AI時代に求められる次世代型マネジメント ――個人と組織の進化をどう導くか | AWA 2025 Keynote セッションレポート

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対談

生成AIの普及により、データ分析は誰もが手軽に扱える時代になった。しかし、競争優位の鍵は単なる「AIの使い方」ではなく、「AIをどう使いこなすか」にこそある。世の中に溢れるプロンプト術やTipsをなぞるだけでは、AIを本質的に活用し、継続的な成果を生み出すことは困難だ。

重要なのは、AIを使う「個人の思考」と、それを活かす「組織のあり方」にある。次世代リーダーは、どのような思考を育み、どのような組織を築くべきか。

2025年12月開催のAdvertising Week Asiaでは、サイカの平尾が「AI時代に求められる次世代型マネジメント」をテーマに登壇。書籍『狙って売上を伸ばすデータ分析の思考法』にご登場いただいた6名のトップマーケターと共に、実践で培われた知見や経験を起点に、AI時代における理想のチーム像について議論した。本記事では、セッション内容の一部をレポートする。

※肩書はすべて開催時点のものです

本レポートの動画は下記からご覧いただけます。

6名のトップマーケターが語る「AI時代における個人の思考と組織のあり方」

セッション冒頭、サイカの平尾は本セッションのテーマ設定の背景について次のように説明した。

「AIの競争優位の核は、プロンプトエンジニアリングからコンテキストエンジニアリングへと転換していくと考えられます。そしてこの変化を支えるのは、個人と組織という2つの軸です。
個人レベルでは、マーケターの感性が意味や解釈を付与し、AIの出力に独自性をもたらします。一方、組織レベルでは、データの資産化が鍵となり、解釈や意味に独自性をもたらすデータの保有が重要な差別化要素となると考えられます」

平尾
AIを活用するポイントとは何か?

この視点を出発点として、個人や組織全体の話からマーケティング、そしてコミュニケーションまで、幅広い領域を横断した議論が展開された。

平尾 喜昭
株式会社サイカ 代表取締役社長 CEO

平尾 喜昭
株式会社サイカ 代表取締役社長 CEO

2012年慶應義塾大学総合政策学部卒業。父親が勤める会社が倒産したことを原体験として、大学在学中に出会った統計分析から経営支援の可能性を見出し、2012年2月に株式会社サイカを創業。エンタープライズ企業を中心にこれまで280社以上を支援し、”ビジネスの成長スパイラルをつくるデータサイエンスファーム”として、再現性の高いビジネス成長に貢献してきた。

第四次産業革命時代のリーダーシップ変革

ケイアンドカンパニー・高岡氏

「現在起こっていることは、まさに第四次産業革命ではないでしょうか」と語る高岡氏は、個人と組織の両面でリーダーシップの根本的変革が求められていると指摘する。

個人レベルでは、単なるAI活用スキルを超えて「AIネイティブ」な能力が必要だと高岡氏は言う。これは知識や経験の蓄積よりも、自ら疑問を持ち、それを適切な問いとしてAIに投げかけるクエスチョニング能力を指す。日本で長く重視されてきた暗記中心の教育で培われた能力はAIに代替されるため、AIが提示する答えに対しても批判的思考を働かせながら、自分なりの考えを構築する力が重要となる。

一方、組織レベルで求められるのは、戦略とオペレーションの分離だ。高岡氏はMLB(メジャーリーグベースボール)の組織改革を例に挙げた。オペレーションチームは、ピッチクロック(試合時間の短縮を目的とした投球ルール)の導入や、今後はAIによる主審判定を取り入れることが決まっているなど、技術活用による試合運営の効率化とエンターテイメント性の向上を担当。一方、戦略チームは、WBCの展開など、野球の世界的普及を推進している。この組織構造の変革により、MLBはアメリカンフットボールやバスケットボールの視聴率を上回る成果を達成した。

「AI時代、変化の中で求められるリーダーシップは、クエスチョニングを継続しながら意思決定の根拠を明確化し、その過程をチーム全体に透明性をもって共有する能力だと考えます」

高岡氏
高岡 浩三氏 ケイアンドカンパニー株式会社 代表取締役社長

高岡 浩三氏
ケイアンドカンパニー株式会社 代表取締役社長

「キットカット受験応援キャンペーン」を手がけ、キットカットのビジネスを世界一に導き、2020年3月までネスレ日本株式会社代表取締役社長兼CEOとしてDXによるネスカフェ・アンバサダーモデルを構築。20%を超える超高収益企業に育てる。20年4月よりケイアンドカンパニー代表取締役としてDXを通じたイノベーション創出のプロデューサーとして活躍。ネスレ退任後、サイバーエージェントなど数社のマネジメントアドバイザーと社外取締役を務めるとともに、自ら「高岡イノベーション道場」というイノベーション創出に特化したスクールを主宰する。

