最適なアトリビューションモデルとは?代表的な分析方法MMMとMTAのそれぞれの仕組みを比較
マーケティング部門では、「予算〇〇億円使って、売上はどれぐらい上がったのか?」という質問をよく受けると思います。
定量的な答えを出すために、様々な角度からデータ分析を行っても、マーケティング費用と売上との関係性を明確にすることは難しい課題です。
そこで、各マーケティング施策の売上への貢献度を定量的に分析できるアトリビューション分析について、誕生の背景と、確立された測定モデルであるマーケティング・ミックス・モデリング(MMM)、そしてデジタル広告で定番のマルチ・タッチ・アトリビューション(MTA)についてご紹介します。貴社にとってどの効果測定方法が最適なのかを見極める際のご参考になれば幸いです。
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変化の激しい時代、事業成果を最大化するための広告投資の最適化方法とは?
目次
アトリビューション分析が誕生した背景
現在、マーケティング領域において「アトリビューション分析」は、デジタル広告の効果を測定する場合に利用されるMTAと同義語になっています。しかし、実はデジタル広告が発展するよりも前から、各広告の売上への貢献度を測ることは、マーケティング担当者や広告主にとっての課題でした。
1960年代、テレビCMが店舗の売上にどれぐらい貢献したのか、誰にもわかりませんでした。この問題を解決するために、統計学の回帰分析を用いて、広告が売上に与える影響を推定する分析モデルがMMMです。インターネットやデジタル広告の時代以前において、定量的にマーケティング効果測定を行う唯一の方法でした。
2000年代に入り、インターネットやデジタル広告の普及に伴い、コンバージョンに至るまでの顧客行動を追跡する技術が開発されました。Cookie(クッキー)やピクセルなどの技術を利用することで、デジタル内の顧客行動をほぼリアルタイムで追跡することができるようになりました。この方法はMTAと言われ、Eコマースのようなデジタルメインの業種で利用されている、定番のマーケティング効果測定手法となりました。
そして現在に至るまで、これらMMMとMTAはマーケティング効果測定手法として長く活用されています。どちらの手法を使うかは、企業が属する業界、扱うことができるデータの種類と量に依存しています。
MMM(マーケティング・ミックス・モデリング)とは?
MMMは、テレビCM、ラジオ広告、交通広告、新聞広告などのマーケティング活動が、売上に与える影響を測定することを目的として開発されました。
MTAとは異なり、MMMは個人の行動追跡データに基づくリアルタイムの分析は行いません。多くの場合、四半期または月次で分析を行います。分析で利用するデータは、広告出稿量(テレビCMのGRP、デジタル広告の表示数やクリック数など)、コスト(費用)、成果(来店客数、売上やコンバージョン(申込数、ダウンロード数や契約数など)、および外部要因などの様々なデータです。外部要因では、市場環境(競合他社のテレビCMなど)、季節性、天候など、マーケティング活動の効果や業績に影響を及ぼす可能性のある、ありとあらゆるものが分析可能です。
つまりMMMとは、個人のプライバシーを侵害することなく、マーケティング活動や外部要因による売上の増分効果、そして広告の費用対効果を定量化できる効果測定手法です。また、オンライン・オフライン広告両方のアトリビューション分析を行えることから、MMMは「統合アトリビューション分析」とも呼ばれます。
MMMの仕組み
MMMでは、特定のマーケティング施策の効果に影響を与えると思われる要因のデータを時系列変数として使用し、回帰分析を行うことで、そのマーケティング施策が売上に与える影響を測定します。
回帰分析とは、複数の独立変数が売上などの単一の従属変数に与える影響を測定し、独立変数と従属変数の関係性を解析する統計分析の手法です。
MMMでは、マーケティング活動の各要素が売上にどのくらい影響を与えているかを正確に推定することができます。また、例えばテレビCMの放映によって検索数が伸び、リスティング広告に影響を与えるなどといった、マーケティングチャネル横断でどのくらいの波及効果や相乗効果があるかも定量化することができるので、マーケティング効果の全体像を把握することができます。
また、過去のデータの分析にとどまらず、様々な予算配分シナリオから成果を予測することも可能なため、マーケティングプランニングにも役立ちます。
MTA(マルチ・タッチ・アトリビューション)とは?
