競合に勝つ「訴求ポイント」を特定する方法|分析を「次の一手」に繋げるデータドリブンマーケティング戦略

更新日: コラム
CMMデータ分析

マーケティングにおいて競合に勝つための「訴求ポイント」を特定し、「成果につながるアクション」を生み出すことは最重要課題です。しかし、多くの現場では、競合分析が具体的な戦略や優先順位付けに結びつかず、機会損失を招いています。

そこで本記事では、消費者の意識データに基づき、競合からシェアを獲得する確率(スイッチ率)を科学的に算出する分析アプローチをご紹介します。

「どの競合から」「どの訴求ポイントで」攻めるべきか。マーケティングを「分析」から「成果につながるアクション」へと前進させる一助となれば幸いです。

はじめに:なぜ、データは戦略に活かされないのか?

熾烈な市場競争の中で自社のマーケットシェア拡大という重要な使命を担うマーケターは、日々あらゆるデータに目を通し、次の一手をどう打つべきかについて常に思考を巡らせているはずです。実際、多くの組織では、売上データやPOSなどの販売データ、広告データやウェブ解析などの施策データ、市場調査レポートなどの外部データといった様々な情報源から分析が行われています。

しかし、こうした分析結果が戦略策定や意思決定の場に十分に活かされていないケースも少なくありません。そのため、戦略を練るための議論においては、客観的なデータによる裏付けを欠いた主観的な意見が交錯し、建設的な合意形成が難航してしまうのです。

「競合A社は価格訴求を強めているため、我々も追随すべきだ」「いや、我々の強みは品質であり、安易な値下げはブランド価値を毀損する」「競合B社のCMは確かにクリエイティブが秀逸だ」「いや、今回はインフルエンサーの起用が効いている」というように、多様な意見が活発に飛び交うものの、議論が収束せず、次に取るべき具体的なアクションが見えにくくなるのです。これは、多くの企業組織が抱える意思決定における課題ではないでしょうか。

このような「データが活かされない戦略会議」は、組織の成長を阻害する要因となり得ます。データの裏付けがない意思決定は、往々にして過去の成功体験や個人の主観などに左右され、次のような課題を引き起こします。

  • 予算の浪費:各自の経験や感覚に基づいてマーケティング予算や施策が計画・提案されたとします。ただし、その施策が本当にシェア拡大につながるかは不明確なため、結果として多額のマーケティング予算が効果の不確かな施策に費やされ、有効に活用されないリスクがあります。
  • 機会損失:競合に対して優位性を発揮できる自社の強みを見落とし、効果の薄い訴求を繰り返すことで、成長のチャンスを逃す可能性があります。気づいたときには、市場での優位性を取り戻すことが難しくなっている可能性があります。
  • 組織の疲弊:不明確な戦略は、曖昧なブリーフィングにつながります。「もっと若者層に響くクリエイティブを」「とにかく革新的な感じで」といった抽象的な指示では、パートナー企業や代理店なども本来のパフォーマンスを発揮できません。結果として、質の低いアウトプット、手戻りの多発、そしてチームメンバーやパートナーのモチベーション低下を招きます。 
  • 説明責任の欠如とチームの停滞:成果が上がらない戦略の責任は、担当マネージャーに集中します。経営層から「なぜ競合に後れを取っているのか」と問われた際に、明確な根拠をもって説明できなければ、チームを適切にリードすることは難しくなります。

このような状況を放置すれば、組織は知らぬ間に競争力を失い、緩やかな衰退に向かう可能性があります。競合が常にシェア拡大を狙っている中、主観に基づいた意思決定に依存し続ける限り、貴重なリソースを失い、市場での地位を脅かされるリスクは高まり続けるでしょう。いま必要なのは、これまでの経験や勘に頼る従来の議論から脱却し、データに基づき「シェアを拡大する確率の高い一手」を特定し、そこに経営資源を集中させるという、科学的なアプローチへの転換です。

シェア獲得に向けた戦略・仮説を導く方法

戦略の勝ち筋を構造化するための3ステップ

科学的アプローチの話に入る前に、まずは3C・4Pなどの既存の分析フレームを踏まえた、戦略の「勝ち筋となる仮説」の精度と議論の質を高めるための実践的な3ステップをご紹介します。これは、明日からの会議ですぐにご活用いただけるものです。

ステップ1:主戦場を定義する(競合の特定)

まず、具体的に「どの競合からシェアを獲得しにいくのか」を定義します。多くの場合、最大のシェアを持つ競合A社と、最近勢いを増している競合B社では、有効な戦い方は異なります。

