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3年間の苦悩を経て、サイカのアーキテクトが目指す理想のエンジニア組織とは

本当に辛い時期が3回くらいあった。でもいまはダントツで最高。

そう話してくれたのは、サイカ開発本部のアーキテクト・松嶋慎太郎(まつしま しんたろう)さんです。松嶋さんは大学で数学とコンピュータサイエンスを学び、学生時代に起業を経験。開発に勤しむもビジネスに繋がらず、人間としての適応力や柔軟性を高めるためフリーランスに転向します。その時期にサイカと出会い、業務委託としてジョイン。5ヶ月後、エンジニアリングマネージャーとして正社員になり、現在はリアーキテクチャとプロダクトの数理領域を担当しています。様々な困難を乗り越えてきた松嶋さんが考える、エンジニア組織のあり方を聞きました。

「あと少し頑張れば……」と思い続けた3年

── 2017年7月に入社して3年。会社も組織も大きく変わったと思います。

入社当時からいたエンジニアのうち、私が最後のエンジニアになってしまいました。

3年前は、プロダクトの難しさからエンジニアがモチベーションを維持しづらい環境でした。難易度の高い統計知識と顧客のビジネス理解が必要で、実装もあまり良い状態じゃないという、二重の難しさがあったんです。

── それでもここまで続けて来られたのはどうしてですか?

混沌の中に、成功の要素をいくつも感じていました。

まず、熱くて誠実な人が多い。部署問わずみんなが成功に向かう気持ちを持っていました。できてないところも沢山あるけれど、それを責めることなく「お互い何かサポートできないか?」と救い合うチームでした。

プロダクトの面でも、確かにコードはぐちゃぐちゃで見るのも辛い状態だったんです。
でも、リリースから1年で積み上げた土台は捨てるほど悪くない。技術的にももっとよくできる。高い目標を掲げているけど、絵に描いた餅だとは思わない。

「かなり成功に近い場所にいる。あと少し頑張れば成功する。」その一心で3年間やってきました。
やってみたら結構大変だったんですけどね(笑)

いまプロダクトがなくなったらサイカは売るものがなくなってしまう。作ってるのは私たちエンジニアだという責任感もありました。エンジニアの存在価値として、どうにかしてプロダクトを未来に繋ぎたかったんです。

── このお話だけでも3年間の苦労が垣間見れる気がします。松嶋さんは業務委託でジョインし、5ヶ月後にエンジニアリングマネージャーとして正社員になったんですね。

大学時代から知り合いに仕事をもらっていて、その延長で友人3人と起業しました。
色々と全力で作ってみたもののビジネスにならず燃え尽きてしまい、サイカに入る前は武者修行と称してさまざまな開発にフリーランスで携わりました。

エンジニアとしてはそれなりに経験が積めたので、技術面ではある程度自信があったんです。
でも、技術の土壌で戦えない時、自分にどれだけの価値があるんだろうと考えるようになりました。コードを書けない自分に何かできるのか、人間としての適応力や柔軟性を試したくてサイカに入社しました。

同じことだけをやっていると学習曲線は鈍ってきます。でもやったことのないことをやると最初の上がりがすごい。その経験値を自分に入れたかったんです。

エンジニアリングマネージャーを打診された時も、自分に対する非連続な成長を期待してお受けしました。

マネージャー時代の苦悩

── エンジニアリングマネージャー時代は、たくさんの苦悩があったそうですね。

はい。少なくとも、会社組織とビジネスをドライブさせることはできませんでした。私がマネージャーをやっていた頃は、いまの商品が売れるか売れないかという段階で、ピボット(※1)が多くありました。ピボットの度にエンジニアから悲鳴が上がり、バグが出て、障害が出て、謝る。その繰り返しです。「どういうプロダクトなのか」「統計で何をやっているのか」の根本的なストーリーについて、メンバーと意思疎通できていませんでした。

だけどやっぱり、メンバーから「働いていて楽しい」と言われた時は感無量でしたね。

── 「CSの力になりたい」「お客さんを困らせたくない」

バグを出し、コードを汚しながらも、皆責任感を持って向き合っていました。技術面で拙い部分があっても、努力と情熱でプロダクトに貢献してくれていたんです。だからこそ、マネージャーとして彼らのキャリアを提示できず、さらなる成長を促すことができなかったことをいつも反省しています。

アーキテクチャが綺麗になった時に初めて、仲間の活躍や繋いできたものを思い返して、「ああ、良い場だったな」と思うのかもしれませんね。彼らのバトンを繋ぐことが、最後に一人残ったエンジニアとしての矜恃だと思っています。

※1:プロダクト開発にあたって、マーケットのニーズと合致するように事業や製品の方向性が変わり、それに合わせてプロダクトを改良すること

リアーキテクチャと数理

── 松嶋さんは現在、リアーキテクチャとプロダクトの数理部分を担当されているんですね。具体的にはどのような業務ですか?

