【社長×副社長対談】「分析屋」から「パートナー」へ──戦略・体制の刷新で変わることと変わらないこと

2022年10月から、サイカはこれまで提供してきた各種ソリューションを統合し、コンサルティングサービスを中核に据えた事業へと戦略を刷新しました。同時に、組織体制も再構築。お客様への提供価値最大化を目指し、取締役副社長COOに彌野正和が就任しました。
彌野の副社長就任によって何が変わるのか。新たな事業戦略のもと、サイカはどこを目指すのか。代表取締役社長CEO・平尾喜昭と取締役副社長COO・彌野正和に聞きます。

(右)株式会社サイカ 代表取締役社長CEO
平尾 喜昭(ひらお・よしあき)
父親の倒産体験から「世の中にあるどうしようもない悲しみをなくしたい」と強く思うようになる。慶應義塾大学総合政策学部在学中に統計分析と出会い、卒業直前の2012年2月、株式会社サイカを創業。創業前にはバンドマンであったというユニークなキャリアも持つ。
(左)株式会社サイカ 取締役副社長COO
彌野 正和(やの・まさかず)
ゴールドマン・サックス証券に入社し株式セールストレーダーとして従事。その後転身しDeNAにてマーケティングおよび新規事業開発、ベンチャーにてCOO、リクルートにて事業戦略および新規事業開発を担当したのち、2018年1月よりサイカに参画。2018年4月に執行役員COOに就任。執行役員COO、取締役COOを歴任した後、2022年11月より現職。
横連携を強化。全社一枚岩の組織へ

── 事業戦略の刷新とともに、彌野さんが副社長に就任しました。まずは、彌野さんがこれまでにサイカでやってきたこと、これから副社長としてやっていくことを教えてください。
平尾 2018年1月に彌野さんがサイカにジョインして、いちばん変わったのは「事業本部という組織になったこと」です。それまでは個々のプレイヤーがお客様と向き合って、成果が出ることもあれば出ないこともあった。彌野さんが僕たちのビジネスを科学して、ボトルネックを発見し、改善することで、狙ってパフォーマンスを上げられるようになりました。
彌野 僕が入社した時の印象は、「メンバーが優秀」「カルチャーがしっかりしている」の2つでした。ハードの部分が優れている一方で、データの活用、戦略の言語化、組織体制といった、上に乗るソフトの部分はまだ組み立て途中だった。だから、ソフト面の組み立て方によってはめちゃめちゃ伸びると思いましたね。
平尾 これから彌野さんに期待するのは「全社を一枚岩にすること」です。直近の数年間は、現在の優秀な取締役が各チームを率いて、事業・開発・コーポレート、それぞれの質を上げるフェーズでした。その段階を越え、いよいよ非連続な成長を目指す時に、全社が一枚岩にならないとスピードも質も担保できない。
彌野さんには、3つの本部の横連携を強化し、一つの目標に対して一緒に駆動できる組織にしてもらいたいと思っています。
それぞれの強みを最大発揮するための社長・副社長体制

── 社長、副社長として、お二人はそれぞれどんな役割を担っているのでしょうか。
平尾 今は、僕が考えたビジョンを彌野さんが読み解いて戦略・戦術に落とし込み、「こういう感じでいこう」とパスをくれる。それをもとに僕が現場でパフォーマンスし、そこでの学びを、2人で戦略・戦術、ビジョンにフィードバックする。そんな役割分担でやっています。
すごくワークしてる感じがしますね。

