不完全な情報で合理的な意思決定を行うためのポイント

コラム
マインドセット

ビジネスの世界では、完全な情報をもとに意思決定をすることはほとんどありません。市場や競合の動向、顧客のニーズや社内の状況など、意思決定に必要な材料は多岐にわたる上、それらは常に変化しています。そのため、特に経営者や部門の責任者などのビジネスリーダーにとっては、不完全な情報でも合理的で効果的な判断を下せるようになることが非常に重要です。

限られた情報で最適な決断ができる人とそれができない人との違いは何でしょうか?それは、高度な分析力や特別な専門知識の有無ではありません。成功するビジネスリーダーの共通点として、情報の素早い理解力と鋭い洞察力があります。

この記事では、不完全な情報で合理的な意思決定を行うためのポイントをご紹介します。ここでご紹介するポイントには順番や優先順位は特にありません。どれか1つを身につけるだけでも、ビジネスの現場でより的確な決断を下すことができるようになるでしょう。

はじめに

不完全な情報をもとにビジネス判断を下すのは簡単ではありません。直感に頼ったり、データの質や信憑性を確認せずに判断してしまうかもしれません。その結果、バイアスのかかった正しくない意思決定につながる可能性があります。この章では、ビジネスにおけるデータ活用にまつわる幻想、直感的に判断することによるバイアス、データを使って判断することによるバイアスについて探っていきます。

ビジネスにおけるデータ活用にまつわる幻想

データ活用に関して抱かれやすい幻想として、代表的な二つの例を紹介します。

一つは、「データを使って判断するには数学のスペシャリストでなければならない」という幻想です。ビジネスにおいてデータを効果的に使うには、高度な数学のスキルや学位が必要だと思っている人が多くいます。また、データを理解し、人に説明することに難しさを感じている人もいるかもしれません。しかし、データを使って何かを判断するのに、数学のスペシャリストである必要は全くありません。

もう一つは、「ビッグデータを活用すれば『完璧な』判断ができるはずだ」という幻想です。しかしこれも偽りです。実際、ビッグデータを使った判断には多くのリスクや注意点があります。例えば、ビッグデータは多くの場合、データが欠落していたり関連性のないものも混ざっていたりすることがあり、使用するためにはデータのクレンジングや処理などが必要となります。また、データが偏っていたり、悪用されたりするリスクもあるため、活用するうえでは一定のリテラシーとプライバシーやセキュリティに関する知識を必要とします。情報に基づく意思決定に関する現代の課題は、情報の不足ではなく、それを賢く使う判断力だといえます。

これらのビジネスにおけるデータ活用にまつわる幻想が、データを使って合理的で最適な判断をすることを阻害してしまっているのです。克服するための第一歩は、データは魔法のツールではなく、正しく使うことで役に立てることができるツールであると認識すること。そして、そのために必要なのは高度な数学スキルではなく、一定のリテラシーとプライバシーやセキュリティに関する知識だということを理解することです。

直感的に判断することによるバイアス

直感的に判断することによるバイアスとは、感覚や本能、あるいは経験則にあまりにも頼りすぎることで生じる思考の誤りです。日本語の「経験」(KEIKEN)、「勘」(KAN)、「度胸」(DOKYOU)の頭文字を取ってKKDとも呼ばれる方法ですが、これらの方法は、情報の収集や解釈をする際に偏りを生じてしまう可能性があります。

データを使って判断することによるバイアス

データを使って判断することによるバイアスとは、使用するデータの偏りや不足によって生じる分析の誤りです。これらのバイアスは、データの分析や分析結果の解釈や結論付けに影響を与える可能性があります。

これらのバイアスを避けて、不完全な情報をもとに最適なビジネス判断を下すためには、直感とデータや論理性と創造性のバランスをとることが必要です。本記事では、そのために必要なスキルやプロセスを紹介していきます。

問いを立てる力

人は大人になるにつれ、質問よりも答えが重要だと教え込まれることが多くなります。そして仕事においても、問いを立てることの価値が軽視されがちです。答えや解決策が見つかると、そこからさらに問いを立てようという人は少ないかもしれません。

