その広告、本当に売上に貢献していますか?アトリビューションの限界とインクリメンタリティの真価に迫る

更新日: コラム
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「この広告は、本当に売上に貢献しているのか?」

日々のレポートや会議の中で、こうした疑問を抱いたことはないでしょうか。数字やグラフ、資料も揃っているにもかかわらず、どこか納得感が得られない、その感覚の正体は何なのでしょうか。

多くの企業やマーケターが陥りがちな、この「成果を正しく評価できているつもり」の“錯覚”の背景には、マーケティング効果測定における二つの重要な概念、「アトリビューション」「インクリメンタリティ」の混同があります。

貢献の“割り振り”を考えるアトリビューションと、施策による“純増効果”を測るインクリメンタリティ。この二つは似て非なるものであり、両者の違いを理解することは、データに基づいた本質的な意思決定を可能にし、「勝ち続ける組織」  を築くための第一歩となります。

本記事では、この二つの概念の違いを明確にし、その本質を深く、わかりやすく解説していきます。

「アトリビューション」:貢献を“割り振る”考え方

アトリビューション(Attribution)とは、直訳すると「帰属」や「配分」を意味します。マーケティングの世界では、「発生したコンバージョン(成果)に対して、どの広告やチャネルがどれだけ貢献したかを評価し、貢献度を割り振る」考え方や手法を指します。

たとえば、サッカーの試合で、誰がゴールを決めたか(コンバージョン)を記録するだけでなく、「最後のアシストをしたのは誰か」「その前にパスを繋いだのは誰か」といった一連の流れを評価するようなものと考えるとわかりやすいかもしれません。

アトリビューション分析で「わかること」

多くのマーケターに馴染み深く、また最も代表的なのが「ラストクリック」アトリビューションです。これは、コンバージョンの直前にクリックされた広告にすべての貢献を割り振るモデルです。シンプルでわかりやすいため、多くのオンライン広告のレポートで標準的に採用されています。

その他にも、最初に接点を持った広告を評価する「ファーストクリック」や、すべての接点に均等に貢献を割り振る「線形」など、様々な分析モデルが存在します。

アトリビューション分析の「限界と落とし穴」

アトリビューション分析は、顧客がコンバージョンに至るまでの道のり(カスタマージャーニー)を可視化する上で非常に有効です。

しかし、アトリビューション分析は、あくまで「既に発生した成果の貢献度を、過去の接点にどう分配するか」を議論するものです。ここで見落とされがちなのが、「そもそも、その接点(広告)がなければ、その成果は生まれていなかったのか?」という考え方です。

たとえば、元々そのブランドのファンで、「次の給料日にあの商品を買おう」と決めていた顧客が、購入直前にたまたま目にしたリターゲティング広告をクリックして購入した場合、ラストクリックモデルでは、この成果の100%がリターゲティング広告の貢献となります。しかし、実際には広告がなくとも、その顧客は商品を購入していた可能性が高いという落とし穴が潜んでいます。

このように、アトリビューション分析において、特にラストクリックのようなシンプルなモデルに依存しすぎると、「刈り取り」と呼ばれるような、購入意向がもともと高い顧客にリーチする施策ばかりが過大評価され、ブランド認知や好意度を時間をかけて育てるような施策(たとえばテレビCMや雑誌広告など)の価値が見過ごされがちになるのです。

「インクリメンタリティ」:“純増効果”を測るという視点

このようなアトリビューションが抱える課題意識から生まれたのが、「インクリメンタリティ」という考え方です。

インクリメンタリティ(Incrementality)とは、「あるマーケティング施策を実施した際に、実施しなかった場合と比べて、どれだけ成果が“純粋に増えたか(=純増効果)”」を測る考え方です。

先ほどのサッカーの例で言えば、「あるスター選手がチームに加わったことで、チーム全体の得点数は本当に増えたのか?」を検証するような視点です。彼がゴールを決めた数(アトリビューション)だけでなく、彼がいることで他の選手も活かされ、チーム全体のパフォーマンスが底上げされたのか、その「純増効果」を見極めようとするのがインクリメンタリティです。

なぜ「純増効果」が重要なのか?

たとえば、近所のスーパーが特売のチラシを出し、セール期間中、お店が大変賑わったとします。ここで店長が本当に知りたいのは、「チラシを見たことで新たに来店した顧客が何人いたのか」や「チラシがなければ来店しなかったであろう顧客による売上はいくらか」ではないでしょうか。

もしかしたら、来店客のほとんどは、チラシがなくても毎週買い物に来てくれる常連客だったかもしれません。その場合、チラシの純増効果は低く、利益を削ってまでセールを行う価値はなかったと判断できます。

このように、インクリメンタリティを測ることで、その施策が本当にビジネス成長に貢献しているのかを客観的に判断できるようになります。これにより、「あの施策は刈り取り効率は良いが、実は売上の純増には繋がっていない」「一見効果が見えにくいこのブランディング施策が、実は長期的な顧客基盤を築き、安定した売上を生み出している」といった、より本質的な示唆を得ることが可能になるのです。

アトリビューションとインクリメンタリティ、決定的な違いとは?

