「量×質」の解明で意思決定を揃える ——戦略と実行をデータサイエンスで繋ぐ、『香薫®』ブランド再定義の舞台裏【Brand Summit Autumn 2026 イベントレポート】

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メディアの多様化が進む今、単なる投資配分の最適化にとどまらず、いかにブランドの本質的な価値を見出し組織全体で体現し続けるかが問われている。しかし現実には、多くの企業が描いた戦略と現場での実行が噛み合わない 「戦略と実行の分断」という構造的な課題に直面している。

2026年9月17日、福岡で開催された国内最高峰の完全招待制マーケティングカンファレンス『Brand Summit Autumn 2026』にて、プリマハム株式会社 執行役員 マーケティング本部分掌  片桐 修二氏と、株式会社サイカ 代表取締役社長CEO 平尾 喜昭が登壇。今回のイベントテーマとなる「Media Transformation(メディアトランスフォーメーション)」に因んで、「量(投資配分)×質(コア価値)」の双方を解明し、戦略から現場の実行まで意思決定の軸を一つに揃えることで組織の推進力を高めた、その実践変革のプロセスの全貌を明かした。

このレポートでは、当日のセッションの内容を紹介する。

※肩書は開催時点のものです

プリマハム株式会社 執行役員 マーケティング本部分掌  片桐 修二氏
株式会社サイカ 代表取締役社長CEO 平尾 喜昭

メディアトランスフォーメーションの本質と意思決定の壁

セッションの冒頭、サイカの平尾はメディアトランスフォーメーションの本質を以下のように整理した。

「メディアトランスフォーメーションの真の目的は、単なるDXやAIによる出稿量の最適化ではありません。メディア投資の『量』と、ユーザー体験などの『質』の双方を磨き上げ、事業成果を最大化させることにあります。そして何より重要なのは、それを絵に描いた餅に終わらず、実行まで落とし込むことです(平尾)」

株式会社サイカ 代表取締役社長CEO 平尾 喜昭

しかし、現実には「量」を追うチームと「質」を追うチームで人や組織が分断されており、統合的な意思決定が阻害されているケースが多い。さらに、AIが目覚ましい発展を遂げている現代においても、投資量や体験の質がどれほど成果に寄与しているかというドライバーの解明や判断根拠の証明をAI単体で行うことはできない。土台となる戦略やその根拠となるデータが統一されないまま膨大な打ち手案だけを生成しても、判断根拠の曖昧さや視点のバラつきが残り、実行の精度は上がらない。結果として、組織全体を巻き込んだ確固たる「意思決定」に至らないという状況に陥ってしまう。

これに対し、平尾は「データサイエンスの力でデータに意味を持たせ(データの意味化)、人が議論・判断しやすい形に思考や論点を揃える(意思決定の高度化)ことで、組織の意思決定を引き上げることができる」と強調した。

意思決定の壁を乗り越え、戦略から実行までを分断なく繋ぎ合わせるためにサイカが提供する独自のAI基盤が「XICA*AIP(AI Platform)」だ。XICA*AIPは、分析・意思決定・実行・学習を一気通貫で回し、意思決定プロセスそのものを仕組み化する。具体的には、データを根拠に基づいた情報に変換する「CORE 01:データの意味化(Decision Insight)」、独自のコンテキスト(文脈)を学習して思考や論点を揃える「CORE 02:意思決定の高度化(Decision Refinement)」、そして意思決定のプロセスと成果を蓄積して組織の学習ループを作る「CORE 03:組織知の資産化(Decision Intelligence)」という3つの提供価値群から構成される。

データサイエンスを駆使しながら、組織としてこのCORE 01~03のループを回し続けること。これによって分散しがちな組織の意思決定が最適化され、企業が「勝ち続けられる状態」を持続的に実現していくのだ。

3つのコアとこれらを貫く「XICA*AIP」
3つのコアとこれらを貫く「XICA*AIP」

CORE 01:データの意味化|顧客起点でのメカニズムの解明

勝てる戦略を描く上でまず不可欠となるのが「CORE 01:データの意味化」だ。「データの意味化」とは、単にアンケート結果の平均値といった表面上のデータを追うのではなく、「消費者の意識や行動がどのレバー(ドライバー)によって変化し、ロイヤル化に繋がっているのか」といった消費者の購買構造(メカニズム)を紐解くアプローチを指す。 このメカニズム解明に向け、プリマハムの主力ブランド『香薫®』で新たな取り組みが開始された。

