【マーケターが知っておくべき認知バイアス一覧と具体例:その②】思考のショートカットと社会規範によるバイアス編

コラム
データ分析

マーケティングの世界では、消費者の心理や行動を深く理解することが成功のカギとなります。

連載1回目の「マーケティングにおける「認知バイアス」への理解の重要性:データを超えた消費者洞察」 では、認知バイアスに関する基礎知識や実践的応用について解説。2回目は、マーケターが特に知っておくべき認知バイアスとして、「損失/リスク/後悔回避と自己中心性によるバイアス編」をご紹介しました。

そして連載最後となる本記事では、「思考のショートカットと社会規範によるバイアス」に焦点を当て、マーケティングへの影響や活用方法などを具体例とともにご紹介します。

マーケターが知っておくべき認知バイアス一覧

Cognitive Biases Marketers Need to Know About
参考:https://www.smartmarketing.me/cognitive-biases-marketers-need-to-know-about.html

心理学や人間行動は非常に奥深い分野で、現在でも研究が盛んです。そのため、認知バイアスには数多くの種類が存在し、以下の説明や分類は情報源や解釈によっては微妙に異なることもありますが、マーケターが意識すべき認知バイアスをいくつかご紹介します。

思考のショートカットによるバイアス

思考のショートカットによるバイアスは、人間が複雑な情報を処理する際に、簡単なルールや経験則に頼る傾向があることを指します。

パーキンソンの法則(バイクシェッド効果) – Parkinson’s law(Bikeshedding)

パーキンソンの法則とは、重要な問題よりも些細な問題に無駄に多くの時間を費やしてしまう傾向のことです。この言葉は、莫大な予算のかかる建設計画を議論する際に、その設計よりも自転車置き場(バイクシェッド)の色について熱心に議論されたことに由来します。つまり、本質的な問題ではなく、付随的な些細な問題に注意が向けられてしまう現象を指します。

例えば、「このスマートウォッチは、健康を管理する最も簡単な方法です」というように、細かい機能詳細ではなく、コア価値を訴求することが重要です。マーケターは、商品の付随的な細かい機能に注意が向かないよう、商品の主要な利点をシンプルでわかりやすく強調したメッセージングが求められます。

利用可能性ヒューリスティック – Availability heuristic

利用可能性ヒューリスティックとは、思い出しやすい記憶や情報に基づいて判断を下す認知バイアスのことです。人間は、頭に浮かびやすいものほど頻度や確率を高く見積もる傾向があります。この傾向は、記憶に残りやすい情報ほど重要だと判断してしまうことに起因しています。

マーケターはこの効果を利用して、記憶に残りやすい広告やプロモーションを展開すると良いでしょう。例えば、人気ドラマの中で商品を露出させることで、視聴者の記憶に強く残り、その商品を思い出しやすくなります。印象的なCMや有名人の起用、話題性のあるキャンペーンなども記憶に残りやすく効果的です。

サリエンス効果(顕著性効果)- Salience bias

サリエンス効果とは、目立つ情報や出来事に注意が向きやすく、目立たない情報は無視されがちになる認知バイアスのことです。人間は、際立った特徴や感情的な印象を与えるものに自然と注目し、それ以外の情報は見落としがちです。この効果は、人間の注意や記憶の仕組みに起因しており、危険を素早く察知するための進化的適応だと考えられています。

例えば、目に留まりやすいパッケージデザインにしたり、印象的な有名人を起用したCMを放映することで、消費者の注意を引きつけ、結果として購買意欲を高めることができます。一方で、過度なデザインや演出は、そのイメージが先行してしまうあまり、商品やサービス自体の認知度や価値を吸収してしまう可能性があることにも注意しましょう。

ステレオタイピング(代表性ヒューリスティック / カテゴリーサイズバイアス)- Stereotyping(representativeness heuristic / category size bias)

ステレオタイピングとは、ある集団に属する人々や物事に対して、典型的な特徴や性質があると一般化して判断するようになる認知バイアスのことです。対象をカテゴリーに分類し、そのカテゴリーの典型例に基づいて人々や物事を判断する傾向があり、このような過度な一般化や単純化は、時に不当な差別や偏見につながる危険性があります。

マーケターは、ステレオタイピングを意識し、潜在顧客を遠ざけないよう注意が必要です。一方で、ターゲット層の特徴をうまく活用すれば、商品やサービスの魅力をより効果的にアピールできます。例えば、「アクティブな若者向けのエナジードリンク」のように、ターゲット層のイメージと商品の特徴を関連付ける戦略は有効です。

アンカリング効果 – Anchoring effect

アンカリング効果とは、最初に提示された情報(アンカー)に過度に依存し、その後の判断が歪められる認知的バイアスのことです。人間は、このアンカーに引きずられて、その後の判断を歪めてしまう傾向があります。この効果は、アンカーとなる情報が数値である場合に特に顕著に現れます。

