マーケターにインタビュー

宅配クリーニング『リネット』マーケター・岩崎亮さんは、なぜ視野が広いのか?

マーケターの失敗と成功をテーマにしたインタビュー。今回お話をうかがったのは、宅配クリーニングサービス『リネット』を展開する株式会社ホワイトプラスのマーケター・岩崎亮さんです。株式会社フンザの松浦想さんからご紹介いただきました。
前職の株式会社リブセンスでは、アドテクノロジーを活用しインハウスでの広告運用を行うデジタルマーケターとして活躍されていた岩崎さん。リネットの事業では、マーケティング全般を担当されています。

株式会社ホワイトプラス 岩崎亮さん
株式会社ホワイトプラス 岩崎亮さん

検品や出荷も手伝う。クリーニングの現場を知りマーケターとしてできること

サイカ:

岩崎さんの名刺を拝見しますと、「顧客創造グループ」所属となっています。現在のお仕事についてお聞かせください。

岩崎:

いまは、広報と一緒にブランディングに力を入れています。クリーニング業界のブランドですぐに名前が挙がるのは白洋舎さんでしょうか。
リネットの場合は、宅配クリーニングという市場で競合サービスも多いです。すると、ワイシャツいくらという価格競争になってしまいますよね。ユーザーから見ると、どこでも同じとなってしまいます。そうではなくて、値段が安いからではなく、洗いの品質が良い・リピートしたくなるというブランドを創ろうとしているところです。

サイカ:

具体的にはどんなことをされているのですか?

岩崎:

ブランドのメッセージに合わせてリスティングの文言やランディングページ(以下LP)を考えることはもちろんのこと、繁忙期であるゴールデンウィークには、クリーニング工場へ行くこともありました。検品をしたり、出荷を手伝ったりしますね。お届けが遅延になるなどのご迷惑をお客さんへかけてはいけませんから。

サイカ:

実際にクリーニングのお手伝いをされているんですね! ブランドを創ることと工場はどういった関係があるのでしょうか。

岩崎:

クリーニングの本質は、洗いの品質。つまり工場なんですよね。リネットの他社との差別化のひとつとして、工場のシステム作りが大きいと考えています。
たとえば、オンラインのみで完結するサービスの場合、会員登録をさせる・受注させるということに限界はありません。でも、リアルなサービスであるクリーニングの場合は、工場で対応できる受注数の限界があります。期日までに洗い終わらない、お届けできないということは避けなければなりません。工場がうまく経営できているかは品質のひとつなのです。会社として提携の工場の運営にも関わり、リソースの配置であるとかコスト管理の方法、アイロンかけやボタンの留め方という品質のマニュアル作りなど細かいところまで見ています。

リアルなサービスの品質改善は、ウェブだけで解決できるということではありません。品質ひとつ良くするということが3ヶ月、場合によってはもっと時間がかかります。しかし、それがブランド創りへつながっているのです。

サイカ:

現場での経験が、マーケティング業務に関係してくることがありますか?

岩崎:

きちんと納得感を持ってサービスのプロモーションができるようになります。リネットでは「プレミアム仕上げ」(※1)というサービスを展開しています。簡単に説明するとクリーニングに出した服が新品のようになるというケアですね。このサービスを訴求するとき、マーケティングチームは心から「服がよみがえる!」と伝えられるんですよ。知らないままキャッチコピーやクリエイティブを作ると「服がよみがえるって本当に? 嘘でしょ?」と思ってしまいますよね。でも僕たちは、実際に服を触ってプレミアム仕上げを実感していますから、自信をもってマーケティングができるのです。ユーザーアンケートを見ても、「本当に買ったときみたいです」という声が増えました。

クリーニング工場内の様子
クリーニング工場内の様子

サイカ:

心からサービスの良さを理解して伝えることができると、説得力が違いますね。

岩崎:

クリーニングは、お客さんからのお問い合わせが多い産業でもあります。そのためカスタマーサポートも重要になりますし、お客さんへ事前に伝えておきたい注意事項も多いです。カスタマーサポートからは、細かい注意事項をLPに入れて欲しいというリクエストがくるのですが、受注のCVRに影響が出ることがあります。「場合により、お断りしている商品があります」「お時間がかかる場合があります」とアナウンスすることは丁寧ですが、申し込みの前に不安を煽ってしまうという反面もあるのです。

