イベントレポート:「丸亀うどーなつ」ヒットの裏側
感性とデータを行き交わした仮説思考とは
マーケティングにおける“最適な意思決定”の探求を目的とするコミュニティ「XICA MARKETING SCIENCE LAB(サイカ マーケティング サイエンス ラボ)(以下、MSラボ)」。会員限定の無料イベントが、2024年11月14日(木)に東京会場にて開催された。
イベントは、データドリブン・マーケティングに関する最先端の情報や成功事例を共有する「セミナー」と、セミナー登壇者と参加者双方向のコミュニケーションを通じて実践的な知見を創出する「ラボ」の二部構成で行われた。本記事では、セミナーの内容の一部をレポートする。
目次
登壇者
南雲 克明(なぐも かつあき)氏
株式会社トリドールホールディングス 執行役員 CMO 兼 KANDOコミュニケーション本部長 兼 株式会社丸亀製麺 取締役 マーケティング本部長
早稲田大学大学院商学研究科卒MBA。コナミスポーツ、サザビーリーグなどB2Cの事業会社において様々なブランドのマーケティング責任者を歴任。2018年トリドールホールディングス入社。2022年より現職。“感動(KANDO)”を起点に、感性とデータサイエンス両側面から持続的に選ばれる確率を高める「感動ドリブンマーケティング」を推進。ブランド力向上と顧客体験価値(CX)向上を軸に、新しい価値創造によるイノベーションまで、ビジネスと企業価値をグロースさせ続けるマーケティングの革新と拡張に取り組む。
モデレーター
平尾 喜昭(ひらお よしあき)
株式会社サイカ 代表取締役社長 CEO
慶應義塾大学総合政策学部卒業。父親の倒産体験から「世の中にあるどうしようもない悲しみを無くしたい」と強く思うようになる。大学在学中出会った統計分析から経営支援の可能性を見出し、2012年2月に株式会社サイカを創業。統計学と経済学をベースに、これまで数多くの大手クライアントにてマーケティング精度向上のコンサルティングを行ってきた。同経験を背景として、サイカの各種ツール開発におけるプロダクトオーナーを歴任。
目次
発売開始3か月で700万食突破!丸亀製麺が勝ち続けられる理由
発売開始3か月で700万食を突破し、丸亀製麺史上最大のヒット商品となった「丸亀うどーなつ」。高品位なブランドイメージを継続しながらも、斬新なアイディアで話題を創出し続ける同社は、なぜ勝ち続けることができるのか。
本イベントでは、トリドールホールディングス執行役員CMOであり、丸亀製麺取締役マーケティング本部長を務める南雲 克明氏をお招きし、「丸亀うどーなつ」ヒットの裏側や、同社が持続的に成果を出すための戦略や思考法について語っていただいた。
丸亀製麺が実践する「感動ドリブンマーケティング」
丸亀製麺では、KANDO(感動)を顧客創造の源泉であると考え、提供する体験や施策のすべてにおいて、感動を生み出すことを最重要視している。利益が出るからといって、感動を無視して効率だけを追い求めるような判断は決してしないという。
南雲氏:「データから感動は創れません(生まれません)。そして感性だけでは確率は上がりません(再現性がありません)。だからこそデータと感性の両方を組み合わせたマーケティング戦略・戦術が必要だと考えています」
つまり、丸亀製麺の感動ドリブンマーケティングとは、感動の創造(パーパス)を意思決定の軸に、感性とデータサイエンスのように一見相反するものを二律両立させ、高い勝率で持続的に成長し続けるマーケティングなのである。
丸亀製麺と4年にわたって伴走してきたサイカの平尾は、同社のマーケティングについて次のように振り返った。
平尾:「丸亀製麺様は、コロナ禍による外食市場の変化を受けたことから、従来のマーケティングモデルを見直し、量だけでなく質にまで入り込んで精緻化しようとされていました。
最初は各施策の事業成果に対する貢献度を明らかにするために、MMM(マーケティング・ミックス・モデリング)から始めましたが、その後は、どうしてそのような結果が出たかといった背景や質の問題を明らかにするために、Awarenessデータの分析を実施するように。現在はこれらを合体させ、MMMをハブとした分析を行っています」
MMMをハブとすることで、事業成果に対する態度変容や施策の影響度を解明できる。つまり、「押し上げるべき態度変容指標」と「注力すべき施策」がわかるようになるのだ。
例えばAwarenessデータの分析においては、丸亀製麺は事業成果につながるキードライバーを検証。コロナ後に取得したアンケート調査データを用いて、利用回数に影響する説明変数を統計解析で解いた。その結果、丸亀製麺の場合「うどんがおいしい」がキードライバーとなっており、その中でも「品質」が重視されていることがわかった。さらにこれらを押し上げる要素も深掘りながら特定し、結果をもとにブランディングや商品プロモーションなどを展開している。
昨年(2023年)の丸亀製麺の取り組みを振り返ると、麺職人と製麺所を前面に出したブランディングを展開する一方で、新たな体験とワクワク感を強調した商品プロモーションを並行して展開している。これらは、「品質が良い」という特徴に紐づく重要要素として分析で明らかとなった「安心して食べられる」や「他の店と違う良さがある」というイメージを押さえられており、結果として相乗的に利用意向を高められていたということがわかった。
「丸亀うどーなつ」ヒットの裏側
