(後編)MAGELLAN5周年記念対談──CEO×初代プロダクトオーナーが語る、広告効果分析ツールNo.1までの道のり
データサイエンスカンパニーであるサイカは、誰もがデータにもとづく正しい判断ができる世界を目指し、マーケティング成果を最大化させるサービス「ADVA(アドバ)」を展開しています。
2020年に発表したADVAの先駆けとなったのが、2016年にリリースした「MAGELLAN(現ADVA MAGELLAN、以下マゼラン)」。統計学を活用することであらゆる広告の効果を可視化するマゼランは、テレビCMのような効果が見えにくいオフライン広告の効果も可視化し、国内No.1の広告効果分析ツールに選ばれました。
2021年9月にリリース5周年を迎えたマゼランは、これまでいくつもの大きな壁を乗り越えてきました。たどってきた道のりを、構想段階から苦楽を共にしてきたCEOの平尾喜昭と、初代プロダクトオーナーで現サイカ開発本部プロダクトマネージャーの岩澤利貢が振り返ります。
本記事は、前編・後編の二本立ててお届けします。(前編の記事はこちら)
潮目を変えたのは「元ユーザー」の入社
岩澤 利貢/Toshitsugu Iwasawa
開発本部プロダクトマネージャー(PM)。2015年8月にサイカ入社。面接の場で平尾と意気投合し、マゼランの構想を一緒に考えてきたサイカの生き字引。PM以前はセールスを担当し、500社以上の担当者とお会いした経歴を持つ。
平尾喜昭(以下、平尾) 社内のことを整えて再スタートを切ったものの、サービスの受注が急に増えたわけではありません。いわゆるPMF(プロダクトマーケットフィット)に向けて、新たな挑戦が始まりました。
岩澤利貢(以下、岩澤) 希望の光が刺したのは、現取締役COOの彌野(やの)さんが入社したタイミングでしたね。彌野さんは、誰もが知る大企業でマーケティングを担当された方です。実はマゼラン初のユーザーでもあったので、テレビ広告などのオフライン広告において、マゼランが発揮する価値を強く実感されていました。
平尾 それまでは、大企業よりもWEB系ベンチャー企業の方がマゼランを利用してくれるだろうと思っていたんです。でも、彌野さんの話を聞くうちに、大企業でオフライン広告を担当するマーケターこそコアターゲットだと気づかされ、ターゲティングと訴求を変えるようにしました。
それが、僕らにとって潮目が変わった瞬間です。
ターゲットと訴求を変えた結果、サービスを利用してくださる大手企業が増えました。特に業界トップの大手企業がリスクを取って導入してくださるケースが多くて。トップ企業で居続けるために、新しい手法や技術も貪欲に取り入れる姿に、トップ企業たる所以を知りました。
また、そうした企業で働くマーケターの皆さんのレベルはとても高いんです。彼らの要望やフィードバックに応えようと試行錯誤した経験は、マゼラン自体のクオリティを高め、僕らのマーケティング力も鍛えてくれました。
「大企業の組織文化を変え得る」という確信
平尾 喜昭/Yoshiaki Hirao
サイカCEO。父親の倒産体験から「世の中にあるどうしようもない悲しみをなくしたい」と強く思うようになる。慶應義塾大学総合政策学部在学中に統計分析と出会い、卒業直前の2012年2月、株式会社サイカを創業。創業前にはバンドマンであったというユニークなキャリアも持つ。
岩澤 そのあたりから、カスタマーサクセスにも力を入れるようになりましたね。
平尾 はい。もともとSaaSには、「ハンズオフこそ正義」という世界観がありました。サービス自体は提供するけれど、運用はお客様にお任せするのが当たり前だった。しかし、マゼランの場合、統計分析をやったことがない方にツールだけ渡して「あとはお任せ」とするのは負荷が高い。
工数は増えるけれども、サービス導入後にハンズオンでお客様に伴走し、慣れてきたら徐々にお任せする体制を作る決断をしました。教科書的な常識を捨てて、お客様に寄り添い切ることを優先した結果、お客様のリテンションレートが上昇したんです。
岩澤さんは、この時期に印象的だったお客様との関わりはありますか?