マーケターは、この効果を利用して、消費者の価格感覚を操作することができます。例えば、高価格帯の商品を最初に見せておくと、次に提示される商品の価格が安く感じられる可能性があります。値引き前の定価を強調したり、該当商品よりも価格が高い類似商品を併せて提示したりすることで、該当商品の価格を手頃に感じるようになります。

プライミング効果 – Conceptual priming

プライミング効果とは、ある刺激(プライマー)を与えることで、関連する概念が無意識のうちに活性化され、後の判断や行動に影響を及ぼす現象のことです。

例えば、「暖かさ」という概念を喚起した場合、コートに対して好意的な印象を与えられます。他にも、「豊かさ」「ロマンス」「自由」など商品に関連する肯定的な概念を用いることで、商品やブランドを肯定的な概念や経験と関連付けることができ、好感度を高めることが可能となります。

習慣 – Habit

習慣とは、個人や集団が定期的に行う行動パターンのことです。習慣は長年の繰り返しにより身についた癖や慣習を指します。人間は習慣的な行動を好む傾向があり、習慣は生活のリズムを形作る重要な要素です。

マーケターは、商品やサービスを消費者の日常的な習慣の一部に組み込むことで、継続的な需要を生み出せるようになります。例えば、朝食や運動の習慣に健康食品やサプリメントを取り入れてもらえれば、定期的な購買につながります。習慣形成には一定の時間を要するため、マーケターは地道な働きかけが必要です。しかし、一度習慣化すれば、商品への愛着が高まり、ロイヤルカスタマーを獲得しやすくなります。

決断疲れ – Decision fatigue

決断疲れとは、意思決定を繰り返すことによって、決定の質が低下することを指します。決断疲れを防ぐため、スティーブ・ジョブズが毎日同じデザインの服を着ていたという話は有名です。

マーケターは、決断疲れを避けるためにも、選択肢を簡素化して労力を減らす努力が必要です。例えば、商品ラインナップを削減・簡素化したり、比較表を用意したりすることで、消費者の選択する際のストレスを軽減できると考えられます。他にも、「おすすめ商品・人気商品」を先に提案することで、消費者が意思決定しやすくなる環境を整えることもおすすめです。

フレーミング効果 – Framing effect

フレーミング効果とは、同じ情報でも提示の仕方(フレーミング)を変えることで、人々の判断や選択が異なってくる心理的傾向のことです。つまり、情報の見せ方によって、その情報の解釈が変わり、意思決定に影響を受けるのです。この効果は、人間が合理的に判断するのではなく、情報の提示方法に左右されがちであることに起因しています。

マーケターはこの効果を利用して、商品をポジティブにフレーミングすることで、消費者の購買意欲を高められます。例えば、「95%の顧客が満足」というフレーミングで商品の価値を強調したり、サブスクリプションサービスであれば、「月額3,000円」よりも「1日あたり100円」と表示することで、支払いに対する負担感を軽減したりできます。また、競合商品と比較することで自社商品の優位性をアピールするフレーミングも有効です。

比率バイアス – Ratio bias

比率バイアスとは、同じ確率でも、分子が大きな数値で表された比率の方を高い確率と判断してしまう認知バイアスのことです。例えば、2/10と20/100は同じ20%の確率ですが、人間は20/100の方を高い確率だと過大評価する傾向があります。この傾向は、人間が分子の絶対値に注目しがちで、分母を十分に考慮できないことに起因しています。

例えば、「90%の顧客が満足」と提示する方が、「9/10の顧客が満足」よりも高い満足度に見えます。確率を分数ではなくパーセンテージで表すと、分子の値が大きくなり、より高い確率だと認識されやすくなります。マーケターは、この比率バイアスを意識し、商品やサービスの統計情報を有効活用しましょう。

ハロー効果(権威バイアス)- Halo Effect(Authority Bias)

ハロー効果とは、人物や商品のある側面での良い印象が、全体の評価にも好意的な影響を与える認知バイアスのことです。この効果は、人間が部分的な情報から全体を判断する際の単純化の結果生じます。

マーケターはこの効果を利用して、権威ある人物や団体からの推薦や承認をアピールすると良いでしょう。例えば、芸能人の起用、専門家の推薦、業界の賞や認定の取得などで、商品への信頼性や魅力を高めることが可能となります。権威的な存在から良い評価を受けていれば、消費者もその商品を高く評価する傾向にあります。

サティスファイシング – Satisficing

サティスファイシングとは、最適な選択を追求するのではなく、最低限の基準を満たす選択肢で妥協する意思決定の傾向を指します。これは、人間が合理的な意思決定を行うための認知的リソースが限られているため、完全な最適化を追求するよりも、ある程度満足できる水準で決断を下す傾向に起因しています。

