勝率を高めるマーケティング戦略の裏側 ── 丸亀製麺式データサイエンス活用法【マーケティングアジェンダ2024 イベントレポート】

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マーケターの多くが理想とするデータドリブン・マーケティングの最先端をゆく丸亀製麺。その指揮を執るのが、トリドールホールディングス執行役員CMOであり、丸亀製麺取締役マーケティング本部長を務める南雲克明氏だ。

2024年6月20日、沖縄で開催された日本最高峰のマーケティングカンファレンス「マーケティングアジェンダ2024」で、南雲氏とサイカ代表・平尾が、両社で取り組む丸亀製麺のデータドリブン・マーケティングの実例について話した。

このレポートでは、当日のセッションの様子を紹介する。

丸亀製麺のマーケティング戦略

はじめに、丸亀製麺のマーケティング戦略について、南雲氏に解説いただいた。

丸亀製麺では、マーケティングにおいて「感動」「二律両立」「感性とデータサイエンス」の3つのキーワードを大事にしている。

このうち最重要となる「感動」は、お客様を創る源泉価値だという。そして、感動をつくるために大事にしているのが「二律両立」という非合理の強さを追求する考え方だ。相反する2つのものがあるとき、どちらかを取りどちらかを捨てる二律背反で考えることが多い。しかし南雲氏はその両立を目指す。また、感動の再現性を高めるためにデータサイエンスを活用する「感性とデータサイエンス」という考え方を頭においてマーケティングをしていると話した。

続いて、丸亀製麺のマーケティング戦略についても解説いただいた。

「丸亀製麺の戦略はシンプル。 選ばれる必然をつくるために、左脳と理性にどうアプローチをするのか。右脳と直感にどうアプローチをするのか。この2つを意識してマーケティングをしています(南雲氏)」

南雲氏が語るこの戦略を、当日投影されたスライドを参考に深く理解したい。

まず、左脳と理性へのアプローチとして、選ばれる「パーセプション(認識)」をつくる。また、右脳と直感へのアプローチとして、選ばれる「衝動」をつくる。「衝動が理性を超えてくるのが外食の特徴。衝動をどうつくるかを意識してマーケティングをしている」と南雲氏は言う。

さらに、戦略の軸となるのはブランド力とCX(顧客体験価値)の掛け算だ。

コミュニケーション(クリエイティブ、コピー、その他さまざまな企画)を通して選ばれるための「パーセプション」と「衝動」をつくり、店舗での体験を通してリピートに繋げるための「実感」をつくる。この掛け算でスパイラルアップすることで業績が上がりやすくなると南雲氏は話す。

マーケティングの勝率を高める「キードライバー」の構造解明

 「常に環境が変わる中、勝ちパターンは常に最新でなければいけない。精度もアジリティ(機敏性)もギリギリまで上げなければいけない(平尾)」

この課題を解決するため、丸亀製麺では2つの大きな取り組みを行った。

ひとつは、事業成果に繋がるキードライバーを明らかにするAwarenessデータ分析だ。MMM(マーケティング・ミックス・モデリング)では解明できなかったWhat(誰に・何を)を、消費者意識調査のデータをもとに明らかにした。

もうひとつが、Whatを押し上げるHowを明確にし、その適正な配分を統合的に評価するMMMハブ化の取り組みだ。

2つともMMMが基盤にある上での取り組みとなる。

▲ 丸亀製麺とサイカの取り組みはMMMからスタートし、Awareness分析、MMMハブ化と進化してきた

もともと、丸亀製麺では下図のようなマーケティングモデルを構築していた。

事業の持続的な成長に必要なLTV向上を支えるのは来店意向と再来店意向。そして、来店意向を支えるのはクリエイティブの質やメディア量、ブランドイメージだ。一方の再来店意向には顧客体験価値(CX)が重要で、そのためには店舗体験やCS・EXが重要という構造になっている。

サイカと取り組んでいるのは、このマーケティングモデルの解像度を上げるというものだ。

Awarenessデータ分析とMMMハブ化の取り組みを経て、この図の中でそれぞれのグループを繋ぐ線がすべて数値で明らかになり、さらに各グループが細分化された

▲ 実際は、各グループの影響度が数値で明らかになっている

Awareness分析とは

ここで、Awarenessデータ分析について、平尾が概要を説明した。

利用回数をゴールとした時に、 新規からリピートの各ターゲットごとに、どの態度指標が重要なのかを定量的に明らかにする。これが1st解析のキードライバーの特定だ。

その後、2nd解析として各キードライバーに影響を与える評価項目を特定していく。たとえばブランドイメージやアクセス数、カテゴリエントリポイント(CEP)、メディアの量・クリエイティブの質がある。すべてを紐付けて、すべての重軽を数値で出す。