岩澤 今でも覚えているのは、ある大手ナショナルクライアントがサービス導入後のインタビューで伝えてくれた「組織が変わった」という言葉ですね。マゼランを導入したことで、数字に苦手意識を持っていた方や、感覚的に意思決定してきた方も、データを軸にして施策を議論するようになったらしいんです。担当者の方が「マゼランは組織文化を変えられるツールですね」と言ってくれた時は感動しましたよ。
平尾 それこそがマゼランで叶えたかった「データ分析の民主化」ですね。ツールとして利用してもらって、成果をあげるだけじゃなく、データをもとに社内や広告代理店と議論して、成果を最大化し続ける文化を育む。大企業でもそれを実現できることがわかって、マゼランの可能性をさらに感じましたし、苦労した甲斐があったなと思いました。
今では、有名な企業の社長や経営陣レベルの方が、当たり前にマゼランを使って議論をしてくれています。お客様のオフィスでプロダクトの構想を練っていた時を思い返すと、なんだか、インディーズバンドがメジャーになったような。4畳半の部屋で必死に作った曲が、渋谷で流れてくるのを聞いたような。そんな感覚になります。
岩澤 この頃に僕らを信じてサービスを利用して下さったお客様が、PMFに至るまで押し上げてくれたんですよね。
分析を企業の実践にまでつなげる、新しい挑戦
岩澤 2020年にはマゼラン以外のサービスラインナップを増やして、「ADVA」をリリースしました。アドバの構想はずっとあったんですか?
平尾 そうですね。マゼランをリリースしてからずっと感じていた課題の一つが、分析までは僕らが支援できるけれど、分析した結果をクライアントが実践するところまでは支援できなかったこと。実践ができなければ、せっかくした分析も絵に描いた餅になってしまう。
企業にとって特に実践が難しいテレビCMについて、効果分析までにとどまらず、CM出稿枠のプランニングからバイイング、つまり実践までをワンストップで手掛けるプロダクトをつくりたいと思ったのが、アドバ開発の原点です。
岩澤 テレビCM出稿サービスの提供をスタートするにあたり、大きなハードルもあったと思います。それでも決断できたのはなぜですか?
平尾 お客様の声のおかげですね。先ほど話したような大手企業のお客様が「テレビCMを適切に分析できるのはマゼランだ」と応援してくれて。さらに、本来、競合関係にあるはずの広告代理店の中にも、期待を寄せてくれる方々がいました。
マゼランで培った分析力を、企業の実践力につなげていく。それは、お客様と向き合いながら必死につくってきたマゼランの土台があるからこそできる、大きな挑戦でした。
データ分析を民主化し、人類を進化させる
平尾 マゼランリリースから5年が経ちました。せっかくだから、これからどんなことを実現したいか話しません?
岩澤 いいですね。僕は最近、改めて「データ分析を民主化し、マーケティングの適正評価を民主化する」というサイカのミッションを強く意識しています。「民主化」には色々な意味があると思いますが、「分析は専門家に任せる」という枠を超えて、全ての人が分析をする楽しさを感じ、成果をあげることができる世界にしたい。それが広告業界を変え、経済を発展させることにつながるはず。その中心にADVAがある絵を描いています。
平尾 描いていることは同じなんだけれど、切り口を変えるとしたら、僕が目指しているのは「アドバで人類を進化させる」こと。IT革命が起きてから現在に至るまで、さまざまなサービスやプロダクトが生まれてきました。それらは人間を楽にしている一方、思考する機会を奪って退化させてきたともいえます。
本当の革命は、人類を進化させるものだと思うんです。マゼランやアドバが実現しようとしているのは、考えなくても成果が出る楽な世界ではなく、マーケティングにおける分析や戦略構築をマーケター自身がより深く考えられるようになる世界。考える楽しみをテクノロジーで支えたいんです。
その結果、「マゼランが展開している国のマーケターは、レベルが高い」と言われるようなプロダクトにしていきたいと思います。
岩澤 正解を与えられる人生と、自分で選択して正解を見つけていく人生があるとしたら、後者の人生を増やせるプロダクトでありたいですよね。
※インタビュイーの所属・役職は取材当時のものです。
[インタビュー・文] 佐藤史紹
[企画・編集] 川畑夕子(XICA)