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真面目さに少しの余白を──元博報堂・三神正樹がサイカで目指す「変革」とは

2022年12月、元株式会社博報堂・株式会社博報堂DYメディアパートナーズ常務執行役員の三神正樹が、サイカの執行役員に就任しました。

三神は、1982年に博報堂に入社し、マーケティング分野・デジタル分野を牽引。インターネットの黎明期から約40年に渡り、統合マーケティングやデータドリブンマーケティング分野の最前線を走ってきました。

そんな三神がサイカで担う役割、そして現在のマーケティング業界の課題とは。そして、生涯自分をアップデートし続けられる源泉は何なのか、話を聞きます。

サイカの執行役員の三神正樹
株式会社サイカ 執行役員
SVP of Product Strategy
三神 正樹(みかみ・まさき)

1982年博報堂入社。IT部門、事業・プロモーション領域を経て、96年日本の広告会社初のインターネット専任組織「博報堂電脳体」設立に関与。以降、統合マーケティングやデータドリブンマーケティング等を実践、デジタル分野を牽引。2010年博報堂執行役員。11年博報堂DYメディアパートナーズi-メディア領域担当執行役員。 16年博報堂、博報堂DYメディアパートナーズ常務執行役員兼任。18年博報堂DYメディアパートナーズ常務執行役員、CISO兼イノベーションセンター担当。 「カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル」にて13年メディアライオン、16年イノベーション部門の審査員を務める。

ビジネスのリアリティをプロダクトにつなぐ

サイカの執行役員の三神正樹

── 三神さんは、サイカでどんなミッションを担っていくのでしょうか。

博報堂に在籍していた約40年間、国内外の広告主企業やマーケティング業界のリアルをたくさん見てきました。サイカでは、「SVP of Product Strategy」として、ビジネスのリアリティやマーケティングのリアリティをプロダクトにつなぐ橋渡しの役割を担います。

市場のリアリティを開発にインストールし、PM(プロダクトマネージャー)や開発メンバーと議論しながらサイカの開発力を磨き、目指す世界の解像度を上げていきたいと思っています。

── その先にはどんなビジョンがありますか?

マーケティングの世界において、広告主がデータやロジックに基づく意思決定をし、自信をもってアクセルを踏む横に、いつもサイカとサイカのプロダクトがいる状態をつくっていきたいです。

サイカはマーケティングにおけるカーナビの一部を担えるようになってきていると思います。でも、ビジョンの達成度でいったらまだ20%くらいなんじゃないでしょうか。これからさらに一歩進んで、テスラの自動運転技術のように、ある時は手放しで進み、ある時は一緒に走る。そんな状態がつくれたらいいなと思っています。

マーケティングの4P(プロダクト・プライス・プレイス・プロモーション)の中で、もっともコントロールしやすく、かつコントロールしなければいけないものがプロモーションです。なので、まずはプロモーションの領域で、徹底的に可視化・最適化を進めていきます。

ですが、ビジネスはプロモーションだけでは決まりません。ほかの3つのPもとても重要。今後、さらに領域を広げていくことで差分の80%が埋まっていくんじゃないかと考えています。

── そのビジョン・ミッションを達成するために、いま取り組んでいることを教えてください。

プロダクトのあり方や顧客価値創造の方法を検討すること。そして、今後の非連続な成長のために必要なナレッジや情報を整備する基盤作り。現在の足元のアクションとして、これらに取り組んでいます。

「業界の当たり前」を変える源泉

── 三神さんはサイカのどこに可能性を感じてジョインすることにしたのですか?

前職時代、データドリブンマーケティングやMMM(マーケティング・ミックス・モデリング)も自分のミッションの範囲にありました。そこで感じていたのは「立ち位置」の重要性です。

広告会社はお客様から広告費をいただくことで事業が成り立っています。なので、従来型の広告会社の立ち位置だと、「今は広告費を抑えた方が良い」というタイミングでも「もっとアクセルを踏むべき」と言わなければいけないことがまれにあります。

一方サイカは、ニュートラルな立ち位置で、広告主の成長だけが自分たちの成功になる。まず、このポジショニングがいいと思いました。

もう一つが、データサイエンスやエンジニアリング、コンサルティングを担う人材の優秀さです。入社してみると、思っていた以上に優秀。多様なバックグラウンドを持った優秀なメンバーが集い、このマンパワーは成長のための大きな源泉だと思います。会社として大事にすべき資産ですね。

そして、優れたエンジニアリング力とデータサイエンス力の掛け算は他社にない大きな強みだと思います。これらの強みをもって、「業界の当たり前」を変えていけると期待しています。

