ブランド・エクイティ構築:構成要素、4つの測定方法と成功事例
ブランド・エクイティとは、ブランド資産の集合体を表す言葉です。ブランドが持つ「目に見えない価値」を築き上げることで顧客満足度を高められ、さらなるブランド・エクイティの向上へつなげられます。
この記事では、ブランド・エクイティの概要や構成要素を紹介します。併せて、その測定方法やブランド・エクイティを高める取り組み事例も解説するので、ぜひ参考にしてください。
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目次
ブランド・エクイティとは?
ブランド・エクイティとは、カリフォルニア大学の名誉教授であるデービッド・A・アーカーが提唱した概念で、ブランドに結び付く資産の集合体と定義されています。本来は無形であるブランドを、企業が独自に保有する「ブランド資産」として評価する考え方です。
また、この概念には、プラスの資産だけでなくマイナスの資産も含まれている点が特徴です。企業として、ブランド認知を拡大させてファンを増やすなどの育成・投資へ積極的に取り組むことで、ブランド・エクイティを高められるでしょう。
ブランド・エクイティを確立するメリット
ブランド・エクイティを確立すると、企業側と顧客側の両者にメリットがあります。まず、企業側のメリットには以下が挙げられます。
企業側のメリット
- 継続利用する顧客が生まれる
- 競合他社と差別化できる
- 中長期的な売上に貢献してくれる
上記のなかでも、ブランド・エクイティを築き上げることで、継続的に利用してくれる顧客を得られるのは大きなメリットといえます。さらに、自社の理念を体現したブランドを提供すれば、競合他社との差別化が可能となり、価格競争にも巻き込まれにくくなります。
また、中長期的な売上に貢献してくれるということは、いわゆる企業のベースライン売上を底上げできるということです。ベースライン売上とは、キャンペーンや販促的な広告などを出稿しない場合の売上を指します。
一方、顧客側のメリットには以下2点が挙げられます。
顧客側のメリット
- 信頼感が高まり、購入時の不安が減る
- 体験価値が高まる
ブランドへの信頼感が高まれば、顧客はインターネットショッピングで画像やテキストから判断し、安心して商品・サービスを購入しやすくなります。購入時の不安が減るのは、顧客にとって大きなメリットでしょう。これにより企業は、直接販売以外のチャネル確保が可能になります。
また、体験価値が高まれば、顧客はそのブランドの保有により優越感や高揚感を得るようになります。その結果、企業は継続利用してくれる顧客を確保できるでしょう。
ブランド・エクイティの構成要素
ブランド・エクイティの構成要素には、アーカーモデルとケラーモデルの2種類があります。それぞれの特徴について詳しく見ていきましょう。
アーカーモデルの構成要素
まずは、アーカーモデルについて、5つの構成要素をそれぞれ紹介します。
ブランドロイヤリティ
ブランドに対する愛着や忠誠を、ブランドロイヤリティと呼びます。アーカーモデルのなかでも重要な要素の一つです。ブランドロイヤリティが高いと継続購入する顧客が増え、顧客単価も上がる傾向にあります。
ブランドロイヤリティが高くなれば、顧客が競合他社へ乗り換える可能性が減り、自社のビジネスとしての安定性を高めることにもつながります。
ブランド認知
顧客に対して、ブランドがどれほど認知されているかという要素を指します。例えば、ブランド認知が高い場合、ブランドに対する信頼度も高まりやすいので、選択される機会を多く得られるでしょう。
なお、ブランド認知を測定する指標には、以下の4つが挙げられます。
指標 | 特徴 |
助成想起率 | 複数のブランドを提示した際に、自社のブランドが知られている割合 |
純粋想起率 | 商品・サービスのカテゴリを提示した際に、自社のブランド名が挙げられる割合 |
第一想起率 | 商品・サービスのカテゴリを提示した際に、自社のブランド名が1番目に挙げられる割合 |
支配想起率 | 商品・サービスのカテゴリを提示した際に、自社のブランド名が1番目に挙げられるうえ、それ以外のブランドが想起されない割合 |
このように、ブランド認知の測定指標には4種類があります。支配想起率が高ければ、ブランド・エクイティも高まります。
知覚品質
顧客が、その商品・サービスに対して持つ品質のことです。企業側が認識している事実は指さず、商品の性能以外に信頼感や雰囲気も含まれます。
例えば、自社が提供する商品・サービスで具体的に謳っていない効果を、顧客側が認識している場合は、知覚品質に該当します。顧客側の主観によって、商品・サービスに対する良し悪しを判断されやすいことが特徴です。
そのため、どれほど自社の商品・サービスの良さを訴求しても、知覚品質を高めなければ、購入に至る可能性は低くなります。つまり、ブランドの品質はもちろん、イメージ作りも重要な戦略といえるのです。
ブランド連想
