[スペシャリストに聞く]株式会社デジタルインテリジェンス・横山隆治氏

マーケターは無意識の興味を発掘しよう

横山隆治氏
ビジネスシーンにおいてデータはどのように活用すべきなのか。さまざまな業界のスペシャリストにお話を伺うインタビューシリーズ。第一弾は株式会社デジタルインテリジェンス代表取締役の横山隆治氏です。日本のインターネット広告・デジタルマーケティングの第一人者でもある横山氏が見るデータとはどのようなものなのでしょうか? 全2回。後編では、マス広告におけるデータの活用について、そして今後の展望についてお話を伺っています。

昔は数打てば当たった。いまは継続的な視点が大事。

─── 横山さんはマス広告も経験されていますが、昔と今ではどんな違いがあると思いますか?私は広告代理店である商品のマス広告を担当していたことがあるのですが、当時は「敵が300発打ってきたらこっちは500発だ!」みたいな感じのシェア合戦でした。昔は誰も何発当たったか分からないので、量の戦争で、打つしかなかったんです。量で勝てばシェアをとれていた時代ですから、その時点ではそれが真実でした。マーケティングを科学しても実践で使えなかった時代だったんですね。 それがだんだんクライアント側も「打った砲弾の数は分かるんだけど、実際に何発当たったか分かんないの?」となってきて、それをどう実証するかを考える時代になってきました。そのなかでもCookieでユーザーの反応が分かるというのは画期的なことで、そこから効果を見ていきましょうというのが定着してきました。マスの世界に、デジタルでユーザーの反応が分かることを利用し、マスの活動を改善してみようと考えたのはここ3~4年のことです。 ですから、まさに重回帰分析というやり方はトータルでモノを見ようということが、ようやく融合ができてきた感じがあります。そうすることで、データの活用の幅はすごく広がります。

ベースラインを落さないように最適化していく。

─── マスとデジタルと組み合わせることで生まれる利点というのはどんなことでしょうか?マスとデジタルを組み合わせることで一番効果的なのは、広告の最適化です。今まではデータで取れないものが多かったので、改善できる余地がほとんどありませんでした。しかし、今はデジタルの指標を取れるようになり、データに基づいた改善ができるようになりました。 データ分析をすると、ベースラインが数値化して分かりますよね。それは、その商品のブランド力や企業の総合力になってくる。その今まで可視化できなかったものがデータ分析することで見えてきているので、そのベースラインを落さないようにマーケティングを最適化していくという考えができてきました。 ※ベースラインとは、広告効果とは直接関係ない、“なにもしなくても売上がある”部分のことを指しています。(例:下図)
横山隆治氏
─── マス広告の最適化のために大切なことは?マーケティングコミュニケーションの世界ではクリエイティブやコミュニケーションに反応する人を理解するのが一番大切なので、セグメントを分ける作業は重要になってきます。以前、自分の著書に「反応した人がターゲット」と書いたことがあるのですが、昔のやり方は「こういう人がターゲットです」と仮説を立てて、それに合ったメディアを利用して、クリエイティブを作成していました。 しかし、「そういうターゲットが本当にいるの?」ということや、「クリエイティブ作ったけれど、そのターゲットはこのクリエイティブに反応したの?」というのは分からずじまいだったんです。 ターゲットに反応するものを作れたのであればいいのですが、外れていることが多い。外れているとしたらやることは“コミュニケーションを変えて、ターゲットに反応するものにする”か“そもそもターゲットの設定を反応する人に変える”のふたつです。 そういう、データで打ち手を変えて最適化するという、まさにPDCAを回すという感覚は昔はありませんでした。
横山隆治氏
─── そんななかマーケティングの世界にはどんなスキルが必要になってくるのでしょうか?マーケティングコミュニケーションの世界に長くいますが、昨今データサイエンティストと呼ばれているデータ分析の専門家を、どんどんマーケティングの世界に取り込まないといけないなと最近よく思います。PDCAを早く回すためには、データを分析ができる人材が現場に必要です。できればその人たちにもクリエイティブセンスやコミュニケーションの本質を知見として持ってもらいたいですね。─── 昔は定性的な仮説を持っている人と分析ができる人が分かれていた。それがだんだん有機的に結びついてきているということでしょうか?いや、まだこれからだと思います。いままさに「それをやってみたら?」と言っている段階なので、成果を生むのはまだ先ですね。─── 仮説を持って分析してみて、効果を見てみて、再度仮説を組み直す。そういうサイクルがようやくこれから回り始める?そういう考えがあることが意識された始めたのはここ1〜2年です。今後、マーケティング組織を持っている企業側がそういうマインドセットを持つことで、急激に変わってくると思います。

これから面白いのは、データ・ドリブン・クリエイティブ

─── 今後、データはどのように活用されていくのでしょうか?面白いと思うのは、データ・ドリブン・クリエイティブの世界。広告コミュニケーションで一番影響力のある変数は、おそらくクリエイティブです。そこの最適化にデータを使い、“スパークする何か”を見つけてくるというクリエイティブをやってみたいと考えています。大多数の反応をベースに、そのなかの僅かの人の面白い反応を材料にしてクリエイティブができないかなとか。 こういう話をすると、「消費者意識に迎合して最適化しているんだから、期待通りの広告にはなるかもしれないけど、新しい価値の創出にはならない」と言われるかもしれません。しかし、そんなことはありません。消費者が自分自身でさえ気づいていないインサイトを行動データからも抽出して、刺さるコミュニケーションを創出することは可能です。 また、当たり前なことを確認するのもいいんです。当たり前のことを数字で可視化することはすごく大切。それを知ることで、まったく違ったアプローチのマーケティングができるのではないかと考えてます。消費者が意識していないところを見つけ出すことができると、データ・ドリブン・クリエイティブは面白くなってくるのではないでしょうか。
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