(例)

  • 競合A(リーダー):市場を牽引しており、顧客基盤が厚く、ブランド認知も高い。
  • 競合B(チャレンジャー):特定のセグメントで急速に成長しており、新しい価値提案で存在感を高めている。

ステップ2:自社の武器を棚卸しする(4P/CX/ブランド資産のリスト化)

次に、自社が持ちうる全ての「武器」を、以下のカテゴリーに沿って客観的にリストアップします。 

マーケティング4P + CX:

  • Product(商品):商品特徴、デザイン、ラインナップの豊富さ…etc.
  • Price(価格):相対的な価格の安さ、コストパフォーマンス、高級感…etc.
  • Place(流通):入手のしやすさ、販売チャネルの広さ、営業担当の質…etc.
  • Promotion(販促):タッチポイント、キャンペーン、訴求軸…etc.
  • CX(顧客体験):購入時の体験、アフターサポート、スイッチングコスト…etc.

ブランド資産:

  • 機能的価値:利便性、信頼性、独自性…etc.
  • 情緒的価値:愛着、安心、共感…etc.

ステップ3:仮説=勝ち筋を描く(誰に、どの武器をぶつけるか)

最後に、ステップ1で定義した競合と、ステップ2で棚卸しした武器をマッピングし、「どの競合に対して、どの武器が有効打となりうるか」という仮説を構築します。

  • 対競合Aの仮説:「競合Aは市場を牽引している一方で、レビューを見ると品質面で不満を感じる層が一定数存在することが分かっている。ならば我々は『品質』を訴求すれば、スイッチを促せるのではないか?」
  • 対競合Bの仮説:「競合Bは価格が強みだが、入手しづらいという弱点がある。ならば我々は『入手のしやすさ』を強調すれば、価格重視層を取り込めるのではないか?」

勝つための仮説はどれか?有効性や優先度の判断の難しさ

このステップを用いて仮説を立てることは、戦略立案の重要な第一歩です。これにより、議論は整理され、チームの目線も揃いやすくなります。しかし、ここで本質的な課題に直面します。それは、立てた仮説が、あくまで「仮説」に過ぎないという事実です。

先の例で言えば、「対競合Aにおいて『品質』が重要だという仮説は、本当に正しいのか?」「ひょっとしたら、我々が見落としている『アフターサービスの充実』の方が、よほど顧客の心に響いているのではないか?」「もし『入手のしやすさ』が対競合Bにおいて正しいとして、それは『価格の安さ』と比べて、どれほど重要なのか?」というように、これらの仮説の確からしさや、施策としてのインパクトはこの段階ではまだ分かりません。

マーケティングにおける重要なことは、単にもっともらしい仮説を立てることだけではありません。数ある仮説や打ち手の中から、シェア獲得に最も貢献するものを見極め、そこに組織の資源を集中投下することこそが重要なポイントです。そして、そのためには立てた仮説の有効性を、多くの関係者が納得できる客観的なデータで裏付け、組織全体の合意形成につなげる必要があります。

仮説を「確信」に変え、戦略の成功確率を「科学」する

主観的な仮説から、統計的な洞察へ

上記で提示した「どの仮説や要素が、どれだけシェア獲得に貢献するのか分からない」という本質的な課題を解決するべくサイカが提供するのが、消費者のブランド選択メカニズムを解明するデータ分析サービス「COMPASS(コンパス)」です。COMPASSは、消費者意識データを用いて、「どの訴求ポイントを強化すれば、競合からどれくらいの顧客を獲得できるのか」を科学的に検証し、その確率を予測します。

COMPASSは、従来の市場調査のように、単に仮説をすべて調査票に落とし込み、消費者の「意識(何を思うか)」を把握するだけではありません。消費者の意識と行動の関係性を数式でモデル化し、実際の消費者による「ブランド選択行動(何を選ぶか)」やその数値的インパクトを統計的に算出します。

COMPASSの「Brand Switch分析」の具体的なプロセスは以下の通りです。

  1. 消費者データの収集:まず、自社ユーザー、そして競合のユーザーに対して、仮説(マーケティング4P + CX、ブランド資産など)を含む、様々なブランド評価項目についてのアンケート調査を実施します。
  2. スイッチのメカニズムを解明:次に、統計モデルを用いて消費者意識データを分析し、どのような評価を持つ消費者が、どのブランドを選択するのか、その関係性(メカニズム)を解析します。
  3. スイッチ率の算出:多岐にわたる評価項目について、「スコアが1ポイント上がると、競合ユーザーが自社ブランドにスイッチする確率(スイッチ率)が何%向上するのか」を算出します。

