描くPM像のなかった私が、世の中のルールブレイカーを目指すまで
「はじめての担当プロジェクト、自己採点するなら5点です」
そう話す大城戸薫(おおきど かおる)さんは、現在、サイカ開発組織のプロダクトマネージャー(PM)として、プロダクトのビジョン策定から現場の開発推進までを担っています。開発から事業領域に至るまで幅広い仕事を経験されてきた大城戸さん。それらを掛け合わせ、どのように業務と組織に向き合っているのか。そしてこれから目指すものは?
大城戸さんのPM論を聞きました。
目次
はじめて担当したプロジェクトは、たったの5点
── 大城戸さんは、新卒で入社した会社ではじめてPMを経験されるんですね。
はい。新卒で入社した会社はコンパイラメーカー(※1)でした。はじめてプロダクト開発を担当したのは27歳の頃。OSの動作テストツールを作るプロジェクトで、1年半の開発期間でした。
── 当時のプロジェクトを振り返るといかがですか?
自己採点するなら5点です。
要件定義が曖昧なままのスタート。進行管理ができていない。
描くPM像もなかったので、チームマネジメントにも課題がありました。
手探りでPMの仕事をする間、頼れたのはお客さんの声だけでした。直接要望を聞き、プロダクトに落とし込むしか前に進む方法がなくて、プロダクトを開発しながらセールスエンジニアを兼務していたのも、実はこういった理由からなんです。
※1:組み込み向けのツール開発を行うメーカー
toBの100倍スピードで進む、toC企業への転職
── その後、ソーシャルゲームやWebサービスを提供するgloops(グループス)へ転職されます。
ナレッジが蓄積され、エンジニアリングが進んでいるtoCで経験を積みたいと思い、転職しました。
当時はネットゲーム最盛期。新しい考え方と磨き上げてきた技術を持つ人がたくさんいて、会社の雰囲気も勢いも仕事のスピード感もまるで違います。カルチャーショックでしたね。
入社後はゲーム開発のエンジニアをやっていました。周りはC#(シーシャープ)言語のスペシャリストばかり。一方、私は未経験のWebサービスへの転職。必死でキャッチアップしていきました。
── 慣れるまでとても大変そうです。でも、大城戸さんが求めていたスキルアップができそうな環境では?
まさにそんな環境でした。でも、仕事に慣れてきて自分のキャリアを考える余裕が出てきた時、スペシャリストの道は違うかもと感じるようになったんです。
僕の場合、目の前のものを突き詰めるより、全体を俯瞰して見渡し、構造化して整理するのが性に合っています。この時ももっと全体像を見たいと思っていました。
── その後、社内でデータアナリストやPMOに転身するのもそういった理由からですか?
そうですね。事業への興味も強かったので、入社から1年後、データアナリストに転身しました。ログを分析して改善点や戦略を提案する仕事です。1年半後、PMO(プロダクトマネジメントオフィス)として、目標達成やアウトプット、経営者報告など、次第に広い視野を必要とする仕事にシフトしていきました。
── そこからネクソンに出向し、さらに事業よりの業務を担当されています。
ネクソンでの主業務は、海外での製品買い付け、事業化、事業成長の戦略立案でした。
BtoCは、BtoBの100倍以上のスピードで動きます。
ひと月で3回韓国に飛び、製品が日本市場で売れるかの見極めと買い付け、事業化した場合どのくらいの成果が出るかというPLの検討、契約までの説得とクロージングを1ヶ月以内に完結させるスピード感でした。
とにかく早く、前進させることが大事。そしてその実行力の部分も、自分の好きな分野だと気付いたんですよね。
能力を伸ばすフェーズから、社会にインパクトを与えるフェーズへ
── 5年間のネクソンへの出向を終え、サイカに転職されるんですね。
自分の能力を伸ばす期間はいったんここで一区切りにして、業界や世の中の常識を変えるくらいインパクトのあるプロダクトを作りたい。そう思って出会ったのがサイカでした。
プロダクト重視の転職だったのに、実は最初「マゼラン」というツールのことがよくわからなかったんです。数理の知識を元にデータドリブンなマーケティング解析をやる独特なツール。難しそうだけど面白そう。そんな第一印象でした。
入社の決め手の一つは、代表・平尾さんが描く解像度の高いビジョンと、そこに至るまでの明確なロードマップがあったこと。
もう一つはPMという職種です。PMは全体を広く見て前進させる仕事。全体像の把握と構造化、実行力が鍵になる。自分の強みと経験を活かせる仕事だと思いました。
── 大城戸さんの現在の担当業務を教えてください。
具体的にやっていることは2つあります。
一つはUX(User Experence/ユーザー体験)です。
使われるプロダクトになるために「ユーザーは誰なのか?」は重要な視点。
「ユーザーにこんな体験をしてもらいたいから、これを作る」という視点を開発チーム全体で持つため、開発プロセスにUX観点を入れ、一致した目標に向かうための体制と組織文化を作るプロジェクトです。
もう一つは、アドバイザリーボードの池田俊さんとやっている、UX観点のKGI/KPI構造化です。
可視化のツールを作る会社なので、自分たちの組織もデータドリブンに業務の可視化、観測、組織やプロダクト開発へのフィードバックを最適化していないと説得力がないですよね。その部分を検討し、事業をデータの視点から構造化しています。
「データに示唆を与える」は創業時からブレないサイカの目標ですが、示唆を与えた後にどうなってほしいのか? を具体化し、プロダクトへ落とし込むのが僕のメイン業務ですね。
── PMの仕事のなかでも上流部分に携わっているんですね。いまのお仕事はどうですか?
