「メルカリ」の躍進を生み出すマーケティングのフィロソフィーとは<第3回>

日米で5500万ダウンロードを突破したスマートフォン向け人気フリマアプリ「メルカリ」。サービス初期から積極的にテレビCMを展開するなどプロモーション展開に力を入れており、急速にユーザー数、事業規模を拡大しています。その背景には、どのようなマーケティングへの考え方と運用上の工夫があるのでしょうか。

<第一回を読む><第二回を読む>メルカリで取締役を務める小泉文明氏と、プロモーショングループでシニアマーケティングスペシャリストを務める鋤柄直哉氏にお話を伺うインタビュー、今回は鋤柄氏にマーケティングの運用における試行錯誤や成功体験・失敗談について伺います。 鋤柄氏は女性向けソーシャルゲームアプリやスマホアプリのプロモーションなどに従事したのち、2014年にメルカリに入社。以来、オンライン広告、テレビCM、イベント運営(リアルなフリーマーケットやPRイベント)などメルカリの様々なマーケティング・プロモーション施策に携わっています。
「メルカリ」の躍進を生み出すマーケティングのフィロソフィーとは<第3回>
メルカリ プロモーショングループ シニアマーケティングスペシャリストの鋤柄直哉氏

オンラインとオフラインで異なる広告展開のアプローチ

サイカ:

メルカリのマーケティングはなぜ成功したのかというテーマでお伺いします。実際の施策運用で重視しているポイントについてお聞かせください。

鋤柄氏:

オンラインとオフラインでは連動性を持たせて効果の最大化を目指している一方、その目標設定、運用管理はオンラインとオフラインで個別に考えて行っています。

オンラインではもちろんKPIの目標設定を綿密に行って管理するという点を重視していますね。入社当初はFacebook広告をインハウスで運用するくらいしかオンライン施策はなかったのですが、その後は広告代理店にも協力してもらいながら広告予算を投下して、複数のメディアでのプロモーション運用を展開しています。広告代理店は案件によって入ってもらい、一方でインハウスの体制も強化して並行して広告運用をしています。 目標のコストパフォーマンスの範囲内で効果を最大化させてボリュームを取りに行くために様々な選択肢を選び、同時に展開している形です。恐らく、国内で出稿できるオンラインメディア施策については、ほぼ全て試していると思います。

サイカ:

ボリュームを最大化させるための施策設計を素早いジャッジメントで行い、それを高速PDCAで回すことで成功体験を生み出していくというのがポイントですね。ちなみに、そのジャッジメントはどのくらいのスピード感で行われているのでしょうか。

鋤柄氏:

出稿する期間と予算規模でジャッジメントのタイミングは変わってくるとは思います。例えば、1週間で100万円投下して効果が出なければその施策はすぐに撤退したほうがいいですが、1か月で10万円投下する施策であれば、長いスパンで判断してもいい。期間と予算のバランスが大事ですね。それはメディア単位でもそうですし、クリエイティブ単位でもそうです。

サイカ:

一方で、テレビCMの運用ではいかがでしょうか。テレビCMは出稿のフレキシビリティがネットに比べるとないため、ジャッジメントが難しいのではないかと感じます。

鋤柄氏:

おっしゃる通り、テレビCMは一度出稿すると休止することはできないため、出稿前のブリーフィングやコンペを行うときのオリエンテーションを非常に重視しています。自分たちが抱えている課題はなにか、その課題をどのようなクリエイティブで解決したいのか、CMを視聴してほしい人やCMを放送したい時間帯はどうかなど、自分たちが考える具体的なCMキャンペーンのイメージを詳細に伝えます。それによって、広告代理店が提案をまとめやすかったり、私たちと広告代理店の認識のズレを生じにくくさせたり、狙い通りのテレビCMが展開できるように注意しているのです。

もちろんそのためには、自分たちがテレビCMで何がしたいのかという社内の詰めの作業がとても重要になってきます。テレビCMでは“はじめの一歩”が非常に大切だと思っています。

サイカ:

オンラインとオフラインで多面的に広告展開をする中で、施策の効果検証はどのように行っているのでしょうか。データの統合や全体最適などは行っているのでしょうか。

鋤柄氏:

オンラインの広告に関しては、流入経路別にCPI・継続率・ROASなどを 検証し、経路別で目標CPIを微調整しています。TVCMはCM放送前のオーガニック流入数平均と、CM放送中のオーガニック平均を比較し、差分をCM影響DL数としてCPIを算出しています。

ただ、オンラインとオフラインを統合したカスタマージャーニーの検証などはまだあまり行っておりません。理由は、メルカリはほとんどスマホのアプリから利用されているので、クロスデバイスでの検証を行う必要がないからで、ラストクリックでCPIを検証してコスト目標に合っているか否かを判断しているという状況です。 今後はリターゲティングなども積極的に展開していこうと考えているので、広告の結果データはより複雑化していきます。その中でどのように施策評価を行っていくかという点が今後の課題ですね。

これまでのマーケティングで感じた失敗と課題

サイカ:

プロモーション展開の中で、運用上失敗してしまったケースや、課題に感じた部分などがあれば教えてください。

鋤柄氏:

実は、オンライン広告は大きな失敗が生まれるリスクが減ってきているのではないかと思います。昔は期間の縛りで広告を出稿することが多かったため大きな投資をして失敗するというケースがありましたが、今は多くの広告メディアで予算を決めて短い時間で検証し、続けるか否かを判断することができます。予算面で大きな失敗をするリスクというのは小さくなっていると思いますね。

課題という部分では、現在はオンラインとオフラインで広告を展開し、イベントなどのPRでタッチポイントを増やしながらユーザーとの接点を作りダウンロード数を増やしていますが、オンラインでのユーザー獲得速度がやや落ちてきたと感じている部分はあります。今後は新しいユーザー獲得手法を考え、トライしていかなければならないのです。
「メルカリ」の躍進を生み出すマーケティングのフィロソフィーとは<第3回>

ターゲットとなるマーケットの感覚を探り、施策を成功に導く

鋤柄氏:

マーケティングはターゲットとなるマーケットが反応してくれるようなプロモーション施策を考え実行することだと思いますが、そこで自分自身の感覚がマーケットの感覚と近いのか否かというのは非常に重要なのではないでしょうか。そのバランス感覚を持つことが重要だと考えています。

ただもちろん、自分は女性ではないので女性の感覚を完璧に理解できるわけではありません。そこで、女性向けアプリを手掛けていた前の会社などでは、広告クリエイティブ制作時に、社内にいる女性社員にアンケートをとったりヒアリングをしたりしていましたね。そこで得られた意見などが効果に繋がることは非常に多かったです。メルカリでも、テレビCMのクリエイティブなどについて社内でインタビューをして意見を聞くことは多いですね。自分では「こうではないか」と思っていることでも、実際にヒアリングしてみると全く違う意見が出て来たり、自分では思いつかない視点など新たな発見があったりするわけです。 自分の感覚をマーケットの感覚に近づける努力をしながらそれを過信することなく、施策の内容を細かく詰めていく段階などでは、既に目指す感覚を持っている人の意見をも取り入れるというアプローチを大事にしています。

サービスの魅力が伝わるマーケティングで新たな生活文化を作りたい

サイカ:

「誰もが活用したくなるサービス」としてメルカリが成長するために、今後はマーケティングでどのようなチャレンジをしていきたいと考えているでしょうか。

鋤柄氏:

「ユーザー層を拡大して市場を拡げていきたい」「生活の深いところに入り込んで多くの人にとって『売り買い』の第1の選択肢にしたい」という考えは常に持ってマーケティングを考えるようにしています。そのためには、ユーザーの数を増やすだけではなくユーザーの質にも意識を向ける必要がありますし、メルカリの認知があるターゲット層の利用を更に拡大するようなメッセージングを考えることが次のコミュニケーションにとって必要なのではないかと考えています。

また最近では、テレビ番組でフリマアプリを特集するコーナーで紹介されたり、芸能人が好きなアプリとして紹介してくれたりなど、メディアを通じてメルカリの魅力がしっかり伝わることでダウンロード数が急増するケースが徐々に生まれてきています。今後はこうしたインパクトを狙ったPR露出なども積極的に展開していきたいですね。メルカリを通じて、今後も“フリマアプリ”という新しい市場や生活文化をどんどんリードしていきたいと思います。
「メルカリ」の躍進を生み出すマーケティングのフィロソフィーとは<第3回>
<全三回終わり>
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