データドリブンマーケティングの事例:データで何が決まったのか

更新日: コラム
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データドリブンマーケティングの事例を見るときに確かめたいのは、どのデータやツールを使ったかよりも、分析によってどの意思決定が変わったかです。この記事では、サイカが支援した8社の公開事例を、変わった意思決定の種類ごとに整理し、それぞれの課題、使ったデータと手法、公開されている成果を紹介します。成果の数値が公開されていない事例は、その旨を明記しています。

事例一覧:業種・変わった意思決定・手法

8社の事例は、変わった意思決定によって、広告・メディアの予算配分、ブランドの訴求とターゲット、事業の方向性の3つに分けられます。

企業(ブランド)業種変わった意思決定主な手法
KDDI(UQ mobile)通信コミュニケーション投資の配分とクリエイティブ意識調査を組み込んだMMM
プリマハム(香薫®)食品メーカー次年度予算の編成基準、ブランドのコア価値MMM、CMM
ベルーナ(ナースリー)通信販売テレビCMとカタログの投資配分MMM
日本ピザハット飲食オンライン・オフライン施策の評価と見直しの頻度MMM
メガネトップ(眼鏡市場)小売若年層向け戦略の優先順位CMM
丸亀製麺飲食ブランディングと商品プロモーションへの投資、新商品の広告予算MMMを応用したブランド・エクイティ分析、ブランドKSF分析
伊藤園(お~いお茶)飲料メーカーブランドストーリー、ロイヤル化の捉え方CMM、AIによるシナリオ分析
エステー(ムシューダ)日用品メーカーブランドの提供価値MMM、CMM、SNS投稿のトピックモデリング

各事例は「課題」「変えた意思決定」「データと手法」「公開されている成果」「出典」の5項目で整理しています。成果の数値は各社の公開ページに記載されているものに限り、肩書は取材時点のものです。

広告・メディアの予算配分を変えた事例

広告やメディアへの投資配分は、データによって変わりやすい意思決定です。施策ごとの売上への貢献を推定できれば、前年の配分をそのまま引き継ぐ以外の根拠を持てるためです。

KDDI(UQ mobile):意識調査を組み込んだ月次の分析で、投資配分を見直す

課題:通信市場は機能面で差別化しにくく、価格競争に陥りやすい市場です。顧客獲得までのプロセスが複雑ななかで、コミュニケーション投資の成果をどう高めるかが問いでした。

変えた意思決定:主にオンラインメディアのクリエイティブと予算配分、そして伸ばすべき意識指標の設定です。

データと手法:週次の消費者意識調査の結果をMMM(マーケティング・ミックス・モデリング)に組み込み、「施策→意識→成果」の流れを分析しています。分析は月次で行い、高い頻度でPDCAを回しています。

公開されている成果:UQ mobileでは、契約者一人あたりに投じるコミュニケーション費用を、最適化前と比べて約2割削減しました(2023年度実績)。

出典:KDDI株式会社の支援事例(2024年8月公開)

プリマハム(香薫®):予算の編成基準を「前年踏襲」から「ROAS最大化」へ

課題:各施策のROASが明確でなく、客観的に把握したいという課題がありました。あわせて、価格競争から抜け出し、ブランドの力で選ばれる状態をつくることも目指していました。

変えた意思決定:次年度予算の編成基準を、前年踏襲から「ROAS最大化」へ切り替えました。テレビCMの出稿量、デジタル施策への配分、一部キャンペーンの内容も見直しています。その後、ブランドのコア価値を再定義し、それをもとに新しいテレビCMを制作したことが、2026年秋のイベントで報告されています。

データと手法:MMMで施策ごとの効果と効率を数値化し、CMM(コンシューマー・ミックス・モデリング)で顧客がブランドを選ぶ理由を分析しています。

公開されている成果:テレビCMはROASが平均を上回り、出稿後も成果への影響が続く長期蓄積効果があることが確認されました。具体的な数値は公開されていません。

出典:プリマハム株式会社の支援事例(2026年3月公開)、Brand Summit Autumn 2026 イベントレポート(2026年10月公開)

「広告代理店やメディアに属さないサイカの分析結果を用いることで、社内や経営層に対して『都合の良いデータ』ではない、客観的な説明が可能になりました」(プリマハム株式会社 執行役員 マーケティング本部分掌 片桐 修二 氏)

ベルーナ(ナースリー):テレビCMとカタログの配分を見直す

課題:看護師など医療従事者向けの通信販売で、テレビCMの効果を間接効果や残存効果も含めて正しく評価し、カタログへの投資を最適化したいという課題がありました。コロナ禍などの外部要因を加味して、プロモーションの効果を把握する必要もありました。