例えば、商品の魅力を詰め込んだ説明文よりも、商品の価格と性能のバランスが適切であるといった商品のコストパフォーマンスの良さを端的に強調することで、消費者に商品が十分に良い選択肢であることを印象付けることが可能となります。

バンドワゴン効果(群衆行動 / 社会的証明)- Bandwagon effect(herd behavior / social proof)

バンドワゴン効果とは、多くの人々が特定の行動や信念を支持しているという理由だけで、自分もそれに従う心理的傾向のことです。つまり、「みんながそうしているから自分もそうする」という群衆心理が働く現象です。この効果は、人間が群れに所属したいという欲求や、多数派に従うことで安心感を得ようとする心理に起因しています。

例えば、店頭で品薄になりつつある商品は、他の消費者が先に購入していることから人気が高いと判断されがちです。このように、多数の人々が商品を選んでいる事実を示すことで、消費者に群衆に従う心理を促すことが可能となります。マーケターは、多くのユーザー数や満足度の高い口コミ、有名人の推薦などを活用することで、商品やサービスの人気を訴求しやすくなります。

社会規範によるバイアス

社会規範によるバイアスは、人間が社会的な期待や規範に従う傾向があることを指します。

公正世界仮説 – Just world hypothesis

公正世界仮説とは、人間の行いに対して公正な結果が返ってくるものだと考える認知バイアスのことで、「良いことをすれば良い結果が、悪いことをすれば悪い結果が起こる」と信じる傾向が見られます。この仮説は、世界が基本的に公正で秩序が保たれているという安心感を与え、人々が日常生活を送る上で重要な役割を果たします。

マーケターはこの仮説に則り、ブランドを公正さや倫理的姿勢と紐付けて訴求すると良いでしょう。例えば、商品の生産過程が公正で環境に配慮されていること、従業員の労働環境が適切であることなどをアピールすることで、消費者は公正で倫理的なブランドとしてその商品を選び、この行動が正しい結果をもたらすと感じることができるのです。

アンダーマイニング効果(過剰正当化効果)- Over-justification effect

アンダーマイニング効果は、外部からの報酬やインセンティブといった外発的動機が与えられることで、達成感を得ることや好奇心を満たすことといった本来の内発的動機が低下する心理現象を指します。人間は、自身の行動が外的な要因によって動機づけられていると認識した結果、行動に対する内在的な動機や関心が薄れてしまう傾向があります。

例えば、過度な外発的動機(割引、ポイント還元、キャンペーンなど)は消費者の内発的動機を低下させてしまう恐れがありますが、商品の魅力や価値そのものを強調するだけでなく、割引やポイント還元などを適切に活用することで、消費者の内発的動機を維持し、長期的な関係性を築くことが可能となります。マーケターはこの効果を踏まえ、商品の固有の価値と外発的動機のバランスをうまくとるよう意識しましょう。

互恵性(相互性) – Reciprocity

互恵性とは、人間関係において、他者からの行為に対して等価的行為で報いようとする傾向のことです。つまり、「人から良いことをされたら、自分も良いことをする」という行動で、この原理は社会における協力関係や信頼関係を維持する上で重要な役割を果たしています。

例えば、無料サンプルの提供や特典付与などを活用し、最初に価値を与えることで、消費者に返礼の気持ちを促せます。消費者は価値提供に対して、商品購入や口コミ発信などの形で応えようとするかもしれません。このように、消費者に対して価値あるものを最初に提供することで、将来的なロイヤルティや購買行動が期待できます。

おわりに

この記事では、思考のショートカットと社会規範によるバイアスについて詳しく解説しました。これらのバイアスは、消費者が迅速かつ効率的な意思決定を行おうとしているからこそ発生しやすく、マーケティング活動において考慮すべきポイントとなっています。

マーケターは、これらのバイアスを正しく理解し、適切に活用することで、より効果的で倫理的なマーケティング活動が可能となります。この記事と併せて、「マーケティングにおける「認知バイアス」への理解の重要性:データを超えた消費者洞察」や「マーケターが知っておくべき認知バイアス一覧と具体例「その①」:損失/リスク/後悔回避と自己中心性によるバイアス編」といった記事も参考にしていただき、マーケティングにおける認知バイアスの全体像を把握することで、より深い理解につなげていただけますと幸いです。

サイカは、マーケティングにおけるデータサイエンス領域で10年以上サービスを提供しており、国内エンタープライズ企業を中心に250社以上の支援実績があります。多岐にわたる業界における豊富で深い専門知識を持つアナリストとコンサルタントが、データサイエンスを用いて、クライアント様がより良い意思決定を行えるよう支援いたします。

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