具体的な成功例として挙げられるのが、2024年に発売された「丸亀うどーなつ」だ。従来のうどん店のイメージを超え、新しい間食市場を切り拓くことを目指したという。
南雲氏:「勝率を高くするデータサイエンスを頭に入れた上で、『こんな商品・味が欲しい!』『こんなことをしたら、おもしろそう!新しい!』の感性を加えて、全体のコミュニケーション戦略をつくりました」
「丸亀うどーなつ」のUSP(Unique Selling Proposition:独自の強み)は次の通り。先述した事業成果につながるキードライバーが軸となっている。
- うどんから生まれた「どーなつ」という独自性と新規性
- 他にはない“もちもち食感”と想像を超える本格的なおいしさ
- すべてのお店で手づくりで提供(安心・素朴で懐かしい)
商品プロモーション戦略においては、複数のメディアを効果的に組み合わせた統合的なアプローチを採用している。特に初動客数を重視しており、発売前の段階から、渋谷での体験型ポップアップショップ出店や無料サンプリングイベントを開催し、直接的な顧客接点を創出した。この取り組みにより、若年層を中心とした新規顧客の獲得に成功している。また、テレビCMやWeb広告、PRなど、様々なメディアを活用したコミュニケーション戦略を展開した。
特筆すべきは、UGC(ユーザー生成コンテンツ)の活用である。商品プロモーション戦略と商品の特徴的な見た目や味わいが相まって、SNSでの話題を生み出し、拡散につながった。これは、商品自体に「話題性」や「シェアしたくなる要素」を組み込んだ戦略の成功も示している。
このような施策の結果、発売後7日間で約900件のメディア露出を獲得し、発売開始から約3か月で700万食を突破。前年に発売された「丸亀シェイクうどん」を超える、丸亀製麺史上最大のヒット商品となった。
このように、「丸亀うどーなつ」の成功の鍵は、強いコンセプトと発売前の露出、UGC最大化にあるといえる。
そして、実はこのヒットの裏側には、データドリブンな取り組みがあった。これまでにサイカと取り組んだ新商品の発売におけるプレバズ(話題化)の分析結果からは、次のことがわかっていた。
- キャンペーンの成功は、初動客数の高さに比例する
- 初動客数のうち、最低でも25%はプレバズでアップ可能
- プレバズのうち、記事閲覧数とソーシャル発話量は初動客数と強い相関関係にある
初動客数の重要性や、商品リリースやCMなどの施策をどの媒体でいつ・どれくらい実施すればよいかを分析で明らかにしていたのだ。このプレバズ分析の結果をもとに、いわば狙ってヒットを生み出す取り組みがさらに成果を押し上げる要因となったといえるだろう。
止まらない丸亀製麺の挑戦 ―感動を軸にした経営の未来構想
丸亀製麺の新たな挑戦はまだまだ続く。今後の展望としては、「EX(内発化を促す仕組み/体制)」「CX(製麺所空間・超手づくり/超できたて体験)」「Social Good(地域に根差し地域貢献に全力で挑むブランド・店舗)」「BRAND(唯一無二のKANDO創造ブランド)」の4つを回すことをより意識した取り組みを行っていくという。
南雲氏:「どれか1つだけを強くするのではなく、各事象を両立するようなアイディアを創っていきたいです。その結果、皆さまから『丸亀大好き!』『応援したい』といっていただき、働く人にも「お店大好き』と自然に思ってもらえるような状態になることを目指します」
現在は今回紹介したMMMやAwarenessデータの分析、プレバズ分析に加え、働く従業員の幸せが店舗での感動体験創造につながり、最終的な売上・利益へ貢献する構造を分析する“ストアパフォーマンスモデル”の構築(EX→CX→売上・利益の可視化)にも取り組んでいるという。
南雲氏:「私は頭の中でイメージを描くことはできますが、それを整理してモデルとして分析できるのは、サイカさんの力があってこそだと思います」
南雲氏の思考を徹底分解!勝ち続けるための要諦とは
セミナー後半には、平尾から南雲氏に対して次の2点が質問された。
Q1. 感性はどのようにすれば磨かれるのか?
南雲氏:「人によって異なると思いますが、僕の場合、まず対象となるものへの純粋な興味や愛着が基本となります。そして、実際に体験を重ねながら、自分自身が何に心を動かされ、どのような要素に価値を見出すのかという感覚を意識的に育んでいくことが大切だと考えています」
Q2. データを解釈する上で重要となるのは何か?
南雲氏:「重視しているのは事前の仮説設定とその検証プロセスです。特に注目すべきは、データが仮説と異なる場合です。その違いや違和感を見逃さず、なぜそのような結果になったのかを深掘りしていくことで、気づきを得られると思います」
クロージングとして、平尾は今回のセミナーのポイントをあらためて紹介。
「仮説」「データ」「感性」のサイクルを回し続けることこそが成功の鍵であり、その際は「① 一定の精度を保つこと」「➁ 検証結果を信頼し、実行に移すこと」「③ サイクルを回し続ける組織文化を作ること」の3点を意識することが求められると説明。“分析をして終わり”ではなく、そこから新たな論点を見出し、“分析を継続する”ことの重要性を強く伝えた。
このイベントレポートを読んだ方におすすめのセミナーや記事
【ネスレ&丸亀製麺】
トップマーケターに学ぶ、データドリブンな顧客理解と仮説設計の極意
【マーケティングアジェンダ2024
イベントレポート】
勝率を高めるマーケティング戦略の裏側 ── 丸亀製麺式データサイエンス活用法