ユーザーの検索履歴や位置情報を元に自社のサービスを提案する。デジタルマーケティングでは当たり前に使われているこれらの手法が、今までのようには使えなくなる日が迫っている。アップルはすでに2020年3月に、同社のブラウザ『Safari』でサードパーティクッキーの利用を禁止しており、グーグルも2023年に同社のブラウザ『Chrome』でこれに追随する見込みになっているからだ。

そもそも、クッキーとは、自社のサイトを閲覧しているブラウザを特定する技術であり、このうち、サードパーティークッキーは、そのサイトの運営者以外の第三者が発行したクッキーを指す。

デジタルマーケティングを手がける企業は、ファーストパーティクッキーと呼ばれる自社で発行したクッキーと、複数のサードパーティクッキーを組み合わせることで、ユーザー一人ひとりをより深く理解しようとしてきた。しかし、その手法が使えなくなるのだ。

ファーストパーティークッキーとサードパーティークッキー

アップルやグーグルが、自社の自由度を下げるかのような変更を決断した背景には、特に欧州で、米国籍プラットフォーマーへの不信感が高まっていることがある。GAFAのような巨大プラットフォーマーは確かに生活を便利にしてくれたが、ユーザーは、プラットフォーマーがパーソナルデータを寡占的に取得、利用して収益を上げていることを快く思っていない。以前から欧州は人権意識の高い地域だったが、プラットフォーマーの台頭は「私のデータは私のもの」「デジタル化された個人情報は人権の一部」という考え方を広く深く定着させた。

企業に求められる「倫理的な姿勢」

こうしたユーザーの意識の変化に合わせて、各国の法規制も変化してきた。個人情報の取り扱いに関するルールは、年々厳格化の一途をたどっている。

顕著なのは欧州でのケースだ。2018年、EUでは一般データ保護規則(GDPR)が施行された。これは、1995年に施行されたEUデータ保護指令(クッキー指令)の特別法として制定され、パーソナルデータやプライバシーの保護をより厳格にするものだ。同様の動きはアメリカでも起きている。シリコンバレーのあるカリフォルニア州では、2020年にカリフォルニア州消費者プライバシー法(CCPA)が施行された。

GDPR、CCPA、個人情報保護法

日本でも、改正個人情報保護法が22年4月に施行される。施行後は、氏名や住所といった個人情報に加え、クッキーや検索履歴、位置情報など、それ単体では個人と紐づかない情報を個人と紐づけて利用する場合に規制の対象となる

個人の権利保護が強化されるのはGDPRやCCPAと同様だが、日本では法改正の発端となる事件があった。2019年に、個人ユーザーと企業のマッチングを行う事業者が、ユーザーの許諾を得ることなく、自社で取得したクッキーや閲覧履歴などから独自に算出したスコアを企業側に提供していたのだ。提供した事業者側ではそのスコアから個人を特定できない仕様になっていたが、提供を受けた事業者側では、技術的に容易に個人を特定できる仕組みになっていた。このため、違法ではないものの、法の趣意から逸脱した不適切なサービスと見なされ、提供した事業者側は内閣府の個人情報保護委員会から勧告を受けた。

欧米ほど人権への意識が高いわけではないとされる日本でも、このようなデータの利用は、多くのユーザーに、自分のデータや履歴が思わぬ形で使われかねないという“気持ち悪さ”を抱かせた。個人情報保護法は、こうしたユーザーの心境に鑑みて、企業の行き過ぎを規制することを大きな目的として改正された。

どのような利用の仕方ならユーザーは許容し、どこからを許容しないかは明確ではない。物差しはあるが目盛りがないようなものだ。炎上は、企業が考えているよりも手前の段階で、そして思わぬ形で発生する。

ポストクッキーには、
抜け道探しより「パーソナルデータを使わない」選択肢

法規制やプラットフォーマー、ユーザーの変化を受け、これまでビジネスにパーソナルデータを利用してきた企業は、その扱い方を考え直す必要がある。

まず、第三者から譲り受けたクッキーは、グーグル、アップルの動向により有用性が落ちると見られている。クッキーを使ったマーケティングを続けるのであれば、ルール上、取得と利用の許可をユーザーから得る必要がある。また、許諾を得るにあたっても注意が必要だ。ユーザーにわかりにくい方法で許諾を得た場合、法律違反でなくても、その姿勢が批難されることもあるからだ。さらに、欧米に追随する形で、今後日本でも、クッキーなど個人にまつわるデータ利用への規制が強まっていく可能性がある。

