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テレビの視聴率にも個人情報保護の波がきた

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個人情報保護法改正、個人にまつわるデータへの保護強化の影響が、個人情報とは一見関係がなさそうなテレビにも及びつつある。

テレビの視聴データ(非特定視聴履歴)の取得・利用について、総務省の検討会で議論が進んでいるのだ。本稿では、検討会での議論を整理した上で、今後の見通しについても考えていきたい。

非特定視聴履歴の利活用と同意取得の議論状況

総務省では、「放送分野の視聴データの活用とプライバシー保護の在り方に関する検討会」を設置し、テレビの視聴率を算出するもととなるデータの取得方法を議論している。

現在、インターネットに接続されたテレビを起動すると、番組視聴中一定間隔ごとに、以下のような情報(以下、取得・送信されている情報を総称して「視聴データ」という)が放送局のサーバーへ自動送信されている。これらの情報は、特定の個人を識別する情報を含んでいないものであって、「非特定視聴履歴」という分類にて整理されている(後掲の表参照)。

  • 視聴時刻
  • 放送局を識別するID
  • インターネット上のIPアドレス
  • 郵便番号の情報
  • テレビ受信機を識別するための情報など

出典:認定個人情報保護団体 一般財団法人 放送セキュリティセンター:「放送分野の個人情報保護に関する認定団体指針」、4頁より

検討会で議論となっているのは、この一連の視聴データ取得プロセスにおいて、送信される情報が特定の個人を識別できない「非特定視聴履歴」として位置付けられるものの、視聴者の事前同意を得るべきかどうかという点である

現在の仕組みとして、視聴者側が送信機能を停止しなければ、これらのデータ取得は停止できない仕組みになっている。非特定視聴履歴は特定の個人を識別することができる情報ではないことから個人情報保護法の対象ではないが、個人から派生する情報ではある。そのため個人に関連する情報保護の観点から、その取得について議論が巻き起こっているのであるこれが1点目の議論の的である。

もう1つの議論の的は、情報利用にむけた個人情報保護法への対応である。従前より、事業者(広告主)からは、「顧客情報分析のために視聴データを利用したい」という声が常々上がっている。事業者(広告主)からすると、どの時間帯にどういう属性の人が見ているかによって広告効果が変わるので当然とも言える。

この点について、上記検討会では「非特定視聴履歴は、第三者提供する場合には同意取得が必要なのではないか?」といった議論が出ている。この議論は、2022年4月1日に施行される改正個人情報保護法の観点に基づくものだ。

上記検討会での議論を整理すると、議論の的は以下2点に集約できる。

①IPアドレスなどの情報が集積したデータベースと照らし合わせることで個人を容易に特定できる情報を、本人の同意なく取得することは果たして適切なのか

②非特定視聴履歴が提供先で個人情報化する場合の適切な対応方法はなにか 近く総務省からその方針が示されることになるが、本稿ではその前に、現在の上記2点の議論状況をあらためて整理していくこととする。

議論① IPアドレスなどの情報が集積したデータベースと照らし合わせることで個人を容易に特定できる情報を、本人の同意なく取得することは適切なのか

冒頭で述べたとおり、インターネットに接続されたテレビを起動すると、番組視聴中、視聴データが放送局のサーバーへ送信されている。そしてこのデータ送信機能は、視聴者側が、テレビ受信機内で非特定視聴履歴を発信しない設定にしない限り、自動で送信され続ける仕組みになっている。

このように、データの取得は原則自由で、拒否したい場合は本人が個別に停止の手続きをすることを「オプトアウト方式(*1)」という。

視聴データを収集する仕組み自体は、その後、仮に個人情報と紐付いたとしても、現在の個人情報保護法上問題がない。それ単体で個人情報を特定することができないデータは、個人情報保護法が規定する「個人情報」には該当しないので、本人同意の取得、告知が必要ではないとされているからだ。

しかし、昨今の技術革新により、それ単体で個人を特定できない情報であっても、IPアドレス等により構成されるデータベースを使えば簡単に個人と紐づけることができてしまう。

このような状況下で、非特定視聴履歴をオプトアウト方式で取得する仕組みを採用するのは、個人に関連するデータの扱い方として不適切なのではないか、というのが1点目の議論である。

現在、総務省の検討会においては、オプトアウト方式による視聴データ取得をするのか、それとも、視聴データの利用目的によってオプトアウト方式とオプトイン方式を使い分けるのか、ということで意見交換が続いている。

この議論の中では同意取得方法において検討がなされている。すなわち、1つの世帯に複数人が同居する場合には個別に同意を取得していくことが理想であるが、どのようにして個別に同意を取得するのか、というのが検討課題である。インターネットのように、テレビに同意画面が出てくることは考えにくい。さらに、携帯電話端末と異なり、テレビは1人1台というほどではない。このような場面における「同意取得」について、法的側面、技術的側面の両方から課題解決にむけて乗り越えていく必要があり、これからどういう制度になるのか議論を追う必要がある。

