DataScience for Growth 丸亀製麺流・“勝率”を最大化するデータサイエンス活用法 ――不確実性を突破する意思決定の要諦とは【MarkeZine Day 2026 Spring イベントレポート】

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データサイエンス

あらゆる常識が塗り替えられる「Adapt & Advance」の時代、過去の成功体験という“経験則”だけで適応し続けることは困難を極める。そうした中でも成長を続ける丸亀製麺は、この不確実な市場にいかに適応し、勝負を仕掛けているのか。

その鍵は、マーケターの鋭い「仮説」と、それを裏支えする「データサイエンス」による勝率の向上にあるという。

2026年3月3日、東京で開催されたマーケティングの「今」を網羅するイベント 『MarkeZine Day 2026 Spring』で、丸亀製麺 マーケティング本部 エクスペリエンスデザイン部 部長を務める間部 徹氏と、サイカ Consulting本部 Data Science & Analysis部 部長 高木 基伸が登壇し、両社で取り組む「丸亀製麺流・“勝率”を最大化するデータサイエンス活用法」を話した。

このレポートでは、当日のセッションの内容を紹介する。

※肩書は開催時点のものです

「データサイエンス」を必要とする理由

丸亀製麺が掲げるスローガンは「食の感動で、この星を満たせ」だ。すべての店舗で粉からうどんを打ち、手作り・できたてにこだわる同社にとって、最優先事項は効率化などではなく、顧客の心を動かす「KANDO(感動)」そのものである。しかし、この「KANDO」という主観的な領域に、なぜ同社はデータサイエンスを導入したのか。

その理由は、持続的な成長への強い意志にある。「1回勝つことはできても、“勝ち続ける”ためには再現性が重要であり、そのためにデータサイエンスが必要」だと間部氏は語った。

「KANDO」を追求しながら、データによって“勝率”を最大化させる。この感性とデータサイエンスの両立こそが、同社の強さの源泉だ。その象徴的な事例として、丸亀製麺のマーケティングにおけるデータドリブンな取り組みをサイカのデータサイエンス・アナリシスチームを率いる高木が紹介した。

丸亀製麺の「感動経営」を支える取り組み

丸亀製麺の取り組みにおいて特筆すべきは、感動を創造するための経営戦略 “感動経営”だ。顧客の感動体験(CX)の創出だけでなく、従業員の内発的動機(EX)地域への感動創造(Social Good)までを統合した「三方よし」を体現。そしてこれらが結実して、唯一無二の感動創造ブランド(BRAND)が築かれ、繁盛(成果)につながる構造になっている。

丸亀製麺の“感動経営”

この、「感動創造」の循環を、構造解明を通じて再現性を高めながらマネジメントしているのが丸亀製麺流のデータサイエンス活用法だ。以下では、「戦略マネジメントモデル」と「ハピネス感動モデル検証」について紹介する。

感動経営を支える、データサイエンスによる裏側の取り組み

■ 戦略マネジメントモデル ――「MMM」と「CMM(KSF分析)」

両社の取り組みは、MMM(マーケティング・ミックス・モデリング)」を用いた施策と成果をつなぐ分析から始まった。各施策が売上にどう寄与したか、その投資対効果を可視化するプロジェクトだ。

続いて、CMM(コンシューマー・ミックス・モデリング)」により、KSF(主要成功要因)を特定。これは、アンケート調査データを活用し、成果指標(丸亀製麺の場合は「利用回数」)に影響するブランド意識を統計解析で解いたものだ。明らかになったのは、利用頻度を左右する最大の要因は「利用意向」であり、それを支えるのは「うどんがおいしい」という要素であるということだ。さらに深掘りすると、そのおいしさを構成するものとして「品質が良い」ことが重要であり、その根底には「安心して食べられる」「他の店と違う良さがある」という独自の価値がカギになることを突き止めた。

この結果について、間部氏は次のように振り返った。

「私たちは製麺所なので、うどんがおいしいというイメージで支えられているのは当たり前かもしれません。ただ、方針がいろいろと考えられる中で、これを突き詰めることが正しいのだとデータで裏付けが取れた意義は大きいと感じています(間部氏)」