しかし、問いを立てるということは、意思決定に限らず、コミュニケーションや学習においても重要なスキルです。もちろん、ただ問いを立てるだけでは意味がありません。目的や方向性が曖昧な問いは時間の無駄になり、有用な情報を引き出せない可能性があります。

問いを立てる方法として有名なものとして、ソクラテス式問答法というものがあります。古代ギリシャ哲学者であるソクラテスが提唱した、対話によって嗜好を刺激する方法ですが、ビジネスにおいても活用することができます。

ソクラテス式問答法

ソクラテス式問答法には、様々な質問の種類がありますが、一部の例をもとにビジネスでの活用法を紹介します。

  • 明確化の質問:この問題の具体的ゴールは何か?解決しようとしている問題は何か?
  • 前提の質問:この問題についてわかっていないことは何か?この提案が成功するという前提にはどのような仮定があるか?
  • 根拠の質問:今持っている答えを事実だと考えた理由は?この提案を支持するデータや証拠はあるか?
  • 起源の質問:今の考え方はどこから得たものか?この問題を最初に指摘したのは誰か?
  • 視点や観点の質問:他の人はこの問題にどうこたえるだろう?競合他社が同じ状況だったら、どのような対応をすると思うか?
  • 仮定の質問:今の答え以外に考えられる答えは何か?予想通りに動かなかった場合、計画はどう変わるか?
  • 意味合いや結果の質問:これにはどのような意味があり、これを試したらどのような効果があるだろうか?この提案を実行することで、どのようなリスクが伴うか?

意思決定をする前に、問題に対してこのような問いを立てることで、問題を明確化し、状況をより網羅的に把握することができます。その結果、課題に対するより最適な仮説を立てることができます。

問いを立てる力は、情報の偏りを防ぐだけでなく、クリティカルシンキング(批判的思考)を刺激し、新たな視点や可能性を開拓することにも繋がります。

課題設定力

「私に世界を救うための時間が1時間だけ与えられたとしたら、最初の55分を何が問題かを発見するために費やし、残りの5分でその問題を解決するだろう」

アルベルト・アインシュタイン

データや情報を確認する以前に、問題解決のための意思決定において問題や課題を正しく理解し、解決の優先順位をつけることが非常に重要です。しかし、問題や課題の本質を見極めることは容易ではありません。そこで、課題設定力というスキルが役立ちます。課題設定力とは、「何をすべきかを自ら考え出す力」のことです。課題設定力を身につけることで、問題や課題の本質に迫り、効果的な解決策を見つけることができます。

課題設定力

課題の特定は目的(達成したいこと)から始まる

データを大量に保有しており、その中に何か価値のあるものがあるはずだと考えている企業が少なくありません。ただ、闇雲にそれらのデータを分析しても、分析結果をどのように使えばよいか分からないといった事態に陥ることがよくあります。

“何を意思決定したいのか”、つまりデータ分析の目的を明確にすることが重要です。目的が明確でなければ、データ分析のスコープ(範囲)を明確にすることができず、多大な労力と費用をかけて分析をしたのに有益な示唆が得られずに終わるケースが多くあります。

目的を明確にしたら、その目的を達成するために解決すべき課題を特定するアプローチは大きく2つあります。

① 過去データがあり、何が問題かを想定できる場合:実データから特定する

例えば、目的が「売上を最大化すること」だとした場合で考えてみましょう。

売上を構成する要素を分解する

売上は「新規売上」と「既存売上」に分解できます。さらにそれぞれの要素を分解していくと、売上を構成する要素の洗い出しができます。

上図のように要素の洗い出しができたら、図の上段からデータを比較していきます。

売上を構成する「新規売上」と「既存売上」を比較すると、「既存売上」は安定している一方、「新規売上」が下がっている

例えば上図のような結果が見られた場合、売上を構成する「新規売上」と「既存売上」を比較すると、「既存売上」は安定している一方、「新規売上」が下がっていることがわかります。