彌野 しっくりきてますね。
社長のやるべき業務は山ほどあります。その中で、「平尾さんの強みに徹底的にフォーカスしてもらうことが会社の成長につながる。」そう考えた時に、プロセスの入口と出口を平尾さんがやるのがベストなので、その間を僕がやる形にしました。
平尾 彌野さんの強みは、「論理力」と「人を想う心」。この2つを強みとする彌野さんは、まさにロジックを組み立て、全社を一枚岩にする役割が適任です。
彌野 一方で、平尾さんは、ビジョンを社内外に伝える「伝播力」が段違いに強いです。僕が人生で会ってきた人の中で一番だと思っています。大きな場でビジョンを伝えるのはもちろん、営業の現場での「こういう未来を作りませんか」「こうできたら面白いですよね」という時の伝播力もすごい。
そして、それを裏で支える「創造力」。遠くにピンをさす力ですね。「このルール・この範囲で考えよう」という決めをゆうに飛び越えてずっと遠くにピンをさしますからね、平尾さんは。だからまずはピンを探すところから始まる(笑)
平尾さんの「伝播力」って、何か意識してやっているんですか?
平尾 僕が楽しむこと。自分が楽しいと思っていることをありのままに伝える。会社のビジョン発信もそうだし、お客様と向き合う時も「こっちのほうが楽しくないですか?」と思うことをそのまま言っています。
「大変でもなんとかやってやろう」と思うのは、自分が楽しい時。うまくいったら面白いだろうな。もっと良くしたいな。そう思える場合です。
彌野 忘れがちだけど、そのスタンスは重要だと思いますね。そう言われるとはっとする。
僕は、不確実性が高いものやストーリーが組みきれていないものを人に伝えるのが苦手なんです。話しながら想定問答が浮かんできて言葉に詰まる。だからこそ言語化するんですが。
平尾さんは、ロジックがないものでも、楽しく面白そうに伝えられるんです。そして人はそこに賭けてしまう。
平尾 僕らは持っている強みが明確に違うので、それぞれの強みを最大限に発揮できるのが、今の体制だと思っています。
「分析屋さん」から「パートナー」への変化

── 新戦略に移行して、サイカの事業は具体的にどう変わったのでしょうか。
平尾 僕らはこれまで、ソリューション起点でお客様への提案を行なってきました。提供するそれぞれのソリューションの強さに自信があったからです。でも、古今東西、起点は絶対に「クライアントの課題」なんですよね。
なので、お客様への向き合い方を変えて、2022年10月から、各ソリューションを統合し、お客様の課題を起点にしたコンサルティングサービスを中核に据えた事業戦略に転換しました。
彌野 お客様が抱えているさまざまな課題に優先順位がつけられていたとして、僕らのソリューションで解決できる課題が優先順位3番だったとします。その優先順位をいかに1番にするかを考えるのがこれまでのやり方でした。それを、「お客様の1から3の課題を一緒に解いていきましょう」というコミュニケーションに変えたんです。
平尾 僕はこの新しい戦略で「失注」という概念がほぼなくなるんじゃないかと感じています。
今までのやり方だと、僕らの持っているソリューションで解決できるところに課題感がなければ失注していました。
だけど今は、お客様の課題を伺い、それぞれの課題に合うソリューションを提案する形です。「うちにはマーケティングの課題がありません」というお客様がいたら失注するけれど、基本的にマーケティング課題のない企業はありません。そういう意味で、失注という概念がなくなったと感じています。
彌野 僕らは今まで、お客様から「分析屋さん」と見られていたんです。お客様が発見した課題を、マーケティング分析のプロとしてデータを使って解決する会社。そういう印象だったんですね。
この新戦略は、「より上流にある、課題の分解から始めるパートナーになる」という狙いで始めたんですが、お客様からも「そこから相談できるパートナーなんですね」と言われることが増えました。
お客様からの見え方が変わってきているのを見ると、市場にもフィットし始めているのかなと思います。
平尾 もともとサイカとお付き合いがあったお客様からも「こういう向き合い方をしてくれるようになったんですね」と言われます。お客様側から「経営課題なので、ミーティングに役員まで出席させたい」と言っていただいたり、ありのままの経営課題やマーケティング課題をさらけ出して「一緒にできないか」と相談してもらえたり、大きな変化を感じています。
この変化が起こせた理由は2つで、まずはメンバーの優秀さ。ソリューションという資産を新戦略によってうまく活用していくのに加えて、メンバーがもともと持つ優秀さをより活かせるようになったからです。
もう一つは、ミーティングのコンテンツを一新したことです。具体的には、新しい資料の中でサイカのケイパビリティ紹介だけでなく、個社ごとの課題整理パートを設けました。「御社の課題はこれだと思っていますが、合っていますか?」というコミュニケーションを取るようになったので、それも一発で印象が変わった理由だと思います。
彌野 もう一つ付け加えるとしたら、僕らがPDCAのCをトップランナーかつ唯一無二の存在として握っていたのが大きかったと思っています。チェック(測定・評価)と戦略は距離が近いので、「一から戦略を考えます」ではなく、「分析結果をベースに戦略の示唆を届けます」と言えたのが、お客様に自然に受け止めてもらえた理由だと思います。
そして、平尾さんが言ったサイカの「人の強さ」は昔も今も変わっていないと思っています。「才能開花」というサイカの哲学に凝縮されていると思うんですが、みんな前向きで、アウトプットをどんどん生み出していくモチベーションがある。お客様からも「サイカの人たちって、すごく前向きで、人がいいですよね」とよく言っていただきます。なので、それは間違いないんだと思います。
逆境の中、賛成者少数からスタートした新戦略

