「メルカリ」の躍進を生み出すマーケティングのフィロソフィーとは<第2回>

日米で5500万ダウンロードを突破したスマートフォン向け人気フリマアプリ「メルカリ」。サービス初期から積極的にテレビCMを展開するなどプロモーション展開に力を入れており、急速にユーザー数、事業規模を拡大しています。その背景には、どのようなマーケティングへの考え方と運用上の工夫があるのでしょうか。

メルカリで取締役を務める小泉文明氏と、プロモーショングループでシニアマーケティングスペシャリストを務める鋤柄直哉氏にお話を伺うインタビューでは、前回に続いて小泉氏に経営・マネジメントの観点から見たマーケティングに対する考えについて伺います。

<第一回を読む>
「メルカリ」の躍進を生み出すマーケティングのフィロソフィーとは<第2回>
メルカリ取締役の小泉文明氏

素早い判断で失敗の芽を摘み取り、チャンスには全力でアクセルを踏む

サイカ:

マーケティングには成功もあれば失敗もあるのではないかと思います。マーケティングチームが課題に直面したときに、マネジメントの立場としてどのように課題を克服させるのか。小泉さんの考え方を教えてください。

小泉氏:

とにかく素早く判断していくことが大事だと思います。例えばKPIの動向をみて失敗のリスクが見えてきたものについてはすぐに止めるという判断をします。これはマーケティングに関係なく、施策に対して「自分が携わっているのだから、意地でも成功させる」というプライドを持つことを止めさせることが重要ですね。

失敗は必ず生まれるわけであり、失敗したらそれをすぐに認めた上で素早く止血をして、残ったリソースでまた次のチャレンジに臨めばいいわけです。その回転の速さや、アクセルをかける/撤退するというジャッジをフレキシブルに展開していくというというのが、メルカリの社風なのではないでしょうか。

他社を見ていると、CMOがいないことで生まれている失敗が多いように感じます。例えば、いい施策を考えたのに予算を確保するのに苦労してチャンスを逸してしまうケースや、もっとアクセルを踏めば大きな成功になるのに十分に投資できていないケースは多く見ますね。メルカリでは素早くフレキシブルにジャッジができているので、こうした失敗のリスクは少ないように感じます。

サイカ:

そのジャッジメントにおける思い切りの良さのようなものは、過去の経験によるものなのでしょうか。

小泉氏:

ミクシィでの経験が影響していると思います。当時(2007年頃)は、SNS事業者が20社くらいでシェアを争う群雄割拠の時代で、様々な淘汰が生まれた結果としてミクシィが1位となり生き残りました。周りでサービスが次々と潰れていく中で、“勝ち残らなければ意味がない”と強く感じていましたね。おそらくフリマアプリにも同じようなことが起きるのではないかと考えています。つまり、競合の中で1位を取らなければ生き残れず、2位以下は全て“負け”になるわけです。どうすればユーザーの習慣として定着できるのか、他社に追いつけないボリュームのサービスに成長させるかを考えることが、勝ち残るためには不可欠なのです。

そう考えると、踏めるアクセルは全力で踏んでシェアを伸ばしていかなければ、絶対に勝ち残ることはできない。売上がゼロ円の頃からテレビCMを打つなど普通では考えられないようなことも、ある程度の評価指標をクリアできる見込みがあるのなら、成長のために踏めるアクセルはどんどん踏んできましたね。効率性よりもボリュームを意識してユーザーをしっかり獲得していくという優先順位の明確性はマーケティング開始当初からあったと思います。

“何もかも指示をしないと気が済まない”という考えは好きではない

サイカ:

確かに、先行優位性を生み出してユーザーに定着させていくことは、特にネットサービスでは勝ち残るための最良の方法ですよね。ビッグピクチャーを描いてそこに挑んでいくという決断をしている点は素晴らしいと思います。

小泉氏:

描いているのはビッグピクチャーですが、ひとつひとつの施策の意思決定も速いので、“構想は大きく、アクションは小さく(素早く)”といったイメージでしょうか。そのバランスが重要ではないかと思います。そこがちぐはぐになってしまうと、結局何を目指して走るのかが見えなくなってしまったり、追いかけるKPIに対して予算が確保できなかったりしてしまいますよね。マネジメントが基本方針を明確にして、具体的なアクションは現場が考えてチャレンジしていくという関係がしっかりと機能しているのではないかと思います。

マーケティングチームに対する権限移譲も明確で、数字で判断・評価できるものは全て現場に任せて目標の達成のために自由に彼らの裁量で動いてもらっています。一方、大きな予算計画に関するジャッジメントや計画の進捗に対する追加投資の判断、数字で判断できないジャッジメントなどには私が入っています。特に、意見の調整が必要だったり、誰かが決断しなければならない意思決定の場合には、私が入っていくことが多いですね。

“何もかも上から指示をしないと気が済まない”という考え方は、あまり好きではありませんね。チームのみんなにはみんなの考えがあって、目標に向かって走る力を持った人たちが集まっているので、それを信じて任せることが大事だと思っています。

「メルカリ」の躍進を生み出すマーケティングのフィロソフィーとは<第2回>

メルカリが目指す世界とは

サイカ:

最後に、小泉さんが考えるマーケティングの最終的なゴールを教えてください。確かにユーザーの獲得や売上など事業へのインパクトはゴールだと思うのですが、経営・マネジメントの立場からはその先に何かゴールを見据えているのではないかと思います。

小泉氏:

メルカリはよく一般的なオークションサービスと比較されますが、私たちはオークションと違って、生活者の方々が生活に身近なところで小さい取引を日常的にしているような世界観だと考えています。家に不用品が全くない家など、存在しませんよね。そう意味では、メルカリは誰でも活用できるサービスであり、全てのスマホユーザーに使ってほしいと願ってマーケティングをしているのです。

中でも強化しているのはカスタマーサポートで、全社員の半分以上がカスタマーサポートに従事しています。ネットオークションには詐欺や不正出品といったネガティブなイメージを持っている人もいたり、メルカリのサービスに対しても自分で商品の写真を撮影して出品するという使用方法に不安を持っている人もいたりします。こうしたネガティブなイメージを払拭するために、ユーザーが“引っかかる”ポイントを改善したりカスタマーサポートを強化することで、誰もが安心して使用できるサービスにしていきたいですね。そうしてメルカリに安心感を持ってもらえれば、それは今後生み出されるかもしれない新たな事業に対する信用にも繋がるのではないかと思います。

(次回は、鋤柄直哉氏に具体的なマーケティング運用の工夫について伺います)