広告を科学する(1)

CTRもCVRも高いキーワード、利益をもたらすとは限らない?

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現在、広告業界の発展は目覚ましいものがあります。ITの進化を背景に、さまざまな広告手法が生まれました。また、新技術の活用方法や成功事例も常にアップデートされ、マーケッターを中心に、最新の情報が数多く発信されています。

しかし、「そもそも広告はどのようなメカニズムで効果を発揮するのか?」という議論は、あまり一般的ではありません。特に、事象・業界を科学する上で重要な担い手であるアカデミシャンの言葉は、限られた層にしか届いていないのが現状です。

そこでマーケのネタ帖では、各広告手法の専門情報だけではなく、マーケティング領域における学術的な研究を紐解き、ビジネスに活かせるよう、適切な広告施策の判断基盤やデータ分析の具体的な活用事例を提供していきたいと考えております。

第1回目は「マーケティング・サイエンスにおける広告の研究」について、現在の広告研究における取り組みをアカデミックな側面から調査いたしました。

広告のマーケティング研究

広告についてのアカデミックな研究を取り扱うジャーナルは、Management Science、Marketing Research、American Marketing Associationなどがあります。これらは、マーケティング・サイエンスと呼ばれる学問領域に属しています(※1)。2000年代以降、この領域での広告研究の中心的なテーマはウェブ広告です。ウェブ広告のコストパフォーマンスをどのように向上させるか、そして、どうすればCVR(Conversion Rate)を改善することができるのか、などのテーマを定量的に分析しています。

その中でも、さまざまな論文に引用され、マーケティング・サイエンスの広告研究でベンチマークとなっている2つの論文、Manchanda, Dube, Goh and Chintagunta(2006)とGhose and Yang(2010)について取り上げます。

ウェブ広告が購買行動の変化に与える影響についての研究

Manchanda, Dube, Goh and Chintagunta(2006)では、バナーやポップアップなどのウェブ広告と購買行動の関係性をサバイバル分析(※2)を用いて検証しています。サバイバル分析とは、ある商品が購入されなかった週を「(サバイバルに)成功した週」、購入された週を「(サバイバルに)失敗した週」とカウントし、消費者の購買行動を「商品の最終購入日」、ウェブ広告の閲覧回数などを示す「マーケティング変数」、ウェブサイトの閲覧回数などを示す「行動変数」の関数とする分析手法です。また、ここでは階層ベイズモデル(※3)と呼ばれる推定手法を用いていますが、これは最も一般的な最小二乗法よりも制約が緩く、個々の消費者の異質性を考慮して推定することができるため、マーケティング・サイエンス研究でよく用いられています。

ヘルスケアの購買などに関する週次データを用いて検証した結果、ウェブ広告がリピーターの増加に貢献しているという結論が導かれています。

サーチエンジン広告における広告効果指標の実証分析

Ghose and Yang(2010)では、Googleで広告を出稿している全国展開の小売店から集められた数百のキーワードをもとに、6ヶ月分のパネルデータを用い、スポンサードサーチを中心としたサーチエンジンの実証分析を行っています。分析内容は、CTR(Click Through Rate)やCPC(Cost Per Click)やCVRなどのさまざまなスポンサードサーチの測定手法の関係性をモデル化したものとなっており、上述した階層ベイズモデルの他に同時方程式モデルと呼ばれる手法を用いて分析しています。

主な結果としては、

  1. CTRの上昇に対する影響はランキングよりも入札期間の方が大きい。
  2. LPの品質スコアはCVRと正の相関があるがCPCと負の相関がある。
  3. 検索結果で上位に表示されCTRもCVRも高いキーワードのほうが、必ずしも利益をもたらすとは限らない。

という結論が導き出されています。

今後の研究方針

今回は、現代の広告研究のベンチマークとなっている2つの論文のレビューをしました。しかしIT技術が発展し、ウェブ広告も日々進化しているため、今回レビューした論文以降にも研究が進んでいるものと予想されます。そこで、オンラインのディスプレイ広告の研究についてまとめたGoldfarb and Tucker(2011)を取り上げ、より新しい広告研究に関する論文の調査を進めていきます。

※1:これらのジャーナルは、A Ranking of Marketing Journal(http://www.ams-web.org/?10)に基づき、トップジャーナルとして認知されている。

※2:基準となる時点からある反応や事象が起きるまでの時間を対象とする一連の分析手法である。ここでは、目的変数を生存時間と呼び、生存時間の長さに影響を与える独立変数は共変量と呼ばれる。サバイバル分析の中でも、生存時間に特定の分布を仮定せず、同時に共変量のパラメータを推定して生存時間への影響を吟味する事をしないノンパラメトリックモデルと、生存時間に特定の分布を仮定しないが共変量のパラメータを推定するセミパラメトリック・モデル、生存時間にワイブル分布や対数正規分布などの特定の分布を仮定し、共変量のパラメータを推定するパラメトリック・モデルの3種類が存在する(筒井他、2007)。

※3:ベイズ流推測を使った推定法。各標本平均μ1、μ2、…、μnは同じ分散σ^2を持ち、同時に平均μ、分散ω^2の母集団分布からの観測値と見なされる(Upton and Cook, 2002)。

参考文献

土田尚弘(2010)「マーケティング・サイエンスにおける離散選択モデルの展望」『経営と制度』第8号、63-91頁。
筒井淳也・平井裕久・水落正明・秋吉美都・坂本和靖・福田旦孝(2007)『Stataで計量経済学入門』ミネルヴァ書房。
Avi Goldfarb, and Catherine Tucker(2011)Online Display Advertising : Targeting and Obtrusiveness: Marketing Science February 2010, Vol. 30, No. 3, Marketing Science, pp.389-404.
Ghose Anindya, and Sha Yang(2009), ‘‘An Empirical Analysis of Search Engine Advertising: Sponsored Search in Electronic Markets,’’ Management Science, 55(10), 1605-1622.
Grahan J. G. Upton, and Ian Cook(2002)”A Dictionary of Statistics, Second Edition” Oxford University Press.(内田雅之・熊谷悦生・黒木学ぶ。阪本雄二・坂本旦・白旗慎吾(訳)(2010)『統計学事典』共立出版)
Puneet Manchanda, Jean-Pierre Dubé, Khim Yong Goh, and Pradeep K. Chintagunta(2006)The Effect of Banner Advertising on Internet Purchasing. Journal of Marketing Research: February 2006, Vol. 43, No. 1, pp. 98-108.