データドリブンな意思決定とは?マーケティングで「決められる分析」にする手順
データドリブンな意思決定(データドリブン意思決定、DDDM:Data-Driven Decision Making)とは、経験や勘だけに頼らず、データの分析結果を根拠にして選択肢を選ぶ意思決定の進め方です。マーケティングでは、データを集めることよりも、「それぞれの選択肢を選んだら何が起きるか」を推定することのほうが難しく、そこがデータで決められるかどうかの分かれ目になります。
この記事では、データドリブンな意思決定の意味、意思決定に使われる分析の4つのタイプ、マーケティングの意思決定がデータドリブンになりにくい理由、データで意思決定するための6つの手順、AI時代の考え方を解説します。
データドリブンな意思決定とは
データドリブンな意思決定とは、事実やデータを根拠に、目標に照らして選択肢を比べ、選ぶ進め方です。経営、マーケティング、営業、人事など、領域を問わず使われる考え方ですが、どの領域でも中心にあるのは「どの判断を、どのデータで行うか」です。
経験・勘との関係
データドリブンな意思決定は、経験や勘を否定するものではありません。経験は「何を確かめるべきか」という仮説を立てるときに欠かせず、データはその仮説を確かめ、判断の確かさを高めるために使います。データが経験と食い違う結果を示したときに「なぜそうなるのか」を掘り下げると、経験のほうが更新されることもあります。
データドリブン経営・データドリブンマーケティングとの違い
データドリブン経営は、事業全体の戦略や投資の判断をデータに基づいて行う考え方で、データドリブンマーケティングは、その考え方をマーケティングの意思決定に当てはめたものです。扱う意思決定の範囲が異なるだけで、データを選択肢の比較に使うという点は共通しています。マーケティング領域の全体像は「データドリブンマーケティングとは」で解説しています。
データドリブンかどうかを分けるのは、データの量ではなく、データが選択肢を比べるために使われているかどうかです。
意思決定に使われる分析の4つのタイプ
意思決定に使われる分析は、何に答えるかによって、記述的分析、診断的分析、予測的分析、処方的分析の4つに分けられます。
| タイプ | 答える問い | マーケティングでの問いの例 | 主な手法 |
|---|---|---|---|
| 記述的分析 | 何が起きたか | 先月の売上と広告費はどう推移したか | 集計、BI・ダッシュボード |
| 診断的分析 | なぜ起きたか | 売上が伸びたのは広告の効果か、季節要因か | 要因の分解、統計モデル |
| 予測的分析 | このままならどうなるか | 来期も同じ配分なら売上はどうなるか | 時系列予測、統計モデル |
| 処方的分析 | どうすべきか | 来期の予算を媒体間でどう配分すれば売上が最も大きくなるか | シミュレーション、最適化 |
日常的なレポートやダッシュボードが答えているのは、主に記述的分析の問いです。一方で、予算の配分や施策の継続・停止を決めるときに必要なのは、選択肢ごとの結果を比べられる予測的分析と処方的分析であり、その前提として、診断的分析で施策の効果をほかの要因から切り分けておく必要があります。
ダッシュボードで「何が起きたか」が分かっても、それだけでは「どうすべきか」が決まらない理由がここにあります。
マーケティングの意思決定がデータドリブンになりにくい理由
マーケティングの意思決定がデータドリブンになりにくいのは、データが足りないからというより、手元のデータが選択肢を比べられる形になっていないためです。代表的な理由は次の5つです。
レポートが過去の振り返りで終わっている
月次のレポートが過去の振り返りで終わりやすいのは、配分を変えた場合の結果を試算する仕組みがないためです。先月どの媒体でどれだけ成果が出たかは分かっても、来月の予算を動かしたらどうなるかには答えられません。判断に使うには、投資額と成果の関係(レスポンス曲線)を推定し、配分を変えた場合の結果をシミュレーションできる必要があります。
管理画面の指標が、短期・部分的な成果しか示さない
広告媒体の管理画面の指標が判断を誤らせやすいのは、それぞれの媒体が、成果の直前の接触や、自社の広告に接触したユーザーの成果を、独自の基準で数えているためです。そのため、認知を広げた施策は小さく、成果の直前の施策は大きく評価されやすくなります。また、複数の媒体の成果を足すと、実際の成果を上回ることもあります(数値例は「データドリブンマーケティングとは」の記事で紹介しています)。判断に使うには、媒体間の重複を除いた、施策ごとの純粋な貢献が必要です。
テレビCMなどオフライン施策の効果が切り分けられていない
テレビCMや交通広告の効果が議論になりやすいのは、クリックの記録が残らず、季節性や競合の動き、価格の変更といったほかの要因と、施策の効果を分けて見られないためです。売上データから、ほかの要因とテレビCMの効果を統計的に切り分けられれば、テレビCMが売上をどれだけ押し上げたか、どこから先は投下量を増やしても効果が伸びにくいかを示せるようになります。
前年踏襲が、いちばん合意を取りやすい
予算が前年踏襲になりやすいのは、配分を変える根拠がないとき、変えない判断のほうが社内で説明しやすいためです。たとえば広告を減らしたら売上がいつ、どれだけ落ちるかが分からなければ、減らす提案は通りにくくなります。判断に使うには、配分を変えた場合と変えなかった場合の結果を、同じ物差しで比べられる必要があります。
平均の効率で、追加の予算の行き先を決めている
平均のROASで追加予算の行き先を決めると判断を誤りやすいのは、広告の効果が投下量を増やすほど小さくなる(飽和する)ため、平均の効率と、追加の1円あたりの効率が一致しないためです。
たとえば、2つの媒体について、MMMで次のような推定が得られたとします(架空の数値です)。
| 媒体A | 媒体B | |
