好業績の秘訣はブランド力の最大化にあり!感性×データサイエンスで実現する丸亀製麺の「感動ドリブンマーケティング」
広告主、メディア、広告会社、クリエイティブ、アカデミア。それぞれ異なる専門性を持つプロフェッショナル同士の交流と議論を生み出し、分断のない全体最適なマーケティングの実現を目指すBORDERLESS MARKETING COMMUNITY(BMC)。広告主限定の分科会が2023年9月12日(火)に東京都内で開催された。
イベントは、各領域の有識者が登壇する「セミナー」と、登壇者と参加者双方向のコミュニケーションを通じて実践的な知見を創出する「ラボ」の二部構成で行われた。本記事では、セミナーの内容の一部をレポートする。
【登壇者】
南雲克明(なぐも・かつあき)氏
株式会社トリドールホールディングス 執行役員 CMO 兼 KANDOコミュニケーション本部長 兼 株式会社丸亀製麺 取締役 マーケティング本部長
早稲田大学大学院商学研究科卒MBA。コナミスポーツ、サザビーリーグなどB2Cの事業会社において様々なブランドのマーケティング責任者を歴任。2018年トリドールホールディングス入社。2022年より現職。“感動(KANDO)”を起点に、感性とデータ両側面から持続的に選ばれる確率を高める「感動ドリブンマーケティング」を推進。ブランド力向上と顧客体験価値(CX)向上を軸に、新しい価値創造によるイノベーションまで、ビジネスと企業価値をグロースさせ続けるマーケティングの革新と拡張に取り組む。
【モデレーター】
平尾喜昭氏
株式会社サイカ 代表取締役社長 CEO
目次
データサイエンスでブランド力を高めビジネスをグロースさせ続ける戦略方法とは?~勝率を高める「感動ドリブンマーケティング」に迫る~
広告主限定分科会の第1回目となる今回、ゲストとして登壇したのは丸亀製麺の取締役マーケティング本部長である南雲克明氏だ。同社は外食産業全体がコロナ禍で打撃を受けるなか、素早く事業を回復させ大躍進を遂げていることで注目されている。
好業績を支える主要因と位置づけられているのが「ブランド力の最大化」であり、その一翼を担っているのがデータサイエンスを活用した「ブランド・エクイティ(ブランド蓄積効果)分析」や「KSF(Key Success Factor)分析」だという。ブランディングとデータサイエンスの壁を超えることによるブランド力とビジネス価値の最大化を、丸亀製麺の最新の取り組み事例をもとに探っていった。
顧客を創造する源泉価値は“感動”
丸亀製麺のすべての思考や行動は、“感動”を創造するために存在している––丸亀製麺のすべての戦略・戦術は、「感動体験No.1」というビジョンの実現へつながるよう設計されている。そしてその源泉価値を、「一軒一軒が製麺所」「手づくり・できたて」「人の力」が織りなす感動体験と定義している。これはマーケティング戦略だけでなく、商品戦略や営業戦略、DX戦略などすべてに当てはまることだという。
「顧客は集めるものではなくつくるものであり、“感動”こそが顧客を創造する源泉価値だと考えています。人は強く心が動かされるからこそ行動(購買)するのです」(南雲氏)
丸亀製麺では、この考えを全社に浸透させるために、具体的なストーリーとともに顧客接点ごとに、どこでどういう価値を感じていただくか、お客様の体験に落とし込んで社内に展開している。社員がブランドの想いとカスタマージャーニーを理解しやすくするために、具体的なストーリーを漫画で表現するといった工夫もしている。
80%の売上はブランド力によって決まる
このように“感動”を意思決定の最優先事項とし、事業を持続的に成長させるためには、感性とデータの両立が必要だと考えているという。
データからは“感動”は創れない。感性だけでは確率が低い。そのため、両者を組み合わせてマーケティング戦略や戦術を組み立てていく取り組みを強化している。これは丸亀製麺に息づく「二律両立」という考え方に基づいたトレードオンを目指す姿勢の表れでもあるようだ。
南雲氏は同社のマーケティングコミュニケーションを左脳と右脳へのアプローチとして紹介。欲しくなる理由やPOD(ポイント・オブ・ディファレンス)など左脳・理性へのアプローチを通して選ばれる理由やパーセプションを、五感と感情と本能など右脳・直感へのアプローチを通して選ばれる衝動をつくっていると説明した。
「当社はブランディングで右肩上がりのベースラインをつくり、フェア商品で衝動の山をつくるハイブリッド戦略をとっています。80%の売上はブランド力によって決まるものであり、ブランドに対する理解・好意度・共感が高まっている状態をつくることが最重要だと考えています。そのうえで1.5カ月ごとに年8回フェア商品を展開することで、食べたい衝動を最大化し、事業を持続的に成長させています」(南雲氏)