360度の好奇心

サイカの執行役員の三神正樹

── 三神さんがマーケティングの道に進むことになったきっかけを教えてください。

僕は、昔から好奇心の範囲が360度。興味のないことがないんです。

この好奇心を活かして、ありとあらゆることにちょっかいを出せる仕事ってなんだろうと考えた時に、マスコミや広告会社が候補に挙がったんです。

── そして博報堂に入社されたんですね。

自分の好奇心を満たすかっこいいことがやりたくて博報堂に入りました。でも最初は希望の部署に入れなくてちょっと腐ってましたね(笑)

でも博報堂は面白い会社でした。腐ってた僕に、上司が何をやりたいのか聞いてきたので、「(当時日本ではほとんど知られていなかった)コンピューターグラフィックス(CG)をやりたい」と、僕が考えるCGの未来を話すと、「よくわからないけど面白そうだからやってみろ」と言ってくれたんです。そこから僕の広告会社人生は一気に方向転換し、普通の人が歩まない40年を歩むことになります。

「コンピューターグラフィックスの可能性を研究するPJT」を任せてもらうことになり、黎明期だったCGを世に送り出すのが、僕の最初の仕事でした。

当時、CGの制作費はあまりにも高く、ハリウッドが少し手を出し始めたくらい。そんな時期に、1985年に茨城県つくばで開催された「科学技術博覧会」でCGを使った展示を行いました。そこからCGが注目を浴びるようになったんです。

それをきっかけに、いまでいうIT企業のマーケティング支援に携わるようになりました。その後、1995年に博報堂がインターネットの専任組織をつくることになり「博報堂電脳体」に参画。それからデジタル領域・マーケティング領域でさまざまな仕事を経験しました。

僕たちはまだインターネットをわかっていない

サイカの執行役員の三神正樹

── この40年で、インターネットの役割は大きく広がりました。インターネットの黎明期からマーケティングの最前線を走ってきた三神さんから見て、マーケターの役割はどのように変わってきたと思いますか?

Web1.0、Web2.0の初期までは、従来型メディア(4マスメディア・OOH)にインターネットを加えて「6メディア」と呼ばれていました。このことからわかるように、インターネットは数あるメディアの一つだと思われていたんです。なのでマーケターも、「広くメッセージを届けるための新しいチャネル」として、インターネットで何ができるかをずっと考えていたわけです。

でも、2008年にiPhoneが発売され、スマホによる生活者の行動革命が起こりました。そしてソーシャルメディアプラットフォームの登場。この2つの変化により、「広く届ける」に、人と人、人とブランド、人とサービス……いろんなものを「つなぐ」要素が加わりました。

もしかすると、いまだにそのことがマーケティング的にどういう意味を持つのか、100%肚落ちしていない方が多いのかもしれません。それなのにもうWeb3.0の時代になってしまって、ますます混沌としてきています。

変化は理解しているけれど、「勝利の方程式」を見つけられていない。テレビCMなどは、不十分とはいえ、ある程度の「勝利の方程式」があります。でもインターネット広告は、「これまでリーチできなかった人にリーチできる」「より精緻にターゲティングできる」までは見えているけれど、人と人、人とブランドのつながりとなった瞬間に、「どうすればビジネスに組み込めるのか」がわからなくなり、そのままいまに至っている。そう思います。

── データ活用の文脈でいうと、企業がデータやロジックを使いこなせていない要因はどこにあると思いますか?

企業の中で、製造の現場などはデータ第一主義で事業運営がなされていますが、それ以外の場面ではデータを活用しきれていない組織も多く、マーケティングはその代表的なものです。

問題はいくつかあります。

まずはデータの問題。デジタル時代になって、以前よりもデータをとりやすくなりました。でも、実はデータがないことが結構ある。そもそも「データがとれる」「データがある」ことを分かっていない場合も少なくありません。

もう一つは、広告効果可視化の問題です。特に、「人々に知ってもらう・好きになってもらう」役割を担う、マーケティングのアッパーファネルの広告活動(テレビCMなど)が、売上にどのくらい影響があるのかが分からないことです。

19世紀に「百貨店王」と呼ばれたジョン・ワナメーカーが、「私は毎年巨額の広告宣伝費を使っていて、その半分は無駄だと確信している。でもどの半分が無駄かは分からない」という有名な言葉を残しました。200年以上前の言葉ですが、状況は当時とほとんど変わっていないという説もあります。

「広告に使っている数億円を生かしきれているのか」「費用を倍にしたら売上も倍になるのか」がわからない。この領域はずっと暗黒大陸です。

「わからない」で許されてきたのは、これまで日本の経済がおおむね右肩上がりだったから。でも、縮小する日本のマーケットでは、この暗黒大陸を照らさなければ生き残れません。