ここで、両者の違いを整理してみましょう。

比較軸アトリビューションインクリメンタリティ
出発点“どの接点・施策”によって、成果に至ったのか?
(発生した成果の貢献をどれに割り振るか?)
“その施策がなかったとしたら”、
成果は発生していたか?
指標各接点・施策の成果への貢献度施策がもたらした純粋な増分効果
視点ミクロ(個々のコンバージョン経路)マクロ(施策全体の正味の効果)
得意領域オンライン広告など、個別施策の貢献可視化オンライン広告・オフライン広告問わず、
施策全体のROAS評価
補足:注意点ブランディング施策の過小評価に繋がりやすい統計的な専門知識や高度な分析手法が必要となる

この二つは、どちらかが絶対的に正しいというものではなく、それぞれの目的に応じて使い分けるべき手法です。アトリビューションは「戦術の最適化」に、インクリメンタリティは「戦略の意思決定」により強く貢献すると捉えると良いでしょう。

重要なのは、アトリビューションの限界を理解した上で、より広い視座からインクリメンタリティを意識し、両者を補完的に活用することです。

しかし現実には、こうした視点の違いが十分に理解されないまま、アトリビューション分析だけに依存した効果測定や判断が、組織内で「成果を語る基準」となっているケースも少なくありません。結果として、実際とは異なる「成果の錯覚」が生まれ、誤った意思決定に繋がってしまうのです。

次章では、「成果の錯覚」とは何か、またこれがどのようにして組織に影響を与え、なぜ今マーケティング責任者がこの課題に向き合うべきなのかを見ていきます。

なぜ、マーケティング責任者は「成果の錯覚」から脱却すべきなのか

インクリメンタリティの視点を欠いたまま、アトリビューションによる指標だけを信じると、組織は「成果の錯覚」という深刻な問題に直面します。

たとえば、アトリビューションのみを活用している消費財(FMCG)メーカーのマーケティング担当の多くは、テレビCMや大規模な店頭プロモーションの売上貢献を証明できずに悩んでいます。なぜなら、アトリビューションレポートでは、CPAが低く、成果がすぐに見えやすいオンライン広告ばかりが高く評価されてしまうからです。

「成果の錯覚」とは、広告の成果だと報告される数字が、実は広告がなくても発生したであろう成果までを含んでいる状態を指します。その結果として、以下のような悪循環が起こります。

  1. 過信:刈り取り型の広告のROASが高いと判断し、予算を集中投下する。
  2. 停滞:しかし、それは「いずれ買う予定だった人」を刈り取っているだけで、新規顧客は増えず、事業全体の成長が鈍化する。
  3. 疑念:「あれだけ広告に投資したのに、なぜ全体の売上は伸びないのか?」と、経営層や他部署からマーケティング部門に対して課題意識が持たれる。
  4. 迷走:現場は「アトリビューション上は効果が出ているのに…」と説明するが、結果的にブランディング施策に加え、刈り取り型の広告までもが削減対象となり、全体のマーケティング活動が縮小し、さらに状況が悪化する。

このように、インクリメンタリティの視点が欠けたままアトリビューション指標だけが評価の軸となることで、組織内に深刻な不信感と迷走のループを生み出してしまうのです。

なぜ今、この議論が重要なのか?

アトリビューションの限界とインクリメンタリティの重要性は、以前から議論されてきました。しかし今、この議論が単なる分析手法の違いにとどまらず、企業のマーケティング活動に大きな影響を与えるテーマとなっているのはなぜでしょうか。

その背景には、サードパーティCookieの規制強化に代表される、世界的なプライバシー保護の流れがあります。個々のユーザーをデバイスを横断して追いかけ、その行動履歴から貢献度を割り振る従来のアトリビューション手法が、技術的にも倫理的にも困難になりつつあるのです。

これは、個々のユーザーの行動を「点」で追うアプローチの限界を示唆しています。そのため、これからの効果測定には、個別のユーザー追跡に依存せず、広告や施策によってどれだけ成果が純増したかを“全体的かつ統合的に捉える”インクリメンタリティの考え方が必須となっているのです。

まとめ

最後に、今回のポイントをまとめます。

  • アトリビューションは、「発生した成果」に対して、どの接点や施策がどれだけ貢献したかを評価し、貢献度を割り振る考え方です。
  • インクリメンタリティは、ある施策を実施した際に、実施しなかった場合と比べて、どれだけ成果が「純粋に増えたか(=純増効果)」を測る考え方です。
  • 短期的な戦術評価にはアトリビューションも有効ですが、過度に頼りすぎると本質的な投資判断を誤るリスクがあります。
  • マーケティングや事業の責任者がインクリメンタリティの視点を持つことで、組織は部分最適から全体最適へと進化し、持続的な成長基盤を築くことが可能となります。

持続的な成長を実現するには、組織全体でインクリメンタリティの視点を共有することが不可欠です。「どの広告がクリックされたか」といった個別施策の成果だけでなく、「どの投資が、我々のビジネスを本当に成長させたか」を問う視点への転換が求められるのです。

まずは自社の効果測定やマーケティング投資のあり方を見直し、単なる「貢献の割り振り」に終わるのではなく、「純増効果」を正しく評価する視点を組織全体に共有していきましょう。これが持続的な成長を実現するための第一歩となるはずです。

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