── 大きな戦略転換だったと思いますが、新戦略への転換はスムーズに進んだのでしょうか。
彌野 この新戦略は逆境の中でスタートし、最初は賛成者が圧倒的に少数でした。
実際に現場に出ているメンバーは、お客様からさまざまなフィードバックをいただきます。フラストレーションが溜まるのも自然なことですよね。「頑張っても狙ったとおりの成果が出ない。もしかしたら戦略を変えるべきなんじゃないか。」そこまでは合意してもらえますが、うまくいかないことが繰り返し起こるのは避けたいという心理が働くので、新しい戦略に対する反応は基本的にネガティブになりやすい。これは、事業や会社のことをよく理解して頑張ってくれているからこその当たり前の反応です。
なので、正直、最初からみんなに賛成してもらえるとは思っていませんでした。言語化したり意見交換をしたりした上で、結果的に賛成してもらうというのがベースだと思っているので。
そういった対話を繰り返しながら、ロジックで説明できないところや不確定なことは、平尾さんから伝えてもらいましたね。
平尾 これまでも将来的なビジョンとしての大きな夢を語ってきましたが、ついて回るのが「そこに至れる確度は?」という疑問です。はじめてメンバーに新戦略を伝えた月次定例(ひと月に1回、全メンバーが参加する会議)では、「最終ゴールに行けるかはわからない。でも新戦略が成就しなかったら確実に行けない」と明言しました。これは大きな挑戦でしたね。
彌野 ビジョンを実現するためのマイルストーンは論理的に分かっていますが、本当に踏めるかどうかは正直わからない部分があります。その不確実性を明言した形です。
今の状態と、論理的にこう変えたらうまくいく、という定量的な部分やロジックの部分は、僕ができる限り土台として準備して、そこからどのくらいジャンプできるかというのは平尾さんに賭けました。
大きなビジョンを描くヒント

── ビジョンを描き、そこに至る戦略を立てることは、多くのビジネスパーソンに求められるスキルです。お二人はそれをどのように実践しているのでしょうか。
平尾 僕が現場に出ている理由でもあるんですが、事業成果を出すためには、現場で良いサンプルを集めることと、サンプルの分析結果をビジョンにフィードバックしてアップデートし続けること。そして、そのサイクルを回し続けることが重要だと思っています。
彌野 僕も近いことを思っていて、事業成果を出すために必要なのは、理論と実践のバランス、論理と創造のバランス以外の何物でもないと思っています。両方が弱かったり、片方しかなかったりすると、その分の成果しか出ない。ただ、これらが掛け合わさるとすごい成果が出ます。
また、ロジックで積み上げる未来には限界がありますが、未来から逆引くロジックには発見があります。だから僕もロジックを考える時は、まず未来から引いて、もう一度反芻してその未来に行けるかどうかを確認するようにしています。
平尾 未来を描く話でいうと、僕は小さい頃から母親に「風呂敷は広げられるだけ広げなさい」と言われてきました。そして、「金は稼がれたいんじゃなくて、使われたいんだ」とも。
「もしあなたが1億円持っていても、500万円分しか使いたいものがないのなら、あなたには500万円の価値しかない。500万円しか持っていなくても、1億円分使いたいものがあるなら、あなたには1億円の価値がある」と。
そうすると、あるラインを越えたら自分のためだけには使えない額になります。自然と、人のため、世のために使う思考になるんですよね。
これはまさにビジョンを描く体験だし、「自分には限界がない」ことが前提になっている。いろいろなことが含有された教えで、今につながっていると思います。
彌野 僕はビジョンを描く時、まずは前提を取り払って「こうあったらいいね」を考えます。そして、現在からその未来に至るまでのストーリーを言語化しながら組み立てていくんです。
実は、そこからより大きな未来を描くためのコツがあります。それは、自分よりすごいと思う人に話を聞くことです。僕の場合は平尾さんや尊敬する先輩に話をたくさん聞いて、目指すピンをなるべく遠くに持っていけるような情報を集めます。
言葉にし、ストーリーに起こして、足りない材料を集めて、ビジョンを修正する。それを繰り返すと、より大きなビジョンができてきます。
「才能開花」を前提に、お客様の究極のパートナーを目指す

