人気アプリ「ボケて」プロデューサー・イセオサム氏が語るマーケティングの成功と失敗

成功しているときこそ、客観的に物事を見極める<後編>

マーケティングとは、成功と失敗を繰り返しながらナリッジを蓄積していくことで、自分自身のポリシーや勝利の方程式を生み出していく作業だと言えるのではないでしょうか。そこで、サイカでは様々なマーケターに自身の成功体験や失敗談、マーケティングに対するポリシーなどを伺い、これからのマーケティングに求められるエッセンスを提供していきたいと思います。 今回登場いただくのは、人気大喜利アプリ「ボケて」をはじめ数多くのスマートフォン向けメディア・サービスを世に送り出し大ヒットさせてきた、株式会社オモロキ取締役のイセオサムさん。イセさんのこれまでの経験の中で、成功・失敗からどのような気付きを得ることができたのでしょうか。前編に続き、後編ではイセさんのマーケティングに対するポリシーをご紹介します。<前編を読む>
成功しているときこそ、客観的に物事を見極める-05
株式会社オモロキ取締役のイセオサムさん

本当に大切にすべきユーザーは誰か”を見据えたマーケティングを考える

サイカ:

プロダクトを作りマーケティングをする上で、大事にしていることがあれば教えてください。

イセ氏:

私は事業のスタートアップ段階でリターンをシミュレーションした上で打算的に投資をして成功を作っていくというよりも、“ミラクル”を起こすためにチャレンジしたいという思いを強くもってやっています。例えば、「ポケモンGO」は広告費を1円も使っていないのに社会現象という“ミラクル”を起こしている。こうした定石に囚われないチャレンジから成功を生み出したいですね。 例えば、ユーザー数が100万人を超えると、電車の中でそのサービスを使っている人を見かけるようになります。「自分のサービスを使っている人を電車の中で見かけるような状況を生み出すには、どうすればいいか」。そこからアイデアや戦略を考えています。自分は事業とか経営とか、そういうのはあまり得意ではない。一方で「武道館を満員にするぞ!」みたいな野望を持って走るのは好きなので、大きな絵を描いてそれを実現するためにはどうすればいいのかを考えながらマーケティングをしています。

サイカ:

大きな目標・野望を掲げてからのブレイクダウンは、緻密に行っていくイメージでしょうか。

イセ氏:

そうですね。例えば「ViRATES」の事業を推進していたときは、MAU1000万に対して月間PVが3000万あったのですが、これはつまり1人が1か月の間にたった3ページしか見ていないことになります。ここで、全体のMAUを増やそうとしたとしても、結局は「1人あたり月に3ページ」を積み重ねることにしかなりません。であるならば、毎日3ページ見に来てくれるユーザーをどうすれば更にファンにできるかを考えたほうがいいわけです。メディアに接触してくれるユーザーをブレイクダウンすれば、どこに力点を置くのが適切か見えてくる。本当に大事にすべきユーザー=ファンはこういうアクションをしてくれる人だという定義を持って、ユーザーのブレイクダウンに軸を置いたマーケティングをするようにしています。

サイカ:

こうした発想には、「アドラッテ」での経験、失敗などで学んだことが活かされているということでしょうか。

イセ氏:

そう感じています。「アドラッテ」はポイントメディアでしたので、施策によって数字(ユーザーのアクションや売上)が大きく動きます。その結果、無意識に数字だけを追うようになってしまい、ユーザーのブレイクダウンに目を向けなくなってしまっていました。ユーザーを立体的に把握できなかったことで、ユーザーの姿を見ることができなくなってしまったと言えるでしょう。メディアを取りまく数字が大きくなればなるほど、ユーザーひとりに対する“粒度”が保てなくなってしまうというリスクが伴います。ユーザーが増えれば増えるほど、ユーザーの姿が見えなくなってしまうのです。数字を求めるのも大事ですが、メディアにとって最も大事にしなければならないユーザーはどんな人で、そのユーザーは何を求めているのかをしっかりと考えながら進めることが重要だと言えると思います。 こうした課題に対して、アルゴリズムで対応することができれば解決は難しくないのではないかとも思いますが、私たちのメディアではそこまでのことはしていません。例えば「ボケて」の場合には、MAUやPVを事業のKPIから外して、ユーザーの投稿数(大喜利のお題と回答)と閲覧者からの評価数というサービスの本質的な価値だけを見て、ユーザーにとって楽しめる環境=サービスの根幹が十分に担保できているかなどを評価するようにしています。メディアが目指したいユーザーの姿を実現できているかだけを見て、サービスを考えていくことが重要ではないかと考えていますね。

