世界のお気にいり(18)

あなた好みをどうぞ。個を大切にするイタリアの、顧客と売り手の深い関係

消費者視点を切り口に、海外のライフスタイルレポートをお届けする「世界のお気にいり」。仕立て屋や靴屋に見る、パーソナルなサービスについてご紹介します。

パーソナルな部分が大切にされる売り手とクライアントの関係

例えば、旅行でイタリアを(いや、ヨーロッパの多くの国でそうなのかもしれませんが)訪れた時、レストランやショップで、年配のウエイターやスタッフから丁寧なサービスを受けた経験はありませんか。日本における接客の仕事は、学生のアルバイトやパート、新人研修の一環というイメージがあるかもしれません。しかしイタリアでは、接客を一生涯の仕事として定年になるまで続ける人も多くいます。つまり、この道のプロというわけです。

とくに老舗店になると、顧客との関係が密になります。例えばレストランでは顧客が以前注文したメニューをウエイターが覚えていて、その嗜好にあわせてお薦めを教えてくれることがあります。また、服飾関係の場合は、顧客のスタイルやこれまでに買ったアイテムをもとに、ショップスタッフが似合う服やコーディネートのアドバイスをすることもあります。まるでパーソナルショッパーのようですね。ちょっとしたコンサルタント的な役割まで果たしてくれるのです。

ボローニャの名物料理、ミートソースのタリアテッレ。
ボローニャの名物料理、ミートソースのタリアテッレ。

仕立て屋や靴屋は顧客のライフスタイルまでも支える

それがより顕著に表れるのは、オーダーメイドをするような仕立て屋や靴屋でしょう。日本よりオーダーメイド文化が残っているとはいえ、値は張ります。イタリアでもオーダーメイドは、一部の人たちだけができる特別なものです。店側は、顧客の体型の変化からワードローブまでをしっかり把握しています。仕立て屋の場合、顧客のサイズや好みに合った洋服を提供するだけでなく、顧客の似合わないものはテーラーが作ることを拒否することもあります。仕立てデビューしたばかりの若者などには、テーラーが着こなしのノウハウを一から教え込む・・・といった、お洒落のお目付け役的な役割もしています。

仕立て屋では、顧客ごとのパターンを店がきちんと保管している。
仕立て屋では、顧客ごとのパターンを店がきちんと保管している。

生地を選んで、自分のサイズで洋服を作るのは最高のお洒落だ。
生地を選んで、自分のサイズで洋服を作るのは最高のお洒落だ。

靴屋の場合も同様です。その人の足の欠点をカバーした履き心地の良い靴を作り、足の悩みを解消してしまうというまるで医者のような役割まで果たすそうです。そして年齢や習慣の変化によって、足の形が変わっていくのもきちんと把握しています。

オーダーメイドの靴工房には顧客一人一人の木型が保管されている。
オーダーメイドの靴工房には顧客一人一人の木型が保管されている。

イタリア人が日になんどもバールへ通うワケ

この「お店と顧客」の関係は、日常の生活の中でも見られます。イタリア人は1日に何度も行きつけのバールに通います。彼らはバールマンと軽いおしゃべりをするほか、自分好みのコーヒーが出てくるというちょっとした気遣いが嬉しくて同じ店に行くのです。バールマンたちは、濃い目のコーヒーが好き・少し牛乳を足したがるといった顧客たちの好みを覚えています。小さなプラスアルファのサービスですが、それがあるからこそイタリア人は馴染みの店に行き、いつも自分に付いてくれているスタッフから給仕され、買い物をすることを好むのです。こういった顧客と店との関係はとてもイタリアらしくて素敵だと思います。

カフェ文化が根付くイタリア。行きつけの店でちょっとした世間話をするのも楽しみ。
カフェ文化が根付くイタリア。行きつけの店でちょっとした世間話をするのも楽しみ。

個を大切にするイタリア

逆に一般企業に関しては残念ながら、日本ほど消費者一人一人の声を大事にし、企業努力をしているようには思えません。お客様窓口のようなものはあっても、ほとんど電話は繋がらないですし、苦情を言ったところでお詫びの一つもないことが多いです。それは消費者の声を聞く気がもともと企業側にないのか、それに対応する人材を雇う余裕がないのか、両方かもしれません。または、国内で企業間の競争もあまりないからでしょう。消費者もクレームを言ったところで改善されるとは期待していないようです。それでも文句を言いながら成り立っていくのだから、それでよいのでしょう。

イタリアは、大規模になると物事がうまく進まないことは多いけれども、個人レベルでは大変勤勉で優秀であることが多いのです。そのため、消費者や顧客とサービスもマスを意識するより、個を重視する部分があるのかもしれません。