内発的動機を軸とした組織運営

トリドールホールディングス/丸亀製麺・南雲氏

AI時代の組織運営においては、働く個人の内発的動機を引き上げることが不可欠だと南雲氏は強調する。

トリドールグループは4万人、丸亀製麺は3万人の従業員全員を「KANDOクリエイター」と定義し、顧客への感動提供を経営戦略の中核に据えている。各従業員がKANDOクリエイターとしての意識を持ち、その集合体である店舗が業績向上を実現する構造を構築しているのだ。

この戦略の実現において、バックヤード業務、受発注業務、シフト作成といった定型業務はAIに任せ、従業員が感動創出に専念できる時間を確保している。

「重要なのは、従業員の内発的動機の醸成です。従来のマーケティングが、顧客の内発的動機を喚起することに重点を置いていたのに対し、現在は働く従業員の内発的動機を引き出すことが、私の新たなマーケティングテーマとなっています」

南雲氏

AI技術導入による業務効率化と、従業員の内発的動機向上を両輪として成長を実現するモデルといえるだろう。

南雲 克明氏 株式会社トリドールホールディングス 執行役員 CMO 兼 KANDOコミュニケーション本部長 兼 株式会社丸亀製麺 常務取締役 マーケティング本部長

南雲 克明氏
株式会社トリドールホールディングス 執行役員 CMO 兼 KANDOコミュニケーション本部長 兼 株式会社丸亀製麺 常務取締役 マーケティング本部長

早稲田大学大学院商学研究科卒MBA。
コナミスポーツ、サザビーリーグなどB2Cの事業会社において、様々なブランドのマーケティング責任者を歴任。
2018年トリドールホールディングス入社。2022年から現職。
感性とデータサイエンスを駆使しブランドが選ばれる確率を高める「感動ドリブンマーケティング」など独自のマーケティングメソッドでトリドールGroup・丸亀製麺の国内外の事業成長を牽引。
2025年「マーケター・オブ・ザ・イヤー」優秀賞受賞。

データドリブンな意思決定プロセスの構築

キユーピー・中島氏

中島氏は、AI時代の組織運営には「根本的なプロセス再設計」が重要だと語る。

キユーピーは昨年、従来の営業本部から戦略・施策設計を担うマーケティング部門を分離独立させる大規模組織変更を実施した。新設されたマーケティング本部には多様なバックグラウンドを持つメンバーが集結したため、解釈の相違が生じ、課題解決へのスタートラインが揃わない状況が発生したという。そのため、データとファクトを基盤として現状を正確に把握し、全メンバーが同じ方向を向く仕組みを構築することを最優先に据えたという。

また、意思決定プロセスにおいては、書籍にも登場する「目的」「課題」「仮説」「データ」「分析」「解釈」の6ステップが直線的な流れではなくループするよう、各ステップのアウトプットが次のプロセスのインプットとなる連続性を意識している。商品開発や広告戦略の策定から施策の実行に至るまでのプロセス全体を、データサイエンスによる裏付けを前提とした仕組みに刷新している。

「既存プロセスのどこかにAIを使えないかという発想から、今後はAI活用を前提としたプロセス設計が求められます。リーダーは各プロセスのどの部分にAIを活用し、何を目指すかを明確にしたうえで、メンバーが適切に思考できるよう設計することが求められます」

中島氏
中島 健氏 キユーピー株式会社 執行役員マーケティング本部長

中島 健氏
キユーピー株式会社 執行役員マーケティング本部長

1993年東京農工大 学農学部卒。同年、キユーピー株式会社に入社し、調理食品を中心とした研究開発業務に従事。2011年以降は同社の海外進出戦略を商品開発・マーケティングの側面からリーディングし、様々な拠点の進出をサポート。2018年にはタイ法人の社長に就任し、2021年に帰任後はリサーチ及び開発部門を中心にキユーピーのマーケティング精度向上に取り組む。2024年10月より新設のマーケティング本部長に就任。

組織のためのAI応用という視点

伊藤園・志田氏

志田氏は「AIを活用していかに成果を出すか」ではなく、「組織のためにどうAIを応用するか」という視点の重要性を強調した。

飲料業界はコモディティ化の傾向にあり、効率やコスト、広告出稿量といった指標での競争に陥りやすいという構造的課題がある。その結果、新しいチャレンジや顧客視点が欠如し、自分たちの仕事の意義を見失い、業務を単なる作業と捉えてしまう状況が増えるという。

この問題の解決策として挙げたのが、仕事の貢献度の可視化だ。自分たちの業務がブランドにどのような価値をもたらしているかを、AIやデータサイエンスを用いて数値化することで、日々の業務を作業としてではなく、その意味や貢献を明確に把握できるようになる。この可視化により、自らの仕事の価値を実感し、「もっと良くするにはどうすればよいか」という思考が生まれるのだ。

「AI時代に大切なのは感性だと考えています。そして、その感性を磨く重要な要素のひとつが、成功体験を積むことです。AI時代において重要なのは、技術活用による効率化だけではなく、作業から感性への転換を促し、モチベーションを引き出す組織作りだと考えます」