変えた意思決定:テレビCMやカタログなど、各施策への投資配分です。カタログの発行頻度・部数・セグメントも対象に含め、発行部数の抑制と、余った予算のWeb・ECプロモーションへの振り向けを段階的に進める方針を示しています。

データと手法:MMMによる分析です。

公開されている成果:数値は公開されていません。

出典:株式会社ベルーナの支援事例(2022年5月公開)

「MMMの分析結果が後押しとなり、アクションにつながりました。」(株式会社ベルーナ 経営企画室 参事 亀山 亮 氏)

日本ピザハット:オンラインとオフラインを同じ物差しで評価する

課題:テレビCMやチラシ、デジタル広告の効果を、オンラインとオフラインを統合して分析できていませんでした。各施策の直接効果だけでなく、施策同士の間接効果を加味した分析も課題でした。

変えた意思決定:分析と、その結果の施策への反映を四半期ごとに行う運用に切り替えました。以前は別の方法による重回帰分析を年1回程度しか行えず、スピードに欠けていたと語られています。配分を具体的にどう変えたかは公開されていません。

データと手法:MMMによるオンライン・オフライン統合の分析です。

公開されている成果:数値は公開されていません。

出典:日本ピザハット株式会社の支援事例(2023年4月公開)

「まず、デジタル広告の正しい効果が、数値でしっかりと可視化されたと感じました。」(日本ピザハット株式会社 マーケティング部 デジタルマーケティング課 課長 薮内 浩平 氏)

公開されている範囲で見ると、4社はいずれも、管理画面の数値ではなく、施策全体の売上への貢献をもとに配分を見直そうとしています。

ブランドの訴求・ターゲットを変えた事例

誰に何を伝えるかという意思決定は、顧客がブランドを選ぶ理由をデータで特定することで変わります。社内の議論が機能や価格の比較にとどまっていても、顧客が実際に何を決め手にしているかが分かれば、訴求の優先順位をつけられるためです。

メガネトップ(眼鏡市場):若年層向け戦略の優先順位を決める

課題:これまでのメイン顧客層だった30〜40代が上の世代へ移るなかで、若年層へのアプローチが注力テーマになっていました。

変えた意思決定:若年層を中心に、競合からのブランドスイッチ(新規獲得)とロイヤル化(離脱防止)の観点で、戦略の優先順位をつけました。あわせて、世代ごとに響く価値を見極めたうえで、コミュニケーション投資の選択と集中を進めています。

データと手法:消費者意識データを、CMMで世代別に分析しています。

公開されている成果:数値は公開されていません。

出典:株式会社メガネトップの支援事例(2026年4月公開)

「今回の取り組みによって今後の具体的な指針が示されたことは、意思決定のスピード向上において非常に意義のあるものでした。」(株式会社メガネトップ ブランド戦略室長 齋藤 暁彦 氏)

丸亀製麺:ブランドと商品プロモーションの関係を確かめ、広告予算を決める

課題:ビジネスの勝率を高める「キードライバー」を明らかにすることでした。

変えた意思決定:商品プロモーションとブランディングへの投資配分と、新商品の広告予算の決め方です。

データと手法:MMMを応用したブランド・エクイティ分析と、アンケート調査によるブランドKSF(重要成功要因)分析を行っています。MMMは四半期に1回のペースで回しています。

公開されている成果:短期の商品プロモーションと長期のブランディングに相乗効果があり、ブランディングが商品CMの効果も押し上げていることが確認されました。また、リピート・新規のいずれでも最も重要なKSFは「利用意向」で、それにもっともつながるのは「うどんがおいしい」という認識でした。効果の数値は公開されていません。

出典:株式会社丸亀製麺の支援事例(2024年5月公開)

「きっと正しいだろうと感覚でわかっていたことが数値として可視化されたため、意思決定しやすくなったほか、新商品の広告予算を決める際にも役立っています」(株式会社トリドールホールディングス 執行役員 CMO 兼 KANDOコミュニケーション本部長 兼 株式会社丸亀製麺 取締役 マーケティング本部長 南雲 克明 氏)

伊藤園(お~いお茶):価格以外の「選ばれる理由」から、ブランドストーリーを組み直す

課題:原材料の高騰や高品質な茶葉の争奪が進むなかで、「純国産茶葉100%」による差別化を保ちつつ、価格以外で選ばれる理由を明らかにし、市場の変化に対応できる戦略を立てることが課題でした。

変えた意思決定:「国産だから良い」という訴求の限界をふまえて、産地ブランディングを軸にした新たなブランドストーリーを組み立てました。ロイヤル化の鍵も、味ではなく、商品バリエーションによる購入の広がりとして捉え直しています。

