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データを立体的に見る 〜組織でのデータ活用〜

柏木吉基氏

ビジネスシーンにおいてデータはどのように活用すべきなのか?さまざまな業界のスペシャリストにお話を伺うインタビューシリーズ。今回のゲストは『「それ、根拠あるの?」と言わせないデータ・統計分析ができる本』『人は勘定より感情で決める』などの著者でもある柏木吉基氏。組織内でのデータの活用方法や、どのようにデータをビジネスの成果へ結びつけるのかについてお話を伺いました。

─── まず柏木さんのご経歴についてお聞かせいただけますか?

私のキャリアは、セールスエンジニアとして日立製作所で約10年間、海外向けのシステムに関わることから始まりました。セールスエンジニアは一般的には技術職ですが、プロジェクトマネージャーとしてクライアントとの交渉など営業的な役割をメインにしておりました。その後、2001年から2003年にかけて、アメリカと欧州のビジネススクールへ留学し、MBAを取得しました。

2004年からは日産自動車に転職し、最初の6年間は海外向けのマーケティング&セールスを担当しました。その後、4年間を社内コンサルタントとしてさまざまな社内変革プロジェクトに携わってきました。プロジェクトは年に5〜6件、テーマは開発や商品企画、マーケティング、人事など、要望があればあらゆる部門の問題解決に関わりました。

これらのプロジェクトのスポンサーとなるのは、職種や経歴、国籍など、実にさまざまなバックグラウンドを持ったエグゼクティブでしたが、利害関係も異なるその誰もが納得できる提案を持っていく必要がありました。もちろん、提案に対する最終承認がCEOのカルロス・ゴーン氏であることも少なくありませんでした。いずれにケースも、根拠として最も多く使われるのはデータによる説明でした。

また、常に「一発勝負」でリベンジの機会はありませんでしたので、いかに端的にポイントを伝えるのか、ということにも非常に気を遣いました。自分にまったく知見のない分野でも、課題を見つけ、本質的な問題を見極めたうえでソリューションを提案しなければなりません。そのなかで私が学んだことは、課題解決に必要な考え方やスキル、そしてそれらに数字をどう紐づけて合意形成を図るかということでした。

現在は、これまでに培った経験をもとに、組織内でのデータ活用の重要性や考え方を主に研修やコンサルティングを通して伝えています。単に伝えて終わりだけではなく、その知識を組織に浸透させ、自分たちでも発揮できるように貢献するプログラムを取り揃えています。

データを十分に活かしている組織はほとんどない

─── データを扱えている組織は世の中にどれくらいあるのでしょうか?

本当の意味で組織としてデータをうまく活かせている企業というのは、非常に少ないと感じています。

データを扱うという視点において、企業を

  • 「データをすごく活用できている(上位層)」
  • 「データはあるが活かせていない(中位層)」
  • 「そもそもデータをまったく持っていない(下位層)」

に大きく分けて考えてみると、「データをすごく活用できている組織(上位層)」は極めて少数であり、圧倒的なボリュームゾーンは「データはあるが活かせていない(中位層)」だと思います。ここにあたる企業は、データから一生懸命レポートを作っている現場も、それを受け取っている役員層も、「もっとうまくできるはず」という問題意識とフラストレーションを持っています。

私の所属していた日産自動車も、この区分けで言えば多くの機能が未だミドルレンジに当てはまっていると言えます。もちろん、市場を専門的に調査する部署には分析の専門家が非常に高度な分析を行っていましたが、営業やマーケティングなど、現場の人たち全員が必ずしも高いデータリテラシーを持っているわけではありませんでした。

また、ある自治体でも全く同じ状況に直面していました。自治体は公的なデータをたくさん持っていますが、それをうまく活用しきれていない悩みが多いのかもしれません。

─── では、どうすれば組織でデータを活用できるようになるのでしょうか?

まず、トップの経営陣がどこまで危機意識を持っているかは、全ての入り口の問題として重要です。トップが明確な問題意識を持っていればいるほど、組織内での浸透は早いと思います。

また、組織内の仕組みも大切だと考えています。ある一定の層だけにデータリテラシーがあっても社内浸透は進みません。

例えば、マネージャー層のデータリテラシーだけを高めたとしても、彼らの上司が理解しない限り、データに基づいたコミュニケーションは成り立ちません。せっかく時間とエネルギーをかけたのに、上に受け入れられないことが続くと、モチベーションが低下してしまい、途絶えてしまうリスクがあります。だからこそ、業務に携わっているあらゆる層の人たちに、ある程度のデータリテラシーを持っていただくことが必要です。

ただし、全員がデータサイエンティストになる必要はまったくなくて、一定の知識を持っていることで多くの実務課題には対応できます。実際、日産で社内コンサルティングをしていた際にも難しい分析を使うケースはほとんどありませんでした。

柏木吉基氏

一番大切なことは“火を絶やさない”こと

─── その中でも特にデータリテラシーの高い、「エースで4番」のような方もいたほうがいいのでしょうか?