そのためLPはなるべく必要最低限の注意事項にしておきたいのですが、どのようにして伝えるかに難しさを感じますね。お客さんとのコミュニケーションは、クリーニングへ出したい服をお送りいただく時にもあります。その時に注意事項を添えて伝えたり、申し込みの完了画面や利用規約に入れたりなどいろいろと検討しています。

目の前のKPIにとらわれていると、ゴールへたどり着けない

サイカ:

ブランドとマーケティングの関係を考えると、広告などを使いどうやって適切に伝えるかという点にフォーカスしてしまいます。岩崎さんはマーケターという立場から、ブランドを左右するリネットの品質を気にかけていらっしゃるのですね。

岩崎:

マーケティングのKPIとブランディングは対立することがあるんですよね。売り上げにつながるKPIに対し、ブランドは分かりやすく数字化ができません。たとえば、価格を下げるキャンペーンを多くすると、当然件数は立ちますがブランドが損なわれることにも繋がります。そうではなくて、僕はブランドが広告の運用を規定するべきだと思っているんです。

競合のサービスが多い中で、一番大事なのは選ばれる理由を作ることです。つまりKGIやKPIという話ではなくて、そもそもポジショニングの戦略であるわけです。マーケティングの仕事は、お客さんと一番近しい立場でありつつ、事業の戦略を作ることも含まれます。その考えから、工場のこと・カスタマーサービスのことなど事業全体をすべて分解して理解していくという方法をとりましたね。

サイカ:

目の前のKPIに縛られず、視野を広く見ようというのは岩崎さんのモットーですか?

岩崎:

以前は、どうしても目先のKPIを達成しようとしがちでした。なぜかといいますと、僕自身が年間の戦略や戦術を理解して週次のKPIをどうしていくかという考えを持っていなかったせいなのです。たとえばKPIが一時的に未達であっても、年間で事業計画に合わせにいくプランであるとか、将来のために今あえて未達にしてリカバリするというプランなど考えられますよね。これをできていなかったことが、リネットの事業に関わるようになって最初の失敗です。戦略や事業計画を理解したうえで、KPIを実行することの大切さに気づきました。

サイカ:

KPIにとらわれすぎたという失敗の経験から、視野を広げるということに気づかれたのですね。

岩崎:

リネットはリピートビジネスです。新規顧客を増やして売り上げをあげるのか、それともリピート率を伸ばすほうを優先するのか、その方針によって現場である僕らの動きも変わります。みんなで決めたことや上司の言っていることが必ずしも正解ということでもありませんし、疑ってよいものです。つねに、今取り組んでいることがベストなのか?ということは考えていきたいなと思っています。

フロントエンジニアの技術はマーケターの武器になる

サイカ:

岩崎さんがデジタルマーケターとして、クリーニングというリアルなサービスに関わろうと思われた理由を教えてください。

岩崎:

リネットの事業に惹かれた理由のひとつは、デジタルマーケティングの知識を生かして、誰もやったことのないリアルなマーケティングができることです。たとえば、IoTでRFIDのデータをデータベースにためて、注文と紐づけるサービスはデジタルマーケの知見が使えますよね。僕にとってのデジタルマーケティングは、エンジニアでいうところの言語に近いんです。

サイカ:

デジタルマーケのキャリアを追求するのではなく、リアルのマーケティングや新しいマーケティング手法に広げていきたいということですね。

岩崎:

これからは、マーケターもフロントエンジニアリングに詳しくなると良いと思っています。実際の世の中は動きのあるものが多いのに、従来のデザインは静的ですよね。たとえば、最先端のフロントエンジニアリングでは、リアルと同じようにナチュラルな動きを表現することができます。そういった技術を、LPに生かしていけると強みになると思いますね。

