「メルカリ」の躍進を生み出すマーケティングのフィロソフィーとは<第1回>

日米で5500万ダウンロードを突破したスマートフォン向け人気フリマアプリ「メルカリ」。サービス初期から積極的にテレビCMを展開するなどプロモーション展開に力を入れており、急速にユーザー数、事業規模を拡大しています。その背景には、どのようなマーケティングへの考え方と運用上の工夫があるのでしょうか。

今回は、メルカリで取締役を務める小泉文明氏と、プロモーショングループでシニアマーケティングスペシャリストを務める鋤柄直哉氏にお話を伺いました。第1回と次回の第2回では、小泉氏に経営・マネジメントの観点から見たマーケティングの重要性やマネジメントのポイントについて伺います。小泉氏は、大和証券SMBCにてミクシィやDeNAなどのネット企業のIPO支援に従事したのち、2007年にミクシィの取締役に。その後、スタートアップ企業の立ち上げなどに従事し、2013年にメルカリにジョインしています。

「メルカリ」の躍進を生み出すマーケティングのフィロソフィーとは(第1回)
メルカリ取締役の小泉文明氏

インターネットの世界では、1位にならなければ意味がない

サイカ:

まずは、経営・マネジメントの立場から、事業を推進する上でのマーケティングの重要性をどのように感じているか教えてください。

小泉氏:

スマートフォンの普及によって事業やマーケティングに求められるスピード感が大きく変わってきたのではないかと感じています。PC中心の時代に比べて、アプリで簡単にサービスを作り出すことができ、世の中に様々なネットサービスが生まれている状況で、他社に対して差別化を生み出していく上ではスピード感をもって先んじてユーザー数を伸ばしていくことが必要であるわけです。

ミクシィのときも、メルカリもそうなのですが、1社が圧倒的にシェアを伸ばしていくと、そこに人や情報が集中していき競争優位性が生まれ、2位以下を大きく突き放すことができる。ネットサービスの世界はそのような構造が生まれやすい世界なのです。メルカリもサービス開始当初からマーケティングに相当な力を入れてユーザーを獲得してきました。私たちは既にいくつかのサービスが生まれている中で開始した後発サービスなので、かなりのスピード感をもってユーザーの獲得に力を入れてきましたね。

サイカ:

メルカリのマーケティングで最も重視している点はどこでしょうか。

小泉氏:

経営視点では、メルカリが提供するサービスは広く一般生活者を対象としたものであるというところから、シンプルにメルカリのサービスの特長を理解してもらい、サービスを楽しむ利用シーンを想像してもらい、アプリのダウンロードに誘導できるようなマーケティングを心がけるように指示しています。

難しいテクノロジーの話をしても生活者には伝わらないし、具体性のないブランドイメージを訴求してもサービスのことをわかってもらえない。つまりダウンロードに繋がらないのです。利用シーンをしっかりと理解してもらうことでサービスを“自分事”にしてもらうことを意識しています。これはオンラインでもオフラインでも変わらず、テレビCMであっても単なるブランディングCMではなくサービスの利用イメージがしっかりと伝わるものを目指していますね。

マーケティングが目指すのは、サービスの“空気感”

サイカ:

マーケティングチームからエスカレーションされてくる施策内容やその効果について、どのような点を重視して評価・判断を行っているのでしょうか。会員数や取引件数といったKPIはあるものの、もう少し広い視野で評価・判断をしているのではないかと思いますが。

小泉氏:

ダウンロード数、出品者数、取引件数、リテンションデータなど数字で見ることが出来るオンラインの指標については、恐らく多くのマーケターが感じている重要性や行っている評価と大きくは変わらないのではないかと思います。一方で、テレビCMについては、認知度が向上しているかなどは定点調査を行ってその変化を評価するようにしています。

定量的に測れる部分はこのような感じなのですが、他方で数字では測ることができない、サービスが醸し出す“空気感”のようなものもあるのではないかと思います。

例えばメルカリでは、当初は“20代~30代の女性を中心として簡単に商品の売買ができるサービス”という方向性を元にマーケティングをして“空気感”を実現してきたのですが、現在では40代以上の方や男性をもマーケティングの対象にして多面的に展開するようなフェイズになってきたと思います。そうした目指す“空気感”からサービスをどのように拡充してマーケティングをしていくのかを重視しています。サービスのバリューチェーンの中から利便性や訴求ポイントを生み出し、それをブランディングやマーケティングに活かしていくというアプローチで、プロモーションチームだけではできないことも組織で取り組んでメルカリの魅力をどれだけ伝えられるかという点をマネジメントの観点から統括しています。

多面的なマーケティングを実現するための組織作り

サイカ:

プロモーションチームだけではできないことにも組織で取り組むということでしたが、組織作りでの工夫などを教えてください。多くのマーケティング組織では担当媒体ごとや作業ごとに縦割り構造になるケースも多くみられますが。

小泉氏:

メルカリはまだまだ小さい組織なので、プロモーションチームではひとりの担当者がオンライン広告もテレビなどのオフライン広告もどちらも担当しています。オンラインとオフラインの連携がうまくはかれないと、テレビCMを放送しているのにオンラインが上手く機能せずにユーザーの獲得ができないといった事態が生まれてしまいますが、ひとりの担当者が多面的にみることで連動性を担保したプロモーション展開が出来ていると思います。

また、プロモーション担当、広報担当など複数の部門で一気通貫の連携ができるような組織作りも工夫しているところで、それぞれの担当がお互いを理解し、活用できるアセットを共有することで上手く連携ができているのではないでしょうか。

サイカ:

広告代理店とどのようなシナジーを作っていくかという点も、多面的なプロモーション展開をする際には重要ではないかと思います。どのような方針で広告代理店を活用しているのでしょうか。

小泉氏:

広告代理店は重要なパートナーとして認識しています。彼らにプロモーションを任せきりになってしまうと彼らの考えに引っ張られすぎて自分たちのやりたいことができなかったり、一方で自分たちが主導権を握りすぎてしまうと彼らのプロフェッショナルとしてのノウハウや他社事例などのナレッジを活かしきれなかったりします。私たちと広告代理店の関係はフラットであることが重要です。どこか1社と関係を作るというのではなく、コンペもしっかりすることで局面ごとのマーケティング課題に対してどのような解決を目指していくかというマッチングを重視して、代理店とのお付き合いをしていますね。

過度な依存にならないように自分たちの力でしっかり考えながら、状況に応じて常にベストな選択をしていきたいというわけです。代理店にとっては常にベストを目指さなければならないので大変だと思いますが、私たちの意思決定やレスポンスはとても速く透明性もあるので、そのスピード感はやりやすいのではないでしょうか。

「メルカリ」の躍進を生み出すマーケティングのフィロソフィーとは(第1回)
<第二回へ続く>