これにより、たとえば「品質」と「価格」のどちらがより効率的にシェア獲得のための訴求軸として有効なのかを、客観的な数値から比較検討することが可能になります。「これが効くはずだ」という主観的な意見だけでなく、「データによれば、競合Aからシェアを獲得するには『品質』を訴求することがより確率が高く、そのスイッチ率は○%です」と、客観的なデータを基に議論を進められるようになります。

データが変えた戦略論争の構図:意思決定プロセス変革にまでつながった消費財メーカーの事例

課題:打つ手が見えず、社内の意見もまとまらない

市場には、強いブランド力を持つ市場リーダー「競合A社」と、近年、低価格でシェアを伸ばしている新興企業「競合B社」が存在します。こうした環境の中で、同社は両社に対して効果的な対策を見出せず、打ち手の方向性をめぐって社内でも意見が分かれていました。

  • 「品質重視」派:「我々の強みは品質への信頼だ。競合A社に対抗するには、もっと品質の高さをアピールすべきだ」
  • 「価格重視」派:「若い人は競合B社の安さに流れている。これ以上シェアを落とさないためには、価格で対抗するしかない」

どちらの意見にも一定の妥当性があったため議論は収束せず、競合A社・B社の双方を意識した総花的な戦略や施策が続き、その結果、A社・B社からもシェアを奪えず、少しずつ停滞していました。

COMPASSによる分析:データが示した、予想外の「勝つためのポイント」

この行き詰まりを打開するため、同社はCOMPASSの「Brand Switch分析」を実施しました。自社、競合A社、競合B社のユーザーに調査を行い、消費者がブランドを選ぶ理由を分析しました。その結果は、社内のこれまでの議論とは異なる視点を示すものでした。

1. 共通の最重要ドライバーは「利便性」

下のグラフは、競合A社・B社のユーザーが自社ブランドにスイッチする理由(乗り換えの決め手)をランキングにしたものです。

驚くべきことに、競合A社からスイッチする最大の要因(スイッチ率21.1%)、そして競合B社からスイッチする最大の要因(スイッチ率30.3%)は、両社ともに「利便性(使用体験の快適さ・使いやすさ)」であることが判明しました。 社内で重要視されていた「品質」や「価格」よりも、消費者は「その商品を使うことで、いかに日々の手間が減り、快適な体験が得られるか」を重視していたのです。

(図はイメージです)

2. 「独自性」も自社の強みであり、重要ドライバーと判明

次に、各要素を「自社の評価」と「競合との評価の差」を軸にしたマップで比較しました。バブルの大きさは、スイッチへの影響の大きさを示しています。

このマップからも、「利便性」が両社に対する有効なドライバー(共通TOP1)であり、かつ自社が競合に対してすでに優位性を持っている要素(維持すべきドライバー)であることが明らかになりました。 また、「製品特徴1」(商品の独自性)も両社に共通するドライバー(共通TOP3)であり、ただし競合と差がないため、今後伸ばしていき優位性を示していくべき要素(成長させたいドライバー)として特定されました。 一方で、社内で議論の中心だった「価格の安さ」は、スイッチへの影響はあるものの(共通TOP2)、自社が競合に劣っており(マップ下部)、これを主軸に戦うのは得策ではないことが示唆されました。

(図はイメージです)

アクション: データに基づき、「利便性」「独自性」を軸とした統一戦略を実行

この客観的なデータは、社内で平行線だった議論を収束させるきっかけとなりました。同社は、これまでの「品質か、価格か」という考え方から抜け出し、データが示す共通の攻略ポイントである「利便性」「独自性」を新たな戦略の軸に据え、両競合からのシェア奪取を目指すことを組織全体で合意しました。

1. コミュニケーション戦略の見直し

  • 広告メッセージの変更:「品質」や「価格」ではなく、「日々の生活が快適になる、手間が減る」価値を最前面に訴求。競合A社・B社双方のユーザーに響くメッセージとして展開。
  • 訴求ポイントの統合:また、「独自性」と組み合わせ、「こんなユニークな商品も、こんなに快適に使える」というのを両競合(特にスイッチ率の高い競合B社)へのフックとしてコミュニケーションに反映。

2. 商品使用体験の最適化

  • フリクションの排除: 商品の使用開始時や使用中に感じる「分かりにくさ」「面倒さ」を徹底的に排除する(例:商品パッケージの改善、サポート体制の強化)。
  • 体験型コンテンツの拡充:「利便性」と「独自性」の具体的なメリットが直感的に伝わる体験型コンテンツ(例:店頭デモや顧客のレビュー動画)を、店頭・オンライン双方で拡充する。