データと手法:消費者アンケートをCMMで分析し、AIによるシナリオ分析で191通りの戦略シミュレーションを導き出しています。

公開されている成果:購入する商品の数が4本を超えたあたりからヘビーユーザーの割合が上がり始め、5本に達すると7割を超えることが分かりました(期間の記載はありません)。

出典:マーケティングアジェンダ2026 イベントレポート(2026年7月更新)

「我々が向かうべきは、『お茶というカテゴリー全体を成長させる』こと」(株式会社伊藤園 執行役員 マーケティング本部長 志田 光正 氏)

3社とも、顧客がブランドを選ぶ理由をデータで確かめたうえで、どこに力を入れるかを決め直しています。

事業・カテゴリーの方向性を変えた事例

市場そのものが縮小しているときにデータで変わるのは、個々の施策の配分より手前にある、ブランドが何を提供するかという意思決定です。

エステー(ムシューダ):市場が縮小した原因を特定し、ブランドの価値を再定義する

課題:「衣替え」の習慣が薄れ、防虫剤の市場が縮小していました。低迷の主な原因は購入率ではなく、使用率の低下にあるとされています。

変えた意思決定:ブランドの提供価値を、防虫を超えた「クローゼットのコンディショナー」として再定義しました。既存の「ムシューダ」シリーズの改善と新しいカテゴリーの創出、消臭芳香剤や除湿剤を含む自社の資産の統合も進めています。

データと手法:市場の時系列データ、グループインタビューをもとにしたキーワードで集めた約130万件のSNS投稿、メディア出稿のデータ、各部門への組織アンケートを、MMM、CMM、トピックモデリング、時系列分析などで分析しています。

公開されている成果:2025年9月から「NOTEシリーズ」を展開しています。売上やROASの数値は公開されていません。

出典:エステー株式会社 Brand Summit Spring 2026 イベントレポート(2026年3月公開)

「データサイエンスとAIによって提供すべき価値が明確に再定義された」(エステー株式会社 代表執行役社長 上月 洋 氏)

公開事例に共通する3つの点

8社の公開事例からは、データドリブンマーケティングが意思決定を変えるための共通点が3つ読み取れます。

1. 分析の前に、変えるべき意思決定があった 次年度予算の編成基準(プリマハム)、新商品の広告予算(丸亀製麺)、若年層向け戦略の優先順位(メガネトップ)のように、多くの事例で、分析が答えるべき判断が先に決まっています。

2. 社外の分析が、社内での説明と合意に使われた プリマハムでは、広告代理店やメディアに属さない第三者の分析が、経営層への客観的な説明の根拠になりました。ベルーナでも、分析結果がアクションの後押しになったと語られています。

3. 一度で終わらせず、定期的に回している KDDIは月次で、丸亀製麺と日本ピザハットは四半期ごとに分析を回しています。市場や競合が変われば施策の効果も変わるため、配分の根拠も更新し続ける必要があるためです。

一方で、分析ですべてが分かるわけではありません。丸亀製麺の南雲氏も、MMMは目的ではなく手段であり、すべてを解明できるとは考えていないと述べています。分析が示すのは判断の根拠であり、最後に決めるのは人です。

公開事例から見る限り、データドリブンマーケティングで意思決定が変わるかどうかは、データの量やツールよりも、どの判断を変えるために分析するかにかかっています。データドリブンマーケティングの考え方と進め方は「データドリブンマーケティングとは」で、分析を判断につなげる手順は「データドリブンな意思決定とは」で解説しています。

自社に近い事例を探すには

ここで紹介した事例のほかにも、業種や課題の近い事例をご紹介できます。顧客事例の一覧は「顧客事例」のページで、条件の近い事例を個別に知りたい場合は「事例リクエスト」からお知らせください。

データドリブンマーケティングの事例に関するよくある質問

データドリブンマーケティングで成果が出るまでに、どのくらいかかりますか?

取り組む範囲によって異なります。公開事例では、丸亀製麺のプロジェクトが約半年で、KDDIは2019年に取り組みを始め、月次の分析を続けています。分析で配分の見直し方針が出たあとも、その効果を確かめるには、見直した配分で一定期間運用し、結果を検証する必要があります。

大手企業でなくても参考になりますか?

考え方は参考になりますが、手法がそのまま使えるとは限りません。紹介している事例は、いずれも複数のチャネルに広告を出している消費者向けの企業です。MMMのような統計的な分析には、一定量のデータと施策のばらつきが必要なため、広告費や販売データの規模が小さい場合は、別の方法を検討することになります。

成果の数値が公開されていない事例があるのはなぜですか?

公開の範囲は各社の判断によるためです。この記事では、各社の公開ページに記載されている内容に限って紹介しています。

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