香薫®は消費者から高い支持を得ているものの、調査を行うと第一に「コスパが良い」という評価が突出して顕在化していた当時の状況を、片桐氏は次のように振り返る。

「コスパが良いと評価されていること自体は素晴らしい点ですが、他社から同様の商品が出た際には、価格や露出量だけの勝負になりやすいデメリットがあります。他社にはない、確固たる自社独自の軸や価値を再定義する必要がありました(片桐氏)」

プリマハム株式会社 執行役員 マーケティング本部分掌  片桐 修二氏

また同社では、調査・商品企画・広告宣伝販促の各機能が「マーケティング本部」として2025年に統合されたばかりであり、施策の推進にあたって組織内の認識をいかに揃えるかが大きな課題となっていた。

つまり、他社との価格競争を回避し、持続的な成長を描くためには、「メディア投資(量)」の効率化と「ブランド価値(質)」の再定義を同時に行い、組織の認識を揃えながら実行精度を上げる必要があったのだ。これらの課題に対し、データサイエンスを用いた取り組みは以下の通りだ。

  • 量の解明:MMM(Marketing Mix Modeling)により、各メディアの短期的な売上だけでなく、数年間にわたる長期効果も含めたROASを算出。最適な予算配分シミュレーションに基づく具体的なアクションプランを策定した。

    ▶ 量の解明に関する詳細はこちら:データサイエンスで王者に挑む、プリマハムのマーケティング変革

  • 質の解明:CMM(Consumer Mix Modeling)により、マーケティング4PやCX、ブランド資産(機能価値・情緒価値)といった観点から、ミドルユーザーからロイヤルユーザーへ引き上げるドライバーの解明に挑んだ。

質の解明で重要なのが、アンケートデータ等をそのままAIに読み込ませると、やはり「コスパが最も重要である」という安易な結論に至ってしまう点だ。アンケートの回答(評価)スコアが高いからといって、それが真にロイヤル化を引き起こす要素なのかどうかまではわからない。「評価が高いこと」と「実際に購買やロイヤル化に繋がる真のドライバーか否か」は実は一致していない場合も多いのだ。

そこで、統計モデルと機械学習を掛け合わせたサイカ独自のCMMを用いて分析を行った結果、回答スコアが高かった「コスパ」ではなく、自社でコントロール可能な領域において最もスイッチ率が高いドライバーとして「商品が本来持つ独自の強み」が挙げられた 。 スイッチ率(アンケート回答スコアが1pt上がることによってロイヤル化する人の割合)が高く、ロイヤルユーザーへと引き上げる最大の実効的なレバーであることが見えてきたのだ。

さらに分析を進めると、この独自の強みはブランドイメージとして十分に認識されていない一方で、強み自体は魅力スコア(魅力に感じる度合い)が非常に高いという認知と魅力の「ギャップ」が存在することが判明した。つまり、このコア価値を正しく伝える具体的な訴求によりブランドイメージを醸成することで、さらなる需要拡大(伸び代)が期待できるということだ。 

このように、データを単なる数字として見るのではなく、「どのレバーを動かせば消費者の意識が変わり、ロイヤル化するのか」という核心的なメカニズム(データが持つ意味)を導き出したことで、組織の認識や照準が揃い、納得感の高い戦略構築へと繋がった。

※具体的な分析結果や戦略方針は非公開のため、実際の分析結果を加工・マスクした表現を用いています

CMMによるスイッチ率ランキング
CMMによるスイッチ率ランキング

CORE 02:意思決定の高度化|データサイエンスを駆使した戦略・戦術への昇華

「CORE 01:データの意味化」によって導き出されたコア価値を、次はいかにして組織全体が納得するコンセプトへと落とし込み、現場の施策へ反映させるか。ここで展開されたのが「CORE 02:意思決定の高度化」の実践である。

このフェーズでは、香薫®のコア価値を消費者に伝える際に重要となる要素、「人(どのような人たちに)」「オケージョン(どのような時・場所で)」「感情(どのような感情を)」を、以下の3ステップを経て特定した。

  • 【Step1】重要要素の仮説出し:SNS(X等)の投稿データやインタビューデータを分析。機械学習を用いて消費者ニーズを可視化し、ターゲットやシーン等の重要要素の仮説を抽出した。
  • 【Step2】要素の絞り込み:導き出した仮説をもとに、「どのような切り口や訴求が、商品独自の強みを最も引き上げるのか」を定量的に検証。アンケート調査・分析により、仮説の検証とコア価値を感じやすい要素の絞り込みを行った。
  • 【Step3】コンセプトの明確化:受容性調査を行い、どの切り口が最も消費者に響くかを特定。コンセプトの解像度を上げて「クリエイティブブリーフ」へ落とし込み、テレビCMをはじめとするマーケティング施策へと昇華させた。
マーケティングコンセプト構築における3ステップ
マーケティングコンセプト構築における3ステップ