MTAとは、オンライン上での広告接触など、個人の行動追跡データに基づく効果測定手法です。顧客がコンバージョンに至るまでの経路を分析し、各広告との接触履歴に成果を配分し、評価するものです。このように、MTAはデジタル広告が売上などの事業成果に与える影響を測定するために使用されています。
オンライン・オフライン媒体を統合して広告を展開している場合、オフライン広告における個人の行動データを得ることは難しいため、個人の行動追跡データに基づいた効果測定は難しいでしょう。
広告も成果もオンラインに閉じている場合であれば、個人の行動追跡データを基にアトリビューション分析が可能なので、精度の高い分析ができます。
6つの主なMTA(マルチ・タッチ・アトリビューション)モデル
デジタル広告の領域では、多くの場合複数のチャネル(検索広告、ディスプレイ広告、動画広告やSNS広告など)が同時に使われています。
複数のチャネルでの広告接触後に顧客がコンバージョンに至った場合、各広告を評価するアトリビューション分析モデルにもいくつかの種類があります。
それぞれのアトリビューション分析モデルにもメリット・デメリットがあるため、事業の特徴や目標に応じて、最適なモデルを選定することが重要です。
1. ラストクリックアトリビューションモデル(終点モデル)
Eコマースの初期では、マーケターが利用できた唯一のアトリビューション分析モデルが、ユーザーが最後に接触した広告に、コンバージョンのすべての評価を与えるという「ラストクリックモデル」でした。多くの広告プラットフォームでは、今でもラストクリックでのアトリビューション分析をデフォルトで採用しています。
例えば、あるユーザーが商品を探しているときに、貴社の商品のGoogle広告を見たとします。翌日、ユーザーは貴社の商品を思い出し、直接ウェブサイトにアクセスします。そこから1週間後、ユーザーがTwitterに配信した広告を見て、いよいよ購入しようと思い、広告をクリックして購入したとします。
ラストクリックアトリビューションモデルを使用した場合、Twitter広告のコンバージョンに対して100%の評価が与えられます。
しかし、これが最も適切なアトリビューションモデルではないかもしれません。
Twitterでの広告は、ユーザーが購入するための後押しとなったかもしれませんが、今回の場合、ユーザーは最初に接触したGoogleの広告で商品を初めて知ったのです。Twitter広告が効果的だった理由も、ユーザーが最初に訪れたウェブサイトで見た情報が好印象だったからではないしょうか?
このように、ラストクリックアトリビューションモデルでは、考慮されていない要素があることを認識することが重要です。
2. ファーストクリックアトリビューションモデル(起点モデル)
ファーストクリックアトリビューションモデルでは、ユーザーがブランドや商品を初めて知った広告にすべてのコンバージョン評価を割り当てます。
先ほどの例で言えば、このモデルではGoogle広告のコンバージョンに対して100%の評価が与えられます。
ユーザーが最初にGoogle広告を見てから購入に至るまで、スポンサーコンテンツ、SNSなどの他の広告を見たとしても、Google広告にすべての評価が与えれます。
3. 最後の間接クリックアトリビューションモデル
前の2つのモデルと同様に、「最後の間接クリック」アトリビューションモデルも、1つの広告との接点に100%の評価を与えます。
違いは、ユーザーがURLを入力してウェブサイトに直接アクセスした場合などの、直接的な接点は一切評価されないという点です。
このモデルでは、ユーザーが最後に触れたマーケティング施策や広告をきっかけに、商品を思い出したことを重視しています。あるユーザーが、Facebook広告をクリックした翌日に貴社のウェブサイトに直接アクセスして商品を注文した場合、コンバージョン評価の100%がFacebook広告に与えられます。
4. 線形アトリビューションモデル(均等配分モデル)
線形アトリビューションモデルでは、ユーザーがコンバージョンに至るまでに接点があったすべての広告施策に対して、均等に評価を行います。
最初のユーザーの例では、コンバージョン評価の33%をGoogle広告に、33%をウェブサイトの情報とコンテンツ、そして33%をTwitter広告に割り当てられます。
一見シンプルで公平ですが、コンバージョンまでに至った理由を評価するには、それぞれの広告が同じ影響力を持っているという前提条件が必要です。
5. 減衰アトリビューションモデル