(*1)オプトインとオプトアウト:オプトインは、事前にユーザーの同意を得た上で情報の送受信を行うことをいう。個人情報の取得において、個人情報保護法は、事前の同意を得ることを原則としている。 これに対して、オプトアウトとは、事業者が事前のユーザーからの同意を得ることなく情報を得て、ユーザーに対して事業者への情報提供または事業者からの情報の受け取りを拒否する仕組みを提供することをいう。ユーザーから拒否の意思を受けた事業者は、情報の送受信を停止することになる。

議論② 非特定視聴履歴が提供先で個人情報化する場合の、適切な対応方法はなにか

企業は、顧客情報分析のためにさまざまな顧客のデータを、さまざまな方法で取得している。ターゲティング広告は、顧客の様々な情報(顧客情報、位置情報、購買情報、インターネット上の閲覧情報)を組み合わせた分析を行うことで、よりターゲットに合った広告を展開するものだ。こういった事業活動の中で、視聴データも長年、利用したい顧客情報の一つに挙がっていた。

しかし、2022年4月1日から施行される改正個人情報保護法により、「個人関連情報」という制度が導入される。取得時点において個人と紐づく情報でなかったとしても、第三者に提供し、その者において個人に紐づくデータとして利用することが想定される場合においては、当該第三者提供にあたっては同意取得が必要となる。

この制度が導入されれば、非特定視聴履歴であっても、非特定視聴履歴を収集した放送局が調査会社に非特定視聴履歴を提供し、調査会社において個人データと突合することが想定されているのであれば、第三者提供にあたって当該個人からの同意取得が必要となる。 この点について、法律上では「同意取得は提供先で行う」ことが想定されている。ただ、「提供元で同意取得をする」ことも可能であり、実際の顧客接点を考えると提供元での同意取得ということもあり得るだろう。いずれにしても、関連する当事者において「同意取得漏れ」がないように整理をしていく必要がある。

出典:個人情報保護委員会「改正法に関連するガイドライン等の整備に向けた論点について(個人関連情報)」より:https://www.ppc.go.jp/files/pdf/210407_kojinkannren.pdf

最後に

データ取得にあたっては、どこまで必要なのかを少し立ち止まって考える必要がある。

もちろん、データの精度を確保するため、一定の母数は必要であり、十分に確保できることに越したことはない。しかしながら、個人情報保護規制が進むなかで、取得しなくてもよい個人情報は取得しない、というスタンスは広がりつつある。この点から、その必要数を超えてどこまでの母数が必要か、ということもまた検討する必要がある。この点は、データをどのように利用するかによって、この「母数」の対象も当然に変わってくる。当社は、統計学に基づくデータサイエンスにより広告の効果測定を行っており、統計学に関する知見も豊富にある。当社が効果測定における「必要な母数」を研究し、発信して社会的財産にしていくことが責務であると考えている。

また、「ターゲティング広告出稿のための視聴データ」という文脈で見たときには、昨今ターゲティング広告に対する利用者の回避傾向は高まっており、個人情報保護法の改正により、個人に紐づけられる情報取得への規制も進んでいる。現に、総務省は、「インターネットサイトの閲覧履歴を第三者に提供するにあたっては、利用者に対する通知が必要である」という規制導入を決めている。個人に関連する情報を利用したターゲティング広告への規制が強まる中、個人と紐づけたターゲティングの方法はどこまで耐えられるのか。個人情報保護法の改正が進むなかで、適法なのか。これらは常に問い続けないといけない。

他方で、「テレビ」が果たす役割が変わってきているという視点を持つことも重要である。データは「21世紀の石油」と言われるほど価値のあるものであり、「テレビ」はその意味ではひとつの「油田」である。「テレビ」をデータプラットフォームと位置づけ、データ利用に基づくより効率的企業活動ができれば、企業、社会に持続可能性も変わってくるからである。

「テレビ」の位置づけとそれにまつわるデータ利活用。この検討会の動向は目を離せないところに来ている。

執筆者:株式会社サイカ コーポレート本部法務部部長・福島 健史(ふくしまたけし)

福島 健史(ふくしま・たけし)
株式会社サイカ コーポレート本部法務部部長

2013年、早稲田大学法務研究科修了。2015年に弁護士登録し、現在、Kollectパートナーズ法律事務所所属。弁護士として、これまでにソーシャルビジネスへのサポート、証券コンプライアンス、新規事業構築サポート、企業の危機管理対応などに従事。2021年7月、法務部部長としてサイカ参画。

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