電通アイソバー 得丸社長が語る、マーケティングの“現在”と“未来”<4>

スマートフォンやソーシャルメディアの普及により大きく変貌した消費者のライフスタイルは、企業のマーケティング活動にどのような影響を与えているのでしょうか。アナログの時代から続くマーケティングコミュニケーションには“対応しなければならない変化”と“変わらない価値”があり、そこを見極めて未来のマーケティングの在り方を理解することは、刻々と変化する時代に取り残されないためにマーケターが考えなければならない重要なテーマだと言えるでしょう。そこで、デジタルマーケティングの黎明期からマーケティング環境の変化を捉えてきた電通アイソバー株式会社 代表取締役社長(CEO)の得丸英俊氏にお話を伺いました。 マーケティングの大きな潮流の進化と共に歩んできた得丸氏には、デジタルマーケティングの将来がどのように見えているのでしょうか。最終回となる今回は、得丸社長が参考にしたいマーケティング活動の事例と、XICA magellanへの期待についてご紹介します。<第一回を読む><第二回を読む><第三回を読む>
電通アイソバー株式会社 代表取締役社長(CEO)の得丸英俊氏
電通アイソバー株式会社 代表取締役社長(CEO)の得丸英俊氏

経営陣が決断して実現した、デジタルによる新たな顧客体験の創出

サイカ:

得丸社長が参考にしたいと思えるマーケティング活動を実践している企業の例があれば教えてください。

得丸氏:

少し前の事例になりますが、米国のデルタ航空が実践しているマーケティングは印象に残っていますね。当時のデルタ航空は顧客満足度が低かった。そこで、顧客に向けてデジタルで何ができるかを徹底的に考えたのです。中でも、スマートフォンで顧客が預けた荷物が空港内のどこにあるか追跡できるシステムを、他社よりもいち早く提供しました。結果、顧客満足度は米国内の航空会社の中でトップを取るところまで改善しています。日本の航空会社の担当に話を聞いたところ、「デジタル施策については、デルタの取り組みをベンチマークにしている」と語っていました。

航空や旅行業界は、ホスピタリティが顧客満足度に大きな影響を与える産業です。デジタルがどのような体験を生み出し、ホスピタリティを提供するのか? アナログではできない、さまざまな施策が考えられますよね。

サイカ:

「デジタルでホスピタリティを生み出す」という動きは、今後日本でも起きそうでしょうか。

得丸氏:

むしろ、もっと推進すべきだと思います。デルタ航空はCMOが考案してCEOの後押しを受けて戦略を固め、新しい体験の創出を実現しました。日本の企業も経営層が決断して現場を後押しすれば、新しいマーケティング、新しい顧客体験を生み出すことはできるはずなのです。そして、そこでの試行錯誤から失敗や成功を生み出すことによって、企業のマーケティング体力はもっと高まることが期待できるのではないでしょうか。

サイカ:

今の質疑で興味深かったのは、私が「興味深いマーケティングをしている企業は?」という質問に対して、「顧客体験の見直し」という事業の奥深い部分に踏み込んだ施策が回答として挙げられた点です。マーケティングをするということは、自分たちの事業そのものを見直すということ。この視点に立ってマーケティングを実践している企業は日本ではまだ多くは見られないのではないでしょうか。

得丸氏:

未だにマーケティングと広告宣伝が混同しているケースは少なくないですよね。しかし、広告宣伝はマーケティングという広い活動の一部に過ぎないと思うのです。「顧客を創造する」というマーケティングの原点に立ち返ると、良い商品を作るということだったり、これからの時代はリアルな商品をデジタルと結びつけることで新たな顧客体験を生み出したり、モノをアフターサービスとパッケージすることでその全体を製品と位置付ける必要があるのです。そのような視点に立つと、(広告宣伝だけでなく)マーケティングが企業と消費者のあらゆるタッチポイントを改善していこうという動きは、当然の流れなのです。

電通アイソバー 得丸社長が語る、マーケティングの“現在”と“未来”<4>

得丸社長が語る、「XICA magellan」への期待

サイカ:

最後に、「XICA magellan(マゼラン)」についてお伺いします。マゼランは、オンライン・オフラインの施策データを統合してKGI に結び付くカスタマージャーニーをリアルタイムに視覚化したり、マーケティング施策の全体最適を実現したりすることを目指しています。こうしたツールの世界観についてどのような印象をお感じでしょうか。

得丸氏:

インタビューでお話したマーケティングの理想像に照らすと、その重要なマイルストーンになるのではないかと期待しています。顧客視点でマーケティングを考え、顧客ひとりひとりにフォーカスを当てていくためには、顧客と企業のあらゆる接点を視覚化したいわけです。テクノロジーが進化すれば、こういう価値を提供するツールはいずれ登場するだろうとは感じていましたが、それが導入しやすい形でやっと登場したということですね。広告会社にとっても、広告主企業にとっても、マーケティングを大きく一歩前進させる契機になるのではないでしょうか。

製品としては、UIが非常に重要なカギを握ると思います。シンプルでわかりやすいUIから入って、深堀したいところは徹底的にドリルダウンできるような仕組みにすることが重要ではないでしょうか。

サイカ:

私は、「データを取得しやすくなった」というのはアドテクノロジーがもたらした最大の恩恵なのではないかと思います。データが増えるということはそれだけ物事が複雑化することを意味していますが、そのデータをコンテクストに落とし込んでくれるツールがあれば、今まで以上にファクトに基づいて思考することが可能になり、市場や顧客の姿を捉えやすくなるのではないかと思うのです。マゼランが目指したいところはここにあると考えています。

得丸氏:

そういう意味では、データの取得方法を設計するということに対してもクリエイティビティが求められるようになるのではないかと思います。顧客の姿を捉えようとしたときに、そのためにはどのようなデータが必要なのかを決める上でアイデアが必要になるのです。そこについても、トライアンドエラーをどれだけ積み重ねることができるかが、マーケターがこのツールを最大限活かしていくカギを握っているのではないかと思います。

<全四回終わり>
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