サイカ:

数字が見えてしまうが故に、どうしてもマーケティングはPVやMAUといった指標に依存しがちですが、あえてそこを無視して目指したいメディアの状態や理想的なユーザーの姿を測る指標を重視するというのは、なかなか実践できるものではありませんね。

イセ氏:

メディアにとって、毎月どれくらいのPVやMAUがあるというのは、実はあまり意味がありませんよね。来てくださるユーザーが単なる通りすがりなのか、あるいは毎日来てくださるファンなのか。ここを見極めることがメディアを作っていく上で非常に重要なことだと思います。実は毎月のPVやMAUを分解できていない方は多いのではないでしょうか。例えば、メディアに出稿する大手の広告主は、毎月どれくらいのPV、MAUがあるかというボリュームだけを見て出稿の判断をしている場合が少なくないですよね。MAUが一体誰なのかには、あまり目を向けていないのではないかとも思います。

成功しているときこそ、客観的に物事を見極める-04

マーケティングとは、コミュニティが持つ“熱量”を解放するということ

サイカ:

最後に、「あなたにとって、マーケティングとは何か」という質問をさせてください。

イセ氏:

ひとつは、マーケティングとは僕が大好きな「釣り」に似ているのではないかと思います。釣りって、対象(魚)の気持ちを考えて、対象(魚)の気持ちを自分の中に再現して、対象(魚)が欲しいモノ(仕掛け)を出すという作業なのです。実はマーケティングが好きな人の中には釣りが好きだという人が多い気がしていて、例えばブラックバス釣りなどでは、魚の行動がパターン化されているので、魚がいる場所やどのような仕掛けを作ってルアーを投げるかといったプランニングやトライアンドエラーがしやすい。竿を投げた場所や仕掛けが対象(魚)の望みとマッチングしているかという高速PDCAをするんですよね。ダイレクトマーケティングは、この作業に非常によく似ているのではないかと思います。 一方でマーケティングには、「熱量を解放する」という側面もあるのではないかと思っています。例えば「ボケて」では、多くの人を笑わせたい、多くの人を楽しませたいという“熱量”がコミュニティの中に生まれている。それをコミュニティの中だけでなくその外にいる人にも届けたいという“熱量の伝播”を生み出すこともマーケティングの一側面なのではないかと思います。これまでのインターネットは、釣りに近い手法でマーケティングが行われてきたのではないかと思いますが、これから求められるのは、コミュニティが持つ熱量を解放して多くの人を巻き込んでいくようなマーケティングなのではないでしょうか。

サイカ:

ありがとうございました。お話を伺っていて印象的だったのは、小さな成功を生むのではなく、大ヒットを目指すという大きな構想を実現するために緻密なアプローチをするイセさんの姿勢でした。

イセ氏:

事業部のビジネスを成長させるためにはKPIを重視して成功を積み上げていくというアプローチもありだとは思いますが、私自身がプロダクトの開発に携わることが多いため、マーケティングを大きな成功に繋げるためには、プロダクトを良いものにすることが一番の近道だという考え方を持っています。プロダクト担当とマーケティング担当が密に連携できる企業は強いのではないでしょうか。そこが分断されてしまっては、マーケティング担当が製品の課題を感じて“このプロダクトは消費者に受け入れられない”と思っても、何もできませんからね。

次回のマーケター・インタビューは、河原塚 徹さん

このインタビューは、リレー式でお届けします。第1回目にご登場いただいた、インクルージョン・ジャパン株式会社・吉沢康弘さんからは、イセオサムさんともうお一人ご紹介がありました。次回は、ソニーライフケア株式会社の河原塚 徹さんにお話を伺います。ご期待ください!
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