|---|---|---|
| 月の投資額 | 1,000万円 | 500万円 |
| 売上への貢献(推定) | 3,000万円 | 750万円 |
| 平均ROAS | 300% | 150% |
| 追加の100万円で増える売上(推定) | 80万円 | 130万円 |
| 追加分のROAS(限界ROAS) | 80% | 130% |
平均ROASで見ると媒体Aのほうが効率が良く見えますが、媒体Aはすでに投下量が多く効果が飽和しているため、追加の100万円で増える売上は80万円にとどまります。一方、媒体Bでは同じ100万円で130万円増えると推定されるため、次の100万円は媒体Bに回したほうが売上は大きくなります。配分の判断に使えるのは、平均の効率ではなく、追加の投資に対する効率です。施策を打つ前に結果が読めないことに悩んでいる場合は、「施策を打つ前に、結果が読めない」もあわせてご覧ください。
5つの理由はいずれも、データがないことではなく、選択肢ごとの結果を比べる形になっていないことから生じています。次の章では、意思決定を起点にして、データを判断に使える形にする手順を整理します。
データで意思決定するための6つの手順
データで意思決定するには、問いと選択肢を書き出す、判断の基準を先に決める、データと期間を確かめる、選択肢ごとの結果を推定する、決めて実行する、判断の理由と結果を記録する、の6つの手順で進めます。以下では、手順ごとに「やること」と「アウトプット」を整理します。
手順1. 決める問いと、選択肢を書き出す
やること:「来期の広告予算を、テレビCMとデジタル広告にどう配分するか」のように、決める内容と、比べる選択肢を書き出します。現状維持も選択肢のひとつとして含めます。
アウトプット:意思決定の責任者、判断の期限、選択肢の一覧です。
手順2. 「どの結果なら、どれを選ぶか」を先に決める
やること:分析を始める前に、判断の基準を関係者で合意します。たとえば「追加の投資で増える売上が一定の水準を下回る媒体は、翌期の配分を減らす」のように、分析の結果と選ぶ選択肢を結びつけておきます。結果を見てから基準を決めると、都合のよい解釈が入りやすく、分析が判断に使われにくくなるためです。
アウトプット:判断基準を書いたメモです。
手順3. 必要なデータと期間を確かめる
やること:手順1の問いに答えるためのデータがそろっているかを確かめます。広告予算の配分であれば、成果のデータ、媒体別の出稿量と費用、季節性や競合などの外部要因のデータを、週次程度の粒度で過去2〜3年分そろえるのが目安です。過去にほとんど使っていない媒体の効果は推定しにくいなど、データで答えにくい点もここで確認しておきます。
アウトプット:データの一覧と、足りないデータへの対処の方針です。
手順4. 選択肢ごとの結果を推定する
やること:施策の効果をほかの要因から切り分けたうえで、選択肢ごとに結果がどう変わるかを推定します。広告予算の配分であればMMMによるシミュレーション、個別の施策を続けるかやめるかであれば、施策を行う地域と行わない地域を分けた検証などが使えます。
アウトプット:選択肢ごとの予測結果と、その不確かさの幅です。
手順5. 決めて、実行する
やること:手順2の基準に照らして選択肢を選び、実行します。推定には必ず幅があるため、結果が基準の境目付近にある場合は、範囲を限って試してから広げる選択肢も検討します。
アウトプット:決定した内容と、その実行計画です。
手順6. 判断の理由と結果を記録し、次の判断に使う
やること:何を根拠に、どの選択肢を選んだのかを記録し、実行後の結果と照らし合わせます。判断の理由が残っていれば、担当者が替わっても、同じ議論を一からやり直さずに済みます。サイカでは、こうした判断と結果の記録を組織の知として蓄積し、次の意思決定に生かす仕組みづくりも支援しています(AI Decision Engine)。
アウトプット:根拠、選んだ選択肢、結果をまとめた判断の記録です。
データドリブンな判断を組織に根づかせる方法は「データドリブンなマーケティング組織への第一歩」で解説しています。
6つの手順のうち、データの分析そのものにあたるのは手順4だけで、残りの5つはすべて、分析を判断につなげるための手順です。
AI時代のデータドリブンな意思決定
生成AIの普及によって、データの集計や分析、戦略の選択肢を洗い出す作業は大きく速くなりました。たとえば伊藤園の取り組みでは、AIによるシナリオ分析で191通りの戦略シミュレーションを導き出しています(詳しくは「データドリブンマーケティングの事例」)。
一方で、どの選択肢を選び、その結果に責任を持つのは人です。サイカ代表取締役社長CEOの平尾喜昭は、2026年9月のイベントで「待っている未来は『AIの勝利』ではなく、『AIを駆使した人による勝利』です。」と述べています。
AIが示す選択肢が増えるほど、手順2で決める判断の基準と、手順6で残す判断の記録の価値は大きくなります。
データドリブンな意思決定に関するよくある質問
データドリブンな意思決定とデータ分析の違いは何ですか?
データ分析はデータから事実や傾向を読み取る作業で、データドリブンな意思決定は、その結果を根拠に選択肢を選ぶところまでを含む考え方です。分析の結果によって選ぶ選択肢が変わらないなら、そのデータは意思決定に使われていないことになります。
経験や勘は不要になりますか?
不要にはなりません。経験は確かめるべき仮説を立てるために欠かせず、データはその仮説を検証して、判断の確かさを高めるために使います。
データが足りないときは、どう判断すればよいですか?
まず、手元のデータで答えられる部分と答えられない部分を分けます。答えられない部分は、地域や期間を限った小さな検証でデータをつくる、あるいは判断の前提として明記したうえで経験に基づいて決める、といった方法があります。


































