DATA SCIENCE
2021/12/15

データドリブンな企業への変革の鍵は、経営者とデータプロフェッショナル人材のコミュニケーション

データにもとづいてビジネスの意思決定を行う、データドリブンな企業への変革をどう進めればよいのか。多くの企業では、いまだ十分にデータドリブンな経営が行われていない。データの活用が進まない時、その背景には、経営者とデータプロフェッショナル人材のコミュニケーションの課題があることが多い。

2021年10月、プライベートエクイティ・ファンドを運営するD Capital株式会社にジョインした松谷恵氏は、航空機の安全性向上や金融デリバティブ商品のトレーディング、ファッションのECなどの現場で、膨大なデータをもとにビジネス課題を解決するデータサイエンスに一貫して取り組んできた。その松谷氏に、日本企業がデータサイエンスを実践するにあたり、企業の経営者が向き合うべき課題と、解決のために必要な取り組みを聞いた。

D Capital株式会社_松谷 恵(まつたに・めぐみ)氏

D Capital株式会社 パートナー
松谷 恵(まつたに・めぐみ)氏

東京大学工学部航空宇宙工学科卒業。マサチューセッツ工科大学航空宇宙工学科博士課程修了。NASAラングレー研究所等での航空機制御理論研究を経て、米投資銀行(東京・NY)にてクオンツストラテジストとしてトレーディングの自動化に関する研究開発に従事。その後、ファッションEコマースプラットフォーム運営会社にてCSOとしてAI研究開発及びデータ戦略を推進。イェール大学との共同研究で開発した「社会的意思決定アルゴリズムのオープンソース開発&実装基盤」が、内閣府主催の日本オープンイノベーション大賞で内閣総理大臣賞を受賞。2021年10月、パートナーとしてD Capital株式会社にジョイン。

データサイエンスの浸透には、経営者の技術リテラシーが必要

データサイエンスが注目されるようになって久しいですが、日本企業のデータサイエンスの実態をどうご覧になっていますか。

データサイエンスは、経営のみならず財務や人事、マーケティングや営業など、あらゆる領域で活用できる強力なツールです。日本でも、広告やECなどアクセスできるデータ量がもとから大きいセクターや、製造業のように技術が根幹となっているセクターでは比較的導入が進んでいます。ですが、北米企業に比べるといまだ浸透には遠いと感じています。

日本でデータサイエンスの浸透が遅れている要因の一つに、経営者の技術リテラシーがいまだ十分でないことが挙げられます北米の場合、学生時代に歴史や文化を学ぶのと同じように、コンピュータサイエンスを教養として学ぶことが一般的になりつつあります。

しかし日本の場合は、大学入試時に理系・文系の割り振りがあることも影響しているのでしょう。例えば、一度自分を文系だと認識すると、理系科目の知識に関しての取り組みを控えてしまう傾向があります。多くの場合において、コミュニティや考え方自体が、理系と文系、ビジネスパーソンとエンジニアのように、いまだ分断されています。コミュニケーション自体が断絶してしまっているのです。こうした状況が、ビジネスパーソンとエンジニア、アカデミア間で知見交流を行う機会の圧倒的な少なさにつながっています。

また、北米ではビジネスの競争がより一層激しいため、一部のオールドファッションな経営者は別として、「データを使わないと先はない」というプレッシャーを常に感じています。だからこそ、個人も企業もビジネス本来の領域に関係なく必死にキャッチアップをしようとしているのですが、地理的に独立している日本では、まだそこまで真に迫っていないのだと思います。

経営者はデータサイエンティストともっとコミュニケーションを

D Capital株式会社_松谷 恵(まつたに・めぐみ)氏

そうした現状を打破するために、経営者は何をすべきですか。

最も必要なのは、データサイエンティストに対してラベルを貼らないことです。話を聞いてもよく分からなそうだと決めつけず、コミュニケーションを直接取ること。これはお互いにとって、新しい発見や共にビジネス課題に取り組むための理解につながるはずです。

社内にはあらゆる領域のスペシャリストがいると思いますが、データサイエンティストもそうしたスペシャリストの一種です。サイエンスと聞くとアカデミックな印象を抱きがちですが、そもそもデータサイエンスとは、ビジネス課題の解決にデータをもって取り組むことを指します。課題に取り組む態度はサイエンスですが、その手法を学問と呼ぶのは、本来の意味と少し異なります。

同様に、データサイエンティストは学者というより、データ分析の手法を用いてビジネス課題に取り組むビジネスパーソンのことです。ですからまずは、社内のほかのスペシャリストに対するのと同じように、コミュニケーションを十分取ることが必須です。正しい課題設定は、経営者とデータサイエンティストのコミュニケーションの上に成り立ちます。正しい課題設定なしには、実際に何か分析を回しても意味がありません。