このような戦略・戦術を徹底的にやりきった結果、丸亀製麺は2022年の顧客体験価値ランキング※で1位を獲得したほか、2023年3月期決算では前期比10.8%増で過去最高の売上収益を達成した。つまり、ブランド力を強くして右肩上がりをつくり、プロモーション効果を最大化させる勝ち筋を見出したといえるだろう。
※株式会社インターブランドジャパン「顧客体験価値(CX)ランキングTM 2022」
ブランド力向上に向けた丸亀製麺の取り組み
続いて第二部では、丸亀製麺がどのように感性とデータを両立しているか、同社のマーケティングモデルを用いながら説明された。
前提として同社は、短期的に見ると顧客体験価値(CX)の積み重ねがブランド力につながると考え、カスタマージャー二―に沿った顧客接点ごとに「どこでどういう価値を感じていただくか」を顧客体験に落とし実践している。その蓄積を可視化して関係部署と共有し、一体感をもって取り組んでいくために、データサイエンスを活用したアジャイルな高速アクションも大切にしているという。
具体的には、商品プロモーションとブランディングの最適投資配分を解明するための「ブランド・エクイティ分析」、事業成果につながるブランド重要指標を検証するための「KSF分析」を実施することで、感性をデータで測り、マーケティングの勝率を高めていったという。
まずブランド・エクイティ分析で商品プロモーションとブランディングを正当に評価するために、長期にわたるブランド蓄積効果を加味した分析を実施。その結果わかったことは、商品プロモーションによる短期スパイクとブランディングの長期蓄積の相乗効果で、狙い通り右肩上がりの成長が築かれていたこと。さらに長期効果を加味すると、全施策においてROASが向上していたことのほか、ブランディングによって商品CMの効果が押し上げられたことも判明した。先述の「ブランディングで右肩上がりのベースラインをつくり、フェア商品で衝動の山をつくるハイブリッド戦略」の効果を可視化したことになる。短期効果だけを見るとミスリードになってしまう危険性も定量的に示されたという。
「きっと正しいだろうと感覚でわかっていたことが数値として可視化されたため、意思決定しやすくなったほか、新商品の広告予算を決める際にも役立っています」(南雲氏)
そしてKSF分析とは、商品が売れた背景・メカニズムを明らかにするために行うもの。コロナ後に取得したアンケート調査データを使用し、リピートに対するKSFとして最も重要なのは利用意向であることを解明した。また、利用意向につながっているのは好意度ではないかという仮説も証明された。その好意度に直結するイメージとしては「安心して食べられる」が重視されており、丸亀製麺の顧客にとっての安心とは、「失敗しない・間違いのない味」「国産の安全」といった安心クオリティの美味しさを意味するという、丸亀製麺の源泉価値に近しい項目と相関関係があることもわかった。
「2023年に新発売した丸亀シェイクうどんが期待以上の成果を上げられたのも、KSF分析をしっかり行っていたからだと思います。顧客が丸亀製麺というブランドに対して期待していることを理解しているからこそ、“従来の丸亀製麺らしさ”に“新しい体験価値”も加えた丸亀シェイクうどんを、自信を持って出すことができました」(南雲氏)
ブランディングの効果を数値化できることで他部署とのコミュニケーションがスムーズになったと語る南雲氏の発言に加え、平尾氏は「KSF分析は、ブランディングを行う上で外してはならない要素や際立たせていくべき要素が明確化されるため、クリエイターの方々と協働する際にも役立ちます」と言及、南雲氏も強く同意した。
これらブランド・エクイティ分析とKSF分析によって明らかになった指標を組み込んだ統合評価モデルの構築を進めているという。加えて新商品投下時のマーケティング投資最適化を検証する「プレバズ分析」や、店舗のエリア×立地タイプ別にマーケティングの効果を可視化・予測する「ストアパフォーマンスモデル」の構築に取り組んでいるという。最終的には「ブランディング施策をこう変えたら、売上はこのくらい変わる」という事業成果を定量的に予測することを目指しているそうだ。
これからのマーケティングに求められることとは
セミナーのクロージングとして、南雲氏はCX向上に対するマーケターの心構えを紹介。顧客起点で統合的かつ持続的にCXを向上させることは、戦略上の最重要課題のひとつであり、そのために全社を巻き込み、リードし、実現することがマーケティング部門に求められる役割であるとした。
一方、平尾氏はマーケティングにおけるポイントを紹介。「短期ではなく、永続的な成長を支えるドライバーがマーケティング。変化をし続けることで、安定的な成長が約束される。そして中長期を見据えながら変化を捉え続けるために、データサイエンスを活用してほしい」と語った。