クッキーを使う代わりに、グーグルが新たに開発したFLoCを採用するという選択肢もある。この場合、ターゲティングの対象は、ユーザー個人ではなく、オンライン上でよく似た行動をとっているユーザー群となる。しかし、個人を特定しない技術なので、これまでのような精度ではターゲティングができなくなることが予想される。さらに、いずれはこのFLoCも、法規制やグーグルによる自主規制の対象となる可能性が高い。巨大プラットフォーマーがパーソナルデータを囲い込んでいるという構図は変わらず、「特定のユーザー群に所属することを示すデータも人権の一部だ」と解釈が拡大する可能性があるからだ。企業側は、パーソナルデータを利用し続ける限り、常に法規制やプラットフォーマー、ユーザーの変化に追随し続けるという構図から抜け出せない

このいたちごっこに終止符を打つには、パーソナルデータを使わないという決断を下すことだ。たとえば、マーケティング・ミックス・モデリング(MMM)と呼ばれる統計学的分析を採用するという選択がある。MMMは、パーソナルデータも大量のサンプルデータも必要とせず、テレビCMや交通広告など、複数のメディアやチャネルを横断して分析できる手法だ。70年代から海外の企業が導入しており、実績も十分にある。このMMMにシフトすれば、プラットフォーマーやルールの変更に過敏になる必要がないし、対応し損ねた場合のペナルティや対応に苦心する必要もないし、そもそも、ユーザーからも不信感を抱かれる心配がない。プラットフォーマーの手のひらの上からも脱出をはかれる。多少難解でも、長い目で見れば堅実でかつクリーンなのだ。パーソナルデータ頼みのデジタルマーケティングからの離脱は、着手が早ければ早いほど、スムーズかつ低コストに進められる

Cookie代替案のメリット・デメリット

クッキー問題は、マーケティングの課題ではなく経営課題

これまでのデジタルマーケティングは、パーソナルデータを入手し、それをよりどころとしてオンラインでユーザーを追いかけ回してきた。オフラインマーケティングでは難しかったワン・トゥ・ワン・マーケティングを可能にする場が、オンラインだったのだ。

目の前の一人のユーザーの動きが数値化され手に取るようにわかってしまうが故に、対処的なテクニックが磨かれてきた側面がある。実際にそれが功を奏し、購買に結びついたこともあるだろう。しかし、その成功は極めて局所的なものだ。そのユーザーはもしかするとそこまでしつこく追いかけ回さなくても購入していたかもしれないし、ほかのユーザーは追いかけ回されることに辟易し、追いかけまわす企業に対してネガティブなイメージを抱き、離れていったかもしれない。ワン・トゥ・ワンのデジタルマーケティングが、大局的に見たときにも最適なマーケティング手法なのかは、改めて評価し直す必要がある

そもそもマーケティングとは、何かを買ってもらうためのものではない。それに触れた人の心を動かし、新しいものの発見を促すものだ。その発見が、すぐに購買に結びつくこともあれば、結びつかないこともある。しかし、そうした揺らぎを包含し、人の心を動かそうとする試みを積み重ねることが本来のマーケティングではないだろうか。広告は、ただの押し売りではないはずだ。

個人情報保護規制強化の潮流の中、企業に求められるアクション

アップルやグーグルの方針転換や相次ぐ法改正は、一見すれば、デジタルマーケティングの自由度を著しく下げるものだ。しかし、見方を変えれば行き過ぎたターゲティングからの脱却を図り、企業が広告を通じて本当に伝えたいメッセージは何かを起点に、その企業の存在意義を考え直すきっかけにもなる。

したがって、この問題は、マーケティング部門の課題ではなく経営課題だ。真摯に向き合う企業だけがユーザーに“気持ち悪さ”を抱かせず、長く支持され、生き残っていける。裏を返せば、そうした視点を持てない企業は市場からの退場を余儀なくされるだろう。

杉山 賢(すぎやま・まさる)
株式会社サイカ 取締役CFO 兼 コーポレート本部長

2010年に早稲田大学を卒業後、ゴールドマン・サックス証券に入社。以降10年間、投資調査部門にてインターネット、ゲーム、放送/広告、民生電機セクターの主担当アナリスト業務に従事。2016年より同社の投資調査部ヴァイス・プレジデント。2020年6月、サイカ参画。取締役CFO/コーポレート本部長を務める。

福島 健史(ふくしま・たけし)
株式会社サイカ コーポレート本部法務部部長

2013年、早稲田大学法務研究科修了。2015年に弁護士登録し、現在、Kollectパートナーズ法律事務所所属。弁護士として、これまでにソーシャルビジネスへのサポート、証券コンプライアンス、新規事業構築サポート、企業の危機管理対応などに従事。2021年7月、法務部部長としてサイカ参画。

[デザイン]田中暢
[企画・編集]川畑夕子(XICA)