アーキテクトとしては、プロダクト全体のシステム設計をやっています。

3年持たせるにはどのように作ればよいか、将来の拡張にどの程度耐えられるか、などの全体設計を、メンバー、経営陣、アドバイザリーボードの名村卓さんや田中慎司さんにレビューいただきながら進めています。

数理エンジニアとしては、統計の専門的な知識をプロダクトに実装する部分を担当しています。村田賢太(mrkn)さんにプロジェクトに入っていただき、「統計的にあってほしい機能」を数理のロジックで組み立て、実装の可否と実装パターンを整理・集約し、実装していきます。数理の部分はとてもアカデミックな内容が起点になります。学術的なものをプロダクトに落とし込んでいく転換の部分を担当しています。

リアーキテクチャが達成されたら

── リアーキテクチャが達成されるとどんなことができるようになりますか?

いまのマゼランの課題は、アプリケーションと数理の部分が密結合になって繋がっていることです。数学と開発の両方を理解できる人じゃないとプロダクトの構造がわからないのでハードルが高く、触れる人が少ないので属人化しやすくなっています。

リアーキテクチャでアプリケーションと数理を分離させることで期待できる効果は3つあります。

ひとつは、開発速度の向上です。
数理機能のアップデートや実験的な挑戦がスピーディーにできるようになり、R&D(※2)もやりやすくなります。数学と開発両方の知識がなくても触れるようになるので、属人化の解消になります。

もうひとつは、開発とビジネスサイドの間にシナジーを生むことです。
いまは、ビジネスサイドが作ってほしい機能を作る一方通行の状態ですが、エンジニアからビジネスサイドに対しての提案ができるようになっていくと思います。

最後に、カスタマーサクセス(CS)が本来やるべきことに集中できるようになり、より良い広告出稿モデルがクライアントに届くようになることです。

いまは、開発が作ったものをCS側で最適化して使うフローになっていますが、そこは実装で解決できます。モデルのフィッティングや比較がもっと楽にできるようになるよう、本質的じゃないところは今回のリアーキテクチャで改善させたいですね。

※2:Research & Development(リサーチ・アンド・デベロップメント)の略。自社の事業領域に関する研究や新技術の開発、自社の競争力を高めるために必要な技術調査や技術開発といった活動。

プロダクトへの思い

── 専門的な統計技術を扱う難しさをこれまで何度も体感されてきたと思いますが、マゼランというプロダクトをどう思いますか?

私が入社した3年前、統計の正反対に機械学習やディープラーニングがありました。技術トレンドとしてAIが注目される中、一貫して統計を手段に選んできたのは正しかったと思います。

AIによる分析には数万の説明変数があります。アルゴリズムによる自動計算なので、分析部分はブラックボックス。最近は機械学習やディープラーニングも説明力を上げようとしていますが、「なんでこうなるの?」の理由を人間がすべて理解することはまだできません。

広告出稿は「どうしたら顧客がコンバージョンに至るか」のストーリーをマーケターが組み立てます。そこで私たちが扱うのは、年間何千万、何億というお客様の巨額な広告予算です。失敗は許されません。

サイカでは、クライアントが意思決定に使う分析レポートや予算シミュレーションを、CSのエキスパートが統計のノウハウを駆使してモデリングしてきました。「すべての分析工程を可視化し、説明できる」統計分析は、私たちが提供したい価値に対する正しいアプローチだったと思います。

── すべてを可視化し、全工程を人間が理解できる点に、プロダクトとしての価値があるんですね。

非連続な成長をはじめた組織

── この3年間の会社と組織の変化について、いま思うことをお聞かせください。

3年前の仲間はいまの状況が信じられないと思います。「あのマゼランがこんなにかっこいいの?」っていう(笑)いまの組織は奇跡なんです。

2020年1月に、是澤さんがCTOに就任してすべてが変わりました。8ヶ月で別の会社かと思うくらいの変化です。一方で、一緒に働いてきた仲間がいなくなって寂しい気持ちがあるかというと決してそうではなく、過去が思い出せないくらいの変化を感じているんです。これこそまさに「非連続な成長」ではないでしょうか。

3年かけて採用できるかどうかという優秀な人材が何人も入社してくれて、組織も非連続なビルドアップをしている状態。是澤さんにはすごく感謝してます。

でもまだスタートの段階だと思っているので、これからもガンガンやっていきたいですね。非連続で生まれ変わることを、自分にも組織にも望んでいたのですごく嬉しい。
だから、いまのサイカがダントツで最高です。

これから、生まれ変わって標準化されたマゼランを見たら死んじゃうかもしれない(笑)

── 松嶋さんがそこまで言うなら、これから仲間になってくれるエンジニアは幸せすぎるのでは?

幸せすぎていいじゃないですか。それで会社がどんどん強くなればいいんです。

いまのマゼランは、これまでのエンジニアの若い情熱や苦労がぐちゃぐちゃになって、なんとかここまで持ってきたものです。それをこの先に繋げていきたいし、さらに綺麗に繋げることができたら最高です。

見せ方や組み合わせ方がうまくいっていなかった部分を価値が出るように転換するのが標準化だと思うんですね。私がやっているリアーキテクチャによって、新しく入ってくる人がますます活躍してくれる環境が作れたら最高ですよね。

※インタビュイーの所属・役職は取材当時のものです。