減衰アトリビューションモデルでは、接点があったそれぞれの広告の順番を考慮し、コンバージョンに近い方を重要視しています。
ユーザが注文したきっかけとなる広告を順位付けできるモデルですが、未知の仮説に頼ることもあります。
最初のユーザーの例では、Twitter広告に最大のコンバージョン評価を与えます。
しかし、ユーザーの視点から見ると、そのTwitter広告は、すでに知っていて好きだった商品を思い出させるだけの役割だったかもしれません。同じタイミングでTwitter以外の媒体に配信した広告でも、同じ効果があるかもしれません。その場合、Twitter広告に多額の投資をすることは、必ずしも効果的ではない可能性があると考えられます。
6. U型アトリビューションモデル(接点ベースモデル)
U型アトリビューションモデルは、広告との最初の接触(ユーザーが商品を初めて知ったきっかけ)と、コンバージョンする直前に接触した広告(購入の決定をさせたと思われる最後の後押し)に多くのコンバージョン評価を割り当てる方法です。
コンバージョン評価を最初の広告と最後の広告に40%ずつ、そして残りの20%を間に接触したその他の広告に分配するモデルです。
その他のMTAモデル
この他にも、コンバージョン評価の割合をカスタマイズしたアトリビューションモデルや、事業目標に応じて特定のモデルを各マーケティングチャネルに適用するモデルもあります。
MTAにおける課題
1.完璧に適合するモデルはない
MTAモデルを選ぶには、デジタルマーケティング活動の状況を最も表現す理想的なモデルを選びますが、現実的にどのモデルも完璧なソリューションではありません。デジタル広告戦略(どのようなデジタルチャネルを利用しているか、そして各チャネルがどのような目的があるかなど)に合わせて、柔軟に変更することが必要です。
2.モデルに組み込めるオフライン広告のデータが限られている
MTAは、複数のマーケティングチャネルやデバイスを考慮することを目的としています。マーケティングチャネルにはテレビ、ラジオや印刷物などが含まれるはずですが、オンライン媒体と比べてオフライン媒体に関するデータが不足しているため、MTAにどう組み込むのかが課題です。
3.個人情報保護規制強化の影響で分析精度低下の可能性がある
Google Chrome、Safari、Firefoxなどのウェブブラウザから3rdパーティーCookieの制限、AppleのIDFAモバイル広告識別子の廃止により、オンライン上でも獲得できるデータの量と粒度そしてそのデータの活用目的が制限されます。
その結果、個人の行動履歴データに基づいているMTAによるアトリビューション分析の精度を担保することが、技術的に難しくなっていく可能性があります。
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最適なアトリビューションモデルとは?
MTAと比較した場合、MMMの主な利点は、分析に組み込むことが可能なデータの範囲の広さです。デジタル広告のみでなく、オフライン広告も含めたマーケティング施策、価格の変動、季節性や気候といった外部要因など、企業の事業成果に影響を与えるすべての要因の全体像が把握できるモデルです。
そのため、MMMは以下のような企業に適しています。
・複数のマーケティングチャネルや媒体を活用している企業
・オフラインのマーケティング活動を行っている企業
・オンラインストアと実店舗の両方を持っている企業
・マーケティング活動全体の計画や予算を最適化したい企業
一方、MTAはMMMより簡単に分析ができるので、Google Adsなどの主要なデジタル広告プラットフォームにすでに組み込まれている機能です。
MTAは、以下のような企業に適しています。
・活用しているマーケティングチャネルが少ない企業
・活用しているマーケティングチャネルのほとんどがオンラインであり、
・売上も主にオンラインで得られている企業
まとめ
現代のマーケティングにおいて、効果的な施策を正確に評価するためのデータ分析は必要不可欠です。そして、企業のマーケティング活動や戦略に応じて、MMMとMTAの両方をアトリビューション分析の手法として有効活用することが重要です。
マーケティング活動が売上に与える影響を正確に測定するために、適切なアトリビューション分析モデルや分析ツールを選択することは、時間がかかるかもしれません。しかし、投資対効果を明らかにし、マーケティング投資を最適化することにより、事業成果に大きなインパクトを与えることが可能です。