利用回数に影響する要因を可視化

まさにこのキードライバーを押さえたブランディングや商品プロモーションを展開しながら、これらの活動がそれぞれキードライバーにどの程度影響を与えているかをMMMで可視化。下図のように構造化することで、“勝ち続ける”ための再現性を担保している。

これらの取り組みを構造化した“丸亀製麺のマーケティングモデル”

■ ハピネス感動モデル

さらに同社は、「従業員の幸せ(ハピネス)が、顧客の感動創造の源泉になる」という仮説に対し、「ハピネス→感動→繁盛」を構造化した「ハピネス感動モデル」の検証も行っている。

重要な鍵を握るのは、多くの企業において理念に留まりがちな「従業員の幸せ」や「顧客の感動」と「事業成果」の関係を、構造モデル化した点だ。これまで定量化が困難とされてきた「心」の状態が、いかにして事業インパクトに繋がるかを客観的なデータで証明することで、理念に終始することなく、科学的根拠に基づいた投資判断を実現しているのだ。

さらに驚くべきは、構想からわずか1年足らずで全店舗のデータ収集基盤を構築したスピード感だ。従業員体験(EX)が顧客体験(CX)に寄与し、最終的に成果に結びつくサイクルを立証しただけでなく、現状の各スコアから次年度の売上増分を算出するなど、徹底して再現性にこだわっている。

パートナーとして伴走する高木は、この取り組みの凄みをこう語った。

「データサイエンスでここまで切り込めるのかと驚かされるような領域に対しても、確固たる仮説を持ち、データを収集しきる実行力がある。その真摯な向き合い方こそが、データという武器を具体的な成果へ繋いでいるのだと強く実感します(高木)」

▶取り組みの詳細は、こちらのリリースをご覧ください

ハピネス→感動→繁盛の構造化と関係性の可視化

勝率を引き上げる「意思決定の仕組み」とは

このように隅々までデータサイエンスを取り入れ、ビジネスの構造を解き明かす丸亀製麺だが、その真髄は分析そのものではなく「意思決定の仕組み」にある。不確実な環境下でも勝率を最大化するための要諦を、間部氏の言葉から整理する。

「様々なデータや課題がある中で、取り組みの優先度をどのように決めているのか」という高木からの質問に対し、間部氏は「ビジネスインパクトの大きさ」を前提としつつ、「アクション(打ち手)に落ちるかどうか」を最重視すると語る。データ活用の失敗例として多いのが「分析したけれど、次に何をすればいいかわからない」というケースだが、同社ではこれを防ぐため、分析を始める前に「意思決定の基準」を明確に言語化することを徹底している。

間部氏は次のように強調する。

「例えば『10』という数字が出たとき、仮説が違えば解釈もバラバラになります。だからこそ、仮説をしっかりと言語化し、解釈を共有して関係者を巻き込んでいくことが不可欠です。確かな仮説と解釈が共有されていれば、分析手法が高度か否かに関わらず、それは組織を動かす立派な『武器』になります(間部氏)」

ビジネスにおいて「100%の正解」を待っていては手遅れになるが、このように、あらかじめ「この数字が出たらこう動く」というシナリオ(打ち手仮説)を関係者と合意しておくことで、意思決定に圧倒的なスピード感が生まれるのだ。

最後に、セッションの締めくくりとして、高木は現在の市場環境を「データが大量に取れる一方で、不確実性はむしろ増している」と述べた。その上で、不確実な未来を突破するためのデータサイエンスの在り方を次のように結んだ。

「一歩進んで打ち手仮説を見据え、どのような結果が出てもシナリオに沿って最善策を取れるようにする。そのためにデータサイエンスを予測の武器として活用していただきたい。マーケターの鋭い仮説という“感性”と、データサイエンスの“サイエンス”の部分が噛み合ったとき、ビジネスの勝率は最大化していくはずです(高木)」

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