次に「新規売上」を構成する「CVR」と「流入」を比較します。

「CVR」は安定している一方、「流入」が低下している

「CVR」は安定している一方、「流入」が低下していることがわかります。

同じように、低下している「流入」を構成する「ディスプレイ広告(からの流入)」と「リスティング広告(からの流入)」をグラフで比較してみると、リスティング広告からの流入数が低下していることがわかります。

スティング広告の流入数低下が課題である

② 過去のデータがなく、何が課題か想定できない場合:未来の仮説をつくり、想定される未来の課題を洗い出す

過去のデータがなく、何が課題か想定できない場合

過去のデータがなく、何が課題か想定できない場合は、まず未来の仮説をつくることから始めます(上図①)。未来の仮説をつくるというのは、自社が目指す未来の状況(ビジョン)を具体的に想像することです。例えば、新規事業を創出する場合、どんな商品やサービスを提供したいか、どんな顧客に向けたいか、どんな価値を創造したいかなどを考えます。未来の仮説を立てることで、ビジョンや方向性を明確にすることができます。

次に、未来の仮説に近い状況や事例で参考になる過去の事実がないかを確認します(上図②)。例えば、同じ業界や市場で成功または失敗した企業や、類似の商品・サービスなどの事例が参考になるかもしれません。

そして、事例を参考に過去の事実と結果の因果関係を推測します(上図③)。例えば、どのような要因が成功や失敗に影響したのか、どのような反応があったのかなどを考えていきます。ここで洗い出されたものが想定される自社の課題であり、影響が大きいものほど優先順位の高い課題と捉えることができます。

以上が、未来の仮説を立て、課題を特定する方法です。具体的な例として、以下のようなケースを考えてみましょう。

  • 未来の仮説(ビジョン)
    • 2025年に、日本で最も人気のあるオンライン英会話サービスを提供する。
  • 仮説に近い過去の事実(データ)
    • 例えば、日本以外の国におけるオンライン語学研修サービスの成功・失敗事例を参考にする。
  • 推測される因果関係
    • 推測できる成功要因:教師のスキルや多様性、コースの柔軟性や料金、カスタマーサポートの充実など。
    • 推測できる失敗要因:技術的な不具合や遅延、教師の不足や離職、顧客の満足度や継続率の低下など。
  • 課題の特定
    • 上記で推測した因果関係のうち、最も影響が大きいのは「コースの柔軟性や料金」であることがわかった。(=優先順位の高い課題となる)

このように、未来の仮説を立てて課題を特定する方法は、何が課題かがはっきり想定できない場合に役立つ方法です。

もちろん、この方法は完璧ではありません。未来は予測できないことも多く、推測した過去の情報と結果の因果関係は必ずしも正しいとは限りません。しかし、この方法を使って自分の考えや仮説を明確にし、想定される課題やリスクを洗い出して解決策や検証方法を考えることは、不完全な情報で合理的な意思決定を行うために重要なステップです。

なお、課題を特定するための上記の2つのアプローチは、弊社サイカが重視しているビジネスにおけるデータ分析の基本となる8ステップのStep2に位置します。

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次に、先に説明した2つのアプローチとは少し似ていますが、補完的なアプローチを紹介します。このアプローチは、合理的な意思決定を行うために、どのような情報があれば理想なのかを特定するのに有効です。

課題設定に役立つフレームワーク「IWIK」

課題設定力を高めるためには様々な課題を見つけるためのフレームワーク(As is / To be、なぜなぜ分析など)がありますが、IWIK(”I Wish I Knew”)というプロセスも有効です。IWIKは「目的に対して最善の決断をするために、知っておくべきことは何か?」というシンプルな質問に基づいた課題設定の方法です。

IWIKは、クリストファー・フランク(アメリカン・エキスプレスのグローバル広告とブランドマネジメントチームのバイスプレジデント)、ポール・マグノン(Googleのグローバルアライアンスの責任者、過去にデロイトとIBMに在籍)、オデッド・ネッツァー(コロンビア大学ビジネススクールの教授兼研究副部長、コロンビア・データサイエンス研究所所属)によって提案されている課題設定のプロセスです。