志田氏
志田 光正氏
株式会社伊藤園 マーケティング本部長 執行役員

志田 光正氏
株式会社伊藤園 マーケティング本部長 執行役員

1998年4月株式会社伊藤園入社。2004年マーケティング本部商品企画一部に配属後、お~いお茶商品企画、紅茶ブランドTEASʼTEA商品企画、健康ミネラルむぎ茶商品企画を担当。2019年5月マーケティング本部本部長、2022年5月執行役員に就任。

AI時代の人材育成

リクルート・石井氏

石井氏は、AI時代の人材育成について独自の視点を提示した。

同氏は、メンバーに対して「大きな問いを自ら立てること」を求め続けているという。これは石井氏が一貫して掲げてきた方針だが、最近は特に「大きな」という部分を意識的に付け加えるようになった。

この背景には、AIの進化により問題解決の効率が向上しており、AIが得意な領域を任せられるからこそ、人間には「何を解決すべきか」という本質的な問いを立てる役割が求められるようになったことがある。そのため、石井氏は「仕事をもらうのではなく、仕事を創る」という姿勢を求めているのだ。

さらに重要なのは、問いの規模だという。AIが得意な領域を任せられる今、人間はより大きな問いに向き合うことで、創出する価値をさらに高めていく必要がある。

「現在、AI活用を前提に業務プロセスを再構築していますが、問題を解く部分は次第に定型化されていきます。だからこそ、自分で大きな仕事を創ることに価値が出てくる。そこに価値があるんだよと伝え続け、メンバーが挑戦を通じて報われる状態を作りたいと思っています」

石井氏
石井 智之氏
株式会社リクルート マーケティング室 室長

石井 智之氏
株式会社リクルート マーケティング室 室長

2008年リクルート入社後、Googleを経て再びリクルートへ。旅行、住宅、SaaS、進学・教育支援など多様な事業領域でマーケティング責任者を歴任し、2025年4月より現職。

効率化と創造性を両立するブランドコミュニケーション戦略

KDDI・馬場氏

馬場氏は、AI導入がマーケティング全体やブランドコミュニケーションに与える影響について具体的な見解を示した。

AI時代のマーケティングでは、データを活用したPDCAサイクルの高速化が進んでいる。しかし、データは過去の実績でしかないため、常に新しいチャレンジを行い、新たなデータを生み出して循環させる必要がある。このプロセスにはコストと労力がかかるが、AIはそれらを効率化するパートナーとして機能すると考えられる。

個人のスキル面では、AI導入に伴って全く新しい技術を習得するよりも、マーケターとしての基本能力を強化することが重要だと馬場氏は指摘する。「課題認識力」「論理的思考力」「データ読解力」「コミュニケーション力」といった従来からの核心的スキルを向上させることで、AIを効果的に活用し、生産性を高めることができると考える。

そして、ブランド価値創出の観点では、データ中心の時代においても消費者の感情に訴えかけるアプローチが不可欠だと強調した。

「AIは、左脳に寄った機能的な価値は容易に伝達できますが、コミュニケーションを通じて消費者の右脳を刺激し、どのような感情を抱かせ、揺さぶるかという領域は、AI時代でも人間が担うべき重要な役割であり続けると思います」

馬場氏
馬場 剛史氏
KDDI株式会社 ブランド・コミュニケーション本部長

馬場 剛史氏
KDDI株式会社 ブランド・コミュニケーション本部長

明治大学政治経済学部卒業後、日本移動通信株式会社(現KDDI)に入社。カスタマーサービス、営業企画、マーケティング部門を経験し、2018年から広告宣伝を担当。2021年からブランド・コミュニケーション本部を担当し、コーポレートブランドKDDI、事業ブランドau、UQ、 povoのブランディング、コミュニケーションを担当。データドリブンによるマーケティング手法の開発や、AI 活用したコミュニケーション手法へのチャレンジなど、過去にとらわれない新たな取り組みを推進している。

最後に、ケイアンドカンパニーの高岡氏から、日本のマーケターに向けたメッセージをいただいた。

日本では「マーケター」という言葉が広く使われているが、海外ではそれほど一般的ではないという。海外では、マーケターが単にマーケティング業務を行う人ではなく、「マーケティングができる経営者」を指すことが多いためだ。

だからこそ、今、日本でマーケターと呼ばれている方々には、ぜひ次のステージを目指してほしいと述べた。加えて、マーケターはAIとの親和性が非常に高い職種であり、これから作業的な仕事は様々な意味で劇的に減っていく。これは避けられない流れであり、それゆえに重要なのは、「作業するマーケター」ではなく、「考えるマーケター」になることだと強調した。

「考える力を持ったマーケターにとって、AIは仕事を奪う存在ではありません。むしろ非常に都合のいいパートナーになります。日本のマーケターは、ぜひAIを味方につけながら、これからの企業の役員や社長を目指してほしいと思います」

高岡氏

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