── 彌野さんがこれから取り組むこととして「全社を一枚岩にすること」と伺いました。お二人にとって、「良い組織」とはどのような組織ですか?
彌野 僕は「良い組織」というのは、人間的に頼れる人がいる組織だと思っています。
事業本部の中で、よく「積み上げる議論をしよう」と話していますが、苦しい局面では批判にまわる方が楽です。でも、そこでいかに対案を出せるかがその人の本質的な価値。違うと思った時に、「この辺が違います」と言うだけだと0点。「まだわからないけど、こういう考え方もあるんじゃない?」が10点。「こういうアイデアはどう?」が50点。対案を出すことで議論は積み上がっていきます。
そして、議論を積み上げるためには前向きな文化が必要です。なので、「才能開花」というサイカのフィロソフィーと、行動指針である「XICA WAY」はやっぱり重視していますね。今回の戦略アップデートは、サイカの文化をあらためて実感する原体験になったと思います。
平尾 「良い組織ってどんな組織だろう?」とみんなで考えてつくったのが「XICA WAY」です。ただ、XICA WAYには、「自分を才能開花させる」というWAYが入っていないんですよね。
つまり、サイカは、行動指針に入れずとも「才能開花する・させる」を前提とした人が集まっているということです。その上でどう行動すべきかをまとめたのが「XICA WAY」。
得意なところと苦手なところは人それぞれで、伸びしろも人によって違います。でも、サイカには「才能開花する」をベースに持っている人しかいない。だから、それぞれがそれぞれの才能開花を目指して、自分の足りないXICA WAYを補っていくことで、もっと良い組織になると思っています。
僕たちは、これから一枚岩になり、クライアントが本当に重要な意思決定をする時に、常に隣にいる「究極のパートナー」になりたいと思っています。そのためには、僕らのケイパビリティやプロダクト、ソリューションの足りないところを埋めていく必要があります。
そこを埋めてくれるのは、開発においても事業においても「お客様の課題をつかめる人」か「どんな課題でも解決策を導き出せる専門性を持つ人」だと思っています。
彌野 僕は、論理と創造のバランスが極めて重要だと思っているので、正直バックグラウンドはあまり関係ないと思っています。論理と創造のバランス感覚がある人は、どの領域でも活躍いただける地盤がサイカにはあります。実際、このバランスが良い人はサイカで活躍していますよね。
そして、業界随一の大きなビジョンをみんなで目指していけるのは、サイカで働く意義であり面白いところだと思います。
平尾 大きなビジョンがあるだけではなく、その未来と今の間のストーリーを論理的に紡ぐ文化がある。そして実現できる能力があるからこそ、テンションが上がるし、成長できるんだと思っています。
彌野 その上で、僕はリアルな情報がほしいです。そして、リアルな情報のほぼすべては現場にある。そう考えると、メンバーのみんなと現場にあるリアルな情報を交換できるコミュニケーションができると理想的だと思っています。
今回の新戦略以降も、現場に出ているメンバーに1on1の時間をもらって、そこで話してもらう内容がとても大事な情報でした。そういうコミュニケーションはこれからも取っていきたいですね。
平尾 僕は、常に顔を変えずにいきたいです。たとえば、みんなが集まる場では嬉々としてビジョンを話すのに、1対1になったら「ぶっちゃけ違うと思う」なんて言っていたら最悪じゃないですか。
だから、「この人本当にいつも変わらないな。いつも楽しそうにやってるな。」そう思ってもらえたら良いですね。

[インタビュー・文] 川畑夕子(XICA)
[写真]小池大介
[企画・編集] 川畑夕子(XICA)