十分なコミュニケーションを取るほか、経営者自身がデータサイエンスの基本の考え方を学んだり、自分で体験してみたりすることも効果的です。

ここにも誤解があるのですが、データサイエンスの入り口は決して敷居の高いものではありません。かつて紙で書類を作っていた人たちが、今は当たり前にパソコンで書類を作成しているように、データサイエンスは実はとっつきやすく、データサイエンスの考え方は、現場と十分なコミュニケーションを取っているうちに自然と当たり前になるものだと思っていただきたいです。

昨今オンラインでもさまざまな講座が開設されていますし、スクールに通って学ぶこともできます。フレンドリーなUIを持つツールも豊富です。入り口として基本の考え方自体を知るにはこのようにいろいろな選択肢がありますし、データサイエンスをテーマにした書籍も専門書も、基礎知識に応じてさまざまあります。

経営者の意識の変化と同様に、データサイエンティスト側にも、コミュニケーションの活性化のためにできることがあります。

それは、モデル開発やデータ分析部分だけが自分の仕事だと、自ら制限してしまわないことです。それらは業務のほんの一部であり、「データをもって解決したいビジネス課題の設定自体も、データサイエンティストの重要な仕事だ」というマインドを持つべきです。データサイエンティストの仕事の半分以上は、課題設定が占めていると言っても過言ではありません。このことをデータサイエンティストは十分に自覚すべきですし、そうなっていないのであれば、取り組んでいる課題自体が適切かを問うべきです。

データドリブンな企業への変革は経営者次第

D Capital株式会社_松谷 恵(まつたに・めぐみ)氏

経営者がデータサイエンスを自らの意思決定に活かすため、データサイエンティストとのコミュニケーションを深めるほかに、取り組むべきことはありますか。

データサイエンティストと経営層のダイレクトなコミュニケーションが十分持てるような組織づくりも必要です。データドリブンな企業文化を醸成するためには、組織の変革と適切な人材の採用が欠かせません。

まず組織ですが、データ分析の結果、つまりデータサイエンティストの働きが、経営層の意思決定に反映できる組織になっているでしょうか。具体的には、経営層のすぐ下またはそれと同等な位置にデータサイエンス部門を配置しているでしょうか。このような組織になっていないとデータドリブン経営には取り組めません。変化を起こせるようなデータサイエンティストの採用は難しく、仮に採用できたとしてもその実力を発揮できません。

また、経営層に技術のバックグラウンドを持つ人がいるかというのも大きなポイントです。現場のデータサイエンティストにとってこれは重要なことです。技術の知見がありデータ利用の重要性を理解する人が経営層にいることは、データサイエンスのビジネスへ効果をより確かなものにします。

そして、日本企業ではまだまだ、どのような職務かではなくどの会社に入るのかが重視されるメンバーシップ型の採用が多く、データサイエンティストをはじめとしたスペシャリストがジョブ型で雇用され、適切な評価制度のもとで働ける組織が少ない状況です。この雇用の形がスペシャリストとしてキャリアパスを描きにくいという課題につながっています。このことも、北米企業と比較した場合の生産性の低さと人材の不足に影響していると感じています。

変革に向けて、まずはどこから着手するのがよさそうですか。

理想を掲げているだけでは動き出せないので、効果がありそう、かつ取りかかりやすい現場のオペレーションを探し出し、その部分の効率化または改善から始めるのがいいと思います。現状を必要な粒度の数字で把握できていない場合は、データを取得するところから始めます。データにもとづいて改善を図りそれが実現すれば、データが何をもたらすのかが経営層と現場の間で共有でき、さらに大きな課題に取り組む雰囲気が醸成されると思います。

企業文化の変革はすぐに達成できるものではありません。しかし、データドリブンな企業として生まれ変わるには徹底して取り組む必要があります。この徹底は、個々のマネジメントレベルだけでなく経営層が率先して取り組むべき課題です。

データにもとづく効率化が日本企業を強くする

データサイエンスを当たり前のように取り込んだ日本企業には、どのような未来が待っていますか。

企業にとって、もはやデータサイエンスはあればいいものではなく必要不可欠なものだと思います。他社が取り組みを進める中で足踏みしていては、取り残されてしまうのは目に見えています。

経営者は、すでに毎日何かしらのデータを見て意思決定に反映させているはずです。そうした意思決定の判断材料に、現場のオペレーションをより深く把握するデータを追加していくイメージです。知りたい問いに答えるための十分詳細なデータがないなら取得し、分析します。こうした試みの先でデータドリブンな意思決定が可能になります。

日本企業はクオリティもセンスも高いサービスや価値を提供しています。ここにデータにもとづく効率化を掛け合わせれば、競争力を高めることができますし、そうなっていってほしいと思います。