IWIKのプロセスには、以下の4つのステップがあります。

  • STEP1. 質問する:まず、自分自身やチームにIWIK(目的に対して最善の決断をするために、知っておくべきことは何か?)という質問をします。例えば、新しい製品を発売するかどうかを決めようとする場合、「新しい製品を発売するかどうか最善の決断をするために、知っておくべきことは何か?」という問いを立てます。
  • STEP2. ブレインストーミングする:次に、IWIKの質問に対してブレインストーミングします。過去データの有無や情報の入手可否に問わず、思いつくことをすべて書き出します。例えば、新しい製品の市場規模、顧客のニーズや嗜好、競合他社の動向、製品の生産・販売コスト、リスクや機会など、思いつく限り洗い出します。
  • STEP3. まとめる:次に、知っておくべき情報をリストにまとめ、カテゴリーに分けて整理していきます。例えば、情報の種類(定量/定性)、情報の出所(内部/外部)、情報の重要度(高/低)、情報の信憑性(高/低)、情報の取得難易度(高/低)などのカテゴリーが考えられます。
  • STEP4. 検討する:最後に、知っておくべき情報をレビューし、スコアリングやランキングにより決断に必要な情報の優先順位付けをします。この際、不要となる情報の削除や類似の情報の統合も行います。例えば、次のような優先順位付けや整理ができます。
    • 例)
      • 決断において最も重要な情報:顧客のニーズや嗜好、市場規模、競合他社分析
      • 決断において最も重要ではない情報:コストやリスク分析
      • 入手の難易度が低い情報:内部データや顧客フィードバック
      • もっと調査が必要な情報:外部データや競合他社分析

IWIKのプロセスを踏むことで、問題を整理して本質的な情報に集中することができ、分析に時間や労力をかけすぎて、決断や行動が遅れるという事態を避けることができます。

出典(英語):This simple question will help you make better decisions | Fast Company | https://www.fastcompany.com/90808070/this-simple-question-will-help-you-make-better-decisions

Get Better Decision-Making With The I-Wish-I-Knew Tool | Chief Executive | https://chiefexecutive.net/get-better-decision-making-with-the-i-wish-i-knew-tool

データを問いただす力

データを問いただす力

データとその信頼性の評価

ビジネスでの意思決定には、正確で信頼できるデータが不可欠です。しかし、データは必ずしも正しいとは限りません。信頼性の低いデータは、誤った結論や意思決定につながる可能性があります。

例えば収集方法や処理方法によるバイアスが発生したり、時代遅れになったり操作されたりすることもあります。そのため、データを使う前にその信頼性を検証することが重要です。信頼性の検証には、以下のような質問を問いかけるとよいでしょう。

  • データの出典元はどこか?信頼できる出典元か?
  • データはどのように収集されたのか?収集方法にはバイアスや誤差はないか?
  • データはどのように処理されたのか?処理方法に不適切な操作や変更がないか?
  • データは最新のものか?データの有効期限はいつまでか?
  • データは十分な量と質を有しているか?データには欠損値や外れ値がないか?

これらを確認することで、データの信頼性を客観的に判断することができます。信頼性の低いデータは、意思決定に悪影響を及ぼす可能性が高いので、注意して扱うか、別のデータを探す必要があります。

データに文脈を付与する

データは単に数字や符号として存在するのではなく、ある文脈や背景の中で意味を持ちます。データを正しく理解するには、その文脈や背景を把握することが必要です。文脈や背景には、データが表す現象や問題、データが関係する人や組織、データが影響を受ける要因や条件などが含まれます。文脈や背景を把握することで、データの妥当性や重要性、関連性や影響力を評価することができます。文脈や背景を把握するには、以下のような質問を問いかけるとよいでしょう。

  • データは何を表しているのか?データが示す現象や問題は何か?
  • データは誰にとって重要なのか?データが関係する人や組織は誰か?
  • データはどのように影響を受けるのか?データに影響を与える要因や条件は何か?
  • データはどのように影響を与えるのか?データが影響を与える人や組織、現象や問題は何か?