そうすると何がわかるのか。

たとえば新規客の場合、利用回数に対して重要なのは、推奨意向でも純粋想起でもなく利用意向であることがわかった。そして利用意向を押し上げるのは「うどんがおいしい」というパーセプションだ。さらに、「うどんがおいしい」を構成するイメージもすべて数字で明らかになっている。オッズ比(*1)を使って重軽を出すと、たまたまではあるが、いわゆるPOD(差別化ポイント)が丸亀製麺にとって重要なポイントであることがわかった。

▲ 丸亀製麺の差別化ポイントのオッズ比が高く、パーセプションの獲得を押し上げていることがわかった

この中でも重要なのが、オッズ比の数値が最も高かった「品質が良い」という項目だ。「品質が良い」を構成する要素を深掘りしていくと、「安心して食べられる」「他の店と違う良さがある」の2つがキーになっていることがわかった。さらに、ここに紐づく原因因子として、「共感できる」「こだわりがある」などがある。

▲ 「品質が良い」というキードライバーを押し上げる因子と、それらを構成する原因因子が明らかになった

(*1)オッズ比:ある事象が起こる確率を、事象が起こらない確率で割ったものを「オッズ」といい、ある事象の起こりやすさを指す。「オッズ比」は2つの群のオッズを比較したもので、それぞれの事象の確率をp1,p2としたとき、以下の式で求められる。

データサイエンスを活用した丸亀製麺のプロモーション事例

ここで、2023年の丸亀製麺のプロモーションを振り返ってみると、まさに上記の分析の通りになっている。

「安心して食べられる」というキードライバーが、こだわりや誠実さを表現する「麺職人×製麺所」というブランディングに繋がり、「他の店とは違う」というキードライバーは、2023年にメガヒットしたシェイクうどん、今年6月に発表されたうどーなつなど、それこそブランディングと二律背反するようにも思える商品プロモーションの実現に寄与し、他店との違いを印象づけている。

▲ 利用意向を高めるのに必要なパーセプション獲得のため、キードライバーを押し上げるマーケティング戦略を実行した

「まさに感性とデータサイエンスが両立された結果としての勝ち筋。どこでレバーを引くと利用回数がどれだけ増えるかを全部計算した上で前へ進んできた(平尾)」

ただ、社内調整はそこまで簡単にはいかず、逆風の中でもやり切るという強い意思が必要だったという。

「これだけ聞くともっともらしく見えるんですけど、麺職人×製麺所というブランディングは4年前はほぼ100%反対されていました。シェイクうどんも最初はほぼ9割が反対だったので、どちらも反対の風が強い中、そこをやり切ると決めて今の成果があります(南雲氏)」

勝ち続けるためのデータサイエンスとは

複数回の改善を経て、丸亀製麺のマーケティングモデルは以下の図にアップデートされた。

最終ゴールを客数(杯数)とした時の、新規層とリピート層のキードライバーと、キードライバーを押し上げるブランドイメージが明らかになっている。そこにブランディング、商品プロモ、店舗体験、幸福度といったHowが紐づき、それぞれが何ポイントずつ成果につながっているのかがわかる。

さらにいうと、ブランディングと商品プロモに関しては、広告だけでなくPRも含めて分析しており、テレビに関しては、数年後の蓄積効果も含めて分析する。そして、これらの分析を週次単位で回し続けている。

キードライバーを定量的に構造化しMMMと合流させることでマーケティングの勝率を高める構想は、南雲氏がトリドールホールディングスに入社した7年前から描いていたものだという。南雲氏にMMMについて聞いた。

「MMMを始めて7年目になるんですけれど、以前別の会社様とやっていた際はスピード感が合いませんでした。スピードは価値なので、高速でPDCAを回して示唆を出し、次に繋げることが重要です。また僕には、すべてのマーケティング活動を数値化して説明する責任があります。そうした時にMMMだけだと足りないんですよね(南雲氏)」

 MMMで予算配分はわかるが、なぜこの予算配分なのかは説明できない。ある施策への投資を増やすとなった時に、どうすればROIが上がるのかまではわからない。

仮説だけでなく、仮説を裏付ける根拠が求められる。自分の感性と数字的な根拠の両方がないと推進が遅くなってしまうので、仮説の裏付けのためにもデータサイエンス活用が必要」と南雲氏は言う。

サイカはこれまでHowの解明に特化したMMM「MAGELLAN」を提供してきたが、丸亀製麺様とご一緒する中で、成果とHowの間にあるキードライバー(What)を解明し、押し上げるべき態度指標と獲得すべきパーセプション、そしてそこに向けて注力すべき施策を明らかにする取り組みに挑戦してきた。そして、これがまさに勝ち続けるためのデータサイエンスだと考えている。

 「1年だけ勝てと言われたらあまり考えずに色々できます。『ずっと勝ち続ける』のは難しいですが、我々マーケターはそれをやらないといけません。ずっと勝ち続けたいからデータサイエンスをしっかり活用するっていうところがあると思いますね(南雲氏)」

