新ビジョン・ミッション公開に寄せて──なぜ、マゼランというプロダクトができたのか
サイカは2012年に創業した、データサイエンスを駆使して、CMを中⼼としたマーケティングの成果を最⼤化させるサービス「ADVA(アドバ)」を提供するベンチャー企業です。ADVAは、広告効果の可視化や最適な予算配分をはじめ、 メディアのプランニングやクリエイティブの設計、 バイイングまでをワンストップで⾏うサービスです。
2016年、サイカは効果の⾒えにくいテレビCMや交通広告など、 あらゆる広告の効果を可視化するサービス「マゼラン」の提供を開始し、2020年9月、シリーズDの資金調達(12.1億円)を完了しました。
同時期に、効果の⾒えにくいテレビCMや交通広告など、 あらゆる広告の効果を可視化するサービス「ADVA MAGELLAN」、最先端のデータサイエンスで、CMの出稿エリアやテレビ局、 出稿パターンまで、最適な配分を算出するサービス「ADVA PLANNNER」、視聴者の感情の動きを脳波データや統計的⼿法で解析し、 クリエイティブに活かすサービス「ADVA CREATOR」、⼀定の成果を達成してから マージンが発⽣する、業界初のメディアバイイングサービス「ADVA BUYER」を含む、データサイエンスを駆使して、CMを中⼼としたマーケティングの成果を最⼤化させるサービス「ADVA(アドバ)」をリリース。
さらに高い目標に向かうため、ビジョン・ミッション・コーポレートブランドも新たにしました。
創業からこれまで、私たちはなぜデータサイエンスを駆使したサービスをつくってきたのか。そしてこれから何をしていくのか。その想いを代表の平尾に語ってもらいました。
創業のきっかけ
私が中学に入学して間もない頃、父の勤めていた会社が倒産しました。
周囲の人に立て続けに起こる、不幸な出来事を目の当たりにした私は「世の中にはどうにもできない悲しみがあるのだ」と実感しました。
「どうしようもない悲しみをなくしたい」
その思いを達成するため、私は音楽に没頭していきます。
カナダへの音楽留学、海外でのイベントなど、精力的に音楽活動を続けていましたが、日本で開催したイベントで集客に失敗。人を動かし物事を推進する能力のなさに打ちのめされました。
そんな時、父に言われた「経営ができなければ音楽活動はできない」という言葉に後押しされ、猛勉強の末、2年遅れで慶應大学総合政策学科に進学しました。
経済政策のゼミに入ってからは、政策が経済に及ぼす影響を定量的に証明し、説明する練習を徹底的にやりました。統計の世界は曖昧な部分がない。ブラックボックスになる部分がない。要素と成果の関係を導く相関の世界に次第に魅せられていきました。
そして「もしあの時、この統計分析の技術があったら……」と思うようになったのです。
カリスマ経営者の経験と勘で大成功を収めたものの、それに頼りすぎて総崩れになった会社。
人間の経験と勘を、統計分析の定量的な技術で支えることができたら、あの倒産はなかったかもしれない。
悲しみの原体験と統計分析が繋がり、大学卒業が迫る2月、株式会社サイカを創業しました。
残高3万円で、コンサルティングからSaaSベンダーへの転向
サイカの最初の事業は、統計分析の知見を活かしたコンサルティング事業でした。
本格的に事業をスタートしたのは2013年。正直言って、苦難の年でした。
まずは事業の不調。トライアルまでは進むものの受注には至りません。
そしてとにかく資金がありませんでした。
会社の残高がついに3万円を切り、事業方針を再検討する中、コンサルタントとして感じていた課題を思い出します。
外部の人間が分析しても企業の意思決定には繋がらない。
であれば、問題意識と仮説をすでに持っている、企業のマーケティング担当者が分析できるようになったらよいのでは?
既存の統計分析ツールは難しすぎて使える人が限られる。
誰もが分析できるようにしよう。
そこで目をつけたのが、顧客からの大量の分析オーダーに対応できるように開発した社内用の分析ツールでした。
「これを使えば、専門的な分析知識が無くても、誰でも自分で分析できる」
会社に残された2つの武器。 コンサルティングでの学びと、社内で開発した分析ツールを掛け合わせ、統計分析のSaaSツール「adelie(アデリー)」をリリースします。
分析結果を提供するのではなく「誰もが分析できる環境」を提供する会社へ。
コンサルティングからSaaSベンダーへの転換でした。
データ分析を必要としていたマーケターたち
2014年、資金難を抜け出すために初めてベンチャーキャピタルからの資金調達を受けます。
ここからアデリーの本格的な営業を開始。幅広い業種・業界にアデリーを紹介して回りました。
アデリーの提供をはじめた2013年は、書籍『統計学が最強の学問である』(著・西内啓)が紀伊國屋書店の年間ベストセラーになるなど、「統計」というキーワードが注目されはじめていました。
しかし、業界の潮流としてはまだ「データの収集・蓄積」が脚光をあびている時代。その先の「データの整理・可視化」を飛び越え、「データ分析」を売りにしたアデリーへの反応は芳しくありませんでした。
しかし、そんな中でもアデリーに興味を示した層がありました。
広告業界のマーケターです。
彼らは普段から膨大な量のデータに触れ、示唆を導くマーケティング分析のエキスパートです。
そんな彼らがなぜ統計分析ツールを求めるのか?