顧客が、ブランドから想像するもの全体です。基本的に、ブランドから連想されるものが多いほど、ブランド・エクイティにとっては良いとされています。
ブランド連想が高ければ、競合他社と差別化が可能となり、顧客から自社の商品・サービスを選ばれる機会を得やすいでしょう。連想される項目は、顧客の実体験や広告、口コミなどで得た情報がもとになっていることが一般的です。
効果的なマーケティングを実行して、ブランド連想の項目を増やす取り組みが求められます。
その他のブランド資産
その他のブランド資産とは、商標権や知的財産権、特許など、ブランド以外の無形資産を指します。自社独自の商品・サービス、技術などを権利として守ることで、ブランドの力を保つことにもつながります。
また、取引先との強固な関係や、顧客とのつながりといった要素も含まれていることが特徴です。ブランド・エクイティを高めるためには、有形の資産と同様に投資を行ない、価値を上げる必要があります。
ケラーモデルの構成要素
次に、ケラーモデルにおける構成要素について見ていきましょう。このモデルは、レベル1からレベル4まで、段階的に積み上がるピラミッドのイメージで構成されています。
レベル1:ブランドの認知
顧客がブランドを認知し、他のブランドと区別してもらえるアイデンティティを獲得する段階です。アーカーモデルにおける、ブランド認知に該当します。
ブランドとしての知名度を獲得するとともに、参入している業界でのポジショニングを行なう意味も含まれています。
先述のとおり、ケラーモデルはピラミッドのように構成されているので、ベースとなる要素を盤石にしなければ上部を支えられません。したがって、ブランド・エクイティを継続的に成長させていくためにも、重要な要素といえるでしょう。
レベル2:ブランドの意味付け
ブランドの意味付けの要素は、以下のとおり大きく2つの項目に分かれることが特徴です。
- ブランドの機能:ブランドの実利価値に対する顧客理解
- ブランドのイメージ:ブランドに対して顧客が抱くイメージ
1つ目の項目は、ブランドの機能を顧客が正しく理解し、なおかつ顧客の利益につながっているかという要素です。次に、2つ目の項目は、企業が目標とするイメージが顧客に正しく伝わっているかという要素で、これによりアーカーモデルのブランド連想が決まります。
レベル3:ブランドへの評価
ブランドに対する顧客からの評価・判断は、理性的なものと感情的なものに分かれます。例えば、理性的な評価を測る場合、品質や機能に対する信頼性・特別性などが評価項目に挙げられます。
一方、感情的な評価を測る場合は、商品・サービスの利用時の楽しさ・安心性などが評価項目です。
いずれにしても、顧客から得られる評価は、ブランドコンセプトに沿ったものでなければなりません。仮に、顧客からの評価が当初のコンセプトとかけ離れていた場合は、戦略を練り直す必要があるでしょう。
レベル4:共感や同調
ケラーモデルにおけるピラミッドの頂点となる要素は、顧客とブランドの心理的なつながりの強度を指します。前段階のベースを堅実に築き上げていなければ、レベル4まで到達できないでしょう。
この段階になると、「顧客がブランドを他者に推奨する」「同一ブランドを愛好する人のコミュニティが形成される」などの現象が起こりやすくなります。アーカーモデルにおけるブランドロイヤリティにあたり、顧客が自発的にブランドや企業を支えてくれるようになるのです。
ブランド・エクイティの測定方法
ブランド・エクイティの測定方法を4つ紹介します。
NPS®を活用して測定する
NPS®(ネットプロモータースコア)は、顧客ロイヤリティを測定できる指標のことです。ブランドの価値を可視化する方法として、多くの企業が活用しています。
NPS®を活用して測定するには、まず顧客に対して「特定企業のブランド・商品・サービスを他者に推奨するか?」というアンケートを実施し、回答者を推奨者・中立者・批判者に分けます。そして、推奨者の割合から批判者の割合を差し引いたときの数値が、NPS®の数値です。
極端な例を挙げると、批判者のみの場合はNPSが「-100」で、推奨者のみの場合はNPSが「+100」になります。つまり、NPSの数値が高いほど推奨者が多いということです。なお、統計的な観点では、400サンプル以上確保することが良いとされています。
企業の財務状況から推測する
財務情報から企業の価値を算出し、ブランドが価値創出にどの程度寄与しているかを推測する方法もあります。この測定方法では、企業の超過収益力とも表される「のれん」という財務科目に、ブランド・エクイティが集約されることが特徴です。
財務状況をもとに計測する際は、以下3種の企業価値評価手法が利用できます。
種類 | 特徴 |
コストアプローチ | 貸借対照表の純資産を基準として、価値を算出する方法 |
インカムアプローチ | 企業の将来的な利益予想やキャッシュ・フロー予想をもとに、価値を算出する方法 |