ブランド力・CX・EXのスパイラルアップ

冒頭で解説した通り、丸亀製麺はコミュニケーションでパーセプションと衝動をつくり、店舗で実感をつくることをベースにしているが、南雲氏が追い求めるマーケティングはさらに先に進んでいる。

ブランド力・CX・EXの3つをスパイラルアップさせるマーケティングに取り組んでいます。ブランドとCXは当然ですが、我々のように人に働いていただく事業は、内発化された従業員のみなさんが多ければ多いほど、数字もブランド力もCXも高まり続けます(南雲氏)」

▲ データサイエンスを活用し、この3つそれぞれについて現在の状態を高速で確認している

丸亀製麺のデータサイエンスへの投資は2019年から開始し、毎年マーケティング総投資の約3%を配分している。結果として、マーケティング総投資は変わらないまま、6年間で売上収益は128%増事業利益は148%増を記録した。収益、利益、効率性すべてが年々向上している

「無駄打ちしても意味がない。その分を従業員の方に使ったり、店舗の改装に使ったりしたほうがいい。効率はできる限り追い求めるけれど、効率よりも感動を追い求める。そしてその感動を解き明かすのがデータサイエンスです(南雲氏)」

丸亀製麺の事例に学ぶ3つのポイント

セッションのまとめとして、平尾からデータドリブン・マーケティングを志向する方に向けて、丸亀製麺の事例から学ぶべき3つのポイントが共有された。

1つ目は、仮説の重要性だ。

丸亀製麺は、仮説を立て、仮説の根拠を知るためにデータサイエンスを活用している。「AIの台頭もあり、データサイエンスが何か答えてくれると思うかもしれないけれど、それは100%ない。答えを出すのは人。答えの精度と勝率、再現性を上げるためにデータサイエンスを使うというのが賢い使い方」と平尾は言う。

2つ目は、事業成長のためのキードライバーを明らかにすることの重要性だ。

丸亀製麺でいうところの「うどんがおいしい」を構成する要素と構造を明らかにすることで、マーケティング投資がブレにくくなり、意思決定が早くなる。また、社内での反対意見を押し返すなど、ロジカルに​意思疎通するための素材にもなる。

3つ目は、時代の変化に合わせて、マーケティング戦略と予算配分を変え続けることだ。

丸亀製麺の場合、分析基盤が構築されているため、高速でそれらを変え続けることができる。初期投資の大きさに足踏みをする方もいるかもしれないが、平尾は「分析基盤構築への投資は成果が出れば回収できるので、結局のところROIが良い」と話した。

南雲氏は平尾が話した3つのポイントに共感しつつ、「速く、精度高く、仮説について腹を割って話せるチームメンバーがいるか否かも重要」とデータサイエンスチームの重要性についても言及した。

MAGELLAN×COMPASSで実現する”勝ち続けるマーケティング”

これまで270社以上のそうそうたるクライアントと向き合い、MMMを市場に浸透させてきたサイカだからこそ、MMMだけでは実践的な意思決定ができないことに気がついた。そこで、MMMに加えて必要なのが、本日話してきたキードライバーを解明するソリューションだ。これら2つが揃ってはじめて、再現性をもって勝ち続けることができる。

「5〜6年前、僕らがはじめてMMMを掲げた時の“みんな知らないよな”という感じを思い出す」と言いつつ、平尾はCMM(コンシューマー・ミックス・モデリング)という考え方を紹介した。

MMMが、事業成果を基点に「どこで・どれぐらい」を解明する量の世界で最適な投資配分がわかるのに対し、CMMは、消費者がブランドを選ぶ理由を起点に、「誰に・何を」を解明する

「MMM×CMM」の両輪で意思決定を高精度化できるという考え方のもと、道を進むためのMAGELLANに加え、道を確かめるためのCOMPASSというサービスを紹介した。

COMPASSで重要視すべきブランド資産や狙うべき消費者特性を理解した上で、 そこに当てはまる4P(商品、チャネル、価格、プロモーション)や外部要因を明らかにする。これらを施策に落としたら、MAGELLANで4Pへの響き方を確認し、最適な予算配分を検討する。さらに、予算配分のROIを上げるため、ふたたびCOMPASSに戻って質を上げる──このようにCOMPASSとMAGELLANを行き来しながらマーケティングの精度を高めていくことができる。

「MMMを最初に提唱した時もなんだそれと言われましたが、いまやgoogleも含め、MMMがあたり前に使われるようになっています。CMM×MMMは間違いなくこれから日本の、そしてグローバルのスタンダードになるはず、と宣言しておきます(平尾)」

「その取り組みをぜひ丸亀製麺さんとご一緒できたらと思っているし、ここにいるみなさんとも、丸亀製麺さんと同じような“勝ち続ける成功体験”を作っていきたい」とセッションを締めくくった。

COMPASSについては、こちらから詳細情報を確認できます。
より具体的な情報を知りたい方は、ぜひ資料ダウンロードもご検討ください。
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