こうして制作された新テレビCMは、放映後の調査において、非接触者と比較して接触者の購買意向が大幅に上昇するという明確な成果をもたらした。しかし、このプロセスにおいて何より大きかったのは、「根拠(エビデンス)に基づく明確な軸」をもって意思決定を行えたことだと片桐氏は振り返る。単なる感覚値や経験則ではなく、分析結果をもとになぜこの強み(ドライバー)がロイヤル化に不可欠なのかという納得感のあるストーリーを提示できたことで、経営層から現場まで組織全体の目線をスムーズに揃えることが可能となったのだ。

「分析結果に対して、経営陣から『結局は(自分たちが考えていた特徴と)同じではないか』と言われる場面もありました。しかし、これまでの感覚的な判断とは異なり、『なぜこの強みが重要であり、どのような文脈で訴求すべきなのか』について根拠を持って経営陣に伝えることができました。調査・商品企画・広告宣伝販促が三位一体となって、一つの目線、一つの指標で語り合える基盤が整ったことこそが、最大の成果だと感じています(片桐氏)」

これに対し平尾も、「データサイエンスというと、斬新な発見ができそうだということばかりに目が向きがちだが、自分たちが本来持っていた強みを途中で手放してしまわぬよう、確信を持って磨き続けるための後押しとしてデータを使うことこそが本質だ」と応じた。

平尾と片桐氏、Brand Summit Autumn 2026

CORE 03:組織知の資産化|勝ちの再現に向けた今後の展開

セッションの終盤、平尾は今後展開される「CORE 03:組織知の資産化」に向けた展望に触れつつ、XICA*AIPによる実装デモを披露した。

データサイエンスの各種モデルや分析データが網羅的に連結されたこのプラットフォーム上では、例えば「売上が下がっている」といった課題に直面した際、AIはその背景にあるデータやコンテキスト(文脈)を正しく理解しているため、原因の深掘りが自動で可能になる。「メディア投資の『量』を変更すべきなのか」、それとも「ターゲットやコンセプトといった『質』を変更すべきなのか」といった判断も、裏付けのあるデータと根拠に基づいて特定されるのだ。

デモで示されたケースでは、実際にAIと対話や壁打ちを繰り返しながら真因の深掘りを行った結果、「コンセプト(質)に課題がある」という結論が導かれ、具体的な打ち手が決定。その内容がプラットフォーム上で上申・承認された。さらに、この上申された施策が実行され、どのような成果(インパクト)をもたらしたかというプロセスと結果のすべてがプラットフォームに記録されていく。個人や個人が使用するツール等にナレッジが散逸するのではなく、意思決定のプロセスと成果を組織のナレッジとして蓄積・構造化していく。これこそが「CORE 03:組織知の資産化」が目指す世界であり、この仕組みによって組織全体の意思決定精度とスピードは飛躍的に引き上げられるのだ。

XICA*AIPによる実装デモ
XICA*AIPによる実装デモ

しかし、どれほどテクノロジーが進化し、AIが高度な示唆を出せるようになったとしても、最後に舵を取るべきは人間である。平尾は、AI時代だからこそ人が意思決定を担う意義を強調した。

「待っている未来は『AIの勝利』ではなく、『AIを駆使した人による勝利』です。マーケティングは個人で行うものではなく、組織で議論し、合意形成し、一丸となって推進するからこそ大きな成果に繋がります。AIに意思決定を委ねるのではなく、AIを駆使しながら自らの意志で決断していくことが重要です(平尾)」

片桐氏も「今回できた基礎をベースに、年間を通してテレビCMや販促施策で一貫したメッセージを届け続け、香薫®の魅力をより多くのお客様に届けていきたい」と、今後の展望を強く語った。

データサイエンスという共通言語によって「量」と「質」のメカニズムを解明し、CORE 01、02、そして03のループを通じて組織の意思決定を揃え続けること。それは、ブランドが次なる成長フェーズへと跳躍するための最も確かな道筋と言えるだろう。

マーケティングカンファレンス『Brand Summit Autumn 2026』株式会社サイカ、プリマハム株式会社

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