500人以上のマーケターと話して見えてきたのは意外な事実でした。
企業が巨額の予算を投じる広告宣伝費ですが、実は効果を可視化できていない部分がたくさんあったのです。費用対効果が見えづらいので次の施策に活かせない。大きな予算を扱うマーケティング部門の責任もあり、分析ツール「アデリー」が受け入れられたのです。
汎用型から特化型へ
リリースから1年で、ユーザーの9割を広告業界の企業が占めるようになっていました。
しかしアデリーは「誰でも分析できるようになる」ことを目的に作られた汎用的な分析ツール。
広告業界特有のニーズには対応しきれず、アデリーの限界を感じていました。
マーケティング部門が抱える何百もの広告施策の効果と相関を可視化し、それらの成果を適正評価できるようになれば、企業の作った製品やサービスの成果の最大化に繋がる。
さらに、データ分析には「共通言語としての価値」がある。
巨額の予算を動かす意思決定をする時、データに基づく客観的な事実があれば、推測や上下関係を超えた納得感のある意思決定ができる。
このような思いから、広告業界に特化した分析ツール「マゼラン」の開発に踏み切りました。
本来マーケティングはとても創造的な活動です。
データは、マーケティングを効率化するためにあるのでなく、人々の創造力を支えダイナミックなマーケティング活動を行う土台としてあるべきです。
マゼランを通して、そんなマーケティングのあるべき姿を提示していきたいという思いがありました。
そして、これから
マゼランのリリースから4年、導入企業は国内のエンタープライズ企業を中心に140社を越えました。
日本の広告宣伝費トップ100企業のうち10%以上がマゼランを導入しています。
2020年9月、私たちはマゼランで培ったノウハウを新たな領域に広げていくことを決め、新サービス「ADVA(アドバ)」をリリースしました。
日本の広告費6.9兆円のうち、分析技術が進化しているオンライン広告(インターネット広告)費は2.1兆円(※1)。全体の約7割を占める約4.8兆円のオフライン広告(TVCM、新聞、雑誌、ラジオ、交通広告など)費についてはまだ分析が進歩していない状況です。
これから私たちが挑戦するのは、この大きな市場です。
その中でも、テレビCMは特に大きなポテンシャルを持っています。
現在多くのマーケターが、テレビCMの適正評価の難しさ、出稿量に対して対価を支払うビジネスモデルによる事業成果と連動した運用の難しさを実感していることがわかっています。
▲多くのマーケターが、テレビCMの適正評価と運用の難しさを感じている
しかし、CPM(Cost Per Mille)(※2)などの広告への投資対効果を示す指標においてインターネット広告より優れているテレビCMは、企業のマーケティング成果の最大化に貢献できる可能性を秘めた媒体。
私たちの統計分析技術を活かして、テレビCMのメディアとしての価値の適正評価に挑戦していきたいと思っています。
※1:電通「2019年 日本の広告費」https://www.dentsu.co.jp/news/release/pdf-cms/2020014-0311.pdf
※2:インターネット広告の配信単価のひとつ。広告表示1,000回あたりの費用のこと。
価値を生み出す挑戦と努力が構成に評価される世界に
こうした新たな挑戦に臨むにあたって、サイカはビジョン、ミッション、コーポレートロゴを刷新しました。
「才能開花に満ちた公正な世界をつくる」というビジョンには、モノづくりをする広告主、そしてコンテンツをつくるメディアといった、世の中に価値を生み出す人々の挑戦と努力が公正に評価される環境を築くことで、人々の才能が最大限発揮される世界をつくりたいという思いを込めています。
また、ミッションの「データ分析を民主化し、マーケティングの適正評価を民主化する」には、高度な分析手法を誰もが扱える基盤を提供することで、人々が自らのマーケティング活動を適正評価し、確信を持った戦略立案・実行ができるようにしたいという、アデリー時代から変わらない思いを込めました。
私たちはこれまで「可視化」「適正評価」の強みを活かし、あるべきマーケティングの姿を提示してきました。今後はそのノウハウをさらに進化させ、マーケターやモノづくりに関わる人々、さらにはその先にいる人々の幸福と才能開花に貢献したいと考えています。
マゼラン、そしてアドバが、そのための社会の公器となることを願っています。
※インタビュイーの所属・役職は取材当時のものです。