世界のお気にいり(3)

ミラノのドゥオモもトラムも利用。イタリアの広告事情から、イタリア文化が見えてくる

消費者視点を切り口に、海外のライフスタイルレポートをお届けする「世界のお気にいり」。
第3回は、イタリアの広告事情についてです。イタリアならでは!?歴史的遺産を使った広告は、とってもダイナミック!

流行の移り変わりが激しい日本。他の国に比べ日本人は特にメディアに左右されやすい国民だと自戒する人も多いでしょう。一方ヨーロッパでは個人主義が発達していて、メディアの意見には流されにくいかと思われがちですが、イタリア人に関しては、そうとも言い難いように思えます。

ポスターを貼って、歴史的遺産を有効利用!?

確かに、電車には中吊り広告はないし、新聞のチラシというものは存在せず、街頭でビラやサンプルを配ることも少なく…つまり、広告ツール自体は日本より少ないかもしれません。でも実は隙間狙い的に確実に多くの人の心を掴むやり方で広告展開がなされています。

まずひとつが工事中や建物や修復中のモニュメントにかけられた覆いをコマーシャルボードとして使用する戦略。イタリアはご存知の通り、歴史的遺産に溢れた国ですが、それらは修復の繰り返しで保たれています。その際には、修復中とはいえ外観を損なわないように、元々の建物の写真や絵などをプリントした覆いを使用しつつ、そこにさりげなく広告も入れているのをよく見かけます。例えば14世紀から500年の年月をかけて作られたミラノのドゥオモ(大聖堂)は、建物が壮大なだけに一部分の修復が終わるとまた別の場所…と、常にどこかで作業が行われていますが、覆われた部分にポスターを貼ったり、最近では動画スクリーンを設置してCMを流したりして広告スペースとして使用しています。こちらでは高級時計や有名ファッションブランドなど、ラグジュアリーな製品の広告が多い様子です。

ミラノ大聖堂の修復中の部分に張り付けられた臨時コマーシャルボード。
ミラノ大聖堂の修復中の部分に張り付けられた臨時コマーシャルボード。

投資会社の広告が工事中のビルの外側一面に。
投資会社の広告が工事中のビルの外側一面に。

この宣伝ツールは歴史的建造物だけでなく、工事中の一般の建築物に関しても同様です。普通のビル工事の場合は簡易的な囲いがなされるだけなので、そこにポスターを貼ってセールのお知らせやコンサートやイベントの広告など比較的テンポラリーな宣伝をすることが多いようです。とはいえ、何しろ何事も予定通りには終わらないイタリアですから、往々にして工事は延々と続くため、恰好の広告ボードとして長く活躍している様子。

クリスマス用電飾付きのコカ・コーラの広告
クリスマス用電飾付きのコカ・コーラの広告

もうひとつ目を引くのは、バスや市電などのラッピング広告。これはどこの国でも比較的よく見られるものかもしれませんが、ミラノの場合は市電が市内を網羅していて、一般車両は入れないような街のど真ん中も走っているので、市電のラッピング広告は人の目の触れることが多いという利点があります。また、イタリア人ならではのセンスの良さで、古いトラムにモダンなデコレーションの広告が施されていたり、クリスマスの時期にはイルミネーションでトラムを飾ったところにさりげなくブランドロゴを入れたりと、広告自体が美しくて好感度の高いモノも多いのがポイントです。景観を配慮しながら、なるべく人の目につくところにインパクトの強い広告を打つ、という効果的な戦略だと思います。

ミラノ王宮美術館で現在開催中の「北斎、広重、歌麿」の展覧会の広告
ミラノ王宮美術館で現在開催中の「北斎、広重、歌麿」の展覧会の広告

2台続いてやってくるトラム。手前は日本行チケットのプロモーション
2台続いてやってくるトラム。手前は日本行チケットのプロモーション

スポットCMは、ダイレクトに訴えるが勝ち?

一方、日本で主力をなしているテレビのスポットCMはイタリアでも影響力の強い広告ツールですが、日本のように凝ったCMは少なく、商品にはあまり関係のない露出度の高い美女が出てくる単純な作りだったり、商品の名前を連呼しているだけのようないかにも低予算のものも多く、また何年も同じ映像を繰り返して使っているのもしばしばみられます。
そんな中でも年間通してCMにかなりお金をかけている業界として突出しているのはやはり携帯電話会社(VODAFONE、TIM、WINDなど)で、ジョン・トラボルタやブルース・ウィリスなどのハリウッドスターを起用したり、旬の歌手によるBGMを使ったりしていて、CMに使用された曲がメガヒットになるような現象が起こるのも日本同様です。

トラムのラッピング広告③ボーダフォンの広告。
トラムのラッピング広告③ボーダフォンの広告。

一方、最近の広告で、WEBで“炎上”を起こしたのは、9月22日を“多産の日”として、イタリアの少子化への問題定義としてだされた政府広告。

問題になった「美しさに年齢はないが、出産能力にはある」というフレーズの「多産デイ」広告。「LA STAMPA」WEB版より引用(現在は非公開)
問題になった「美しさに年齢はないが、出産能力にはある」というフレーズの「多産デイ」広告。「LA STAMPA」WEB版より引用(現在は非公開)

イタリアには“炎上”はあまりないのですが、「美しさに年齢はないが、出産能力にはある」、「コウノトリを待っていないでアクションを起こそう」などのキャッチフレーズに対し、性差別や妊娠できない人への侮辱、妊婦の権利の弱さや失業率の高さなどの問題を棚に上げた無責任なフレーズだといった反対の声が上がり、この広告は最終的には取り下げになりました。ビジュアル自体はさほど凝ったものではなかったのですが、影響力があったこの広告、イタリア人は手が込んでいるかどうかよりわかりやすく直接的に訴える広告を重視するという例なのかもしれません。

(執筆・撮影/田中美貴(MIKI TANAKA))