必ずしも「エース」というレベルである必要はありませんが、スキルや分析手法の理解度が頭ひとつ出ているような方が1人でもいると、その現場での浸透のスピードは早いですね。ちょっとしたことが分からなくて躓いてしまったときに、近くにアドバイザーがいる環境はとても心強いです。そして、そういう人がいると継続性が増します。一番大切なことは、“火を絶やさない”ことです。

逆に、そこにいわゆるデータサイエンティストを放り込むと、現場と同じ言語で話すことができず、結果として逆効果になることが少なくありません。

─── 「頭ひとつ出ている」のは、どういう方が理想的なのでしょうか?

組織内の文化や仕事の仕方、人間関係を把握できていて、現場レベルでのビジネスを理解している人ですね。そういう方が手段としてデータを扱えるのが理想だと思います。

複雑な組織のなかで必要とされる情報をちゃんと理解していないといけません。分析的に正しくても、その組織内でのコミュニケーションとしては必ずしも最適でないようなことは往々にしてあります。

その案配を肌感覚で分かるスキルは一朝一夕では身につきません。それは事業、実務の現場で経験を積むことで身に付くもので、私も組織内の実務家という立場で、様々な現場を見続けて身につけてきました。

─── 現場を知っていることと、分析手法を知っているとは全く違う次元なのですね。

それはまったくの別物ですね。組織内でデータを活かすということには、2つの軸があります。ひとつは組織でのやり方など、定性的なことにどのようにフィットさせるかという軸。もうひとつは、目の前にあるデータをどう活かすかという分析のテクニックの軸です。2つの軸の重要性の比率は組織によって違いますので、どちらがより大事か、ということは言えません。組織内の意思決定のプロセスに沿いつつも、客観的な判断が出来ることが大切だと思います。

テクニックの面に関しては、実際にデータを触ってみないとわからないものです。それは継続させていかないと身に付きませんし、アドバイザーがいたほうが、より早く効率的に進められるのは間違いないと思います。

データを「平面的にではなく、立体的に使える」

─── データを活用することをビジネスとして成果に繋げるのに分かれ目となる一番大事なポイントは何だと思いますか?

以前、あるクライアントの役員さんが仰っていたのですが、「データを平面的にではなく、立体的に使える」ということは、とてもよい表現だと思いました。

例えば、「前年度比をグラフ化してチェックしましょう」「月ごとの実績の折れ線グラフを見ましょう」というのは平面的な使い方です。そこに「なぜそういう結果になったのか?」「どのボタンを押すとこの問題は解決するのか?」というところを客観的にデータで見ること。そのように、データを掘り下げて読み解いていくことが立体的な使い方ということです。

─── なるほど。しかし、立体的に捉えるのは非常に難しい印象があります。

これはほとんどの人ができるようになることだと思っていますし、私が研修やコンサルティングを通じてお伝えしていることの肝はそこにあります。そのためには、スキルを知るというのも大切ですが、それ以上に課題やデータに対する「目の付け所」を覚えることが大切です。

「目の付け所」を養うのは簡単ではありませんが、具体的な数字を見ながら、アドバイザーが見方を伝えることを繰り返すことで、「あーそういうことだったんだ」というのが早くつかめるようになってきます。先程から「継続性」が大事と言っているのはまさにそこにポイントが有りますが、場数を踏めば踏むほど、そのカンが磨かれていきます。

さらに、一つ一つの着眼点を丁寧に説明するだけではなく、一つの課題に対してストーリーとなるように、課題を解きほぐすための考えるプロセスをお伝えするようにしています。

「課題は何か?」「それはどの要因と紐付くのか?」「根拠となるデータは?」ということを、将棋の駒を動かすように一つ一つ詰めていくことで、目の付け所も論理的に絞り込めますし、その流れにそって分析を進めれば、そのままプレゼンテーションとして伝えられるストーリーが完成します。

適切な考えるプロセス、データでファクトを押さえるやり方、それらを突き詰めていくと、大事な「目の付け所」が見つけられるようになります。世界中からヘッドハントされて集まっていた日産の外国人エグゼクティブたちとの会話には、必ずこのベースが求められました。 みなさんにもできるようになっていただけるように、やり方や考え方をお伝えてしていきたいと思っています。

【セミナーレポート】統計分析ツール アデリー特別セミナー「データを”立体的”に見る〜組織・個人に何が求められるのか〜」

多くの組織ではデータがうまく活用できない現状に対して「もっとうまくできるはず」という問題意識とフラストレーションを抱えています。どうすればこの状況から抜け出し、より生産的、より創造的な組織へと生まれ変わることが出来るのでしょうか? 今回のインタビューゲストの柏木吉基氏をお迎えし、具体的な企業の活動事例を挙げながら、「データを組織として活用する」ことについて考えるセミナーを開催いたしました。

セミナーの詳細は【セミナーレポート】データを”立体的”に見る〜組織・個人に何が求められるのか〜をご確認ください。

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