これが、広告効果を可視化するMAGELLANが必要とされ、評価されてきた理由だと思います。そして、いま以上に大陸を明るく照らし、もっと精緻にわかるようにしていくのが、いまのサイカに求められていることだと思います。

人間関係の基本は「共感」と「リスペクト」

サイカの執行役員の三神正樹

── さまざまな事業を成長させてきた三神さんが、事業を成長させるために大事にしていることを教えてください。

「共感力」と「人をリスペクトする力」です。

共感とリスペクトは人間関係の基本。そして表裏一体の関係にあるものです。自分が共感すれば相手も共感してくれ、自分がリスペクトすれば相手もリスペクトしてくれます。

経験を積み、専門知識を磨いてきた人であれば、ものの見方に違いがあっても学べることが必ずあります。そう思って付き合うと、共感できるところや尊敬できるところが見つかります。

僕は若い頃、これらの重要性をわかっていませんでした。「みんなから学んだほうが良い答えが出せる」「学んでいるからアウトプットできる」「学んでいるから人に教えられる」。そのことに気づかせてもらう経験を積み重ねてきたことで、後天的に身につけたスキルです。

── 「共感できない」「自分のほうができる」と思ってしまう人もいると思うのですが、そういう方に何かアドバイスをするとしたらどんなことを伝えますか?

ホテル業界に「ブティックホテル」という新しいカテゴリを生み出した、チップ・コンリーという人がいます。彼は、52歳で民泊仲介大手のAirbnb(エアビーアンドビー)社に、グローバル・ホスピタリティー&ストラテジー部門責任者として参画し、『モダン・エルダー』という本を書きました。

エアビーアンドビーは、大学を卒業したばかりのブライアン・チェスキーが空き部屋を貸し出すことから始まった会社です。従業員のほとんどが20代でした。

当初チップは、自分が彼らに何かを教えるつもりで参画しました。ですが、テクノロジーを駆使したスタートアップで働く20歳以上も歳下の彼らから学ぶことのほうが多いと気づきます。一方、ブライアンたちも、自分たちがまったく知らない経験を持つチップからたくさんのことを学びました。

チップは著書の中でこの関係性を「メンターンシップ」と呼んでいます。双方がインターンでありメンターである、ということです。この考え方がすごくいいなと思っていたのですが、サイカに入社して毎日このことを実感しています。

── 三神さんが自分をアップデートし続けられる源泉を教えてください。

やっぱり好奇心だと思います。そして新しいものが好きということ。

テレビや新聞、友人との会話の中から、はっと思ったものに対してすぐに動く。いまはとても便利で楽しい時代ですよね。好奇心を刺激するきっかけも、好奇心を行動に移すための道具も無数にあって、僕はいますごく幸せです。

でも、「本を買ったあとに読む」「予約したあとにその場所に行く」というように、行動することがより重要になっている時代でもありますね。インターネットが発達したことで、インターネットの外にあることの価値が増したと感じています。

真面目さと論理性に少しの余白を

サイカの執行役員の三神正樹

── サイカメンバーの第一印象はどうでしたか?

こんな真面目な人たちが世の中にいるんだ、と思いました(笑)真面目で優秀。会議も効率的で、この会議を博報堂でやっていたらどれだけ多くの仕事ができたんだろうと思います(笑)

でも、真面目すぎるな、とも思うんですよ。博報堂は「雑談文化」と言われています。とりとめもない雑談をしているだけなんだけど、雑談から学ぶことや得られるヒントは多くて、雑談に刺激され、視野が広がりました。

バランスはすごく難しいんだけど、もう少し意識的な余白をサイカの組織文化に入れられるともっと良くなると思います。開発本部は意識的にそういった余白をつくる取り組みにチャレンジしています。

── サイカにはどんな人が合うと思いますか?

サイカに入って、意外とキャパシティ(受容度)の広い会社だと思いました。バックグラウンドが多種多様で、みんな穏やかで、論理的。議論をどんどんしていける風土が好きです。

これは、社長の平尾さん自身がみんなをリスペクトする発言・行動をしているからだと思うんだけど、すごくフラットな雰囲気の会社で、「型にはめよう」という文化がほとんどないので、それぞれが持っている専門性や好奇心、やりたいことを伸ばしやすい環境だと思います。

だから、「こういう人でなければ合わない」というものはないんですが、ちょっと変わり者が入ってきたり、リモート勤務で見えていない隠れた変わり者が表に出てくると、もっとおもしろくなるかもしれませんね(笑)

※インタビュイーの所属・役職は取材当時のものです。

[インタビュー・文]  川畑夕子(XICA)
[写真]小池大介
[企画・編集] 川畑夕子(XICA)