これらを確認することで、データの文脈や背景についてより深く理解することができます。文脈や背景を無視したデータは、意思決定に誤解や偏見をもたらす可能性が高いので、注意して扱う必要があります。

データに対する直感力

データに対する直感力

「厳密に間違うよりも、概ね正しいほうが良い。」

ジョン・メイナード・ケインズ

不完全なデータで合理的な意思決定を行うには、データに対する直感力を養うことが必要です。データに対する直感力とは、データの意味や妥当性を素早く判断する能力のことです。この能力を養うことで、誤ったデータに惑わされることなく、データを有効に活用することができるようになります。この能力を養うためには、以下のような方法が有効です。

意思決定に必要な情報の精度を決める

意思決定には様々な段階がありますが、その中でも情報収集や分析は最も時間や労力がかかる部分です。しかし、すべての意思決定において完璧な情報や分析が必要なわけではありません。多くの意思決定の場合、ざっくりとした近似値の情報で十分です。精度を求めすぎると、時間や労力の無駄になってしまう可能性もあります。

必要な精度は意思決定の目的や影響に応じて異なります。一般的には、意思決定の目的や影響が大きいほど、必要な精度のレベルも高くなります。逆に、意思決定の目的や影響が小さいほど、必要な精度のレベルも低くなります。例えば、意思決定の目的が「会社の長期戦略を決める」であれば、必要な精度は高くなりますが、意思決定の目的が「ランチの場所を決める」であれば、必要な精度は低くなるでしょう。

必要な精度を決めることで、情報収集や分析の方法や範囲を調整することができます。必要な精度が高いほど、情報収集や分析の方法や範囲も広く深くなります。例えば、先ほどのように「会社の長期戦略を決める」という目的の場合、市場や競合の調査、顧客や商品の分析、マーケティング分析、財務や予算の計算などが考えられますが、「ランチの場所を決める」という目的であれば、近くのレストランのメニューや価格を調べて、口コミや評判を見るという程度で十分です。

複雑な分析に飛び込む前に、データが妥当かを感覚で判断する

「データに文脈を付与する」パートで述べたように、データは単独で存在するものではなく、常に何かしらの文脈や背景に基づいています。データの文脈や背景を理解することで、その意味や妥当性を判断するための基準を知ることができます。

データの文脈や背景を理解したら、次にそれが妥当な範囲にあるかどうかを感覚で判断します。妥当な範囲とは、データが期待される値や一般的な値に近いかどうかを指します。例えば、データが全体の平均値や中央値に近いかどうか、過去のデータや他のデータと比較してどの程度の差があるかなどです。

他のデータと比較する際には、同じ種類やカテゴリーのデータであることが望ましいです。例えば、売上であれば他の期間や他の地域の売上と比較することができます。比較するときは、割合や増減率などを使って数字の相対的な大きさや変化を評価します。例えば、ある地域の売上数字が前年比で50%増加しているとしたら、それは妥当な範囲にあると言えるでしょうか?他のデータと比較して、その数字が極端に外れていないかを判断します。

比較するデータがなく、妥当かどうかを推計するしかない場合は、自分の知識や経験をもとにデータの大まかな値や範囲を考えます。例えば、データがある地域で初めて開催するイベントの来場者数であれば、地域のターゲット人口や想定される来場率などから推計して、その数字が妥当な範囲にあるかどうかを確認します。推計するときは、過信やバイアスに注意して、自分の推計に根拠や理由を持つことが重要です。

意思決定におけるポイントを知る

どのような意思決定においても、決断を下す前に以下の事項を確認する必要があります。

  • 決断の目的は何か?
  • 決断の期限はいつまでか?
  • 決断に関わる人は誰か?

これらについて事前にステークホルダーの合意を得ることが重要です。なぜなら、これらは決断の結果やスピードに大きく影響するからです。例えば、決断の目的が曖昧だと判断基準や方向性が不明確になります。決断の期限が不適切だとスピードや効率が低下します。決断に関わっている人が不適切だと、責任やコミットメントが欠けます。

また、意思決定を行う前に以下の内容を考慮することが重要です。

  • 決断にはどの程度の時間がかかるか?
  • 決断にはどの程度のリスクが伴うか?
  • 決断にはどの程度の信頼性が必要か?