マーケットアプローチ | 同業他社の時価総額や、類似のM&A事例などをもとに価値を算出する方法 |
このように、財務状況をもとにした測定方法には3種類があるので、自社に適した方法を選ぶことが大切です。
ブランドリプレイス費用から推測する
ブランドリプレイス費用とは、ブランドが知られていない場所で新たに展開した際に、現状と同様のブランド力の獲得にかかる費用のことです。ブランドの商圏外で新たに出店した際にかかる費用を推測することで、ブランド・エクイティが算出できます。
この費用の内訳は、以下3つの項目に分けられます。
- ブランドのアイデンティティを得る費用
- 認知を獲得する費用
- 顧客維持にかかる費用
上記項目を合算したブランドリプレイス費用が多いほど、対象企業におけるブランド・エクイティは高いといえます。
ブランド蓄積効果を分析する
ブランド蓄積効果を分析することでも、ブランド・エクイティは測定可能です。ブランド蓄積効果とは、テレビCMやその他ブランド力に影響を与える広告を出稿したあと、中長期にわたって施策の効果が継続することを指します。
この方法では、マーケティングや広告などの継続的な投資が、数ヵ月、数年間にわたって企業の売上のベースラインにどのくらい貢献しているかを、重回帰分析などの統計分析で分析します。
ブランド蓄積効果を分析するメリットは、マーケティング戦略を描くうえで、中長期的な売上成長と費用対効果を説明できる根拠のひとつになり得る点です。
ブランド・エクイティを高める取り組み事例
続いて、ブランド・エクイティを高める取り組みの事例を3つ紹介します。自社のマーケティング戦略を立案するうえで、ぜひ参考にしてみてください。
Apple
アメリカに本社を置く大手IT企業のアップルは、提供する商品の独自性やデザイン性、操作性などで差別化していることが特徴です。例えば、操作性に関していえば、シンプルで操作に迷いづらく、ユーザー目線に立った商品設計になっています。
また、CM「Think different」や「Your Verse Anthem」でも謳われているように、「自分らしく生きる」「変革者」といった考えも、プロモーションを通じて顧客にイメージ付けをしてきました。
このような戦略的なマーケティング活動により、アップル製品は「スタイリッシュ」「洗練」「格好良い」というブランドイメージを構築できたのです。アップルの戦略は、ブランド・エクイティを向上させた好例といえるでしょう。
スターバックスコーヒー
スターバックスコーヒーでは、体験を意識した企業ミッション「Our Mission and Values」 を掲げています。
企業ミッションにもあるとおり、スターバックスコーヒーはコーヒーの品質はもちろん、空間づくりにも力を入れていることが特徴です。家でも職場でもない「サードプレイス(第三の場所)」を提案しており、すべての顧客が心地良く過ごせる空間づくりに取り組んでいます。
また、顧客へ特別な体験(スターバックスエクスペリエンス)を提供していることも、特色といえます。これは、店舗にいるパートナー(従業員)の一人ひとりが、顧客に対して提供できる価値を考えて行動することで、もたらされるものです。
顧客が感じるブランド力を「体験」にフォーカスし、強い競争力を持ったことが、スターバックスコーヒーのブランド・エクイティを高めた秘訣ともいえるでしょう。
無印良品
無印良品では、「1.素材の選択」「2.工程の点検」「3.包装の簡略化」の3つの原則を重視しています。この3つの原則を商品開発に活かすことで、低価格でシンプルな商品を実現し、自然志向などの評価を得ました。
また、ブランド・エクイティを向上させている理由の一つに、商品イメージを統一させていることも挙げられます。例えば、同種のブランド商品と並べた際も、無印良品の製品だとわかりやすいデザインやパッケージになっています。これは、差別化戦略が成功した証しといえるでしょう。
なお、無印良品の商品紹介文では、「なぜこの素材、形、機能になったのか」というポイントを顧客に伝えています。品質の良さや、考え抜かれた商品コンセプトであることなど、顧客へのイメージ付けも一貫して実施されているのです。
まとめ
ブランド・エクイティを得ることで、顧客の継続的な利用や競合他社との差別化などのメリットが見込めます。ブランド・エクイティを測定する際は、NPS®の活用やブランド蓄積効果からの分析などが可能です。
自社のマーケティングの効果を高めるためにも、定期的な測定は欠かせません。サイカが提供する「MAGELLAN」なら、オンライン・オフライン広告などがもたらすブランド・エクイティを含む中長期的な効果、売上に影響する要因を適切に測定可能です。
広告以外に、販促・営業活動や競合販売価格、配荷率などの要素も分析できるため、自社のマーケティング活動における心強いツールとしてご活用いただけるでしょう。
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