すごくチャレンジさせてもらっています。
いま担当しているのは、プロダクトのビジョンやロードマップを作るという、経営や事業の根幹に関わる抽象度の高い業務です。
この問いの答えを出そうとする時、事業サイドやtoCでの経験が活きています。
でも、自分はまだまだ平尾さんの熱量に追いつけていないし、会社も良い意味で変わっていく。仕事の範囲も圧倒的に広くなりました。難易度の高さを感じつつも、とてもチャレンジングな経験ができています。
サイカでは社員全員が「私の才能開花」を言語化しています。
私は10ヶ月前の入社時、「把握、変化と前進、日々精進」という言葉を書きました。
構造と現状を把握し、前に進むために一歩ずつ踏み出す──私が大切にしている仕事のやり方です。
でも、いまの仕事に照らしてみると「目標」の部分が入っていないんですよ(笑)前進はビジョンがあってこそできるものですよね。いま書き直したらちょっと変わると思います。
そしてこれからは、一歩の幅がすごく大きくなると思いますね。
持っていて損はない、UX観点での開発経験
── 開発チーム全体で、UXや機能について議論できる組織を目指しているんですね。
エンジニアは大きく2種類に分類できると思います。
技術的な部分に面白みを感じる方と、プロダクトのあり方に面白みを感じる方です。
サイカの開発チームは後者を目指していますが、エンジニア全員がそこに面白みを感じるわけではないですよね。技術を突きつめたい場合、どんなサービスを作るかよりも、新しいテクノロジーや効率性に興味を持つだろうし、要件定義の後どう実現するかの議論から入りたい人も当然います。
チームを作るところからなんでもやりたい人はいまのフェーズに合っていると思いますが、どちらの志向であっても、エンジニアとしてユーザー体験を開発プロセスに組み込む経験はしておいて損はないと思うんですよね。
── 入社から10ヶ月経ち、いまはどんなチームですか?
方向性や具体化論をみんなで話し合えるチームになってきました。いろいろなアイデアが出てくる面白さがありますね。
この10ヶ月で、開発プロセス、進め方、言語、すべてが変わりました。別会社かと思うくらいの変化をしています。このスピード感もいまの開発チームの特徴だと思います。
世の中のルールブレイカーを目指して
── 最後に、大城戸さんの今後の目標を教えてください。
大きく3つあります。
まずは新プロダクトが始まるので、きっちりリリースして、その先の計画をきちんと立てること。
PMにとって大事なのは、ユーザーの未来の変化まで考えることです。我々が当初届けかったユーザー体験と、実際のユーザー体験にはずれが生じるものです。そこで適切に軌道修正しないと、どんなに良いプロダクトでも使われなくなってしまう。方向性を見誤らず、しっかり使われるプロダクトに育てていくのが目標ですね。
もう一つは、スピード感を大事にすることです。
私がエンジニアの仕事を始めた頃、toBは、toCの1/100のスピードで進む世界でした。
徐々に、SaaSがtoCのスピードに追いついてきましたが、我々は顧客企業がtoC向けにサービス・製品を提供するよりも早く、良いものを作らなければいけません。
最後に、我々がプロダクトで叶えたい世界を実現することです。
プロダクトはナレッジが溜まった最終形態だと思っているんですが、技術革新の捉え方には多面性があります。よく、「AIが人の仕事を奪う」と言われますよね。でも一方で、「既存のルールを壊して新しい仕組みや価値を創造するルールブレイカー」と捉えられるプロダクトも存在すると思うんです。
コロナウイルスで日本企業の働き方はコロッと変わりました。
一つのプロダクトで人の働き方や考え方、業界そのものがコロッと変わるかもしれない。
自分たちのプロダクトが世の中のルールブレイカーになれたらいちばん面白いですよね。
※インタビュイーの所属・役職は取材当時のものです。