これらは決断そのものだけでなく、組織へも影響する可能性がある内容です。例えば、決断に時間がかかると機会を逃したり、競争力を失ったりする可能性があります。決断にリスクが伴うと失敗や損失を被る可能性があります。決断に高い信頼性が必要となる場合は、ステークホルダーの意見や専門家のセカンドオピニオンに頼る必要があるかもしれません。

さらに、意思決定をする際に以下の点を確認しておくこともポイントです。

  • 決断は可逆的か不可逆的か?
  • 決断が不可逆的な場合、可逆的にすることはできないか?

決断は可逆的か不可逆的かというのは、決断が一度行われた後に、その決断をやり直すことができるかどうかということです。例えば、新しい商品を開発するという決断は、開発の途中で方針を変えたり、中止したりすることもできます。一方、会社を合併するという決断は、合併が成立した後に元に戻すことはできません。一般的に、可逆的な決断は不可逆的な決断よりもリスクが低いと言えますが、やり直すことにはコストや時間もかかるので、その点の考慮も必要です。

また、不可逆的な決断でも、何らかの方法で可逆的にすることができるかもしれません。例えば、決断の範囲や期間を限定することで、決断の影響を局所化したり、試験的に行ったりすることができます。具体的には、大規模な設備投資の際に、購入ではなくリース契約を選択することや 新規事業に投資する際に、全面的に展開する前に段階的な資金の投入や、小規模なパイロットプロジェクトの実施など、段階的に評価することで修正や中止の判断が可能となります。

まとめ

この記事では、不完全な情報をもとに合理的な意思決定を行うための重要な要素を分解し、以下のポイントをご紹介しました。

  • ビジネスにおけるデータ活用にまつわる幻想:データを使って判断するには数学のスペシャリストである必要はありません。また、ビッグデータが「完璧な」判断を可能にするという考えも間違いです。情報を賢く使う判断力が求められています。
  • 「直感」vs「データ」を使って判断することによるバイアス:直感やデータに頼りすぎることは、判断を歪めてしまう可能性があります。直感とデータや論理性と創造性のバランスをとることが必要です。
  • 問いを立てる力:意思決定をする前に問題に対して問いを立てることで、問題を明確化し、課題に対する仮説を立てることができます。また、新たな視点や可能性を開拓することにも繋がります。
  • 課題設定力:過去データから課題を特定する方法や、未来の仮説(ビジョン)を立てて課題を推計する方法、IWIK(”I Wish I Knew”)というプロセスにより問題を枠組み化して本質的な情報に集中するという方法などがあります。
  • データを問いただす力:データの信頼性を検証し、その文脈や背景を理解することで、データの意味や妥当性を判断するための基準を知ることができます。
  • 意思決定におけるポイントを知る:決断の目的、期限、関わる人、時間、リスク、信頼性など、意思決定における様々な要素を考慮することが重要です。

これらのポイントを理解して活用することで、ビジネスの現場でより最善で最適な決断を下すことができるようになります。

ぜひ、以下のアクションに取り組んでみてください。

  1. これらのポイントを自社のビジネスやプロジェクトに活用してみてください。具体的な状況や問題に対して、これらのポイントをどのように活用できるかを考えてみてください。
  2. さらに深く学びたい方は、弊社が重視しているビジネスにおけるデータ分析の基本となる8ステップをご確認ください。
  3. 具体的な問題や課題がある場合は、専門家やコンサルタントに相談することをおすすめします。状況や目的に合わせて、最適なアドバイスやソリューションを提供することができます。

これらのアクションを通じて、不完全な情報で合理的な意思決定を行う力をさらに高めていきましょう。成功するビジネスリーダーは、情報を素早く理解し、判断力を発揮し、鋭い洞察力を持つ厳しい質問者です。これらのスキルを身につけることで、それに一歩近づくことができます。

サイカは、マーケティングにおけるデータサイエンス領域で10年以上サービスを提供しており、国内エンタープライズ企業を中心に250社以上の支援実績があります。多岐にわたる業界における豊富で深い専門知識を持つアナリストとコンサルタントが、データサイエンスを用いて、クライアント様がより良い意思決定を行えるよう支援いたします。ご興味のある方はぜひお問い合わせください。

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