このようなデータに基づく判断は、施策の優先順位やリソース配分にも具体的な指針を与え、これまで曖昧だった投資判断や施策実行の速度を格段に向上させました。しかし、これらの施策以上の決定的な変化は、社内の意思決定プロセスそのものに現れました。COMPASSが示した客観的なデータは、部署や立場の違いを超えた共通の判断軸となり、社内の話し合いが「どちらの意見が正しいか」ではなく、「どうすれば勝てるか」に焦点を当てた、建設的かつ戦略的なものへと発展したのです。この変化によって、同社は意思決定の精度とスピードを着実に高めながら、さらなるシェア拡大を目指しています。

データがもたらす「確信」と「リーダーシップ」

このように、COMPASSを活用することで戦略の意思決定は大きく前進します。それは、従来の調査手法の限界を超え、意思決定を客観的データに基づき精緻に行える状態を実現することを意味します。

もちろん、グループインタビューやアンケートをはじめとする従来の定性・定量調査も、消費者理解や戦略・仮説の構築、その検証を行う上で重要な役割を果たします。しかし、シェア拡大というミッションにおいては、それぞれに異なる特性と限界が存在します。

  • 従来の定性調査(グループインタビューなど)の特性と限界:
    消費者の生の声から課題やインサイトを深く探り、示唆を得るためには非常に有効で、戦略の「仮説を立てる」ためには不可欠な手法です。しかし、得られるのはあくまで個人の意見に過ぎず、その仮説が市場全体でどれほどのインパクトを持つのか、量的に示すことは困難です。
  • 従来の定量調査(アンケート)の特性と限界:
    市場全体の意識の傾向を数値で把握し、「仮説を検証する」際にも役立ちます。しかし、「品質という項目の評価が高い」ことは分かっても、「品質の評価を1点上げると、競合A社から具体的に何%の顧客を獲得できるのか」という、成果へのインパクトに対する問いには答えられません。現状把握や傾向分析には有効ですが、意思決定の確実な判断軸として活用するのは困難です。

COMPASSの価値は、単なる意識調査に留まらず、統計モデルによって消費者の「意識」と実際の「ブランド選択行動」を結びつけ、各要素がもたらす「シェア獲得の確率(スイッチ率)」を算出する点にあります。この「スイッチ率」こそが、どの要素に投資すれば最も効率的にシェアを獲得できるのか、その優先順位を明確にできます。

この「スイッチ率」という客観的なデータを活用することで、意思決定において次のような変化がもたらされるでしょう。

  • 会議での圧倒的な説得力:「なぜこの戦略なのか?」という問いに対し、「スイッチ率〇%というデータに基づき、この訴求が最も効果的と判断しました」と自信を持って説明できます。個人の意見ではなく、データがその戦略を裏付けます。
  • 予算獲得の合理化: 「この施策に投資すれば、競合Aから〇%のスイッチが見込める」というシミュレーション結果は、予算配分の優先順位付けと、承認を得る上で経営層への説明として有効な根拠となります。
  • 組織への貢献とリーダーシップの発揮:データに基づく明確な戦略は、チームの迷いをなくし、代理店にも具体的な指示を伝えることが可能になります。リソースを最重要項目に集中させることで、シェア拡大に直接貢献し、部門全体の価値向上と、データに基づきチームを導くリーダーとしての信頼獲得につながります。

本記事の資料版はこちら

競合に勝つ「訴求ポイント」を特定する
分析を「次の一手」に繋げる。シェア拡大の確度を高める、データドリブン戦略を解説

次のステップへ:貴社の仮説を「確信」に変えるために

「立てた仮説が本当に市場で通用するのか?」
「どの仮説・要素に優先的に投資すべきか?」

これらを客観的なデータを用いて検証されたい方は、ぜひ一度サイカにご相談ください。サイカは、10年以上にわたって累計280社以上の企業とともに、マーケティングの意思決定を支える分析に取り組んできました。COMPASSをはじめとするさまざまなテータサイエンスを駆使し、特殊な市場環境や組織環境においても、最適なデータ分析と実行可能なアクションプランの策定に向けて伴走します。

また、「そもそも仮説をどう立てるべきか?」というビジネス課題の整理からも伴走します。私たちは、「使える分析」を通じて、クライアントの意思決定力を高め、ビジネス成果に直結する支援を行っています。

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