ちょっとした動きやスクロールの気持ちよさは、僕らが考えるクリーニングを楽しむというところとつながっていて、心が動くんです。やはりマーケティングは、ユーザーの心を動かせるのか、楽しいと思ってもらえるのかという感情の話ですから。

サイカ:

リネットのホームページでも、申し込みボタンに動きがあったり文字が揺れたりと楽しいデザインになっています。

岩崎:

アニメーションを入れるだけで、CVRが10%以上あがったという実績が出ています。動きひとつでユーザーの感情が変わるんだいう実感がありましたね。フロントエンジニアはエンジニアの領域に区分されますけれど、ウェブ上の表現としてできることはマーケターも知っているといいですよね。
普段エンジニアの領域を目にすることはないのですが、弊社ではフロントもできるデザイナーがいますので、情報をシェアしてくれるんです。たとえば、お客さんにとって入力が気持ちのいいフォームってなんだろうか?と考えたとき、技術を知っているとマーケティング視点で使い方が浮かぶんですよ。

サイカ:

技術を知っていることがマーケティングの武器になりますね。

岩崎:

デジタルマーケティングのすごく好きなところは、最小工数で最大成果を出せて、ノウハウを蓄積できるところです。そうすると、僕らマーケターはもっと楽ができると思います。
静的なデザインを細かいABテスト繰り返して頑張ってCVRを上げるより、アニメーションをひとつ入れてCVR上がったほうが楽ですよね。
僕は「ラクしたい」「めんどくさい」はマーケターにとって重要な感情だと思っています。むしろラクしたい!と大々的に言ったほうがいいんじゃないかな(笑)。そういう感情が、仕組み化や成功事例を蓄積していこうという方向へと繋がりますし。

お客さんの思いは1コンバージョンとして数えられない

サイカ:

最後に、岩崎さんにとってのマーケティングについて教えて下さい。

岩崎:

デジタルマーケティングに注力しすぎていたときの反省でもありますが、数字だけではなくて、お客さんと向き合うことですね。ユーザーアンケートやインタビューをすると、ひとりひとりの答えはまったく違います。それを、僕らは知らないといけないなと思っています。数字で言うとNPS(ネットプロモータースコア)のように、売り上げに直接つながらないけれどもお客さんの声が反映される指標は見ています。満足度が高い状態って、事業が永続していきますよね。

クリーニングの本質も、お客さんにとって一番大事なものは何だろうというところをつかまないといけません。宅配クリーニングだから物流が大事という観点もあるでしょうし、値段・品質もある。そのうえ服には、親からもらった服であったりとか、子供の卒園式で着た服であったりとか、代替が利かない思いが詰まっているんですよね。お客さんそれぞれの気持ちを、ただの1コンバージョンというかたちでは考えられません。

サイカ:

クリーニングというリアルなサービスであるからこそ、お客さんの姿が見えてきますね。

岩崎:

リネットのお客さんはエコに関心の高い方も多いので、段ボールのサイズや梱包材についてもフィードバックをくださいます。会社は、お客さんからの支持で成り立っているんだなと感じますね。ならば、もっともっと会社は社会へ貢献していかないといけないんだろうなという気持ちがあります。たとえば宅配クリーニングを利用したいけれど、何かしらの理由で不便さがあるとする。ならば、利益を度外視してでも企業として向き合う姿勢は必要だと思いますし、そのためにマーケティングってあるのではないかなと思いますね。

個人的には、高齢の方でもご利用いただけるようにしていきたいなというのはあります。服に対する意識は、おじいちゃん・おばあちゃんも高いんですよ。ウェブから申し込みは難しいので、Amazon Dash Buttonのような仕組みができたらいいですね。ボタンを押したら30分以内に集荷が来て、服を詰めて渡すとクリーニング終わって返ってくるような。それが形になるのが、IoTのいいところですよね。

サイカ:

本日は、ありがとうございました。

【株式会社ホワイトプラス・会社情報】
リネット:https://www.lenet.jp
リネット保管:https://www.lenet-hokan.jp
靴リネット:http://www.kutsulenet.jp
布団リネット:http://www.futonlenet.jp

※1:リネットのプレミアム仕上げについて(リンク先PDF)